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7戦目 迎えに

 この第21師団が出来てはや数ヶ月が経ったある日の事……


「あの子が来ませんね……」

「そうですね。」

「なのでそろそろあの子を迎えに行きましょうか」

「えっと……あの子とは誰ですか?」


 私とコーネリアの会話にアネリーとマーヤは小首を傾げた。


「メアリー様……あの方とは?」

「フェス・ゴドー……聞いた事ないですか?」

「私はしらなーい……どんな人なの?」


 アネリーの疑問にコーネリアが答えた。


「恐らくこの国最強の矛にしてこの国最凶の問題児です。たった1人で敵の1師団を壊滅させた事もありましたし、敵味方両方を相手にして1人で生還した事もありました。」

「……あの……それは真実なのですか?噂が独り歩きしてる様に聞こえますが……」


「出来れば私も噂程度であって欲しかったと思います。ですが今コーネリアが言った事は私があの子の指揮官になってからやった事なのです。」


 私は頭を抱えてしまう。あの子のせいで何度も始末書を提出する羽目になったのだから……


「よく私たちにも噛みついてきてましたね?」

「ありましたねー……弱い奴の下に付くつもりはないって力比べ(命のやり取り)をさせられました。」

「一体どんな人なのですか?」


「あの子は槍使いよ。しかも黒く塗ってるから尚更見辛い……夜はあの子と戦いたくないわね。」

「そうですね……不意打ちなんてされた日には今ここにいなかったかもですね。」

「あれ?そこまでの実力者でしたらもう幹部になっているのでは?」



 コーネリアの言葉は確かに真実でした。それだけのセンスも才能もありました。そしてアネリーの言葉も事実でした。それでもあの子は上がれなかった……


「あの子は……平民の更に下の身分だから。」

「そ、そんな身分はないはずです!」

「ありますよ……平民が自分たちで勝手に決めた身分が……罪人という意味の身分……クロというね。」


「えっ?その方罪人なのですか?」


 マーヤの疑問に私は首を振った。


「あの子のご先祖様がです。」

「……いったいなんの罪を犯したのですか?」

「革命軍の一派です。」


「はい?革命なんていつあったっけ?」

「50年前です。」

「……私たちはまだ生まれてませんね……もしかして……」


「ええ、差別ですよ。親、祖父母、何年も前の事なのに未だに子や孫までもが差別されてます。」

「でも、犯罪者……しかも革命軍ならば仕方ないのでは?いつまた国に反旗を翻すかわからないのですから……」


 マーヤの言葉にアネリーも頷く。ここは学校教育でも習う。革命軍は国を乗っ取る為に戦い、負けた事になっています。


「もともと悪いのは誰なのか……となると革命軍なのでは?」

「勝てば官軍負ければ賊軍……という言葉を知ってますか?」


 コーネリアは冷静にかつ少しの殺気を含ませて2人に問いました。2人は少し汗を出しつつ首を横に振りました。


「コーネリア……そんな殺気を出さないで下さい。2人とも困惑してますよ。」

「……申し訳ありません……」


 私は1つ咳払いをして2人に説明する。


「簡単に説明しますね。勝った者が好きに歴史を変えられます。」

「……そ、そんな事して良いんですか!?」

「良いんですよ。勝ったのですから、勝った者が国の上層部に入るのですから簡単に出来ます。止める者すらいないのですから……」


「そ、そっか!自分達が悪かったとしても上書きしてしまえばいいんだもんね!」


「そういう事です……そして勝ったのは今の国の中枢にいます。革命が成功はしていません。つまり負けたのは革命軍の方……ですがどちらが正しいかは分かりません。あの当時この国の土地を切り売りして戦争を避けてた国王に対して土地を奪われて住む場所を失った人々……戦争を避けて国民を護りたい国に対して国民は勝手に土地を切り売りして自分たちには何も保証してくれない……恨みは溜まるでしょうね……」


「実質負けてるみたいなものだからね……」

「国もそうするしか道がなかったんだね。」


 どちらも正しい……なら答えは勝った方が決める。これしかなかった。


「それで……その方はどこに?」

「私が総指揮官になったその3日後に軍を抜けています。私はあの人に軍でもっと鍛錬して欲しかったんですが……当の本人が集団行動が出来ずに抜けたのです。私の所に挨拶へ来た際には……」


『強くなるなら1人でも出来るから、メアリーがまた私を必要になったら呼んでよ!メアリー以外の下に付く気ないからさ!』


「……といい去って行きました。」


 どこか寂しそうなフェスの背中を今も私は覚えています。私は言葉を続けます。


「村に帰ると言っていたので村にいるはずです。実は私が第21師団の指揮官になった時には既に手紙を送っていたのですが……未だに返信がないんです。」

「フェスは読みは出来ますが書く事はあまり得意ではありません。なので読んだ瞬間に一直線にくると思ってましたが……」

「未だに来てないですね……」


 あの子はアネリーと同じタイプだけどそれに輪をかけてもの凄い猪突猛進型だ。槍使いらしいと言えばらしいが……


「という事で迎えに行きます。コーネリア場所は分かりますね?」


 私の言葉を予期してかコーネリアは既に地図と資料を持って来ておりそれを机に広げました。


「勿論です。国でも管理しなければならない団体として位置把握は常にしてる様ですし。今は南南東のこの辺りを拠点にしてる様です。」


 私はコーネリアが示した場所から近くの街と村を探し出します。


「近くの街は……ヴェルシキニア……治安は悪かったですね。」

「あっ、そこは今かなり治安が荒れてるみたいだよ。だって学校でもその町に行くなら自己責任で行く様にって言われてるもん!」


 酷い言われようだが……行き先は決まった。


「ヴェルシキニアに行くけどマーヤはどうします?」

「私ですか?」


「今回は戦闘に行くのでマーヤには居心地が悪いかもですよ。」

「私は……そうですね……書類を片付けておきますね。」


 今回マーヤはお留守番となりました。少数精鋭となれば誰かが出て誰かが残るなんて事も増えるだろう。しかしここで意を唱える者がいた。


「ええー!マーヤもいこーよ!」

「ありがとうございます……でも、今回私が居ても足手纏いになります。なので私には私の仕事をしますので、アネリーさんはアネリーさんのお仕事を頑張って下さい!」


「……むー、うん!頑張ってくるね!お土産買ってくるからね!」

「今生の別れみたいな事言わない!ほら、私たちは準備に帰りますよ!」


 コーネリアはアネリーを引っ張って一度帰宅しました。私はここにある私物から必要な物を選びます。


「メアリー様、私が準備しておきましょうか?」

「大丈夫ですよ。自分の事は自分でやりますから。」


 私はマーヤの申し出を断り荷造りをする。と言っても愛用やナイフと予備のナイフ着替え諸々と紙とペンだけだ。他に持っていく物はない。


「マーヤにはこの仕事をお願いしてもいいかしら?」

「……これは?」

「この国の兵站と作物のここ数年の収穫量を調べてきて欲しいのです。もし、何か言われた時は私の名前を出して下さい。それでも聞いてくれない場合は今から書く手紙を司法部のセレナ・ガレッドに渡して下さい。きっと動いてくれますから。」


 私は筆をとり手紙を書いた。それをマーヤに渡して私の仕事は終わりだ。まぁ動いてくれなくてもその時は私が自ら動けばいいだけだ。


「分かりました。お預かりします。他に何かありますか?」

「そうね……私たちが帰ってきたら何か美味しい物でも作って食べさせてよ。」

「……分かりました!帰りをお待ちしてます!」


 こうして私たちはヴェルシキニアの町へ向かいました。しかし……


「すいません……ここまでです。」

「えっ?どうしたのですか?」


 馬車の騎手の方がいきなり馬車を停めてこう言ったのです。


「ここから先は危険過ぎる為命の保証が出来ません……なので申し訳ないのですが……」

「だからここまでなのね……近くに宿はあるかしら?」

「昔はあったのですが今はもう廃墟となりました。数ヶ月前に複数人の人間に襲われて家主諸共惨殺されたとか……」


「つまり野宿しかないと?」

「はい、申し訳ありません。」


 私はコーネリアとアネリーの顔を見た。お互いに頷いたのでわかった。


「分かりました。では帰りはこの先の街まで迎えに来て下さい。」

「あの、お話聞いてましたか?この先からは……」

「大丈夫よ!私たち3人ともめっちゃ強いから!」


 アネリーは元気な声で言い返すとそのまま馬車から降りました。続いてコーネリアも降りて最後に私が……


「安心して下さい。そういうお困り事を解決するのも我々騎士団のお仕事ですから。」


 その一言を最後に私は馬車から降りました。馬車を見送った後、私たちは野宿の準備をします。しかし火を付けた時から少し気配が変わります。


「殺気?」

「複数いますね……」

「火はそのままで……消したら尚更相手に詰められます。」


 森の中で草木が茂っている為人数把握は困難ですが軽く見積もっても10人以上います……


「どうします?」

「強行突破もいいですが……恐らくいずれ囲まれて苦戦を強いられますね。」


「負けるとは微塵も思ってないんだね……2人とも……」


 そう、囲まれたとしても負けるとは思えない。何故なら数でのごり押しはここでは不向きだからだ。相手がなりふり構わず同士討ちも厭わない様なら別だが、一応徒党を組んでる以上その可能性は低い。ならば残る問題はどうやって生かして捕えるかだ。


「じゃあ私突っ込んで良い?」

「……明かりが届く範囲まで相手が来たらいいですよ。それまでは睨みを効かせて下さい。この暗がりで1人で突っ込んでしまうと挟み撃ちや強襲を受ける可能性もありますし、何より普段と違う地形です。足下がおぼつかず体勢を崩す可能性もあります。」


 今私から見える範囲は平坦に見えても崖があるかもしれない。水溜まりがあるかもしれない。坂道になってるかもしれない。地の利が相手にある以上は迂闊に飛び込ませない。かと言ってこのままの膠着はこちら側にとっては精神と体力を費やすだけで悪手となる。ならやる事は1つ。


「な、何を!?」


 私とコーネリアは同じ事を考えた様だ。


「何って?炙り出すのよ。」

「見えないから飛び込まない。ならば飛び越えられる様にすれば良いだけよ!」


 通常時は絶対やってはいけない行為だ。私とコーネリアは焚き火の火を枝の束に付けた……そして……投げた!何度も言いますが通常時は絶対やってはいけません!山火事になります。そして収集がつかなくなります。とても危険な行為なので絶対真似しないで下さい!


「うわっ!」


 辺りに火が飛び移りその辺の草木に燃え移ります。すると敵が慌てて逃げて行きます。明かりの範囲が広がる事で相手は身バレを恐れた様です。


「こちらの狂気に恐れて逃げましたね。」

「うん……私でも逃げ出すよ。まだ何もしてないのに焼き殺そうとしてくるんだもん……」


 2人はドン引きしてましたが……お相手が逃げたので後片付けをします。流石に火が大きくなる前に消しておける物は消して自然鎮火するようでしたらそのままにしておくことにします。何はともあれ危機は去りました。あとは交代制で夜間の警備をしつつ早朝出発です。




 翌朝、私たちはヴェルシキニアの町に来ていました。しかし事態は私たちの想像を遥かに超える惨状でした。


「……なんですか……これは……」

「酷いですね……」

「私……気持ち悪くなった。」


 家やお店があるのに軒並み閉店していた。道は荒れ、田畑すら機能しておらずそこには死体が積み上がっていた。


「情報を集めましょう……」

「きゃああああ!」


 私が進もうとした矢先いきなり甲高い声が聞こえた。


「どっち?」

「あちらです!行きましょう!」


 1つ角を曲がるとそこには少年がいた。手にはロングナイフを持っており血が滴っていた。少年はこちらに気付きロングナイフの切先を私たちに向けて一言……


「金を出せ……」


 異国の言葉だった。カタコトだが理解出来た。金を出せと……私はナイフを取り出して応戦の構えを取る。


「捕まえるのですか?」

「いいえ……私刑を行います。」


 後ろの女性は胸を刺されていて地面には血溜まりが出来ていました。恐らく助かりません。まだ少年……ですが強盗殺人はこの国では死罪一択です。


「役人として後で書類作成をいけませんね……」

「それは私がしておきましょう。」


「感謝します!」


 私はナイフを持って一気に少年の間合いに入ります。ロングナイフの間合いの更に内側にいる私に少年は狼狽えていました。


「地獄で反省して下さい……」


 私は少年の首をナイフで跳ね飛ばした……はずだった。ナイフの長さが少し足りなかった為少年の首を完璧に飛ばす事は出来ず胴と頭はくっついたままだった。しかしほぼ即死だった。少年はゆっくりと倒れそこにも血溜まりが出来た。私たちは被害に遭われた女性を運んだ。せめて路地裏よりも明るい場所に連れて行ってあげたかった。


「仇は取りました。ゆっくり休んで下さい。」


 私たちは両手を合わせてその場を後にしました。すると今度は遠くで誰かが戦ってる暴音が聞こえてきました。


「今度は!?」

「恐らくあの土煙が舞ってる所です!」

「行こう!」


 私たちが向かう間ももの凄い音が止まずに起きていました。


「恐らくあの子かと……」

「ええ、間違いないですね。」


 私とコーネリアは確信を持ちました。広範囲の戦い方をする人はなかなかいませんから。


 角を曲がるとそこは戦場と言って差し支えなかった。多くの人間が倒れる中、ただ1人だけ立っていました。漆黒の槍を二槍構える女性……私たちが迎えにきた人物がいました。

 ここまで読んで頂きありがとうございました。

次回更新もお楽しみに!


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