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6/12

6戦目 宴

 山を降り、村に着いて村長達に報告するともの凄い驚きをされた。


「なんと……1日で仕留めたのか……」

「しかもこの大きさ……間違いなく今我々が駆除しようとしていた標的ですよ!」


「流石はマーヤね。目を一撃で射抜いているわ。」


 村人達の話を聞きながらアネリーが一言。


「私たちいらなかったんじゃないですか?」

「……」


 それは薄々感じていた。確かに3人に分かれて待ち伏せしたが大した戦闘はしていない。誘導したアネリーは多少活躍したが私たちは何もしていないのだから……でも……


「ようやったようやった!流石は俺の孫だ!」


 関係改善には一役買えた様です。


「おじいちゃんやめてよ、人前で!」


 照れ臭いのか嫌がってはいるがどことなく笑っているマーヤだった。


「さて、仕事も終わったし、帰りますか。」

「そだねー!帰ってまた稽古付けないと!」

「私も行くところがありますし……」


 マーヤはもうしばらくここに居てもいいだろう。里帰りも出来ていなかっただろうからゆっくりして来てもらうのが1番だと思ったのですが……


「お前達!どこへ行こうとしておる?」


 村長に呼び止められてしまった。


「私どもはこれで失礼しようかと……マーヤはしばらく休暇を与えておりますから期日までに戻していただければ……」

「なーにを馬鹿な事を言うとるんだ!こういう日は宴を開くんだぞ!」

「それは……ご自由にどうぞ……私どもは仕事でしたので……」


「何を言うか!ここにおる者全員功労者だ!その者達にお礼もせず帰したら村の恥!先祖に顔向け出来ん!」


 ここまで言われてはどうしようもない。これで帰れば上に苦情が行きまた面倒な事になる。私は2人の顔を見たコーネリアは静かに頷きアネリーはめちゃくちゃ楽しみにしてる。


「分かりました。では、御礼を頂戴致します。」

「そう来なくては!さぁ!宴の準備だ!」


 あっという間に夜になりました。そして大きな焚き火の上には今日狩ったグリズリーが……こうやって命を戴いて私たちは明日も生きる事が出来ると言うことを改めて実感します。


「マーヤさんはどこに行きましたか?」

「ん?マーヤならあそこで子供達に弓を教えていますよ?」


 アネリーの指差す方にはマーヤとその周りに子供達がいました。矢は付けてはいませんが狙いの定め方、弦の張り方なんかを教えています。そしてなぜか弓の修理もしています。


「マーヤさん、こちらに来ませんか?」

「あっ……すいません……こちらから本来向かわなければいけないのに……」

「いいえ、咎めてるわけではありません。ただ一緒に食事をしたかっただけですので……」

「……ありがとうございます。では、この弓まで直して向かいますね。」

「……少し見てていいかしら?」

「少し照れますが……良いですよ。」


 私は指先を見ていた。理由は簡単、私が第6師団で見た弓の張り方です、第6師団のハリー指揮官は誰でもできると言ってましたが全て同じ張り方にするなど不可能なんです。各自にやらせてると言っていたし、嘘を吐いてる目でもありませんでした。そして答えが出ました。


「やはり、貴女だったのですね。マーヤさん……」

「何がですか?」


「弦の張り替えです。あの日だけあんな量の弦を張り替えていたのかと思っていましたが……実際は貴女が1人であの第6師団を支えていたのですね。」


 私の言葉にマーヤの指先は止まりました。


「これだけでわかるなんて流石ですね。メアリー指揮官……」

「この短時間で同じ張り方をすぐにしてしまう。相当の数をやって来た人間しか出来ませんから……」

「ふぅー……続きは向こうでお話ししましょうか……?」


 マーヤが一呼吸入れたところで私たちはコーネリアが座っていた席に戻った。アネリーはというと村の子供達と遊んでいた。


「私が騎士団にスカウトされた理由は以前お話ししましたよね。」

「ええ、飛距離が凄く、命中率が高いとの事で連れて来られたんですよね。」

「はい、ですが、私は人を殺せません。普通なら追い出されます。ですが私は追い出されなかった……」

「えぇ、そこが私も引っかかってました。騎士団は国を護る剣であり、盾でもありますから。」


 人員の流れは私も把握していました。顔こそ知りませんが戦績の有無は知っています。ですからマーヤの事も気になっていたのです。戦果を上げずに何故騎士団にいるのか……


「私が呼ばれた本当の理由……それは技術の共有です。その為に私は講師として連れて来られたのです。」

「……つまり矢を射る角度や風の掴み方を教える為って事ですか?」

「はい、でも実情は違いました。騎士団は私を相手国側に盗られる事を恐れたんです。」


 矢は時として連絡にも使える、矢文というものはその典型例だ。しかもあの飛距離だ。私たちが使わない様なやり方を相手が知っていた場合マーヤは正しく敵の中核となる。恐る理由としては充分過ぎる。でも、実際にはもう2つあるのだろう。


「そうね。マーヤの技術は素晴らしい。だからこそ講師として招いたのに誰も出来ないとなると騎士団の面子は丸潰れになりますね。」

「……流石メアリー指揮官です。なので第6師団は私をあの部屋に軟禁したのでしょう。」

「その理由は恐らくマーヤに雑用を任せる為、それが行き過ぎてマーヤが弓の補修と整備をもやる様になったのね。」


 騎士団1つに約80人はいる。数人がサボればみんなサボりだす。集団心理なのだろうけど恐らくあの指揮官と副指揮官は自ら手入れをしてるだろう。だが他はもうマーヤに頼り切っていた可能性が大だろう。これから第6師団の膿が出てくる事になる。出来ると完璧にはそれほどの差がある。恐らく張り方1つで飛距離もコントロールも変わるだろう。


「マーヤ……貴女は騎士団を抜けたいのではないですか?」

「どうしてですか?」

「そこまで冷遇されておいてあそこに居続ける理由はありませんから……少なくとも私はマーヤほどの冷遇を受けたなら反旗を翻しますけど……」


「……私は今の現状に満足していますよ?」

「今の?」

「そうです、第6師団の時は何度もこの村に帰りたいと思いました。ですが、今のメアリー様の部下で居られるのならいつでも帰れますし、それに……」


 マーヤは一呼吸置いてから発した一言それは……


「メアリー様は私を信じていただきました。ならば私も貴女を信じてどこまでもついていきたいと思ったのです。」

「……そう……でも、嫌になったらいつでも辞めていいわよ。人を殺さない職業なんて星の数ほどあるのだから。」

「その時はその時に考えさせていただきます。」


 ニコニコと笑いながら答えるマーヤ。そして前を見ると村長がいた。


「指揮官殿、最初の非礼本当にすまなかった。心よりお詫びします。」

「良いんです。こちらこそ、この度は初動が遅れてしまい大変申し訳ございませんでした。」


 2人して深々と頭を下げた後、盃を差し出された。


「どうですかね?一杯?」

「ありがとうございます。ですが私は未成年ですので今回は私の副官のコーネリアさんが代わりにお受けしてもよろしいですか?」

「なんと、マーヤより歳下で指揮官とは……名前を聞いてもよろしいですかな?」


 少し悩んだ。私は半年前にこの村周辺の土地を少し変えてしまった。そのせいで今回のグリズリー騒動になっているのだから……だけど嘘を吐くなど国を護る騎士団が、ましてや指揮官がしてはならない。


「私は……メアリー・バーン。新設された第21騎士団の指揮官です。」

「メアリー……まさかあの天才指揮官の!?」

「ええ、今回の事は私の作戦によるものでもあります。大変もうし……」


「皆の衆!あの天才指揮官様がこの村に来られておったぞー!」


 私の謝罪の言葉は村長さんの一声でかき消されさらにぶわぁっと大歓声が上がった。


「メアリー指揮官!貴女のおかげでグリズリーは増えた。しかし、それ以上に我々は昔から北の国からよくこの村を侵略されそうになっていました。それがどうでしょう。貴女が地形を変えてくれたおかげで奴らは攻撃をし難くなった。そして害獣駆除もしてくれたのが貴女様なら我々は貴女を恨む事など決してありません!本当にありがとう!ありがとう……」


 村長は泣いて私の手を握りお礼を言われた。そこまでの事をしたのかはよくわかりません。ですが彼等にとってこの村は生まれ育った場所、故郷なわけで……ここを他国に侵略されたくないという気持ちは痛いほどわかります。


「顔を上げて下さい。私たちはこれがお仕事なのです。それに私は今総指揮官ではありません。第21騎士団の指揮官なのです。」

「……そうでしたな、しかし何故降格したのですか?」

「ちょっとしたわがままを通した代償ですかね。」


 少し無理があったが仕方ない。そこからはただただの贅沢な食事会となりました。


「お世話になりました。」

「また来て下さいな!今度は村総出で出迎えさせていただきますから!」


 村長さんの気合いの入り方が少し怖かったがまぁ良いという事にしました。


「マーヤは村にもう少し居ても良かったのですよ?」

「いえ、リフレッシュ出来ましたし、久しぶりに射的も出来ました。これ以上のリフレッシュはありません。」

「……なら作りますか的……」

「えっ?」


 私の突拍子のない発言にコーネリアが驚きの声をあげていた。そしてアネリーは喜んでいた。


「えっ?作ってくれるの?やったー!」

「予算はあるのですか?」

「簡易な物なら作れますから。」


 全員頭に?が浮かんでいたが私は作れると確信していました。


「簡易な物と言いましたよね。本格的な物は難しいですし予算もありませんから。幸いにも的となる物ならたくさんありますし。」


 相変わらず全員の頭の上には?が浮かんでいました。


 帰って来て一日を(私を含め)完全にオフにしました。久しぶりの遠征で私も疲れてしまい丸一日寝てしまいました。そして翌日私は屯所にみんなを集めました。


「何をなさるのですか?」

「的を作ります。」

「おーー!どこに作るの?」


 アネリーは今日も元気だった。コーネリアは相変わらず冷静そのものだった。そしてマーヤはというと……


「これを使うのですか?」


 工具を取って来てもらっていた。


「ありがとう。使うのはこの2つです。」


 私が取り出したのはノミとカナヅチでした。そこから約15メートルくらい離れた木に丸く円を書く様に削っていきます。すると……


「あっ、あの村の的に似てる!」

「そうです。そしてここには木が沢山生えてます。その為真っ直ぐ飛ばないと矢が当たりません。短い距離ですがなかなかの難易度になっているはずです。」

「確かに……この木とあちらの木の間縦に離れていますからわかりづらいですがかなり幅は狭そうですね。」

「しかも不規則に並んでいる木のせいで風を読むのも困難です。」


「マーヤがそう言うのならこれは最難関にしましょう。では、あちらの木に同じ物を作りましょう。ここからあの木まででしたら横の障害物はありませんから難しくないでしょう。」


 その後はマーヤ監督の元で制作していきました。斜め上に的を作ったはここは第6師団を超える弓の名手が産まれるやもと期待してしまいました。期待を超えてくれる逸材が現れる事を願いながら着実に作られていきます。完成後はアネリーの遊び場みたくなっていました。


「ねぇ、せっかくなら街の人達も入れる様にしない?」

「いいですね、では先生はマーヤとアネリーにしましょう。」

「私ですか!?」


 マーヤは少し困惑していたがコーネリアからも勧められたのでやる事が決まりました。そしてここからは後日談です。


「メアリーさま。こちらを。」

「ありがとう……うん、これなら大丈夫ね。」


 私が見たのは狩猟による害獣駆除の報酬と突然変異種への早期発見の報酬です。これにより格段に害獣被害を減らせると踏んでコーネリアに頼んで首都の街クレアノレの狩猟団体と交渉の場を設けたのでした。


「報酬は金貨2枚です!」


ざわざわ……


 少しざわついた。当然だ。グリズリー一頭、もしくは害獣駆除を行った場合これまでは銅貨2枚だったのだから金貨2枚は今までの約100倍近くの報酬になります。金貨2枚あれば2ヶ月……いや一人暮らしでしたら3ヶ月は多少贅沢をしても暮らせる額ですから。


「本当にいいのか?そんなにもらっても……?」

「構いません。その代わり2つの法律を作ります。まず報酬はこの国で狩猟登録をしている者に限ります。これは密猟や他国の国民が勝手に入り我が国の制度を悪用しない様にする為です。2つ目は狩猟制限です。制限をかけなければ乱獲されてあっという間に絶滅してしまいますからね。自然と上手く共存して行かなければ我々の暮らしは成り立ちません。それはこの国に住む祖先が守ってきた文化と歴史です。それを子供達に残すのが我々の役目です。」


「それだけかね?」

「それだけです。法律に穴があれば作ります。皆さんに不利益を与える可能性がある場合はまたこの様に会合を開かせて頂きます。」

「分かった。ならば1つ追加して欲しい事がある。」

「なんでしょうか?」


 この方たちだから分かる事もあります。それも踏まえて立法機関に提出する。それも私たちの仕事です。


「狩猟の制限をもう1つ増やして欲しい。」

「と言いますと?」

「最低2年……この国で狩猟をした者、また会合や討伐依頼に最低3回は参加した者に報酬を渡してほしい。国に来てすぐに狩猟資格を得た者が制度を悪用するとも限らんからな。」


「なるほど、盲点でした。ありがとうございます!加えさせて頂きますね。」


 やはり現場の意見は貴重だ。そして1月後に国全土に新しい法が施行された。狩猟法の改正だった。私たちがマーヤと知り合わなければ知らなかった事は沢山ありました。私はまだ知らないといけない事が沢山ありそうです。

 ここまで読んで頂きありがとうございました。

次回更新もお楽しみに!


 面白い、続きが気になるという方はブックマークまたは下の星マークをタップしてお待ち頂けると幸いです。

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