1戦目 天才指揮官
チェスというボードゲームがある。キングを取れば勝ちである。将棋というゲームは王将を取れば勝ちだ。囲碁というゲームはどれだけ陣地を有するかで勝敗がつく……ありとあらやる戦略ゲームをしてきた私の名はメアリー・バーン。下級貴族ながら我が国の騎士団で参謀をしている者です。
「メアリー総指揮官、貴殿を第21師団の団長とする。」
「……承りました。」
今私は全20師団の総指揮官から降格し、新しい部署第21師団の団長となりました。理由は遡る事1月前の戦争である。勝利はしたものの多くの人を死地へと送りその多くが帰らぬ人となったのです。私は長期戦をすると現場は困窮する事を踏まえて一時撤退を命じていた……はずでした。しかし現場の指揮官は居座り続け多くの餓死者を出したのです。それを知った私は大急ぎで3師団を送り早期決着を図りそのままの勢いで勝利したのですが……状況把握が遅れた事は私のミスで重大な問題でした。
「メアリー様……いかがでしたか?」
「第21師団団長に異動となりました。」
「そうですか……」
彼女はコーネリア・サーシャ。私の副官です。ですが、私が異動となった為、もはや私は彼女より下の立場となりました。元々彼女の方が上級貴族ですし、歳も私より2つ上なのです。それなのにこうして慕ってくれるのは喜ばしい限りです。
「私はこれより異動の準備をしますので……これで……」
私は一礼してコーネリアの横を通りました。
「私は……」
「コーネリア!」
何かを言おうとするコーネリアを止めて私は言葉を重ねます。
「こんな私に着いてきてくれてありがとうございました!貴女なら総指揮官にもなれます!これから離れますが私は応援していますよ!」
私は再度深く頭を下げて最敬礼して部屋に戻りました。
私の名前はコーネリア・サーシャ。今最愛の人が私の前から消えようとしています。最愛の人……それはメアリー・バーン様。私の命の恩人でもあり尊敬する人が異動という名の降格となったのです。そもそも責任をあの方に被せるのは間違えています。私は騎士団を統括する国防部に抗議しに参ります。
「失礼します!」
「なんだ貴様は!」
「元総指揮官メアリー・バーンの副官コーネリアと申します!メアリー総指揮官の異動を取り消しを懇願の為に来ました。」
「あぁ……サーシャ家の君には関係ないだろう?むしろ感謝してほしいくらいだ。」
「なんです……って……?」
理由を聞かずして怒るのは筋が違いますが少し怒りが声に含めてしまいます。勝手に人の気持ちを鑑みられるのは良いものではありませんから……
「君はサーシャ家、国でも有数の高貴な家柄だ。それをあんな下級貴族の娘の下にいるなど屈辱ではないのなかね?」
「……」
「それを高々数回の戦争で成果を出したからととんとん拍子であの地位だ。こちらとしては作戦ミスをしてくれた事でようやくあの娘を降格させることが出来た。今回作ったあの第21師団はあの娘1人の部隊だ。嫌で辞めるのは時間の問題だ。」
「…………」
黙って聞いてれば良い様に言ってくれます。今すぐこの男の喉笛を掻き切りたいですが……それをするとメアリー様に迷惑を掛けてしまいます。
「わかりました……」
「流石だ!やはり君は聡め……」
「私も第21師団に異動させていただきます。」
「はぁ?そんな勝手な事出来るわけ……」
私はもう腕を思いっきり振り上げていました。そして目の前にいるクズの顔面に拳をめり込ませました。
「これで降格異動ですね……」
私は手をパンパンと叩いてスッキリした顔でいいます。しかしクズ男は鼻血を流しながら私に何か言ってきました。
「貴様!この私にこんな事をして降格で済むと思って……!」
「クビにしたければして下さい!これでクビになったとしても私が捕まっても数日で出て来れます。そして再就職すれば良いだけですから!」
私は踵を返して部屋を出て行った。後悔なんてない。私の命の恩人を馬鹿にしたのだから。当然の報いです。そして私は留置所に放り込まれました。
「コーネリアさん……今の状況をお聞かせ下さい。」
私はメアリー……今は拘置所にいる元部下で現上官を迎えに来た第21師団団長です。
「メアリー様を侮辱した外道を1発殴りました。」
「私を侮辱したのが許せなかったのですか?」
「はい。」
この様子だと後悔は微塵も無さそうです。
「身元引き受け人は私ですがよろしいのですか?」
「構いません。私の主人はメアリー様だけですから。」
私は頭を抱えたくなりました。ですが、この方をここに放置して帰る訳にもいけないので手続きをして釈放させました。そして執務室に来ました。
「これで私は無職です。メアリー様どう致しますか?」
「私がコーネリアを雇いますよ。上の人間は快く思わないでしょうが……」
私は書類を整えて机の上に置きます。コーネリアはとても賢い方です。私の1に対して10応えてくれます。恐らくどこの部署からも欲しい人材でしょう。
「全く……本当に良かったのですか?」
「何がですか?」
笑顔で聞いてくるあたり察しはついてるのだろう。
「私の部下になる事です。正直ここは私しか居ませんし、今までより待遇と良くないですよ?」
「そうですね……ですが、私は気にしません。メアリー様が居られるなら私はどこへでも参りましょう。例えそれが地獄であろうとも……」
「そうですか……では、私と新たな道を歩きましょう……離れずに着いて来て下さいね。」
「もちろんです!」
となると最初は人財探しです。流石に2人では何も出来ませんから。私は名簿を見て優秀な方を1人見つけます。
「コーネリア、この方はどうですか?」
「……あまりお勧めしませんよ。」
少し渋そうな顔をしたコーネリアだったがその理由はすぐに分かった。
「アネリー・サーシャ……妹さんでしたね。」
「戦力としては申し分ないかと……ただ素行は良いとは言えませんね。」
「と言いますと?」
「戦果は見ての通りです。ですが本来そんな手柄を挙げられますか?」
「ズルをしていると?」
コーネリアは頭を振ります。否定という事でしょう。
「命令無視で駆け出したら止まらないのです。その為、1人で先陣を切り戦果を挙げてるのです。」
「……サーシャ家の血筋ですかね……」
「私は違いますよ?」
「貴方は先程までどこに居ましたか?」
「……牢屋ですが何か?」
少し目を細めてる辺り痛いところを突かれたという感じか。
「命令違反はひとまず置いておきましょう。それよりも戦闘力を教えて貰えますか?」
「武器は双剣ですね。アネリーは身体が小さいので双剣も普通の物より短いです。その代わりに踏み込む力は強いです。下半身を父に相当鍛えられてましたから。」
「実力は折り紙付きというわけですね。ならば採用しましょう。」
「よろしいのですか?そんな勝手に……」
「こちらは人員が足りないのです。無理を言ってでも抜き取ります。」
私は採用の通知をコーネリアに渡します。そして他の騎士団で爪弾きにされてる者も探してみます。
「爪弾きにされてる方はなかなか居ませんね。いい事ですが……1人いますよ。」
「では、その方への異動願いを指揮官へ送っておいて下さい。あとは……あの子ですね。」
「あの方は確か2年前に騎士団を抜けてますね。手紙を送りましょうか?」
「ありがとう……でも、それは私が書きます。せめてもの誠意を見せなければなりません。あの子も本当は私の下に居たかったはずですから。」
私は辞めた方へ筆を取りました。今どこにいるかわかりませんが……情報をこちらでも広げてみようと思います。見つかればそこへ直接会いに行きましょう。
そうして書類の整理をしているとコーネリアが話しかけてきた。
「そう言えば……次の総指揮官は誰がやるのですか?」
「まだ決まってはいない様ですが、恐らくは第1騎士団の副官クライブ・シェーンスティ氏が行うと思います。」
「……はい?あの方は確かメアリー様の前総指揮官の孫に当たる方ですよね?」
「そうね……元々はあの家系がずっとあの地位を維持してきたのだからまぁ元の鞘に治ったという所でしょう。」
それを聞いたコーネリアは眉間に皺を寄せていました。
「納得できません!」
「そうは言っても私たちには変えられませんからね。」
私は手紙を書いていた手を止めてにこやかに返します。
「あの家系は人の命を軽く見過ぎです!」
「本来は国民を守る為に私たち騎士団はいます。なので私たちの命を軽く扱うのはある種当然です……」
私は冷徹な表情で言いました。そしてふと窓の外を見ます。
「しかし、死を前提にした作戦は作戦とは言いません。履き違えてはならないのです。戦闘員にも愛するべき人が居て愛してくれてる人もいます。なので私たちは被害が少なく済む戦い方をしなければならないのです。」
「……知っています。あなたはいつもそうやって作戦を考えてくれましたから……」
私はコーネリアに再び向き直ります。
「もし、私が不在の時はコーネリア……あなたが作戦立案をお願いしますね。私の意思を知る者はあなたしかいないのですから。」
「……分かっております。メアリー様のお考えを全て体現する事は叶いませんが……私に出来る精一杯をさせていただきます!」
真面目な会話……その時私たちは少し笑ってしまった。お互いこんな真剣な顔で話したのは久しぶりだからだ。そしてやはり私の部下はコーネリアしかいない様だと改めて実感した。
「コーネリア……」
「なんでしょうか?メアリー様……」
「2人きりになるのはいつ以来かしらね?」
「覚えておりませんね。メアリー様の下に就てからは2人きりなどほとんどありませんでしたから。」
「では、久しぶりにチェスでもしましょうか?」
「いいですね。胸を借りさせていただきます。」
この後夕方まで勝負をし続けて書類が全然進んでなかった事に気づいた私たちは深夜まで仕事をする事になった。
翌朝……私たちは墓地に来ていました。前の戦で亡くなった方々へのご挨拶へ。
「皆さんのおかげでこの国を護る事ができました。最期は飢えと敵と戦うという壮絶なものだったでしょう……深くお詫びします。」
私は戦死者達が眠る墓地へ深々と頭を下げました。
「今後は状況把握の徹底して行き皆さんの苦しみと犠牲を無駄にしない事をここに約束します。今は安らかにお眠り下さい。」
私とコーネリアは再び頭を深く下げて戦死者達を労わりました。
「戦争なんて……本当はしないに越した事はないはずですがね。」
「仕方ありません……近くに軍国が2つ……我領土を取るために画策を続けておりますから……」
「そうですね……白旗を掲げてしまえば民が苦しみます。そうならない為にも私たちが護らないといけないのですね。」
そうして覚悟を新たに私達は第21師団の屯所に戻るのでした。
ここまで読んで頂きありがとうございました!
次回も楽しみに!
久しぶりの長編です。100話くらいの話になればいいなと考えてます。この話に出てくる作戦、戦法は過去実際に使われた物もあります。良かったらその辺りも楽しんで下さい!
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