パパさんは今日もさびしそう
※コロン様主催『酒祭り』企画参加作品です。
パパさんが帰ってきた。
──あ、今日もまたあの『酒』とかいうのを飲んでるな。あんなに息がくさくなるのに、何で飲むんだろ。
まあ、でもボクは寛大だから怒ったりしないよ。シッポを振ってお出迎えしてあげるのさ。
「おー、シロ、ただいまー」
パパさんはボクの首のあたりをひとしきりワシャワシャしてから、ドアの前に立った。そっとドアをあけて、カバンと上着だけ家の中において、またボクのとこに戻ってきた。
前はママさんとかリンナちゃんもお迎えに出てきたのに、どうしちゃったのかな。今も家の中にはいるはずなんだけど。
「──はぁ」
何だかパパさんは元気がない。しかたないなぁ。
ボクはパパさんの顔をじっと見てから、リードをくわえてみせた。
「お、何だシロ、お散歩に行きたいのか?
──もう、俺の相手をしてくれるのはシロだけだなぁ」
パパさんが何を言ってるのかはわからないけど。
それより、早くリード外してってば。
パパさんを引っ張って、夜の町を歩く。行き先はもちろん近所の公園だ。
あそこには柵でかこまれた広場があって、その中ならリードなしで走り回っても大丈夫なんだ。
もう夜なので、他の犬はいない。ボクは心ゆくまで運動を楽しんでから、ベンチにぽつんと座るパパさんのところに戻った。
「おお、ずいぶんはしゃいでたな、シロ。やっぱり普段の散歩が足りてないのかな。
──リンナがお前を拾ってきた時、『ぜったい毎日お散歩させるから!』って言うから許してやったのに、もう忘れちゃったんだろうなぁ」
せっかく散歩に来たのに、パパさんはやっぱり元気がない。
相変わらず、何を言ってるのかはわかんないけど。
「──なあ、シロ。年頃の娘って難しいな。
よく、『下着を一緒に洗濯されたくない』とか言われたって話は聞いてたけど、飯も一緒に食いたくないなんて、ひどくないか?
ママもママだよ。『パパは家族のために頑張ってるんだから、そんなこと言うもんじゃありません』って叱ってくれたっていいじゃないか。
『せめてリンナの受験が終わるまでは外で晩ご飯食べて来て』って言うけど、小遣いもあんまり上げてくれなかったしさ」
さびしそうに言ったパパさんの目から、涙がぽろりこぼれた。
「家族には邪険にされて、頑張ってやっと建てた家で晩飯も食えないし──俺、何のために必死で働いてるんだろうなぁ……」
もう、しょうがないなぁ。お酒を飲んだ日のパパさんは、いつもこんな感じだ。さびしい気持ちになるくらいなら、お酒なんて飲まなきゃいいのに。
ほら、サービスしてあげるから元気出しなよ。お酒くさいから顔はイヤだけど、手くらいならペロペロしてあげるからさ。
「はは、なぐさめてくれるのか、シロ。お前だけだよ、俺の気持ちをわかってくれるのは」
そう言って、首筋をワシャワシャしてくれる。よし、喜んでくれたみたいだ。言葉は通じなくても、気持ちって伝わるんだな。
「さあ、そろそろリンナも部屋に戻っただろう。帰ろうか、シロ」
あまり遅くなると、逆にママさんの機嫌が悪くなることくらいはボクにもわかる。
そろそろパパさんを連れて帰ってあげないと。
──ウチの群れのボスはエサをくれるママさん。その次に偉いのは、ボクを拾ってくれたリンナちゃん。
あの二人がパパさんにあまりかまってあげないのは、他にやることがあるからなんだろう。
だから、一番下っぱのパパさんを励ましたり散歩に連れていってあげるのは、3番目に偉いボクの大事なお役目なんだよね。