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とある愛され冒険者の一生  作者: ごっこまん


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11/12

10.とある愛され冒険者の生還

 ヤマネコをオルフェと名付けました。帰還に魔物の力が必要なのは相変わらずですし、一匹になったことで、群れに感じた不気味さは失せていました。それに、いつまでも「おい」とか「お前」とかで呼ぶと不便になる気がしたのです。


 ……と、言うより、心細さでおかしくなっていたんでしょうね。


 知っての通り、私とオルフェは一度、殺し合っています。それが今や、何かの力で奇妙な縁を結んでいる。魔物の殺し合いで、よりにもよってオルフェが生き残ったのも運命を感じずにはいられませんでした。恥ずかしながらロマンチストを気取らなければ、立っていられそうにもなかったんです。冒険者ですからね。


 名前をもらったのが嬉しかったのか、オルフェは「ヴニャ」と一鳴きし、喉を鳴らしながら頭を擦りつけてきました。


 それから先はもう、生還すること以外、考えたくありませんでした。だからか、この辺のことは、あまり鮮明に覚えていません。


 花の魔物から薬効のある樹液や蜜を失敬して、傷に塗り、残りは飲みました。甘苦くて、少しだけ帰りの足が軽くなりました。


 それでも長い道のりです。攻め入ったときに立ちはだかっていた魔物が死体になって、足を取るんです。


 そういう足場の悪い場所で、オルフェは黙って背中を貸してくれました。


 楽でしたね。馬とは違った乗り心地です。上手く言い表せられませんが、馬がどこまでも連れて行ってくれるとしたら、オルフェはどんな場所へでも連れて行ってくれるような感じです。


 水場を見つけたら休憩するようにしました。


 休んでは進んでを繰り返し、かなり浅い階層まで到達したときです。


「魔物……いや、生存者! 見つけた! こっちだ! 生きてるヤツがいたぞ!」


 人の声でした。続けて人影が二人、三人と、逆光に映えて増えていくのが見えたところで、安心して気が抜けたのだと思います。負傷と疲労の極みに達した私は、気を失いました。


 嫌にベタベタ触られる夢を見た気がします。


 目を覚ますとテントで寝かされていました。野戦病院です。隣でオルフェが寝ています。それから……。


 それからの出来事は……かなり、嵐のようだった、としか……。


 身を起こして、何となくオルフェを撫でて労おうとした瞬間です。


 テントの入り口の垂れ幕が突風に煽られたようにブァサッと広がって、恐らく応援部隊でしょう。衛生兵の一群がテントを制圧するのかって勢いで、一気に殺到してきました。


 そりゃもう足の踏み場もないくらい、テント中が一瞬で衛生兵です。目覚めの余韻も、オルフェとの絆を確かめるも何もありませんよ。


「うわああごめんなさい!」


 って、思わず叫んじゃいました。何か悪いことをしなきゃ、あんな大勢の人に詰め寄られるなんてありえませんから。


 すわリンチか、って覚悟して、パンチ一発目がどこから飛んで来るかギョロギョロせわしなく見回していましたが、口々に騒ぐ連中の言葉をかいつまむと、どうやら私を心配してくれて、目を覚ましたことにむせび泣くほど心を動かされているようです。


 一言にまとめると「我らが英雄がお目覚めになった」でござーい。ってなもので。


 ますます混乱しました。こいつら何の話をしてんだ、って。


 私、救助されて目が覚めたばかりなんですよ。回復を待つか、聴取するか、細かい段取りは置いとくにしても、私の戦果を評価するのは気が早すぎるんです。他にダンジョン最奥の目撃者がいるならまだしも……リーダー……。


 オホン。


 わかりっこないんです。私が何をしたかなんて。なのに、周りはもう決まったことのように私を持てはやしているんです。


 いやいや、その時はそんな冷静な分析できませんって。周りの熱狂の“熱”よりも“狂”の方が勝っていて、「ごめんなさい」も引っこんでしまったくらいですよ?


 そんな大騒ぎでこっちが事情を掴みかねているっていうのに、連中ばかり盛り上がってましてね。「ヒーロー!」コールで担がれて外に連れ出されました。


 胴上げの要領です。傷に響きました。安静に扱われるべきでしたよ、絶対、あの時。


 で、何の断りもなく、バカでかいリブロースの塊をまな板に叩きつける感じで、仮設拠点の広場のお立ち台にドンと置かれました。


「英雄が目を覚ましたぞ!」とは、臨時総司令に就任したベテラン冒険者です。


 この一声がまた拠点中によく響いたせいで現地の人員丸っと私に大注目です。視線をくれただけで衣擦れとか鎧擦れの音がスコールのように降り注ぎ、直後、歓声の雷鳴で空気が本当に弾けたんです。


 右も左も前も後ろも、全身で喜びを表現する若者から、肩を組んで号泣するむさい男ども、泣き崩れる女性……カルトめいた包囲網でした。


 当の私はまな板の上のリブロースです。物申す気力もない負傷者ですよ。されるがままでした。


 それからもずっとそんな調子でした。消化の良さガン無視の、前線では考えられないほど贅を尽くした料理を供されたり、遠方からわざわざ高級娼婦を呼び寄せて侍らせられたり、果ては国王が直々にご視察に下られて私にあるだけの勲章と、私のためにわざわざ新設した勲章をくださって……もう、何が何だか……。


 そんな中、いつの間にか起きていたオルフェが傍にいたのには驚かされました。


 仮にも手負いの魔物ですよ。言いましたよね? そういうのは特別凶暴になるって。


 なのに、冒険者仲間も増援部隊の連中も、全く気にする素振りを見せません。どころか、“隻眼のヤマネコを従えた英雄”にシンプルなアイコニックさを勝手に見出して、猶更心打たれたって顔に書いてありました。


 まあ、そんなことより、オルフェに料理を与えたり、鬱陶しいアプローチを避けるのに役立ってくれたことの方が、私には嬉しかったですね。おかげで少し、心の余裕を取り戻せたんです。


 狂宴は潮が引くように終わりました。皆、私の接待に全力を絞りつくし、体力が尽きた者から昏倒していったようです。老若男女の貴賤を問わず、同じ地面で眠っています。


 満腹になったオルフェを膝枕に寝かしつけて撫でながら、さしものリブロースもお立ち台で独り、悟りました。


 私がミイラの能力を引き継いでいること。そして、その能力が「全身全霊で愛される」ものだということも。


 私のための宴が全て、他人事のように冷めています。

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