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とある愛され冒険者の一生  作者: ごっこまん


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1.とある愛され冒険者の追放

 リーダーから追放を言い渡されたとき、嘘だろうと思いました。こんな三流吟遊詩人の歌物語みたいな展開が、まさか自分に降りかかるなんて、普通は思わないじゃないですか。


 いえ、実を言うと、そうなる手筈を整えてはいたのです。


 整えてはいましたが、その当時、こうも上手くいくとは思ってもいなかった、という話で。


 勿体ぶるな、って? 私が何をしたか聞きたいと? 引かないでくださいよ?


 同じ徒党(パーティ)に所属する女性、それも、リーダーと婚約している女性と姦通し、それを隠しもせず、町中に吹聴しましたけれど。噂は耳にされているんじゃありません?


「あいつのフニャチンじゃ満足できねえんだってよお!」


 という具合で。


 あ、いえ、かなり脚色しました。恥ずかしながら。


 素のままでよろしい? 助かります。


 誤解しないで欲しいのですが、私はリーダーの反感を買うために、あえて彼女に手を出したんですからね。愛なんてありません。お互いよく知らない内に向こうから色目を遣ってきたのを、はいそれじゃ、と遊んであげただけです。


 何なら、追放宣言を受けたときは、もっとすごいことをしてやりましたよ。


 リーダーの目の前で、その女性とは足を絡ませて、嫌々ながら陸み合っていましたから。これはすっかり本当ですよ。念のため。


 舐めてるって、思ってるでしょ。


 いえ、そういうプレイではなく。態度が。引かないでって言ったのに、顔に出てますよ。


 まあ、結構です。あなたは悪くない。そういう反応をされて当然ですよ。


 私、こんなのでしょ? 人を舐めているのは重々承知なんですが、まさか、こう上手く嫌われるとは、思いも寄らなかったんですよ。大成功です。


 私の常識や倫理観をお疑いで? 当然ですよね。普通に考えて、リーダーの心象を悪くするのはわかりきっています。しかし、ご存じでしょう。私の忌々しいあの能力をご存じであれば、さもありなんと思われること請け合いだと。


 それは一旦置いておきましょう。


 いやはや、大成功で終われば良かったんですけれど。


 追放を突きつけてきたリーダーは、胴間声で、こんな啖呵を切りました。


「これでオレとオマエは対等だ! だからこれは命令じゃない!」


 リーダーは何やら紙を、ぶっきらぼうに私の胸にねじこみました。やったぞ。解雇だか懲戒だかの通知書です。私は嬉々として紙を広げます。私は、あの忌々しい能力を克服したんだと、浮足立ちます。


 ところがです。浮いた足はすぐ床に着きました。


 格式ばった書面こそ似ていますが、それは解雇通知書ではなかったんですよ。


 徒党で借りている、冒険者組合の金庫の権利書です。


 愕然と権利書を検める私の手に、リーダーの男気溢れる手が、しおらしく覆い被さりました。


 寒気がしましたね。だってあなた、筋骨隆々で無骨な漢がいきなり、顔を真っ赤に緊張して、情熱たっぷりに見つめてきたんですよ。何がとは言いたくありませんが……ムンムンしてました。


 生理的に無理だと顔に書いて出しても、リーダーは私に、こう言って縋ってきました。


「やめろ、拒まないでくれ! 頼むから、オレと結婚してくれ! 心から愛している! 徒党の資産全部やるし、何なら命だって差し出せる!」


 私といちゃついていた元婚約者が血相を変えて「ちょっと、何勝手なこと言ってんの、このクマ!」と、金庫の権利書を私から奪います。かと思えば、すぐに猫を被って、私の耳に生温かく囁きかけるのです。


「ねえ、ダーリン。鍵は私が持ってるの」意地悪気にリーダーに向かって「門出を飾ってくれて、どーも」そして、あっかんべー、ですよ。


「この泥棒猫が!」と、リーダーは激高し、テーブルの皿の配置が変わるかってくらい、ドンと叩きました。


 一瞬、どっちに言われたのかわかりませんでした。普通は私がそう言われる立場ですからね。ですが、リーダーは元婚約者の方に言ったのです。まあ、男に泥棒猫呼ばわりも、あまりしませんから。


 怒鳴られた気がして、ぽかんとしていました。大きな音、嫌いなんですよ。すると、私を案じて、リーダーもまたクマの上から猫を被ります。


 似合わない愛嬌を振りまいて「信じてくれ、このオレの愛を!」ですよ。目はキラッキラ、くちびるはテロッテロ、ブチューって具合で。


 身の危険を感じました。負けじと元婚約者も目を潤ませて、どっちがハートを多く飛ばせるか競い合う始末です。


 どうやらリーダーは、婚約者がいる手前、私に好意を伝えるのを、全力で我慢していたようでした。それが、婚約者の裏切りを目の当たりにして「これでようやく、堂々と告白できる!」と、息巻いちゃったんですよ。


 ああ、これはダメだなと、諦めました。


 私はナニがふにゃふにゃ、それ以外ガチガチになりながら、「一人で考えさせて欲しい」とか「強引に引き留める人は嫌いだ」とか適当にあしらって、貞操からがら、酒場から逃げました。


 嫌いと言ったのが効いたのか、二人は恥も外聞もなく泣いて許しを請いましたが、お互いに非をなすりつけ合って、自分が一番私に相応しいと主張する面の皮の厚さがまた、心底嫌でした。


 もう知りませんよ、あんな人たち。その徒党に戻らなかったのは、言うまでもないでしょう。


 冒険者がそんな評判を落とすことをして、ただで済むとは思っていないみたいですね。ご明察です。ええ、まあ、この歳ですし、引退代わりに追い払ってくれたなら私も満足したんですが……。


 組合長にも先の騒動を自首したんですよ? ですが「君は何も心配するな」と、私の肩に手を置いて、妙に熱のこもった目で覗いてくるんです。組織の長が締まりのない顔でにやけちゃってまあ、お盛んな色ボケですよ。若い者にはまだまだ負けん! ったって、歳を考えろって。


 いやあ、必要な話とはいえ、思い出すだけで胸やけがします。


 念のため断っておきますが、私もリーダーも組合長も男色の趣向はありません。なのに、リーダーときたら、自分の婚約者を寝盗った唐変木に向かって、本気でプロポーズをしてきたんですよ。組合長に至っては年齢が離れすぎていますし、おしどり夫婦で有名な愛妻家だったはずなんです。


 信じられます? 聞いていた為人(ひととなり)が、実際に会ってみると全然違う。皆して口裏を合わせたように、私にベタ惚れするんですよ。もう、何を信じて良いやら。


 そう、そういう、人の意思を曲げてしまう、気色の悪い能力を授けられたのが、私なんです。

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