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【未完】漆黒をも照らす月明かりの下で前編

作者: アクル

バイアスロン大会で三位入賞して銅メダルをった喜びなんて浮かれた気持ちはそんな浮ついた気分などは横殴りの風にどこかに吹き飛ばされてしまったかのように微塵も残っていない。浮かれた気分のおかげか軽かった足取りも

俺の薄っぺらい胸に去来する程度の高揚感を冷ますには充分過ぎる寒い日だった。次第に寒さで動きが鈍くなったわけでもないのに気持ちが沈んでいくのに合わせるように足も重たくなる。勝手に巡る思考もどんどん沈んでいく、何で俺の父さんがクリミア半島なんてあんなちっぽけな土地をめぐる戦争で死ななきゃいけないんだよっ声に出すことない叫びはもしたとえ声にしていてもこの吹雪によって掻き消されていただろう。声に出さなかったことで胸を張り裂けんばかりに膨れ上がって行き場を失くして踏みしめる足取りを地面を踏み抜かんばかりに叩きつけるようなものに変えてなんとか気を逸らすしかなかったもう抱えきれなかったから。いつも歩いている道なのに横殴りの吹雪に曝され背中を丸めて歩いているとその道のりがやけに遠く感じる全然前に進んでいる実感が持てなかったから。

その姿勢だと自分の足元しか見れない前進している実感がない状態から脱するために意を決してしっかりと首元を覆っているマフラーを両手で抑えながら顔を上げる横殴りの吹雪に遮られて目指している我が家もシルエットしか分からない。シルエットしか見て取れないのに我が家だと確信が持てるのは生まれてこの方

ずっと暮らしてきた家だけある。肌が出ている顔は冷たいを通り越して痛いに近い感覚になっている。意を決して折角上げた顔だが、雪に阻まれるように重たい足取りと吹き付ける叩きつけるような強風に抗い続けるのが息苦しくなって何かに頭を押さえつけられるように項垂うなだれてしまう。目に映る物が再び雪に覆われた路と交互に視界に入り込んでくる爪先だけになる。爪先の交互の動きは間違いなく歩を進めているってことだってことを心の拠り所にして寒さにも横殴りの風にも耐えて歩を進める。

一面真っ白な平坦な雪原所々周りの雪に紛れて見分けにくいが丸い塊が点在している。何の拍子なのかは分か

らないが丸い塊からバっと同じ色の翼が広がる。おおぉ

あれ白鳥か雪のせいで、判別は全然つかないが俺の立っているこの場所から白鳥の所まで陸続きのように見えるが白鳥のいる辺りは沼だったはず秋までの記憶を辿って

なんとなく雪のなかった頃の景色を重ねるここでちょっと前まで魚釣りなんかをしてたってのが信じられないな。




この土地以外のことは全然知らない俺達が暮らしている此処はロシアって国で首都はモスクワって言うらしいけどそんなのはニュースとかの映像でしか見たことない世界地図なんかを広げて見てみると凄く大きな国に棲んでいるんだなとは思うけどそんな広さを実感したことはなかった。何でこんなに広い国なのにクリミア半島なんて狭い場所をめぐって戦争なんかしなければならなかったんだろう疑問に思いつつやり切れない悔しい思いに駆られる。そこにロシア人がとり残されていたからそれを救い出す為に必要な戦いだったと大統領にテレビ越しに説明されてしまえば、そういうものなんだと不満や疑問を発散させるすべがないからこそ大統領みたいな偉い人が言うなら仕方ないと鬱屈した思いに蓋をするしかなかった。大統領が言っていたからという大義名分は非常に強力な心の蓋の父さんを思い出すようなことでもなければ、決して開かれることのない封になった。




この土地以外のことは全然知らない俺達が暮らしている此処はロシアって国で首都はモスクワって言うらしいけどそんなのニュースとかの映像でしか見たことない、世界地図なんかを広げて見てみると凄く大きな国に棲んでいるんだなとは思うけど普通に暮らしているだけではそんな広さを実感したことはなかった。何でこんなに広い国なのにクリミア半島なんてあんなに狭い場所をめぐって戦争なんかしなければならなかったんだろう疑問に思いつつ悔しい思いに駆られる。寒くて寒くて仕方ないからとりとめもないことを考え続けていないと歩くのが嫌になってしまう

帰宅して早々にバイアスロン大会で三位入賞した証として授与された銅メダルを見せた時、満面の笑顔で「凄いじゃない」と出迎えてくれた直後、母は一瞬顔をしかめて渋い表情のまま「血は争えないねぇ」渋い表情のまま浮かない声色で言われる得意気に掲げた赤銅色をしたメダルの色がどんどん色褪せていく気がして無価値なものな気がしてしまう。外の冷気を浴びている時はあんなに誇らしかったのに家の暖炉で温まった空気の中では輝きを失ってしまうものなのかもしれない。なんとなく家の中に置いておきたくなくて、捨てるなんて勿体なくてできないから再び玄関のドアを開けて外に出ていく。

「アレク、また出かけるのかい?もう遅いからやめときな。」「手紙が来てないか見て来るだけ。」郵便受けまで横殴りの雪荒ぶ中玄関脇にある郵便受けの前まで来ると、郵便受けの蓋を開けて郵便受けの中身を言い訳の為に確認すると、何も入っていない郵便受けに銅メダルを無造作に置く郵便受けの中に綺麗に収まらない首掛け用のリボンを乱雑に郵便受けの奥に突っ込んで叩きつけるように乱暴に郵便受けの蓋を閉める。ハクション。

大きなくしゃみをして全身を凍てつく凍えるような風雪を晒されていることを激情から我に返って思い出す。ガタガタと震える全身を自分で抱きすくめるように両手を胸の前で交差して両肩を掴む小走りで玄関を開けて転がり込むように中に入る。扉一枚隔てただけでウソのように暖かい家の空気に人心地ついたところでホッと丸い安堵の息が漏れる。そのまま自分の部屋に向かわず一番落ち着ける屋根裏部屋を目指す。自分の一生懸命頑張った成果をお母さんが認めてくれなかったという事実の鬱憤をどこかで晴らさなければならない。それが出来そうなのは一番落ち着く屋根裏部屋しかない鼻息荒く荒々しい足取りで普段以上に足音を響かせ床を踏み抜かんばかりにドタドタと大きな足音をたてて屋根裏部屋に向かう。

【→本の山を崩して切手のファイルを見つけて母親に何なのか訊きに行くシーンへ屋根裏部屋で切手ファイルを

お父さんがいる友達とかを見る度に逃げ出したくなる気持ちに最も応えてくれる場所が屋根裏部屋だったのだと思う。そこには沢山の本が山積みになっていて気になった背表紙の本を何冊か抜いていたら、ジェンガが倒壊するように高く積まれていた本が一面に広がってしまい、

既製品のようにちゃんとした表紙もなく只のファイルが紛れていることに気付いてそれを手に取って開いてみる

女性の凛々しい顔が描かれた一点の切手が収まっているだけだった。



【屋根裏部屋から台所へ】

屋一冊、一冊慎重に崩壊させないように引き抜いて読める本を増やしていった。それを繰り返したことで足の踏み場もないほど本で床一面散らかる事態になった。

散らばった本の数々の下敷きになっている木製のケースが本と本の隙間から覗いている。それを目にしたことでこの

ケースを持ち帰ることになった経緯いきさつを思い返すことになった。

一ヶ月前のこと11歳の頃クリミア併合に動き出したロシア軍に従軍した俺の父親は戦死した。一年の間をおいて柩で戻ってきた父親を土葬する列に並んで泣きじゃくっていたら知り合いの近所のお兄ちゃんが俺達の国の為に戦ってきてくれたんだ、「泣いてばかりいないでありがとうって迎えよう。」そう慰められたが、「お父さんともっと一緒にいたかった。国の為に死んじゃうより俺ともっと遊んでほしかった。いなくなっちゃ意味ないじゃん。一緒にい続ける方がずっと良い。お父さんが国の為に死んじゃったというなら、その国がお父さんを返してよ。」泣きじゃくる俺を前にお兄ちゃんは困った顔で苦笑いするだけだったけど。

「君がアレクセイ君かな?」唐突に遥か上空から降ってくるような声に振り仰ぐ。厳めしい顔をした首や腕も足も太い男の人が立っていた。見上げて、反射的に逃げ出したくなる畏れを抱くけどうんそうだよ、と頷いて見せると、くしゃっと破顔してその目尻がこれでもかと下がった表情はそれまでの厳めしい表情との落差が非常にあって一瞬で心を許してしまう。

「そうか、会えて良かったお父さんから預かっていて君に渡したい物があるんだ。」「少し連いてきてもらっていいかな?」「ダメッ

お母さんに知らない人に連いてっちゃ駄目って言われているから行けないよ。」「お母さんの言いつけを守れるなんて偉いな。」俺の前でしゃがんで俺の髪の毛をグシャグシャにかき混ぜるようにゴツゴツした大きな手で頭を撫でてくれる。頭を撫でてくれていた手をクロのジャケットの胸の内ポケットに入れて。一枚の写真を取り出して俺に見せてくる揃いの戦闘服に身に包んだ五人の人が並んで立っている。左端で肩を組んで移っているのは目の前のおじさんとお父さんだ、「これでおじさんがアレクセイ君の知らない人じゃないって分かってもらえるかな?」「お父さんだ」思わず伸ばした手をすり抜けるようにおじさんのジャケットのジャケットの内ポケットにしまわれる。お父さんの生きていた時の姿を見たことでこみあげてくるものがあってグイッと袖で閉じた目を乱暴に拭ってこれ以上泣き姿を晒したくなかったのでクイッと空を見上げた。そこには底抜けの青空が広がっていて。よりにもよってこんなに晴れ渡った青空じゃなくていいじゃないか父さんの葬式なんだぞ祝っているみたいじゃないかっくそっ悪態を込めて空を睨み返せばこみ上がってくるものを追い返すことが出来た。「駐車場にだけ連いてきてもらっていいかな?車のトランクに渡したいものが入っているんだ。」おじさんの後に連いていくと少々錆が浮いている白い車のトランクの前に来ていた。おじさんがトランクを上に開け放ち、中から木の箱を取り出す。「アレクセイ君にはちょっと重いかな。」箱を俺の目の高さまで持ったまま下げて上蓋を開けて中身を見せてくれる。木箱の中は紐状のものが敷き詰められた所に金属製と木製の部品がバラバラになった状態出収まっているものだった。「おじさんこれ何?」「アレクセイ君のお父さんが使っていた狙撃銃だよ、なんでもアレクセイ君のお祖母ばあさんから受け継いだものだそうだよ。」木箱にしつらえられている革製のベルトで背負しょわせてくれる。

ズシッ来る重さが俺の両肩にかかる食い込む痛みを覚えるが父親から預かった物だと言われては、放り出すわけにはいかずに、そのまま背負しょって帰ることを歯を食いしばって心に決める。



俺の子供の頃は他の友達達が『コサックと泥棒』をしようって誘い合っている中で、さっさと帰ったりして本を世でいるのが好きな子供だった。特にイジメられたということもなく独りで過ごすのが好きだったのだ。

一人きりで集中するのが幼い頃から苦手じゃなかったどちらかというと好きだった。あまりに部屋でじっとしていて母親に「あんたがいなくなったかと思ったわよガハハハッ」と言われたことは一度や二度じゃない。こういった俺の癖みたいなものが今の狙撃手という役割はお誂え向きなんだろう。

「何でこの切手一点だけこのファイルに収納されているの?滅茶苦茶値打ち物だったりするの?」「値打ち物かどうかは母さんには分からないけど、知っている人間がきってになっていたから遺して(とって)おきたいと思ったんじゃないかい?」「スネーグラーチカってこの切手みたいな女性ひとなのかな?」何でそう思うんだい?」「ジェド・マロースの孫娘なんでしょ?お祭りで見たスネーグラーチカにそっくり」「どうだろうね。スネーグラーチカはこうだって決まった姿である必要はないからね」「ジェド・マロースだってロシアの国以外だと青い服じゃなくて赤い服になるだろう。」幾ら本を読み漁ってみても。スネーグラーチカの容姿を明言しているものはなかった三月に催されたマースレニツァというお祭りで本の挿絵でしか見たことのなかったスネーグラーチカの姿を見た時の衝撃を忘れられない。冬の間は見ることの叶わない澄み渡った青空のような空色の裾などにファーをあしらった上着のフードから零れるブロンドの三つ編みが似合う凛々しく美しい女性ひとだった、屋根裏部屋で見つけた切手の女性リュドミラ・パブリチェンコと重なった。スネーグラーチカの姿がないかと散乱した本を漁り続けた、。そんなものは屋根裏部屋にうずたかく。積まれた本の中にはなかった学校の図書室の本も読み漁ったがスネーグラーチカの姿をはっきり明示している資料は何処にもなかった。リュドミラ・パブリチェンコの切手だけがスネーグラーチカの面影が感じられるものだった切手を一点だけ入れておけるお手製の切手入れを常に首から下げることにした。スネーグラーチカが傍にいてくれると思えるだけで途方もない安心感に包まれ、いくらでも力が湧いてくる気がしたんだ。スネーグラーチカを心の拠り所にしているなんて男らしくないと思ってしまって誰にも明かせないでいた。

「あんた本当に屋根裏部屋が好きなんだねぇ。そんなものまで引っ張り出してくるなんてそんなにスネーグラーチカのことが何から何まで知りたいくらいにが好きなのかい?」「なんでそう思うの?」母親にネーグラーチカが好きなことがばれていることが恥ずかしくて咄嗟に誤魔化すように愚にもつかない質問を返してしまう「なんでってあの本だけ屋根裏部屋から持ち出して自分の部屋に持って行っているだろう。」「そんなことより」「この切手の人は誰なの?」スネーグラーチカに男のくせに憧れていることが恥ずかしいことだと思い込んでいた俺は切手の収まっているファイルを母親の鼻先に背伸びして近づけて母親のお喋りを遮るように質問を投げかける。

「あぁそれはリュドミラパヴリチェンコだよ、我がロシアをドイツの侵攻から守ってくれた英雄の女性だよ。だよ。」「女の人なのに?」「救国の英雄になるって事に女とか男とか関係ないだろう、大事なのはその人が何をしたかなんじゃないかと母さんは思うよ。」諭すように

調理の手を止めて俺の頭の上に手を置きながらゆっくりかたりかけてくる。


母親がよく作ってくれていたボルシチの匂いが漂う中でのこと。[







アンディが俺のズボンの弛みを親指と人差し指で摘まんで、クイクイと引っ張って自分に注意を向ける手法は俺も子供の頃母親のスカートとエプロンとでやっていたななんて思い返すとアンディが堪らなく愛しく思え、その柔らかい金髪を優しく撫でる。母親と離れ離れの時間があったことを思い出すと寝入りそうなアンディを起こしてしまわぬようにそっと抱きかかえてやっと再開できた母親の下に連れていく。母親にアンディを渡そうとしてアンディの両脇の下に掌を差し込んで母親に手を伸ばし渡そうとしたところでグイッと服の裾を引っ張られる。アンディの左手をがっしり裾を掴んでいる。アンディの手を外すことを諦めてアンディの母親の脇に腰を下す胡坐をかいて、その両膝の中に収まるように仰向けに体を横たえてやる。頭母親の腿に乗るようにする。アンディをずっと俺が背負って徒歩で移動してしまったから、母親はアンディに殆ど触れることは叶わずじまいだったから、その時間を取り戻すようにアンディのおでこを愛おしげに撫でている。「フンッこんなに頼られている人間がいなくなったらのガキがどうなると思っておるのだ、阿呆なのか。」「自ら命を絶とうなんて莫迦なことを考える阿呆の考える事が小生に分かるわけがない、分りたくもないしなっ。こんなに強く自分の事を求めてくれる奴がいながらそういう気持ちを抱けるのか小生にはさっぱり理解出来ん。」「ショーセイ、それにはジブンも同感死ねない理由としては十分過ぎると思えるからね。」

似つかわしくない大鎌を右肩に担いでいる異様に長い黒髪した少年が黒猫が発した可愛らしい声にあまりそぐわない発言に追従する。「ショーセイってってジブンには辛辣なんだのって個言ってくるけどショーセイこそ発言が辛辣なんだよね。」「誰か一人でも死んでほしくないって思ってくれる人がいるなら死んじゃいけない理由としては充分なんじゃない?」


「姿も音もない死神なんて呼ばれているらしいよ。」


自ら命を絶とうなんてくわだてているような奴と同じ呼び名で呼ばれるのは極めて不服だ。「俺だって好きでそう呼ばれているわけじゃない、相手からそんな風に呼ばれているなんて今初めて知ったよ。そんな言い掛かりをつけられても俺にはどうすることも出来ないよ。」


「お前ら何処から湧いて現れやがった?」「ジブン達は人非あらざる者人知を超えた移動手段を持っていてもおかしくはじゃないんじゃない?」


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「何で戦場にされた地域に住んでいたからって他の国に住んでいる人達より私達の命が軽く扱われないといけないの?」「私達が望んで始まった戦争じゃないのにっ。」「当然だけどこの戦争で死んじゃった人にも大切な家族もいて大切に思う人もいたのに。私のお父さんも私にとって大切な大切なお父さんだったの。」

「この戦争に私からお父さんを奪うほどの価値って何なのか教えてよっ」アナスタシアさんのお姉さんっていう女性ひとの叫びが私の耳朶じだを打ってこびりついて離れなくなってしまう。


アナスタシアさんは力強く訴えかける「幾らイスラエルが病院の地下に軍事施設があった何て証拠を提示したところで、病院を空爆して民間人を巻き添えにしたことを正当化出来るものじゃないと思う。」「ロシア兵がウクライナでやったことよりは幾らかマシなのかもしれないけど、亡くなってる人がいる以上惨劇なことには変わりないから比較することには意味なんてないっ」



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私はあまり弾いたことのない曲調に多少苦労しながら譜面通り弾き切ることに全神経を注いでいたのに隣で歌う女性に圧倒され聞き惚れていた。声量が大きいのに高らかというより物悲しく聞こえるのは慟哭のような響きがあるからなのかもしれない。。









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つばくんだ能力があると学校生活を送る中、俺にずば抜けた身体能力など賢さもないことも理解できてしまう凡人でしかないことを同年代の子供達との共同生活で思い知っていくことになる。それで降って湧いたような射撃の腕にしがみ付きたくなった。

祖国を守る為とかそういったことは所詮後付けだ。俺が大成出来そうな道を選んだだけだ。他のことよりも人一倍努力しなくても物になりそうだったからそんな打算はなかったと信じたい。












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お父さんがいる友達とかを見る度に逃げ出したくなる気持ちに最も応えてくれる場所が屋根裏部屋だったのだと思う。そこには沢山の本が山積みになっていて気になった背表紙の本を何冊か抜いていたら、ジェンガが倒壊するように高く積まれていた本が一面に広がってしまい、

既製品のようにちゃんとした表紙もなく只のファイルが紛れていることに気付いてそれを手に取って開いてみる

女性の凛々しい顔が描かれた一点の切手が収まっているだけだった。

散らばった本の数々の下敷きになっている木製のケースが本と本の隙間から覗いている。それを目にしたことでこの

ケースを持ち帰ることになった経緯いきさつを思い返すことになった。

【父親の葬儀】

12歳の頃クリミア併合に動き出したロシア軍に従軍した俺の父親は戦死した。柩で戻ってきた父親を迎える列に並んで泣きじゃくっていたら知り合いの近所のお兄ちゃんが俺達の国の為に戦ってきてくれたんだ、「泣いてばかりいないでありがとうって迎えよう。」そう慰められたが、「お父さんともっと一緒にいたかった。国の為に死んじゃうより俺ともっと遊んでほしかった。いなくなっちゃ意味ないじゃん。一緒にい続ける方がずっと良い。お父さんが国の為に死んじゃったというなら、その国がお父さんを返してよ。」泣きじゃくる俺を前にお兄ちゃんは困った顔で苦笑いするだけだったけど。

「君がアレクセイ君かな?」唐突に遥か上空から降ってくるような声に振り仰ぐ。厳めしい顔をした首や腕も足も太い男の人が立っていた。見上げて、反射的に逃げ出したくなる畏れを抱くけどうんそうだよ、と頷いて見せると、くしゃっと破顔してその目尻がこれでもかと下がった表情はそれまでの厳めしい表情との落差が非常にあって一瞬で心を許してしまう。

「そうか、会えて良かったお父さんから預かっていて君に渡したい物があるんだ。」「少し連いてきてもらっていいかな?」「ダメッ

お母さんに知らない人に連いてっちゃ駄目って言われているから行けないよ。」「お母さんの言いつけを守れるなんて偉いな。」俺の前でしゃがんで俺の髪の毛をグシャグシャにかき混ぜるようにゴツゴツした大きな手で頭を撫でてくれる。頭を撫でてくれていた手をクロのジャケットの胸の内ポケットに入れて。一枚の写真を取り出して俺に見せてくる揃いの戦闘服に身に包んだ五人の人が並んで立っている。左端で肩を組んで移っているのは目の前のおじさんとお父さんだ、「これでおじさんがアレクセイ君の知らない人じゃないって分かってもらえるかな?」「お父さんだ」思わず伸ばした手をすり抜けるようにおじさんのジャケットのジャケットの内ポケットにしまわれる。お父さんの生きていた時の姿を見たことでこみあげてくるものがあってグイッと袖で閉じた目を乱暴に拭ってこれ以上泣き姿を晒したくなかったのでクイッと空を見上げた。そこには底抜けの青空が広がっていて。よりにもよってこんなに晴れ渡った青空じゃなくていいじゃないか父さんの葬式なんだぞ祝っているみたいじゃないかっくそっ悪態を込めて空を睨み返せばこみ上がってくるものを追い返すことが出来た。「駐車場にだけ連いてきてもらっていいかな?車のトランクに渡したいものが入っているんだ。」おじさんの後に連いていくと少々錆が浮いている白い車のトランクの前に来ていた。おじさんがトランクを上に開け放ち、中から木の箱を取り出す。「アレクセイ君にはちょっと重いかな。」箱を俺の目の高さまで持ったまま下げて上蓋を開けて中身を見せてくれる。木箱の中は紐状のものが敷き詰められた所に金属製と木製の部品がバラバラになった状態出収まっているものだった。「おじさんこれ何?」「アレクセイ君のお父さんが使っていた狙撃銃だよ、なんでもアレクセイ君のお祖母ばあさんから受け継いだものだそうだよ。」木箱にしつらえられている革製のベルトで背負しょわせてくれる。

ズシッ来る重さが俺の両肩にかかる食い込む痛みを覚えるが

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なんだよっ一生懸命頑張ったのにもっと褒めてくれたりしてもいいじゃないか不貞腐れて母親の顔も見たくないと思って二階への階段を駆け上がる。登り切った目の前の壁に立て掛けるように設置された梯子に駆け上って北勢いのままに飛びつく、慣れ親しんだ梯子だ多少乱暴な遣い方しても怪我などするの怖さなんて微塵もない。この梯子の昇り降りで足がかりの横棒を目視で確認したことなど殆どないほぼ無意識の動作だ屋根裏部屋に上がる瞬間だけは、を屋根裏部屋の床に足をかけて梯子から屋根裏部屋に移る際は、梯子と屋根裏部屋の床戸の隙間から階下がどうしても目に入ってしまうから毎度毎度軽い恐怖心を覚えるからこの動作だけは無意識というわけにはいかなかった。梯子の両測木は屋根裏部屋の床より12歳当時の俺の胸の高さくらいまで突き出ていた。

















リュドミラ

パヴリチェンコ

ものごころ着いた頃の記憶を辿るとにかいに二階に上がった階段の突き当りの壁に立てかけるように設えてある梯子を登った先の納戸を兼ねた屋根裏部屋が俺のお気に入りの場所だった。

母親に掃除してないから埃っぽいから行くのやめなさいと注意されてもお構いなしで梯子を登って乱雑に積み上げられた本などを抜いて読み耽っていた。幸いドーマー窓のおかげで陽の光を取り込めたから。本を読むことに差し支えることはなかった。誰がこんなに本を集めたのだろうとは不思議に思いもしたが勝手に屋根裏部屋に行ったことを??られるのが怖くて聞けずじまいだったスネーグラーチカの童話を読んだのはこの屋根裏部屋であったし、同じような面白い本がないかと積み上がった本の山、高層ビルを幾つか並べたように積み上げた本の数々。








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