09 クズよりも書
※この作品はフィクションです。作中の考え・思想はあくまでも登場人物のものであり、作者の意見ではありません。作中に暴力的な表現がありますが、犯罪行為、暴力行為を助長する意図はありません。暴力も犯罪も絶対にしてはいけない行為です。また、作中に出ている危険行為は絶対に真似しないでください。
午前の授業が終わり、お昼休み。私はクズパイセンと一緒にご飯を食べている。
「クズパイセンはどうなんすか、最近。クラスに馴染めてます?」
「馴染めねーよ!」
クズパイセンは眉を吊り上げた。
「え?何でっすか?クズパイセン、イケメンなのにー」
「お前、すっげー腹立つな。やっぱり。」
「いやいや、そこは、『お前のせいだよ!』ってツッコむところでしょう」
「あ?」
「あ、そのトマトいらないんですよね。ください」
私はクズパイセンのサラダの上に乗っかっているミニトマトを箸でつまんだ。
「あ!」
「え?嫌いですよね、トマト」
「まあ、いいけどよ。いいよっていってから食え」
「はーい」
私は手を挙げて子供のように返事をした。
「うそくせえ」
私とクズパイセンが会話をしていると、クズパイセンのとなりに座っているアヤカさんが少し不機嫌になった。クズパイセンと幼馴染のアヤカさんはバンジーをした後の先輩と仲良くしている唯一の存在である。昔からクズパイセンのことが好きだったらしい。クズパイセンが成瀬先輩にいじめ行為を繰り返していた時、それとなく成瀬先輩から注意をそらしたり、それとなく成瀬先輩のいじめ行為を短くしたり、していた人で私は嫌いではない。アヤカさんはクズパイセンをバンジーさせた私が嫌いで、前クズパイセンにあんなことされたのにどうして仲良くできるの?と聞いていたのを聞いたことがある。
「あ、アヤカさんが食べるんだったんですか?どうぞ」
私はアヤカさんにあーんとミニトマトを近づけた。
「いらないわよ!」
アヤカさんがフンとそっぽを向く。あらら、美女にあーんできると思ったのに残念。
アヤカさんじゃないが、確かに、何でクズパイセンは私を時々お昼に誘うのだろうか。マゾなのか?バンジーに嵌まったのか?
「クズパイセンってマゾなんですか?」
「はあ!?」
クズ先輩は大きくむせこんだ。アヤカさんが私をきーっとにらみつけてクズパイセンの背中をさする。
「マゾなんですね」
「くそ黒川!このっ」
クズパイセンが私の頭をグリグリと拳で小突く。
「わー、いたいいたい。ごめんなさい。ごめんなさい」
「心がこもってない!」
クズパイセンはバンジーをした後、吹っ切れたような顔をしていたので、あまり私のことを恨んではいないのかもしれない。
クズパイセンをいつも通りおちょくったあと、私はアヤカさんのために早めに退散することにした。
「じゃ、もう食べ終わったんで私はこれで」
「おう。またな」
教室に戻る途中、イリヤ君を見かけると彼は私と目があったとたんに「ざぁっーーす」という体育会系特有の挨拶をしてきたので、会釈しておいた。
放課後。私は書道部に立ち寄っていた。成瀬先輩の顔を見に来たのだ。成瀬先輩は真面目メガネ先輩こと五十嵐忠臣部長の後を継いで書道部部長になった。成瀬先輩の書く文字はまさに流麗。流れるような筆さばき、シンプルながらも特徴的な線。基本に実直だが、流れる川のような美しさがある。実力は部内一。気配りのできる優しい性格で彼女ほど部長にふさわしい人間はいない。
「成瀬先輩」
墨をすっていた先輩に声をかけると、振り返るなりぱあぁっと口角が上がった。
「あ、黒川さん!」
ニコニコしながら立ち上がってくれる。
「遊びにきました」
私は少し照れくさくて頬を掻いた。
「遊びに来ただなんて…遠慮せず書いて行ってね」
成瀬先輩は道具一式を私に渡した。
「はい。部長」
そのあとは静かに書いていた。墨をすって紙に筆で文字を書く。墨と紙のにおい。黙々と字を書いていると心が凪いでいく。学校にいる間で一番集中する時間だ。
あっという間に日が暮れて、私はその日の一番を乾かすために天井から吊った。この部室の天井には麻ひもが何本も張ってあって、そこから作品をつるして乾かすのだ。