04 いじめっ子にはバンジーをさせよ
※この作品はフィクションです。作中の考え・思想はあくまでも登場人物のものであり、作者の意見ではありません。作中に暴力的な表現がありますが、犯罪行為、暴力行為を助長する意図はありません。暴力も犯罪も絶対にしてはいけない行為です。また、作中に出ている危険行為は絶対に真似しないでください。
今日は部活の日だ。書道部ではなく漫画アニメ研究会の日。そう。私は兼部しているのです。こんな金持ち高校にもオタクというのは一定数存在するのだ。
我らの部室は部室棟の三階の端っこである。元茶道部の部室なので名残で今も畳が引いてある。今の茶道部はもっと広いところに引っ越している。
「こんちは」
と私がドアを開けても彼らは顔を上げない。返事もない。いつものことである。ただひたすらに漫画を読む者。アニメを見る者。批評を書く者。漫画を描く者。イラストを描く者。脚本を書く者。アニメーションを作る者。様々だが、皆異様な熱気を放っていることだけは共通している。このうちの何名かは家でのサブカルを禁じられた悲しき者たちで、それゆえに部活でしかオタク活動を行えない。彼らにとってこの時間は一分たりとも、いいや、一秒たりとも無駄にはできないのだ。
「今期、どう?私はやっぱり――」
などど、アニメの話題を振ると一斉に私のほうを向いた。アレは作画が神。アレは設定はいいけどストーリーが―。OPはあれが一番。あれは演出がかっこいいけど―。なんて具合に各々の評価を話し始める。ひとしきり話した後、来期のアニメの期待度の話になりそれも落ち着くとみんな自分の作業に戻っていった。
私は部室にあるおススメコーナーから二、三冊漫画を選び読むことにした。おススメコーナーは部員が布教したい漫画やアニメDVD、小説などをおく場所である。ここの本は部室の外への持ち出しを禁じているので今読むしかない。先日私が置いたミステリー小説は畳の上に寝っ転がっている部長が読んでいた。
「先輩。どうですか?」
「ああ。黒川くんか。この本、黒川君が持ってきたの?」
「はい。私のおすすめです。」
「なかなか面白いよ。」
「でしょう」
私は部長の近くに座り漫画を読み始めた。
しばらくして一冊読み終わったので、またみんなに話しかけることにした。
「そういえばさ。この前、不良見かけたんだけど、最初はがん飛ばしてきたんだけど名乗った瞬間震え上がっちゃったんだよね。なんでだろ」
部長はちらりと私のほうを見たがすぐに小説に戻った。
ややあって、漫画を描いていたコマチ先生が私に言った。
「そりゃあ、君の悪評は有名だからねえ」
コマチ先生は二次創作を主に描いている。
「悪評?こんなに可憐な私が?」
「それ冗談だよね。自分の胸に手を当ててごらんよ。去年どれだけトラブルを起こしたか」
私は素直に胸に手を当てて考えてみることにした。
「うーん。バンジーはやりすぎだったか」
「バンジーはやりすぎだったね」
私とコマチ先生は顔を見合わせ、はははとから笑いした。
「いじめっ子宙づり事件?」
「そう。それが黒川さんが一部の生徒に恐れられている理由」
私は生徒会室にいた。黒川先輩は昨日言っていた通り、生徒会をお休みしていたので今日は長谷部先輩に見てもらっている。
生徒会に寄せられた意見の仕分けをしながら、私たちは話をしていた。
話題は黒川先輩のことになり、私はクラスの不真面目な男子が黒川さんのおかげで授業に出席するようになったことを話した。私は今までさんざん注意してもその男子が授業に来ることはなかったのに黒川さんがどうやって説得したのか不思議だと言うと長谷部先輩は黒川先輩が怖がられているからと教えてくれた。
「宙づりって何をしたんですか?」
「そのままだよ。いじめっ子を部室棟の三階から突き落として宙づりにしたんだ」
「え」
私は思わず絶句した。
そんなことして許されるの?いくら相手がいじめっ子だからって。
「僕は実際に見てないけど、ワンダーフォーゲル部から登山やロッククライミングに使われるロープとハーネスを借り、下には万が一のための大きなクッションが置いてあったみたいだよ。」
「は、はあ」
安全に考慮したからと言って許されることではないと思うのだけれど。
「なんでそんなことを――。いえ、何でその後許されたんですか?」
いじめっ子というからには黒川さんや黒川さんの友達がいじめを受け、それに耐えかねてのことだとは思うけれど、だからって宙づりなんて。
「その宙づりにされた人が大きな問題にしなかったからだね。もちろん学校側も」
「黒川先輩って外部生って聞きましたけど」
「ああ、うん。外部生だね。被害者は内部生だったけれど、黒川さんがうまく立ちまわったのか、被害者の家が外聞を憚ったのかは定かじゃないが、とにかくこの件に関して黒川さんは何のお咎めも受けなかった。」
「…どうかしてる」
会長に対するあの態度から変わった人だとは思っていたけれど、ここまでとは思わなかった。
私が唖然として言葉を失っていると、長谷部先輩はふっと噴き出すように笑った。
「確かに、どうかしてるね。でも、黒川さんのおかげで過ごしやすくなったんだよ」
「え?どうしてですか?」
「黒川さんは外部生なのに内部生にひどいことをしても何の処分もうけなかったから。今まで外部生や自分より格下だと思う家柄の内部生をいじめていた内部生たちが黒川さんを怖がっていじめをやめたんだよ。結果として内部生と外部生の関係がよくなった。今じゃ、家柄に優劣をつけて相手を格下に見るという生徒はほとんど見かけなくなったね。いじめっ子だった内部生たちも外部生と交流してみて自分がいかに浅はかだったを知ったみたいだね」
「そんなことがあったんですか」
黒川先輩への恐怖がいい方向に向かうなんて思いもよらなかった。
「あれ?でも、私たち一年は内部生との確執がありますよ」
「それはまだこの高校に入学したばかりだからだろうね。そのうち先輩から黒川さんの噂が広がって、嫌がらせも減っていくと思うよ」
「なるほど。」
そういえば、会長には全然影響していないみたい。会長は長谷部先輩が言ったほとんどに当てはまらなかった人間なのかな。
清水さんはすぐに書記の仕事に慣れた。慣れてくると余裕ができたのかだんだんバ会長とバトルすることが増えて言った。
こっちは喧嘩を仲裁するのに必死である。バ会長は私が来ると少しおとなしくなるから良いのだが、清水さんは正義は我にあり!とばかりにかましてくるので厄介だ。清水さんはその正義感で会長を改心させたいみたいだ。まあ、あきらめてのらりくらりとかわすようになっては主人公っぽくないので彼女には頑張ってほしい。
副会長はにこにこ笑っているばかりで止めてくれないので、この件に関しては役立たず。
そういえば、この前から清水さんの私に対する態度が変わったような…。ま、いっか。今が良ければすべてよし。私は刹那的な人間なのだ。