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03 賑やかな生徒会室

※この作品はフィクションです。作中の考え・思想はあくまでも登場人物のものであり、作者の意見ではありません。作中に暴力的な表現がありますが、犯罪行為、暴力行為を助長する意図はありません。暴力も犯罪も絶対にしてはいけない行為です。また、作中に出ている危険行為は絶対に真似しないでください。



 昼休み。関沢さんと一緒にお昼を食べようとするも、幼馴染君に先を越されてしまう。彼は関沢さんと同じ音楽選択なのでその時に約束を取り付けたのだろう。関沢さんはみんなで食べようと言ってくれたが、明らかに嫌そうな顔をされたのでおとなしく引き下がった。

 食堂が混んでいて席がなかったので今日の日替わり定食を持ってそのまま外に出た。食堂の外に出ても別に怒られない。天気がいい日はよく中庭で食べてるのを見かける。

 お気に入りの場所に行くと先客がいた。髪を脱色して制服を着崩している。いかにもな不良だ。彼は地べたに座り購買で買ったパンを片手にスマホをいじっている。

椅子があるから座ればいいのにと思いつつ、彼とは一番離れた椅子に座った。

「あ?なんだ、お前」

 何が気に入らないのか、彼を素通りして座ったとたんにヤンキーがすごんでくるが何の怖さも感じないのは彼が食べているのがパン・オ・ショコラだからだろうか。ここは腐ってもお金持ち高校。購買で売っているパンも一味違う。そっと彼のそばに置いてある紙袋を覗き見るとクイニーアマンが入っていた。甘い系が好きなのかも。それともデニッシュ生地好きなのかも。とにかくしょっぱいもの食べたくなりそう。

「おい。しかとするなんていい度胸じゃねえか!」

 彼は私にがんをつけてくる。正直、どうでもいいので空腹に従いチキン南蛮をかじった。

「お前、舐めてんじゃねえぞ、コラぁ!」

 このチキン南蛮うまっ!カラッと上がった衣に甘酢だれとタルタルソース、かじると肉汁がジュワッと広がり、噛むたびに感じる程よい弾力とうまみ。ここに白米を放りこむと、さながら楽園である。

「おい、聞いてんのかこのアマっ!!」

 不良君はテーブルをドンとたたいた。

「ちょっと、ご飯食べてるんだからさ。もうちょっと―――ん?今君このアマって言った?」

「それがどうかしたかよ!」

 私が返事をしたためか、彼はさらに勢いづいて距離を詰めてきた。

「君は見かけよりいい子みたいだね。ありがとう」

 私は彼の手を無理やりつかみ握手をした。この子、スラックスショートヘアVer.の私を見かけだけで女だと判断してくれたわ!声もまだ出してなかったのに!初見なのに!

「はあ?なんだよお前。ちょ、お前、手ぇ放せよ!おい!」

 私は彼の手をブンブンと振る。彼は握手から逃れようと必死である。

「ちょ、待て、おま、握力どーなってんだっ」

 ブンブン。

「チキン南蛮一口食べる?甘いものばっかだとしょっぱいもの欲しくなるでしょ」

 ブンブンブン。

「いらねーよ!手!手ぇ離せよ!」

 ブンブンブンブン。

「じゃあ、牛乳買ってこよっか?牛乳。パンに合うよね。行く?一緒に買いに行く?」

 ブンブンブンブンブン。

「やめ、やめて。行かない。行かないって…!」

 手をつないだまま彼を連れて購買の方向に歩き始める。

「じゃあ、何でも飲み物買ってあげるよ!」

 私は比較的大股歩きなので、不良君を引きずりながらぐんぐん進んでいく。

「やめて、やめてくださっ、許してっ」

 彼がひどい目にでも合っているかのような声を出したので、手を離してあげた。

「す、すみませんでした!調子乗ってました!」

 土下座である。不良君が生徒会役員である超優等生の私に土下座している。私は別に怒っているわけじゃないのだが。

「いやあ、土下座されても…」

 正直困っている。もういいから、とか、わかったから立って、とか言ってみるも地面に額を擦りつけている。

「ほんとにやめて。えーと…何君?」

 彼は答えるためにようやく顔を上げた。

「入谷和親。一年っす」

「イリヤ君。怒ってないから大丈夫だよ。カームダウンカームダウン」

「は、はい。あの、そちらのお名前は?」

「あ、そっか。ごめんごめん。私は黒川叶。二年。」

 イリヤ君は私の名前を聞くなり、サーと顔を青くして勢いよく地面に頭をつけた。

「お、俺、黒川先輩だとは知らなくて、マジですんませんした!」

「もういいって!ほら!ご飯食べないと。休み時間終わっちゃうよ?ね?」

 なんとか立ち上がらせると、椅子に座らせ彼の手にパンを持たせた。

 その後、私は何故か恐縮している後輩の横で、冷めてしまったチキン南蛮を食べたのであった。

 そういえば、金持ち高校なのになんでテンプレみたいな不良いるんだろうな…。



 授業も終わり、放課後。私が生徒会室に行くとすでに強気系主人公清水さんが待っていた。

「こんにちは」

「こんにちは!」

 私の挨拶に元気よく返してくれる。悪い気はしない。さっそく書記の仕事について説明する。

「じゃあ、まず書記の仕事について。まずは、会議などの内容を記録すること。会議中はホワイトボードや黒板にみんなの意見をかいたり、ノートに記録したりね。あとは生徒会室にあるパソコンでプリント作ったり、次の会議のために資料を用意したり、意見箱にいれてくれた要望を整理したり。まあ、そんなに難しいことはないよ。もちろん書記も意見があれば発言していいから、気に入らないことがあったらじゃんじゃん意見してね。そのほか、イベントごとが近くなると仕事が増えます。先生も時々雑用を頼みに来るけど、忙しいときは無視していいから。今日は学祭について大まかに決めるミーティングがあるので、清水さんには板書を頼もうかな。ノートのほうは形式が決まっているから後でね。」

「はい!」

 清水さんは自分で用意したであろうメモ帳にカリカリと何かを書く。

 真面目な子だな。と、言いますか、昨日あんなに喧嘩腰だったのに一日で何が起こったの?もうちょっと反発されるかと思ったけど。

「は、来ていたのか。薄汚い野良犬め。野良犬同士群れるのはお似合いだな」

 バ会長だ。私たちの横を通り過ぎながら相変わらずのお言葉である。彼は生徒会室の奥のほうにある革張りの一人用ソファに座って優雅に足を組んだ。

「な!なんなの!いきなり!」

 清水さんが憤慨している。今にも飛び掛かりそうな勢いだったので、どうどうとなだめてみる。

「まあまあ。清水さん。いちいち反応してたら血圧上がって死んじゃうよ」

「だって、あの言い方!黒川さんは悔しくないんですか!」

「別に。」

「なんでですか!怒らないとだめですよ!こういうのは!慣れちゃダメです!」

「いやあ、だってさ。私より成績悪いのにあんなに大威張りなんだもん。スポーツだってスポーツ特待で入った野良犬に負けているわけだし。結局、あのバ会長が誇れるものは自分の家柄だけなんだよ。哀れじゃあないか。そう思わない?」

「……」

「え?なんか私おかしなこと言った?」

「黒川先輩って、性格悪いですね」

「ストレートだなぁ」

 私は清水さんからの尊敬を失いつつ、会議の準備を進めた。机を並べ、プリントを配布。議事録用ノートとホワイトボードの準備。

 そうしている間、バ会長は優雅に紅茶を飲みながら聞こえないふりにいそしんでいた。メイドさんがそっと目を伏せた。

 学祭の会議はつつがなく終わった。生徒会だけで特に新しく決めることはなかったので、大まかな流れの確認や各クラスの出し物、出店のための注意事項、保健所への申請について、ご近所さんへのお願いなど、去年もやったことについて、今年はどうするかを話し合った。

 ノートを書き終えた私は清水さんにノートの書き方を一通り教え、生徒会室のノーパソから去年の学祭の資料を清水さんにも共有した。清水さんのスマホが通知音を鳴らす。

さらに、去年のものを参考にしながら今日決定したことを参考にしてまとめておく。

そのあと、清水さんの席を決めた。ノーパソも使ってないものをセッティングする。

本来は初めにすべきだったかもしれない生徒会室の案内もした。給湯室の使い方とか。ここにある者は名前の書いてあるもの以外好きに飲み食いしていいというと驚いていた。置いてあるマグカップはみんなのだから使わないようにと一応言っておいた。さっそく清水さんに紙コップでお茶を淹れてあげると少し喜んでいた。

一息ついて。

「今日はここまでにしようか。共有した資料は目を通しといてね」

「はい!」

「それと明日は私いないから。何かあったら長谷部君に教えてもらってね」

 長谷部君のほうを見ると目が合った彼は任せろとばかりにうなずいてくれた。

「え?どうしてですか?」

 清水さんが首をかしげている。

「部活と掛け持ちしてるんだ。だから週に二回、部活にも顔を出してんの。」

「掛け持ち、できるんですか!?」

「うん。できるできる。だから清水さんもやりたい部活あったら入っていいんだよ。イベントで忙しくなってくると生徒会を優先しないとだけどね。ま、来週までは何とか大丈夫かな。それと部活してなくても生徒会休みたいときは休んでオッケーだから。当日でもグループチャットで教えてくれたらいいし。毎週同じ曜日に用事があるなら事前に知らせてくれてもいいし。ま、何でも連絡してくれれば大丈夫ってこと。」

「はい!わかりました!」

「返事がよろしい。…じゃ、私帰るから。お疲れ様」

 私はリュックを背負うと生徒会室から出た。玄関、には向かわずに階段を上がっていく。美術室に用があるのだ。

「たのもー!」

 ガラッと勢いよくドアを開ける。

 夕暮れをバックにささたんが一人残ってキャンバスに絵を描いていた。

「ささたん。一限ぶりー!元気―?」

「チっ」

 ささたん、渾身の舌打ちである。

「今年も学祭のポスター、ささたんに頼むことになったからよろしくね!」

「は?」

 激おこのささたんだ。でも、怒りながら手は止めない。

「たのむよー。お願い!この通り!」

 私はささたんを拝み倒す。ささたんにポスターを頼むのは去年から私の仕事だ。同じ授業を受けているとうっかり話してしまい、ならお前な、と決まってしまった。

「勝手に決めないでくれって去年も言ったよね」

 ささたんは私に目もくれず言った。

「うん。そうなんだけどさ。そうなんだけど、去年のポスターすっごく評判が良くて、もうささたん以外には考えられないっていうか。ささたん以外の人に頼むとその人がちょっとかわいそうに思えてくるほどなんだよ。だからさ。お願い!今年も。たぶん来年も。どうにか!お願いします!」

 そう。去年のポスターはかなり評判だった。新進気鋭の天才少年画家笹田エメリーが描いたという話題性と天才画家の名に恥じない美しく魅力あふれる絵。今もネットオークションで高値がつけられるほど人気なのだ。原画は学祭最終日に行われるチャリティーオークションで一千万まで値が吊り上がった。本人は不本意そうだったが。

 私はささたんの前で正座する。膝よりも少し前で手をつき頭を下げる。

「ちょっと。邪魔なんだけど」

 顔を上げるとささたんは水の入ったバケツを持っていた。どうやらシンクまでの直線状に私がいるらしい。さっと立ち上がりそのバケツを持つ。

「私が運びます!私、こう見えて腕力、ありますんで」

「おい!」

 私は颯爽と水をシンクに捨て新しい水に入れ替えた。ささたんの近く、バケツがあった位置に置く。

「どうぞ!ほかにもお手伝いすることがあれば何でもいたしますので!何なりとお申し付けください!」

 私はまた正座に戻った。

「……はあ。」

 ささたんは私を見てため息をついた。

「もしかして、やるっていうまで付きまとうつもり?」

「はい!」

 私はニッコリ笑って元気よく答えた。

 ささたんは椅子に座って、もう一度大きなため息をついた。

「お前につきまとまれるほうがめんどくさそうだな。」

「と、言うことはつまりやっていただけるので?」

「ああ。うん。そうだな。やってやるよ。」

「ありがとうございます!」

 私はささたんの足に縋りついた。

「うわっ!気持ち悪いな。離れろよ!」

「はい!すみません!」

 私はすぐに立ち上がった。

「では!これで失礼いたします!」

「待て!お前、何でもやるんだよな」

「はい!もちろんでございます。どのような屈辱も受ける覚悟です!」

「人聞きの悪いこと言うな。ただ、付き合ってほしい場所があるだけだ。日程は後で決めるから都合がいい日、連絡しとけよ」

「了解!じゃ、さいなら!」

 私は今度こそ玄関に向かった。ささたんの連絡先は去年から知っている。ささたんとは実は仲良しなのだ!あたりが強いけど。

 

 


 玄関を出て一キロもしないうちに寮につく。八階の自分の部屋に荷物を置いて一階の食堂で夕ご飯を食べた。金持ち学校だけあって寮のご飯も凝っていておいしい。栄養バランスも考えられているし、時々食べたことないようなフレンチやエスニック料理なんかも出してくれるから楽しい。食べ終わり、隣の購買でアイスをもらってから部屋に戻った。

 私の部屋は一人部屋なので大変快適である。テレビと小さい冷蔵庫と湯沸かしポッドもついている。Wi-Fiも飛んでるし、トイレもあるし。快適だ。ほぼホテル。お風呂は地下に共同大浴場と二階に個室になった広めのシャワールームがいくつかある。クリーニングもしてくれるし、他にも色んな設備が寮にはそろっている。

「アイスは風呂上り。今は我慢」

 私はアイスを冷凍室に入れてから部屋着に着替えた。制服はハンガーにかけて、お風呂用バックを準備した。クリーニングから戻ってきた服をクローゼットにしまう。

 さすがに食べてすぐお風呂はやめたほうが良いのかな。

 私はスマホを取り出して、ささたんに空いてる日をメールした。ささたんはみんなが使ってるチャットアプリを使っていない。使っているとわかれば、ID教えて攻撃に襲われることが明らかだからだ。

 意外にもすぐに返信が来てサクッと日にちも集合場所も決まった。

 駅前か。ささたん、どこに行きたいんだろ。一人で行けない場所ってことだよな。ま、その日になったらわかるからいっか。

 ぼんやりスマホをいじっていると生徒会グループチャットで清水さんとバ会長がやりあい始めた。

 よくやるわぁ。とその応酬を眺めた後、お風呂に入って勉強してアニメ見て寝た。


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