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21 カラオケは打ち上げで

※この作品はフィクションです。作中の考え・思想はあくまでも登場人物のものであり、作者の意見ではありません。作中に暴力的な表現がありますが、犯罪行為、暴力行為を助長する意図はありません。暴力も犯罪も絶対にしてはいけない行為です。また、作中に出ている危険行為は絶対に真似しないでください。



 本日ですべての科目のテストが終了いたしました!手ごたえありです!連日の血のにじむような努力のかいがありました。

「テスト、どうだった?叶ちゃん」

 関沢さんが帰りのSHRの前に聞いて来た。今、周りの耳がそばだてられたのがわかる。答えづらいがしょうがない。

「いつも通りだったよ」

 私は答えると、聞き耳を立てていたの肩が落ちる。すまん、皆。一人部屋は死守させてもらうよ。

「そっかぁ。あ、そうだ!今日午前で終わりだし、これから街に下りてテストの打ち上げしない?」

「いいね!行きたい!でも、大丈夫なの?関沢さん、お嬢様でしょ?」

 そう、関沢さんはお嬢様なのだ!大手服飾メーカーの社長令嬢。去年の誕生日とクリスマスに服をプレゼントしてくれた。着回しのしやすいシンプルなデザインの服は大変ありがたい。

「うん、大丈夫だよ。メール送れば、送り迎えもガードもしてくれるから」

 そういうものなのか。ささたんはボディガードもお車もなかったのに。やっぱり実家と折り合いが悪いのかな。

「そうなんだ。じゃあ、行こう行こう!」

 話がまとまり、関沢さんが家にメールを打つ。担任が入ってきてSHRが始まった。



 一度、寮に帰って着替えをすまし、外出届を出して正面玄関に行くと、関沢さんの他に男子二人がいた。

「友達ってお前か」

 そう不機嫌そうに言ったのは関沢さんの幼馴染であるサクくんである。私も驚いているよ。てっきり関沢さんと二人で遊ぶもんだと思っていたから。まさか二人も増えるなんて。

「よ、黒川」

 フランクに片手をあげてこちらに挨拶してきたのがサクくんのライバル、女嫌い君だ。他の女子には塩対応なのに私には何故か普通に話しかけてくる。私、女なんですけど…。

「関沢さん…?」

 あははと誤魔化すように笑っている関沢さんに目線を向ける。

 あなた、私をどうするつもり?自分に気がある男を二人侍らせて友達と遊びに行こうだなんて…昨今の金持ちは皆こんななのかしら。二股は金持ちにとっては当たり前だというの?

「えへへ。さっき二人からチャットきて流れで一緒に行くことに……ごめんね」

 関沢さんは小さく手を合わせる。私たちはロータリーまで男子そっちのけでこそこそ話をした。

「二股女」

「ちょっと!人聞きの悪いこと言わないでよ!」

「だって両方とも関沢さんに気があるってわかってるんでしょう?前に告白めいたことを言われたとか言ってなかった?まだ、返事してないの?」

「それは…!二人とも返事はしなくていいって言うんだもん。卒業式の日に答えを聞かせてくれって…」

「何だそりゃ……あ、わかった!それまでに俺のことを好きにさせてみせる、みたいなこと言われたんでしょ」

 関沢さんはぽっとと頬を染めた。図星かい。

「はぁーん、相変わらず少女漫画してるな。よっ、主人公」

「やめてよ!もう」

 お嬢様、と男性の声が聞こえた。関沢さんの家のドライバー兼ボディガードだ。

「田中さん。他のお仕事もあるのに来てくれてありがとう」

「いいえ、お嬢様。とんでもございません。実は私もお嬢様方とのドライブを楽しみにしていたのですよ。」

 田中さんは茶目っ気たっぷりにウィンクした。これが大人の余裕。さっきからにらみ合っているどこぞの男子たちにはないものだ。

「おや、お坊ちゃまがたもご一緒とは、どうなされますか?」

 どう、とはどの座席に座るのかということだろう。四人とも乗れるには乗れるが、後ろ三人前一人になってしまう。私は別に男子二人とは親しくないので、私が助手席ということになりそうだ。

「大丈夫です。俺の家の車も来ますから、俺たちはそっちに乗ります」

 幼馴染君が田中さんに言った。幼馴染君も連絡していたようだ。女嫌い君が嫌そうな顔をする。

「なんでお前と二人で乗らなきゃならないんだ」

「じゃあ、お前も迎えに来てもらえよ」

「俺はひなたの車に乗る」

「ダメに決まってるだろ」

 二人がごちゃごちゃ言っている間に幼馴染君の家の車が到着した。女性ドライバーだ。

「咲翔さま。」

「ああ、佐藤。ありがとう」

 幼馴染君は女嫌い君を半ば無理やり押し入れて自分も車に乗った。

「ひな、ひなの車について行くから」

「わかった。叶ちゃんもほら、乗って」

「よろしくお願いします。田中さん」

「はい。お任せください」

 本革張りの座席に感動しながら体をうずめる。これが高級車。公共交通機関とは違う。

「叶ちゃん」

「んー?」

「普通の女子高生って打ち上げにどこに行くのかな?」

「うーん。ファミレス、ファーストフード、カラオケとかじゃない?あとは今流行ってるスイーツのお店とか?正直、わかんないかも」

 残念ながら、私も友達と一緒にどこかに遊びに行くという経験に乏しい。悲しい。友達と遊んだ最後の記憶は小学生のとき公園でだった。中学では色々あって友達もほとんどいなかった。

「そっかー。あ。わたし、カラオケ行ってみたいかも!」

「良いんじゃない?打ち上げっぽいし」

「うん!田中さん。近くのカラオケにお願い」

「かしこまりました」

 田中さんがカーナビで目的地を設定しようやく車が動き出した。

「ね、叶ちゃん」

「なーに?」

「叶ちゃんは好きな人いないの?」

「いないけど、急にどうしたの?あの二人のことで相談事?」

「ううん。いっつも話聞いてもらってばっかりだから、叶ちゃんの話も聞きたいなって…恋バナしたいなって」

「コイバナかぁ」

「叶ちゃんって少女漫画好きでしょ?恋に憧れたりしないの?」

「それとこれとは話が別だよ。だって少女漫画に出てくるイケメンたちが現実にいても別にキュンキュンしないでしょ」

 俺様生徒会長とか腹黒副会長とか。癖の強いイケメンは私の周りにありふれているが、まったくと言っていいほどときめかない。二次元は二次元だから良いのだと、身をもって知った。

「えー、ホントに?私、知ってるんだよ。叶ちゃん、モテてるでしょ。好意を寄せられたらちょっとはドキッとしない?」

「ああ。もしかしてファンクラブのこと言ってる?あの人たちは確かに私に好意を抱いてくれているみたいだけど…。恋愛的な意味合いじゃないんじゃないかな」

「え?そうなの?」

「うん。私と付き合いたいわけじゃなくて、私を推したいんじゃないかな。よくわからないけど」

「そっかぁ。でも、その気持ちちょっとわかるか」

「わかる?」

「叶ちゃんはいつも人助けしてるもん。ヒーローみたいに思うのも無理ないと思うな」

「ヒーローって……過大評価しすぎだよ」

 結果的に助かっている人がいるだけで、私は人助けをしようと思って助けているのではない。恨みもたくさん買っている。もしかしなくても正しい解決法と言うものがあるのだと思う。清水さんならきっと正しい方法で救ったはずだ。でも、私はそうできなかった。もしも学校内でしっかりとした処罰が与えられるのなら、ただ教員に訴えればいいだけだったのだが、残念ながらそうではなかった。加害者が何の痛みも苦しみもなくのうのうと生き続けるのは我慢ならない。……要はただの自己満足だ。残念なことに100%正義感からの行動ではない。私のスタンスの問題だ。

「大丈夫だよ!」

 急に関沢さんがそう言った。

「大丈夫ってなにが?」

「叶ちゃんはいつも笑顔で素敵だもん。きっとすぐに叶ちゃんのことを好きになってくれる人が現れると思う」

 おいおい、これだから恋愛脳は困るぜ。とも思わなくもないが、関沢さんなりに私を元気づけているのであろう。素直に受け取っておくか。

「ありがとう。……願の真似をしたおかげかな」

 ふと妹の顔が浮かんだ。常に笑顔を浮かべムードメーカーだった大切な家族。

「ねがう?」

「妹のこと。妹って言っても双子だから同い年なんだけどね」

「へぇ!叶ちゃん、妹さんいたんだ!双子ってことは似てるの?」

「似てる似てる。顔なんかそっくり。あ、そうだ。二人並んでる写真あるんだけど見る?」

「え!見たい!」

 私はスマホで関沢さんに写真をみせる。中学の制服を着て並んでいる写真だ。この写真で私たちを見分けるのは至難の業だろう。私ですらわからないのだ。

「さて、どっちが私でしょうか」

「わわ!本当にそっくり!え、どっちかな~」

 関沢さんは私のスマホとにらめっこしている。

「お嬢様到着いたしました。」

 関沢さんが答える前に目的地付近についてしまった。関沢さんは私にスマホを返してくれる。田中さんが近くのコインパーキングに駐車する。

「ありがとう。」

「ありがとうございました」

 私たちは車を降りて、私の先導に従いカラオケ店に入った。田中さんも佐藤さんももちろん私たちについてくる。ボディガードなので当たり前だ。もしかして一緒の部屋に入るのかしら。

「いらっしゃいませ。何名様ですか?」

 私は答えに窮す。後ろの二人を入れるべきだろうか。振り返ると田中さんが指を四本立てた。

「四人です」

「当店のご利用は初めてですか?」

「あ、はい」

 その後、アプリをダウンロードしたり、学生証を提示したり、機種を決めたり、受付を済ませた。学生限定で三時間500円フリードリンク付きプランを勧められて勧められるままそれに決めた。

店員さんがぴぴぴとタッチパネルを操作していく。ジーと伝票が二枚印刷され、一枚を小さなバインダーに挟めて渡してくれる。

「207号室になります。ドリンクコーナーはエレベーター近くにありますのでご自由にご利用ください」

「どうも」

 私は三人に声をかけてエレベーターに向かう。ボタンを押し、チンとベルの音が鳴ってドアが開く頃。後ろから、貸し切り!?という店員さんの叫びが聞こえた気がしたが無視した。

 私が貸切ったんじゃない。私は五百円でいいはずだ!

 



 カラオケルーム初心者の彼らに初心者の私がカラオケの遊び方を伝授する。フリードリンクは舌の肥えた人たちには不評だったが、五百円なのだから、文句を言う方がおかしいだろう。

「誰から歌う?」

 じゃんけんの結果関沢さんが一番になり、関沢さんから時計周り、つまり、女嫌い君、私、幼馴染君という順番に決まった。

 関沢さんが流行りの歌を歌い始めると、男子たちは関沢さんへの賛辞が止まらない。これが恋というやつか。私のことはもう頭にないようだ。彼らが関沢さんの両隣に座った時点で気づくべきだった。

 私が一番に誘われたんだけどなぁ。友情とは儚いもので、関沢さんは自分に気のある男子に褒められて嬉し恥ずかしと顔を赤らめるばかりで、一人寂しくジンジャーエールを喉に注ぎ込んでいる友人には目もくれない。格安カラオケ店という一般庶民にとってはホームであるはずなのに今の私は完全にアウェーだ。とりあえず私も手拍子をとる。

 盛り上げようという気持ちはわかるがあんなに褒めそやすものなのか。カラオケ歴が浅すぎてわからない。私は家族で数回来たことがある程度なのだ。

 くす、と笑いが漏れる。思い出した。小学生の頃、妹がグルーヴするあまり、両親の制止を無視し、ソファの上で踊りバランスを崩してテーブルに向かって転倒。ドリンクを床に撒き散らし、飛んできたグラスが近くに座っていた私のおでこに激突。泣く妹。叱る母。呆然とする私。心配する父。流れ続ける日曜朝のアニメのオープニング。その後、お店の人に事情を話し謝る両親を見ながら、妹はケロリとした顔で私にニコニコ耳打ちしてきた。楽しかったねとか、また来ようねとか。私は少し赤くなったおでこを触りながら、何で同じ顔なのにこんなに違うのかと不思議に思ったものだ。こんなことになって両親にもお店の人にも迷惑をかけて、私だっておでこ痛いし、私はまた来ようとは思えなかったからだ。

願はそういうところがあった。良く言うと楽天的、悪く言えば能天気。私とは違い、一つのことをズルズル引きずることはなく、明るくていつでも笑っていた。今、思えば、それは願なりの気づかいだったのかもしれない。彼女のことを思い出すたびに私は思う。本来ここにいるべきは願なのだと。

「か…ちゃん!…叶ちゃん!」

 ハッとして顔を上げる。

いつのまにかすぐそばに関沢さんが立っていて私の顔を覗き込むようにかがんでいる。

「どうしたの?大丈夫?次、叶ちゃんの番だよ」

 先ほどまで関沢さんしか見えてなかった男子たちも戸惑った様子で私の顔を見ていた。もう私の番が回ってきたのか。

 懐かしいことを思い出してついぼんやりしてしまった。

「あ、ごめんごめん。つい考え事を。あー。何歌うかパッと思いつかないわ。先に渋谷君歌ってくれる?」

 タブレットを幼馴染君に渡す。

「おなかすかない?皆、お昼まだだよね。せっかくだから何か頼もうよ」

 私が声をかけるとみんなもおなかが空いていたらしく、私が開いたメニューに寄ってきた。話し合いの結果、大盛りフライドポテトとこの店舗限定の骨付き唐揚げ、3人前はあるというマウンテンフルーツパフェに決まった。タブレットで注文した後、空になったグラスを持って部屋の外に出る。

 大きく深呼吸をして、胸に手を当てる。大丈夫だ。

 ウーロン茶をグラスに注ぎつつ、気持ちを切り替えようと窓の外を見るとそこからはちょうどコインパーキングが見えた。

増えてね?

 黒い高級車が明らかに増えている。コインパーキングが満車になるくらい増えている。私は窓から下を、店の入り口付近を覗き込むように見た。

「うわ」

 黒服の男たちが数人、出入り口を見張るように立っている。よく目を凝らすとそれ以外にもちらほら周囲を警戒する人たちが道で歩いたり、ベンチに座ったりしている。この人たち全員お嬢様とお坊ちゃまを護衛するためにやってきたのだろうか。

 金持ちの子供は大変だな。カラオケに行くだけでこんなに大事になるなんて。そういう意味では庶民に生まれてよかったのかもしれない。

 その後のカラオケはというとおおむね問題なく終わった。最後はみんなで大合唱。盛り上がって終わった。

「ありがとうございました」

 私は無事、学園に帰ってきた。関沢さんは私を下ろした後、そのまま車でご自宅にお帰りになるそうなので、車に向かって手を振った。

 関沢さんを見送った後、別に学校に用事もないので寮に帰った。

「あらま」

 私の部屋のドアに紙が挟まっている。周りを確認し、そっとドアを開ける。中にも誰もいないことを確認してから落ちた紙を拾い上げて部屋に入る。

「なになに?」

 紙にはこう書いてあった。

小鳥遊との関係をばらされたくなければ明日放課後旧校舎裏に来い

 放置していた問題が自らやってきたみたいだ。読み通り私を脅したいらしい。さてさて、どんな奴が犯人が確かめてみようじゃないか。っていうか旧校舎裏って範囲広すぎないか?


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