02 美少女のような美少年
※この作品はフィクションです。作中の考え・思想はあくまでも登場人物のものであり、作者の意見ではありません。作中に暴力的な表現がありますが、犯罪行為、暴力行為を助長する意図はありません。暴力も犯罪も絶対にしてはいけない行為です。また、作中に出ている危険行為は絶対に真似しないでください。
次の日の朝、私はことの顛末を前の席に座っている関沢さんに愚痴っていた。関沢さんは椅子を私が座っている後ろの席に向けて座っている。
「と、いうわけでさあ。長谷部君が裏切ったわけよ。話しやすいとかなんとか言ってー。嘘つけ!」
「私は叶ちゃんのこと話しやすいと思ってるよ」
「そりゃ友達だもんさあ」
「それに多分だけど長谷部君は外部生で女子生徒っていう同じ状況の二人だから話しやすいと思ったんじゃない?」
関沢さんはパックのジュースをかわいく飲んでいる。期間限定赤しそソーダジュースだ。
ちなみに叶というのは私の名前だ。叶と書いてカナウと読む。夢を叶えてほしいから叶になったらしい。夢という夢を持ったことがないので両親の願いが無駄になりそうだが、人生はまだまだ長いと思うのでその人生の中で見つけていきたいと思います。
「同じったってさ。私、別に内部組ともめたことないし。内部組にいじめられたことないし。学年によって差があるんじゃないかな。うちの学年の内部生はきっといい人たちなんだよね。会長を除いて」
私が事実を告げると関沢さんはブーっとジュースを吹き出した。
「いやいやいや。もめてたじゃん!色んな人と!」
私は関沢さんにティッシュを渡す。
「え?いやいや。もめてないもめてない。」
関沢さんはまだ何か言いたそうにしていたが、先生が入ってきたので前に向きなおった。SHRが終わった後、一限目は選択授業だったので音楽選択の関沢さんとは離れてしまい話の続きができなかった。次に話すのはお昼になりそうだ。
私が黒川叶と初めて会ったのは去年の春。入学式。新入生代表を務めた彼女は一見すると、クールに見えた。癖のない黒髪は腰まで届き、佇まいには品があった。それに加えて、切れ長の目、白い肌、長身ですらっと伸びる細長い手足。どこか中性的な顔立ちで女子生徒たちが色めきたった。
同じクラスで席も近かった私が話しかけてみると、彼女は第一印象とは程遠い人間であるということがすぐわかった。長い髪なのは美容院代の節約だし、売られた喧嘩は買うタイプだし、口も良いとは言い難い。でも、そんな彼女に親しみを感じ私は叶ちゃんの友達になった。
昨年の一年間で色々とあり、本人は気づいていないのか、気にしてないのかはわからないけれど、叶ちゃんはかなり有名人だ。ファンクラブもある。そのファンクラブのメンバーはほぼ女子生徒だ。普段、スカートではなくスラックスをはいているからかもしれない。髪も夏になるとばっさり肩口で切り後ろに雑にまとめているので、今の叶ちゃんは美少年に見えなくもない。
なんとか叶ちゃんには喧嘩を買わないようにしてほしいところだけど――。
「どうした?ひなた」
幼馴染のサクが話しかけてきた。
「あ、ううん。何でもない」
ボーっとしないで今は音楽の授業に集中しないと。叶ちゃんがトラブルに巻き込まれに行くのはいつものことなんだから。
私は美術選択なので美術室で今日の課題を描いていた。
今日の課題はずばり隣の人の顔。隣はささたん。笹田なので「ささたん」だ。
ささたんは美術部のエースでびっくりするぐらいの美少年だ。女顔と低身長を本人はかなり気にしているらしく、かわいいという言葉に敏感ですぐに眉間にしわが寄る。いつもピリピリしていて、あたりが強い。特に私に。ささたんと呼んでいるせいかもしれない。
「ねえ、ささたん。今、どんな感じ?」
だが、私はささたんと呼ぶのをやめない!
「は?お前に何か関係ある?」
めっちゃ睨まれた。でも、めげない!
「一応、私の絵を描いているわけだし、十分関係あると思うの」
語尾にハートをつけた言い方をすると、途端にげーっという顔をする。その後もしつこく話しかけていると、渋々スケッチブックを見せてくれた。
「わあ、すっごい!さすが美術部のエース!美化してもらったみたいでうれしいよ」
ささたんのスケッチブックには、無造作に髪をくくった美少年が描かれていた。その美少年は口角を上げて楽しそうに笑っている。まあ、私は女なんだけどな。
「ふん…」
ほめられてまんざらでもなさそうだ。
「お前は?お前は俺のことちゃんと描いてるんだろうな」
ささたんは「見せろ」と私からスケッチブックを取り上げる。
「な!なんだよ、これは」
ささたんの顔が真っ赤に染まっていく。眉をぐっと吊り上げて、私のスケッチブックを床にたたきつけた。
「そこ!静かに」
先生に注意されてしまった。
私はスケッチブックを拾い、自分の絵を眺めた。
「私にしてはよくかけてると思うけどな…」
ささたんは自分を落ち着けようとしているのか、スケッチブックに一心不乱に何かを書き始めている。
そのまま、ささたんとはそれ以上何も話さずに美術の授業は終わった。
「何がそんなに気に食わなかったんだろ…結構似てると思うけど」
授業終わり先生にスケッチブックを提出するときにつぶやいた。
先生は微妙な顔をして私の絵を受け取り、はあとため息をついた。
「似てたからだと思いますよ」