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スターゲイザー  作者: いちP
9/9

part2

 鐘が鳴り終わると生徒(てんし)たちは、その場で解放されたように喋り始めた。

 ――次集合の「大広間」ってどこだったっけ。

 ――あそこだよ。ほら、俺たちが入学式やったところ。


 次々とみんなが席を立っていくなか、僕とハニエの二羽だけはすぐには動かなかった。さっき約束したノート見せてもらうために。

 

 ノートに並んでいるきれいな文字列を一語一句書き写していくくらいなら落ちこぼれの僕でもわけなかった。そう、”落ちこぼれ”でも...


「はぁぁ、、」

 ため息が出ると、両腕を枕にして机に前のめりに崩れた。

 

「どうしたの?フォルン」 

 ピンク色の髪の毛に隠れた、くっきりした目が僕を覗いてきた。僕はそれをなんとなく避けるように「いや、なんでも」とそっぽを向く。

 

「早く書かないと、次の授業始まっちゃうよ」

「大丈夫だよ、まだ三十分もあるし」

 

 もう、フォルンったら..とハニエがため息混じりに言うと、教室の離れたところからクラスメイトが呼ぶ声がした。

 

「ハニエー、授業で分かんないところあるんだけどちょっと教えてくれない?」

「いいよー、ちょっと待っててー」


 ふてくされてる僕にちょっと行ってくるねとささやくと、その足音はここを離れていった。しかしそれと同時に、今度はこっちに近づいてくる足音がバラバラと聞こえてきた。

 

 ()()()()気配が近くに感じられて、「おい」と低い声が聞こえたとき、彼らは僕に用があるんだとようやく確信した。見上げてみると、そこには短い金髪の男顔と、その両隣にもう二つのガラの悪い顔が僕を見下ろしながら、ヘラヘラ不敵な笑みを浮かべていた。「なんの用?」と僕に言わせる暇も与えずに、真ん中の金髪が口を開いた。

 

「よお、落ちこぼれ。ずいぶんとクラス一番の秀才に助けてもらってるようじゃねえか」

 

 金髪の一声に続くように、両隣の二羽も口を開いた。 

「あいつがお前の幼馴染じゃなかったら、今頃落第して”下界”行きだったんじゃねえのか?」 

「この前のテストもクラスで唯一『0点』だったよな」

 

「おい、どうした?ハニエがいないとかばってもらうこともできねえのか?」

 好き勝手言ってハハハハと声をあげて笑う三人に我慢できずに、「なんの用なんだよ!」と席を立って一喝しようとした瞬間、金髪のその大きな手が僕の口元を塞ぐように当てられてきた。僕はしゃべれずに手の中でもごもごと口を動かした。

 

「まあ、落ち着けや。俺はな、お前に提案を持ってきたんだ」


 提案?僕に?


「次の実技の授業はな、聞いたところによると二羽一組(ふたりひとくみ)を作って実戦形式でやるらしい。今のを聞いてお前は真っ先にハニエに泣きついて組もうと考えただろう。だがな、いくらあいつといえどしょせんは女だ。優秀でいられるのは座学でだけだろう?」


 この時点で一言も二言も言ってやりたかったけれど、口を覆う手が邪魔してきた。


「そこでだ、この俺様が"ヘタレ"であるお前とペアを組んでやろうというのだ。そしたらハニエの代わりに俺が手取り足取り教えてやる。どうだ、悪い話じゃ..」

 

「ちょっと待った!!」

 手を振りほどいて叫ぶと、目の前の三羽だけでなく教室内にいた全ての天使たちの視線が集まってきた。

「僕の嫌いなことは、まだやってもないことでバカにされることなんだ。座学ならまだしも、実技でも"ヘタレ"と決めつけられるのはさすがに我慢ならないぞ!」


「なんだこいつ、俺たちにケンカふっかけようってのか??」

 右隣の子分が引き気味に言う。

 

「君がペアを組みたいっていうなら受けてたってやる。僕が落ちこぼれじゃないってこと、証明してやるよ!」


 僕の発言に対して、意外にも金髪はニヤッと笑って好意的な反応をした。

「ほう、おもしれえ。なら授業中に一戦決闘しようか。俺様が負けたらお前の子分にでもなってやる。その代わり俺様が勝ったら、お前は卒業までずっと俺とペアだ。これが条件だ」

「ま、どうせ落ちこぼれのフォルンじゃ勝てねえだろうけどな!!」

 左隣の子分が金髪に付け足しで代弁すると、三羽はまたゲラゲラと笑いながら、廊下へと出ていった。


◇◇◇


「ねえ、いいの?あんなこと言っちゃって。もし負けちゃったら罰ゲームみたいなのあるんでしょ?」

 フォルンのもとにすでに戻ってきたハニエが心配そうな目で聞く。

 

「なに?ハニエは最初から僕が負けると思ってるの?」

「そういうわけじゃなくて...いや、やっぱり...」


 言いかけると、突然教室のドアがガラッと開いた音がした。


「ふたりとも、やっほだぜ」

「次は実技学習だからようやく一緒になれるわね」

 入ってきたのはサリルとヨエルだった。この二羽は違うクラスにいるので、授業時間中では会うことはほぼなかった。机のそばに来るなり、ヨエルの口が一番に開いた。

 

「ねね、聞いた?次の授業、全クラス合同なだけじゃなくて、一学年上の先輩が特別に教えに来てくれるらしいのよ!一個上の代はすごい天使たちばっかりなのは知ってるでしょ?実技の平均がとにかく異常に高くて、今までとは比較にならないレベルらしいのよ。その中でも特にザゼ...」

 

「ちょ、ちょっと落ち着こっか、ヨエル、ね?」

 とまらない勢いにハニエが待ったをかけた。

 

「ごめんな。こいつ運動のことになると止めどなく喋りだすんだ。適当に聞き流してやってくれよ」

 サリルが背後からフォローをかけると、ヨエルは不満そうに言い返した。

「なによ!あんただって図書館に籠もってはずっと本を読み漁ってるくせに。授業中に感想を永遠に私に聞かせてくるのやめてくれる?うっとおしいったらありゃしない」

 

「んだとこのやろう」とケンカになりそうな雰囲気をまたしてもハニエが止めようと入るも、今回は止まりそうになかった。


「次が自分の()()()()だからって調子乗ってんじゃねえぞ。座学の間なんて先生の質問に何も答えられてなかったじゃねえか、この運動脳!」

「何もじゃないわよ、二、三割くらい正解だった!あんただってちょっと勉強ができるくらいで調子乗りすぎなのよ!授業の内容なんて後で復習すれば()()()()鹿()()()なんぼでも覚えられるんだから」

「はあ?復習どころか聞くまでもねえだろ、あんなハエでも分かるような授業」

「あ、あったりまえよ!あんな常識問うようなテストで0点とるような天使の気がしれないわっ!」


「ふ、ふたりとも、そろそろ止めよう、ね?もうフォルンがだいぶ傷ついちゃってるから..」 

『へ?』


 机の面に今にも溶けだしてしまいそうなくらいうなだれたフォルンの姿を見て、二羽はようやく大人しく口を閉じた。


 ◇◇◇


「ごめんなさい、フォルン。あなたも学校で苦労してたのね。そんな気も知らないで私たち...」

「いや、いいんだよ。授業中に寝ちゃう僕も僕で悪いんだし」

「けどよ、それでクラスのやんちゃ達に盾突くなんてフォルンもなかなかやるじゃん。俺なんかすぐ逃げ出すと思うぜ」

「まあ、運動音痴のサリルじゃそうするのも当然よね」

「なんだとこの脳筋娘」


 にらみ合いを始めた二羽を「はいはい落ち着いて~」とハニエがなだめると、今度はさすがに大人しくなった。

 

「けどよ、なんでそのやんちゃ君はフォルンと組みたいんだろうな。そいつと特別仲が良いわけでもないだろ?」

「言われてみればたしかになぁ。僕、あの天使としゃべったの今日が初めてなのに」

 指をあごに当てて天井を見上げても、答えは出そうになかった。


「まあ、考えてても仕方ないし、ひとまず大広間に行きましょ。あと五分で集合時間だし」

「あ、ほんとだ。ノート、全然写せてないや。ごめんハニエ、もうちょっと借りてていい??」

「うん。いいよ~」


 いつも自分のものを扱うより少し丁寧にそのノートをカバンのなかに入れる。顔を上げる前に少し動きを止め、「これまで」と「これから」のことを考えてしまって、思わず出てきたため息は思ったより大きく響いた。


「まあ、がんばれよフォルン。そんなやつさっさとやっつけちゃえよ」

 察したのか、サリルは僕の肩を上から組んでそう言ってくれた。

「サリル...」


「そうそう。私たちも応援してあげるから」

「フォルン!絶対勝って、その次は私と組もうね!」

「ヨエル...ハニエ....」

 

 そうだ。僕にはそばで支えてくれている友達がいるんだ。どんなつらいことがあっても、きっと頑張れる。

 




 

「あとな、パンチは何発も打った方がいいぜ。『下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる』っていうし」

「ちょっとサリル!!」

 

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