part2
走った道も半ば、閑静な住宅街を過ぎ、二羽はさっきより少し高い建物が立ち並んでいる”賑わった”通りに入った。そこは打って変わって数えきれないほどの街の天使たちがあちこち入り乱れていた。
「わぁーー!こんなにたくさん天使初めて見た!ようやく都市部に来たって感じね!」
「ちょっと待ってよハニエーー」
走り続けて息を切らした少年天使には幼馴染の興奮が伝わってこないのか、その斜め後ろで「はぁはぁ」とへばる声をあげるので精いっぱいの様子だった。そんな情けない姿を見て幼馴染は張るように言った。
「だから言ったでしょ。女の子は成長が早いのっ!」
「いつの、はなし、、だよ、......」
とは言いつつも、今まで老天使も含めた三羽で暮らしてきたフォルンとハニエにとって、その他の天使を見るのは”生まれて初めて”の経験であった。前にも横にも知らない天使たちの顔がはびこっている街が、二羽には今までの何よりも大きく見えたが、それ以上に、その奥に立っている”目的地”のほうがより圧倒的に彼らの目に映った。
「あともう少しで、、フォルン!早く行こ!!」
ハニエに手を引っ張られると、「ふえ~ん」と泣き目になりながらフォルンも雑踏の中を走り始めた。
◇◇◇
一方、そんな活気づいた街のもう一端の道にて。フォルンとハニエと別に”もう一組”、息を切らしながら疾走する二羽がいたのであった...
「もーーー!なんでこんなぎりぎりにならなきゃいけないのよーーー!」
雑踏をかき分けながら叫ぶパープルヘアーの少女天使の後ろには、少年の天使があくびをしながらへらへらと一緒に走っていた。
「ははは、ほんとだ。俺ら近くに住んでるのになんでだろーな」
「あんたが寝坊したのが原因でしょうが!」
少女が走るのを一瞬止めてそのグリーンヘアーを殴ると、少年は「痛て!」と頭を押さえた。
「ほら、さっさと行くわよ!」
とは言いつつも目的地は間近に見えていて、あとは目の前の角を曲がればすぐ到着というところだった。少女が手を引っ張りながら再度走り始めると、それに連れ去られながら少年も足を前へ動かし始める。
――よし、ここを曲がれば...!
二羽が全速力で角を曲がろうとしたその時だった。
「うわ!?ちょ、あぶなー」
ゴチン!
横から飛び出してきたのは二羽の天使。互いに反応はしたものの、その足は止まることなく、勢いよく激突した。前方の二羽はもちろん、後ろで手をつながれていたもう二羽も付随してバランスを崩し、四羽はちょうど川の字のように倒れこんだ。
「いたたた.....」
「痛ってぇーー...」
少年たちが悶えている前方で、少女たちは上体を起こす。互いの目を見るやいなや、即座にその口々を開いた。
「ご、ごめんねー。今私たち急いでて、ここ来るの初めてだったから道が分からなくなっちゃってて...」
「別にぜんぜん大丈夫よ、こっちもちゃんと見てなかったし」
飛び出してきたほうの少女は申し訳なさそうに両手を合わせた後、不安そうに奥の高い塔を見つめていた。
そんな様子を見かねた”ぶつかられた方”は伺うように口を開く。
「あの、、もしかしてあそこに行きたいの?ちょうど私たちもあそこに向かってるところだからよかったら案内しようか??って言ってもこの角を戻るだけなんだけど」
指をさしながら発せられたパープルヘアーの言葉に、少女はこれでもかというくらいに目を輝かせた。
「ほんとにー!?ありがとう、私たち方向音痴だったから助かったぁ~!そういえば名前、聞いてなかったね」
「私はヨエルよ。後ろで悶えてるのはサリル」
「私はハニエ、後ろで痛そうにしてるのはフォルンだよ」
二羽が握手を交わしている後ろでは、悶えていた少年たちはようやく起き上がったというところだった。こちらも互いの顔を見るやいなやすぐにしゃべり始めた。
「へぇ、君たちずっとここに住んでる天使なんだぁ。僕たち森から出たことなかったから、なんかすごい新しい気分なんだよね~」
「まじか、そんなやついたのか。それは大層な田舎モンだな!」
「えっ、、あ、えっと、『サリル』ってかっこいい名前だね。誰がつけてくれたの?」
「な!かっこいいだろぉ?街のみんながそうよんでくれるんだよ。にしても、『フォルン』って変な名前だな!ハハハ!」
「えぇ??....、、」
思いもよらない”悪口”に困惑の表情が隠せないフォルン。笑っているサリルは背後から忍び寄る足音に気付くことはなく、『ゴツン!!』と大きな音に頭を襲われると、そのまま地面へと崩れ落ちた。
「ごめんねぇ。”こいつ”やたらデリカシーのないこと言うんだけど、悪気があるわけじゃないから仲良くしてね」
申し訳なさそうに詫びるヨエルの足元で、サリルは再び悶えている。
「痛ってぇーーーー!!!」
「う、うん、、大丈夫...?」
「きゃははっ!都市部の天使って、すっごく面白いのねーー」
周りを忙しそうな雑踏が埋め尽くすなか、四羽が倒れこんでいるこの場所だけは、子供特有の無邪気で楽しげな空気が流れ込んでいた。