第四羽 だから君は見上げ続けていい part1
森の地帯をようやく越えると、そこは打って変わって建物が立ち並ぶ”都市部”になった。当然、地方から出たことのない幼い二羽はこの場所に来るのは初めてであった。
「わぁーーー!すごいね!!ここが街かぁ」
「見てみてフォルン。全部石の木が立ってるみたい!」
「違うよハニエ。あそこはここの天使たちが住みかにしてるところなんだよ」
「じゃあ木じゃん」
二羽が興奮を抑えきれずにペチャクチャしゃべっていると”目的地”がだんだんと近づいて来ているのが見えた。
「あともうすぐだわ!楽しみね~~」
「大樹からだとあんなに小さかったのに、近くで見るとこんなに大きいんだね」
すると、突然二羽を抱えていたウリルが翼をばたつかせるのをやめ、一気に下降して着地した。驚いた二羽の眼差しを横に、道半ばの一本道でおろしてしまった。
「どうしたのウリル??まだ着いてないよ」
ハニエが心配そうに聞く。目的地は目に見えているものの、まだ前方数百メートルと、下ろすには不自然な場所だった。
すると難しい顔をしてウリルが言った。
「わしが送れるのはここまでじゃ。あとはふたりの足で行きなさい」
あまりに唐突なウリルの言葉に二羽は困惑の表情を隠せなかった。
「そんな!最後の最後まで送ってってよぉー」
「すまんのぉ。この体じゃあ、やはり長く飛ぶのは難しいようじゃ」
真剣だった表情を無理やりふにゃけた顔にして老天使は言う。
「...まあ、遅れそうになってたのはもとはといえばフォルンのせいだしね。こんなに早くこれたのはウリルのおかげだし、あとは自分たちで歩きましょ!」
「えーーー。そんなぁ」
「ふぉっふぉっふぉ、ハニエはしっかりものになったな。まあそういうことじゃ、気を付けて行きなさい。とはいっても、早く行かんと時間に遅れるぞい。ほら、走った走った」
ハニエが手を引っ張って走り始めたのを見届けて、足早に立ち去ろうとウリルが背を向けたその時、フォルンが手を振りほどくと、急ぎ足でウリルのもとへ駆け寄った。
「まって!!」
今までにないほどの大きな声で叫ぶのを聞いた老天使は思わず後ろを振り向く。「どうしたんじゃ」と聞く暇もなく、少年天使の口から言葉が出る。
「あのさ......。森に戻ったら、またあの話するって約束して!」
放たれた言葉以上に、その潤いきった目はまだ幼い少年の心情を語っていた。そんなかわいらしくもまっすぐな様子に、老天使は笑みがこぼれながら、まるで永遠の別れかのように返す。
「ああ、絶対じゃ。体に気を付けるんじゃぞ、フォルン」
「うん!行ってきます」
フォルンは体の向きを変えると、振り返ることなくハニエのもとへと走っていった。
「じゃあねーウリル。またいつかねーー!!」
遠くで待っていたハニエも老天使にしばしの別れの言葉を送った。二羽は合流すると、そのまま小さな翼をばたつかせながら走っていった。その光景は、いつも二羽が丘で遊んでいたときとまるで変わりないように見えたそうだ。
「わしだって、最後まで送ってやりたかったわい....」