第三羽 幼い天使は彩りたい part1
まさかと後ろの巨大樹を見上げた二羽は少しの間沈黙していた。はっと意識が戻ったハニエは顔が急に青ざめ始めた。
「もしフォルンがこの樹に上ってたとしたらどうしよう...この平地から何の滑空も無しに飛んで行くのは難しすぎるし、地道に上ってたら間に合わなくなっちゃうよーー」
ハニエは頭を抱えながらその場を右往左往していた。すると、黙って樹の上を見上げていたウリルが口を開いた。
「...ハニエ、わしの手につかまっておれ」
「え?う、うん」
言われた通りにしわだらけの手をハニエが握ると、老天使はしおれていた両翼を勢いよく広げ、豪快に羽ばたきはじめた。すると、二羽はなんの滑空もなしにどんどんと上へと昇っていったのであった。
◇◇◇
頂上には案の定、フォルンが広がった葉の上に座っていた。目の前に飛び出してきた二羽を見て、フォルンは驚くどころかあっけにとられていた。
「フォルン発見ーーー!」
ウリルにつかまったままハニエが大声で叫ぶ。
二羽は葉の上に舞い降りると、そのままゆっくりとフォルンのもとへ歩み寄っていった。鬼の形相で。
「こんなところで何をやっておったんじゃ?」
「フォルンのこと、すっっっっごい探したんだよ~」
最初は二羽の気迫に圧されて後ずさりしているだけのフォルンだったが、次第に弁解するように、泣きながらしゃべり始めた。
「だだだだって、、ここを離れるのが嫌だったんだよーー!」
今度は二羽があっけにとられた表情をした。フォルンはそのまま嘆き続ける。
「向こうに行ったら少なくとも四十年はここに帰ってこれないし、ハニエとウリル以外の天使としゃべったことなんてないんだもん...」
この少年天使の泣き言を聞いた二羽のとったリアクション。それはあきれ返ることではなく、彼のそばに歩み寄り、ただ優しく肩を抱きしめることだった。
「大丈夫だよ。ウリルとは離れ離れになっちゃうけど、私はずっとフォルンと一緒にいるんだから」
女神のような優しい声でハニエが語り掛ける。
「そうじゃ。何もたった四十年じゃあないか。今までお前が生きてきた240年と比べれば、そんなのすぐに終わる」
顔のしわをさらに増やしながらウリルも笑いかける。
そんな調子で慰めの言葉でいたわり続け、フォルンのかんしゃくが収まったのは
◇◇◇
40分後だった。
「ウリル、ハニエ、ありがとう。やっぱりぼく、頑張ってみる!じゃあハニエ、早く行こっか!!」
立ち上がって今までにないくらい元気な声でしゃべるフォルンと、座りっぱなしでそこから動けない二羽の様子との構図は実に対照的だった。
「ちょ、ちょっとだけ休ませて....」
「こ、腰が、、、壊れとる、、」
「えーー、早く行かないと遅れちゃうよー。僕たちの弱い翼じゃ町まで速く飛んでけないよ」
フォルンが垂れる。
「大丈夫じゃ、、今回はわしが向こうまで送ってやる。だからもう少し待っとくれ...」
「そうそう、知らなかったけどウリルって飛ぶのすごい上手かったんだよ。助走なしで真上にひとっ飛びだったんだから。だから安心して、もうちょっとゆっくりさせて...」
するとフォルンが驚いた顔をする。
「えーー、そうなの!?知らなかったなぁ。にしてもなんでふたりだけの秘密にしてるんだよ、ずるいー」
『おまえのせいだよ!!!』