第一羽 ここはそらじゃない
そこは、地上から何千キロも離れた場所。空とも宙とも言えない座標に浮かんでいるのは、太い光の筋でつなぎ合わされた大地。もちろんそんなところに人間は一人もいない。
が、そこに住む者たちはこう呼んでいた。「星上園」と。
日は沈まず、土には草木が萌える。そこは、楽園と呼ぶに最もふさわしい場所だった。そんな楽園がいつからあるのか。なんであるのか。それを知る者はわずかであった。
そんな園内のある丘の上、ぽつんと立っている木のそばで、一羽寝転んでいる天使がいた。
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「つまんないなぁ」
腕を頭の後ろに組むようにため息をついた黒髪の一羽が見る先には、何もない真っ暗な空間がどこまでも広がっていた。周りの草は風に吹かれて揺れることもなく、ただ止まった時間が永遠と流れているようだった。
「あ、フォルン!そこにいたんだ」
丘の下から別の声が駆け寄ってくる。
「なんだ、ハニエか...」
「なんだって何よ!失礼しちゃう!」
声の主はピンクヘアーの一羽だった。
頭を掻きながら起き上がり、くしゃくしゃになった翼を直しながらフォルンが口を開く。
「どうしてここが分かったんだよ」
「だって、フォルンここ好きじゃん。見つからないときはここ探すと大体いるよ」
少し丘の周囲を見渡してから上を見上げると、不満そうな顔を戻してフォルンは答える。
「好きなんかじゃないよ。何もすることがないからここで仕方なく寝転んでるだけだし」
「へえ、そう。じゃあ遊ぼうよ!何する?追いかけっこ?」
聞いてもないことには興味がないといわんばかりにハニエがしゃべる。
「ええ、やだよ。ハニエ体力無いからすぐ終わるし」
「女の子はこれから成長するんですー。それなら最初ボク鬼ね。5,4,3...」
「わわわわ。数えるの速いってばーー」
よろけながら駆け出すフォルンと、楽しそうに笑いながら秒を数えるハニエ。そんな二羽を遠目で見守りながら歩いて来たのは、一人の老いた天使だった。さっきまで二羽がいた木のそばで立ち止まったものの、最初に目を向けたのは二羽のいる方向ではなかった。
「今日もきれいじゃな。この景色は...」
ここは星上園。
地上の人間からは決して見えることのない、空とも宙とも言えぬ座標に浮かんでいる、天使たちの住んでいる楽園だった。