表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スターゲイザー  作者: いちP
1/9

プロローグ 星空は見守っている

「はっ、はっ、はっ、はぁ……」

 あたり一面覆いつくす森の暗闇の中、荒く切れた息と落枝が踏まれた音だけが響き渡る。

 

「おい!金髪のガキがそっちに行ったぞ。逃がすな!」

 後ろを振り向く暇もないほどに、ただがむしゃらに永遠に続くような森の闇の中を駆けていた。後ろから兵士たちの向かって走ってくる音だけが僕を追い越してくる。

 ――まずい、このままじゃ捕まっちゃう....!!


 ◇◇◇


「クソ!!あのガキどこに隠れやがった!!」

「遠くへは行ってないはずだ!探して殺せ!討ちもらしは許されんぞ」

 僕の座った背丈ほどの雑木の後ろの方から、兵士たちの野声が聞こえてくる。あたりはまだ木々に覆われていて、真っ暗闇のなか、兵士の土を踏む音だけが恐怖の便りだった。


「あっちを探すぞ」

 二人くらいの兵士の足音が遠ざかっていくのが分かった。

 ――今しかない!

 そういって小さな雑木から身を乗り出したその瞬間ときだった。

 

「痛たっ!!」

 突然、背中に激痛が走ると、バランスが崩れて上体が地にたたきつけられる。

「でかした!危うく見逃すところだったぜ。お前、新人のくせにいい矢の腕してんな」

「あ、ありがとうございます...」

「よし、あいつを取り押さえろ」


 遠ざかっていた二人の足音と、矢が飛んできた方向からもう一人の足音がこっちに向かってくる。恐怖よりも痛みが勝って、這いつくばることもできなかった。

 

 ◇◇◇ 


 名前も知らない大人三人に押さえつけられて身動きが取れない。抵抗する力もないのに、涙が出るほど強く、遠慮がない。

「ただのガキかと思ったが、案外かわいい顔してんじゃねえか。どうだ、一発お楽しみといこうか?」

「えええ、そんなこと。それにまだ子供ですよぉ...」

「おい、将軍様からの命令以外のことをするな。いつ援軍が来てもおかしくない。ほかにも殺すべきやつらが大勢いるんだぞ」

「ちぇ、分かりましたよ...悪いな坊主、この国に住んでたことが運の尽きだったな」

 刃物がさやから抜かれる音がすると、二人に足と頭を持たれたまま仰向けにされた。木々が覆いつくし、一筋の光もない真っ暗闇の中、見えたのは抜かれた刃のきらめきだけだった。

 

 ――ああ、これで死ぬんだな。

 

 僕はゆっくりと目を閉じる。すると、恐怖も痛みも自然に消えていくのが分かる。むしろすごく心地がいい。視界が黒から真っ白に変わっていく。


◇◇◇


 次に意識が戻った時、僕は地面にうつぶせになっていた。ゆっくりと顔をあげると、僕はまだ森の中だった。けれど、周りにさっきの兵士たちの気配はなかった。

 ――あれ?ぼく、生きてる..?


 さっきの暗闇とは違い、今は少しだけ、周りの様子が見える。顔の真正面には白い一輪の花が、なんとも優しく咲いていた。

 ――出口が近いのかな。

 

 手をついて立ち上がり、そのまま歩き出した。前に進むにつれて、だんだんと正面が明るくなっているのが分かる。足はだんだんと速くなり、自分が走っていると気付いたころには、森の出口がはっきりと目に映った。今まで気づかなかったが、なぜかもう背中は痛くなかった。 

 出口をくぐると、上を覆っていた木々が消え、視界は一気に開けた。


 ◇◇◇


 そこは、何の変哲もない、背の低い草だけが生えた崖の上だった。崖の向こうに海が広がっているのが遠目に見える。

 

 走るのをやめ、少しの間、周りを見渡しながら立ち止まったが、すぐまた足が動き出した。今度はゆっくりと、崖の端へと歩いていく。まるで、何かに導かれているような感覚だった。


 崖の先端まで来ると、海が間近に見えた。自分の真下の岩が、無情にも波に殴りつけられていた。周囲にはただ荒ぶる水の音だけが響き渡る。

 ――ぼく、これからどうしたらいいんだろう。


 うつむいて目を下に落としたそのときだった。

 白く光る「何か」が、僕の視界にひらひらと舞い降りてきた。腰を落として拾ってみる。


 一枚の羽根だった。


 ――なんで羽根が

 そう思いながら、落ちてきた方向へと顔をあげた。

 すると、目がゆっくりと、今までにないくらいに開いていった。

 

 そのとき見えたのは羽根を落としたものの正体ではなかった。でも、そんなことがどうでもいいくらいに、《《それ》》はただきれいだった。永遠に続くような闇の中、あたり一面に広がる輝きは、大きいものから小さいもの。赤色に青色や黄色、駆けているものもあれば、ただそこに座り続けているのもある。

そんな夢のような現実は、もう、僕の目を離さなかった。

 ――ああ、なんで気付かなかったんだろう。

 

 名前も知らないそれらはただ、僕ら見守り続けている。

 何光年も先から、ずっと、ずっと。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ