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君だけのカムパネルラ  作者: 蒼島みづ
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3



降り注ぐスポットライトの光に、沢山の人の視線を一身に受け。


この情熱が届くように。

彼が生きたその瞬間を多くの人に刻むように。


あの万雷の喝采を、俺はこの先も、永遠に。


焦がれ、憂うのだろうか。



ーーーーーーーーーーーー




高校生になれば、世の青春というイメージの通りに。


仲間達と駆ける日々。

思い合う少年少女の甘酸っぱい日々。


そんなものが自分にもあるのではないかと思ったものだが。


「はぁ…」


自分には縁もゆかりも無い。悲しいかな…。

どころかだ…


「菅平君!好きです!付き合ってくださいぃ!」

「無理だ」


幼馴染には縁とゆかりしかないらしく、入学してひと月と少し、彼は連日女子生徒に告白される日々なのだった。

ついに見つめるだけでは押さえつけられなくなった女子生徒達はスガを捕まえては思いの丈を叫ぶ。

が、忘れてはならない。彼は愛想が底を尽きている。


恐ろしい程にバッサリとフラれるのだ。


今も、下駄箱から靴を出すスガに告白した女子生徒に視線をうつすこともしない。見向きもしない。チラ見もしない。多分誰かも気にしていない。

が、お断りのレスポンスは光の速さ。


ショックを受けて何も言えない女子生徒を置き去りに、靴を持ってスガが平然と出てきた。

先に靴を履いていた俺はその様子を一から十まで目撃する事になってしまったのである。

相変わらず大事故だ…名も知らぬ女子生徒さん、強く生きてほしい。


「待たせたな。」

「まじお前…いつか刺されないか心配だ…」

「護身術は一通り叩き込まれているから素人くらいはあしらえる。」

「そういう問題じゃねぇ〜」


菅平家の家訓として「仇なすものを討て」と言うものがあると昔聞いた。

恐ろしいにも程がある家訓だが、良過ぎる顔のせいで苦労する事が多い菅平家の者は超実力主義で他に有無を言わさぬ事がやっかみを払う方法なのだとか。幼い頃からスガを見てきた俺としてもその苦労は本当にわかる。

や、そういう問題じゃないぞ、自分。うっかり同情してしまったが…潤滑油として愛想を学んでくれ…。負けん気が強過ぎるのも問題である。


よく目立つ幼馴染とその影をコソコソとついて行っているようにしか見えない俺。

無駄に視線を集めてしまうのにも、慣れてきたなと感じた頃だ。

平凡な高校生活…とはあまり言えない…何でた?俺はこんなに地味なのに??


しかしまさか、比ではないほど視線を集めてしまう事になるなんて。


2人で校門を出ようとしたその瞬間だ。


スゥ


エンジン音がほぼしないが、これ何列シート?と聞きたくなる黒塗りの車が丁度俺達の目の前に止まった。


一体何事だ?と周りも騒然となる。

するとこれまた何処から現れました?と言うほど静かにスーツ姿の初老の男が現れた。

恭しく、俺達の丁度目の前のドアを開く。


ここまでほんの数分だと言うのに、映画のワンシーンでも見ているかのよう。


そして、そこから降りてきたのは。



麻績光驗(おみこうげん)!!」


「っ?!」


ビシリッ!と俺は指差された。


「やっと見つけたぞ!この、愚か者めが!!」


「…は、はぁ?」


ついでに物凄い音量で罵倒されたのだった。



ーーーーーーーーーーー



現状をまとめると、こうだ。

帰りに幼馴染が告白されてすごい振り方をした後に、突然黒塗りの車から出てきた後に大声で罵倒された。


素っ頓狂とか、意味が分からないとかあるだろうが、本当だ。信じてほしい。


車から降りて、俺を指差す声のデカいやつは、俺達と同い年くらいの男子だった。


お洒落にかき上げた髪は太陽の光を受けて力強く輝き。吊りぎみの大きな目と通った鼻筋は彫りが深めで正しく派手な顔というのが相応しい。

制服はよくよく見ればこの県で一番のお金持ち私立学校の物。生地からしてもう、うちと違う。

とにかく、こんな普通高校には威力が高すぎる彼はその吊り目をもっともっと吊り上げて俺を睨み付ける。


一体何事だ?てか、こいつ俺のフルネームを叫んだぞ??誰???怖い!!こんな奴知らないぞ?!


あまりの怒涛さにパニックになって何も言えない俺の代わりに、冷静沈着が服を着て歩いているスガが一歩前に出た。


「初対面から挨拶も無しに人を指差し、罵倒するとは失礼過ぎると思わないのか?義務教育は何を学んだんだ。それとも学んだ事をすっかり忘れてたのか??」


さすがスガって思ったが、違った。

めっちゃ怒ってた。

いつもの平坦な話し方ではなく、語気に強さが滲み出ていると言うのに温度はマイナス。

涼しげな目元はもう真冬。冷たいを通り越して冷たいくらい。

滅多な事で怒らないスガがもうブチ切れ一歩手前まで来ていた。


「ひっ!!なっなんだ、こっこの、菅平継辻(すがだいらつつじ)!お前には言ってないだ、ろぉ!」


怖かったのだろうな。男子生徒は縮こまってしまった。

こんなキレられたら俺も怖い。イケメンの本気の怒りは怖い。ちょっと目尻に涙が浮かんでいて、自業自得とは思うが可哀想に思えた。


「コウに暴言を吐く者を俺は許さない。何故俺達を知っている?返答によってはお前の学校に電話を入れる。お宅の生徒が他校で暴言を叫んで暴れ回ったと。」

「ちょ、スガ落ち着け…学校検索して電話番号控えるな!」

「なっ!ちっ違うんだぞ!今のはあの、そのっちょっと勢いが余っただけなんだぞ!!」

「ぼっ坊ちゃま、まずは謝らないといけませんぞ!お2人にお会いできて嬉しいのは分かりますがいささか失礼ですぞ〜!」

「うるさいぞじぃ!黙っておけ!!」


以前ブリザードでマジでキレる5秒前というスガ。先程までの威勢はどこへ?オロオロとし出す名も知らぬ派手な男子。

お付きらしい男性に嗜められてますます涙が溢れ出そうになっている。

何事かと周りうちの生徒が集まり出して、場はカオスの一言に尽きた。


「ぼっ僕は…ぼ、僕はぁ…グスッ」

「ああ、ほら!泣き出しちゃう!」

「ふんっ勝手に泣けばいいだろう。どちらが愚か者か見ものだな。」

「ううっううううう〜」

「あ〜泣いちゃった〜!?なんでスガお前は!追い詰めるような事を言うんだ!」

「同情の余地などないが?」


まるで小学生同士の喧嘩。

突っかかって返り討ちにされて、な、泣いてる…。


「一体何が…だ、誰か説明してくれ…!」


16歳の春の思いがけない加速に、俺は胃が痛い思いだった。

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