Episode8 二人一部屋
鼻の長い老人はバランの前に行き、顎に手を当ててバランを観察し始めた。
「な、なんだよおっさん」
ただただ黙ってバランを見る。バランは疑問が止まらないといった表情で鼻の長い老人を見ていた。
ひとしきり見終わったのか、今度は剣の元まで歩き、剣に目を向けた。
「ふむ……疑問が増えるばかりか」
「いや、それは俺のセリフなんだけど」
「お主バランと言ったな」
「え?あ、あぁ」
突然に名を呼ばれ、戸惑いを見せるバラン。
それには目もくれず、鼻の長い老人は自分の疑問を口にした。
「お主この剣をどこで手に入れた?」
鼻の長い老人の問いに更に戸惑いを見せるバラン。そしてバランは首を傾げることしか出来なかった。
「詳しくは覚えてない」
「何?詳しく覚えてない?どういうことじゃ」
「これについては我が説諭しよう」
アルデがそこは入りし、鼻の長い老人に口頭で説明した。
「この剣は我とバランが契約を交わしたときに出現したものだ」
「契約を交わしたとき……?」
「そうだ。我も詳しいことはよく分からないが、手に入れたかという問いへの回答はこれだ」
鼻の長い老人は益々顰め面になり、剣に目を落とした。
「なるほどのぉ。ということはどこかで購入したとか鍛冶屋に作ってもらったものではないのか」
「そういうことになるな」
「……実に面白い剣じゃ」
鼻の長い老人は顰め面のまま感激し、それから剣をバランに返した。
「少し見てみて分かったことがある」
改まってそう口にする鼻の長い老人。バランはその言葉に首を傾げた。
「分かったこと?」
バランの問いに頷きを返し、鼻の長い老人は分かったことを口にした。
「この剣は膨大な力を秘めておる。とてつもなく大きな力じゃ。そしてお主は、その力をまだ引き出せずにいる。何より、お主剣に振られておるな?」
「あ?それはどういう事だ?」
「そのままの意味じゃ。お主はこの剣を我がものとして振っていない。言うなれば剣がお主を使っているように感じる。とてつもない力がお主を装備しているんじゃ」
「……」
バランは真剣な表情で鼻の長い老人の言葉を聞き、そして考えている。
悶々と考えているバランに鼻の長い老人は簡単に言い換えてまた口にした。
「剣は自ずと動くことは出来ん。人が手に取り、構えるからこそ剣は武器としての役割を果たす。そして剣に秘められた力も装備者が自然と引き出す。剣はそれを理解し、お主を使っておるんじゃ」
そう言われてもなんとも分かりずらいといった表情でバランは唸っていた。
「まぁそう難しく考えんでいい。ただ言えることは、この剣は最上大業物に負けるとも劣らないとんでもない剣じゃということ、お主は未だこの剣の欠片も力を引き出せていないということじゃ」
「欠片も?」
「そうじゃ」
鼻の長い老人はバランに剣を投げ渡す。それを手に取り、バランは剣に目を落とした。
「お主を宿主と選んだその剣はまだお主を認めてはおらん。だから力もろくに引き出せん。まずはその剣にお主を示すんじゃな」
「俺を示すって、どうやりゃいいんだ?」
「その答えは自ずと見えてくる。そして、その剣の真名もな」
剣の柄を強く握り、剣身をじっと見る。光をも反射しないほどに黒く淀んだ剣身は何故かバランの顔を写していた。噴出口から勢いよく靄が噴出し、剣を覆う。そして靄が晴れると同時に剣も姿を晦ました。
「そうじゃ、自己紹介せんとな」
突然思い出したかのように鼻の長い老人はバランに近づいた。
「わしの名はリゲル、ドワーフの鍛治職人じゃ。武具に着いて聞きたいことがあればいつでも聞くといい」
「知ってるとは思うが改めて、俺はバランだ。よろしく」
鼻の長い老人リゲルとバランは固い握手を交わし、それからリゲルは部屋の奥へ二人を誘導した。
「泊まる場所はこの奥にある。生憎と一人暮らしなもんでな。昔は宿も兼ねて経営していたんじゃが、泊まりに来るもんもめっきり減って今じゃ一部屋しか空いとらん。悪いが二人で一つの部屋を使ってくれ」
「あぁ、わかった」
「あぁそれとな」
リゲルは足を止め、指を立てて軽く二人を見た。
「ここは声がよく通る。じゃから夜は盛るでないぞ」
「その減らず口をぶっ潰してやろうかエロジジイ」
アルデが指の骨を鳴らしてリゲルを睨みつける。それに対しリゲルは笑って歩き出した。
「冗談じゃよ冗談。まぁでも声が響くのは確かじゃ。声量には気をつけるんじゃぞ。こんなヨボヨボのジジイに何聞かれようがどうでもいいだろうがな」
リゲルはまた笑い、奥へ奥へと二人を案内する。
「悪いなバラン、こんな爺さんで」
「いや別に、俺は気にしない」
と、言いつつもバランは超気にしていた。
──唐突に何言い出すかと思えばやめてくれ。ほんの数分前に色々考えたばっかなのに!くっそ……二人一つの部屋小っ恥ずかしくなってきた。変に意識しちまうだろうがクソジジイ!落ち着け、なんとかなる、大丈夫だ。今までフェルア達と野宿したこともある、その時を思い出せ
バランは昔の記憶を今に活かそうと過去を思い出していた。
……
…………
………………
バラン達は夜が深い森の奥で野宿することになった。
「いや〜、まさか討伐対象が夜型なんてな。昼に受注したのは間違いだった」
ファルバはそう言って笑い、かき集めた枝を丸い石垣の中に入れた。
「笑ってる場合じゃないわよほんと。森で野宿は危険なのよ?」
「大丈夫大丈夫、危ないものが出てきても俺が何とかするって!」
「はぁ、その自身はどこから来たんだか。シグマからも何か言ってやってよ」
唐突に話を振られ、火起こしの手を止めるシグマ。少し考える仕草をし、それから口を開いた。
「いいと思うぞ。こういう経験は滅多に出来ない。今は楽しんだ者勝ちだ」
「さすがシグマ!よくわかってる〜!」
「ダメだわこいつら」
肩を組むファルバとシグマを見てフェルアはため息をついた。その横でバランはただ黙って下を向いて丸太に腰かけていた。
それを見てフェルアはバランの隣に座った。
「ごめんね、あんなバカ二人に付き合わせちゃって」
「い、いや……大丈夫」
とても思い詰めているといった顔で下を向くバランにフェルアは慰めの言葉をかけた。
「ほら元気出してバラン。今ここにはあなたを卑下する者なんていないわ」
「……うん、そうだね」
それでもまだ不安そうな顔をするバラン。フェルアは少しの間考え、それからバランの手を握った。
「そんなに不安なら一緒に寝よ?夜は冷えるし」
「え……そ、それはいいよ。気持ちだけ、受け取っておくよ……」
「そう?ま、寒かったり怖くなったりしたらいつでも言ってね。一緒に寝てあげるから」
「う、うん……ありがとう……」
バランのその言葉にフェルアは微笑んだ。それを少し離れた位置から見ていたファルバはシグマはじとっとした顔で二人を見た。
「すみませんが恋人オーラ出すのやめてもらっていいですか?」
「ちょっと眩しい」
「なっ!そんなの出てないわよ!ほら、さっさと火起こしする!」
「「はーい」」
その時フェルアの頬は少しだけ赤らんでいた。丸太に腰かけていたバランはそんなことを知る由はなかった。
………………
…………
……
バランは首を横に振った。
──なんの参考にもなりゃしねぇ……そもそもあの時は四人だったし、フェルアとも別々で寝たんだったな。懐かしいなぁ、あの時のファルバとシグマやけに楽しそうだったな
バランは昔の思い出に微笑んでいた。そして唐突にあることに疑問を抱いた。
──あれ、そういえばなんでフェルアはあんなグイグイ来てたんだ?ファルバとシグマともむっちゃ仲良かったけど、なんか俺は……
そんな考え事をしてると、バランは壁に顔をぶつけた。
「おがっ!」
「バラン、大丈夫か?」
顔を抑えるバランにアルデが歩み寄って心配をしていた。バランは唸りながら口を開いた。
「だ、大丈夫。そんなに強くは打ってないから」
そんな会話をしている二人を見てリゲルは少しにやけていた。
「……何をにやけているんだ、爺さん」
「いんや?特に何も無いぞ?」
そう口にするリゲルをアルデは嫌そうに睨みつけた。
「……エロジジイが」
「なんも関係ないじゃろそれ」
リゲルはため息をつきながら目の前の扉を押し開けた。
「ここがお主達が泊まる部屋じゃ。好きに使うといい」
部屋はかなり広く、二人でも少し持て余すくらいだった。寝床が一つと机が一つ窓側に、机の近くに椅子が置かれ、さらに少し離れた場所に椅子がもうひとつ置かれていた。
「じゃ、わしは店番じゃから。何かあったら表に来てくれ」
「あぁ、わかった」
バランが返事を返すとリゲルは振り返り、元来た道を帰っていった。それを見届けてからバランとアルデは部屋に入った。
バランは椅子に座り、ため息をこぼした。
「なんか、色々と疲れるな」
それを見てアルデは少し申し訳なさそうに口を開いた。
「すまない、我の爺さんはああいう人なんだ。慣れて欲しい」
「あぁいや、疲れてるのはおっさんのせいじゃないんだ……半分はそうだけど」
独り言のように呟かれた否定の否定はアルデには届かなかった。アルデは首を傾げ、バランに問いかけた。
「爺さんのせいじゃないならなんだ?」
「それは……」
バランはアルデの問いに言葉を詰まらせた。
──こんな二人だけで意識してるなんて言いずらすぎるだろ!どうやって言い訳すりゃいいんだよこれ。考えろ、このまま黙るのもありなんだろうけど……んー
とても悩んでいるバランにアルデはまた申し訳なさそうにして言葉をかけた。
「話したくないのなら無理に話さなくてもいいんだ。突然問いかけてしまってすまないな」
アルデの言葉にバランは考え事を一度やめ、首を振った。
「いやいいんだ。ただちょっと……いやだいぶ言いにくいというかなんというか」
「そうなのか?まぁ話せるようになったらでいい。その時にまた話してくれ」
「あ、あぁ、わかった」
バランはアルデに背を向け、額に手を当てた。
──助かった……このままアルデに深追いされてたらやばかった。今こうしてやけに意識してるのもそうだが、俺はなんで今になって意識し始めたんだ?わからん、フェルアの時もこうはならなかったぞ……なんもわからん
バランはまたため息をこぼした。アルデはそれを横目に少し心配そうな顔をして、椅子に腰を下ろした。