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絶望のアルデバラン  作者: 朱華のキキョウ
Chapter0 絶望の淵
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Episode5 虚空と化す

「さぁ、どうするヘカーチ。俺はどれでもいい。もしくは、虫けら共に決めさせるか?」


 そう問いかけるバランにヘカーチは歯を食いしばった。


 ──私はどうしたらいい……このような下劣な怪物共を野放しにはできない。だからと言って、勝てる見込みもない。せめて、近くの街に助けを呼びに行けたら……


 考えれば考えるほど正解が遠退いていく気がしてヘカーチは気が気ではなかった。

 ヘカーチが民衆に目を向ける。皆顔を顰め、不安でいっぱいだと訴えている。死に怯える者、今この場所にいることへの絶望を顕にしている者、バランやアルデに憎しみを抱く者。皆それぞれ顔に出していた。

 それらを見るヘカーチもまた、顔に焦りを出していた。冷や汗を垂らし、ほんの少しだけ息が上がっている。

 考えることへの疲れもだが、何より民衆の不安がヘカーチの焦りを煽っている。


 ──そうか、民の数人に他の街へ助けを呼ぶよう伝えれば……いや、どう伝えるべきなのか。長い間、私は彼らと共に過ごしてきた。しかし、それでも特別仲がいいわけではない。目で合図を送ってもおそらく気づかない。ならばどう伝えるべきか……


 ヘカーチはますます顔色を悪くする。

 返答を待つバランはため息をつき、死体に腰を落とした。


「まだか?もうあれから十分は経ってる。そろそろ答えを出せ」


 回答を急かすバランにヘカーチは怒りを覚えるが、それをグッと堪え、首を横に振った。


 ──もう考えている暇はない。私に出来ることはただ一つ、これだけだ


 ヘカーチは膝を屈め、地面に片膝を着く。それを見た民衆の中の一人が口を開いた。


「やめてくれ!そんなヤツらの為に膝を着かないでくれ!」


 一人の言葉に釣られ、次々と民衆の中で声が上がる。


「そうだ!そんな悪魔なんかに!」

「そうよ!あなたが膝を着いたら、私たちはどうすればいいの!」

「お願いだ!膝なんて着かないでくれ!」

「頼む!」


 次々と上がる声にバランは耳を塞いだ。


「チッ、喧しい虫けら共だな。もうこのまま殺しちまうか」


 そう言ってバランが立ち上がった瞬間、ヘカーチが声を荒らげた。


「静まれ!」


 その声は曇った空に響き渡る。その声を聞いた民衆は途端に言葉を止め、静まり返った。

 それを見たヘカーチは更に口を開いた。


「それ以上、何も言うな。これが私の選択だ」


 ヘカーチの言葉に民衆は涙を浮かべる。ヘカーチは小さく民衆に微笑みかけ、それからもう片方の膝も地面に着けた。

 槍を隣に置き、体を前に倒してゆっくりと手を着き、頭を地面に着けた。


「……なんの真似だ?」


 バランの言葉にヘカーチは息を吸い、口を開いた。


「お願いだ。民だけでも、生かして欲しい」


 バランやアルデ、民衆の前でヘカーチは深く頭を下げ、土下座をした。

 バランは剣を地面に突き立て、ため息をついた。


「……それがお前の選択か」


 バランの言葉にヘカーチは返答さえしなかったが、土下座を辞めることは無かった。

 民衆から聞こえる涙する声。バランはそれを耳に入れながら剣を地面から抜き、肩にかけた。


「大した信念だな。アイツらを助けるため、プライドを捨て恥を恐れず膝を着き、手を着き、馬鹿にした俺に頭を下げる。一国を収める王様として最善を取った訳か」


 バランはもう一度死体に腰掛け、口を開いた。


「信念を掲げるお前にひとつ聞く。俺の身内の死は、お前の差し金か?」


 その問いかけに民衆がどよめく。そんな中ヘカーチは迷うことなく口を開いた。


「……そうだ。私が指示を促し、誘導した」

「……そうか」


 バランはまたも立ち上がり、ヘカーチに近づく。迫ってくる足音にヘカーチは緊張を走らせる。

 そして、バランがヘカーチの前で足を止めた。


「……お前が命令したのか」


 その声に少し身を震わせるヘカーチ。

 その場には突然と静寂が訪れ、風すらも静まり返っていた。長い長い静寂の後、バランがそれを断ち切り言葉を口にした。


「お前は、選択を間違えた」


 その言葉は一瞬で静寂は騒然へと変わり果てた。


「今からこの国諸共殺す。一匹たりとも生かす気など微塵もない。全員もれなくあの世送りだ」


 突然風が騒がしくなり、バラン達の髪を靡かせる。バランの言葉に動揺と焦りを隠せない民衆はどんどんと騒然としていく。


「う、嘘だろ」

「嫌だ、死にたくない!」

「逃げろー!」


 突如思い出したかのように逃げることを考え始める民衆。

 その場から走り出し、外壁へと一直線に走り出す。それを見てアルデが嘲笑い、口を開いた。


「今になって逃げることを考えるようになるなんて。猿でも一番最初に考える。だが賢明な判断とは言えないな。考え始めるのが遅すぎだ」


 アルデがそう不敵な笑みを浮かべて口にする。少し経つと、遠くから悲鳴にも似た叫び声が響いた。


「どうなってる!出られない!」

「助けてくれ!ここから出してくれ!」

「死にたくない!嫌だ!誰かぁ!」


 響き渡る嘆きの数々にバランは笑みを浮かべ、剣を掲げた。


「さてと、そろそろ幕引きの時間だ」

「くっ、させるか!」


 先程まで土下座していたヘカーチが突然立ち上がり、ものすごい勢いで目の前に経つバランに襲いかかった。

 だが、ヘカーチの抵抗は無謀に終わった。

 首元を掴まれ、大きな体も軽々と持ち上げられる。


「考えは悪くない。だが奇襲をするなら声を上げずにしろ」


 首元を掴まれたヘカーチは投げ飛ばされ、地面を転がった。


「ぐおっ!」


 ヘカーチはバランが吊るされていた処刑台にぶつかり、停止する。


「まずは一つ目だ」

「やめろっ……やめろォ!」

「-真月 深淵-」


 ヘカーチの言葉はバランに届かず、黒い剣は黒い靄を勢いよく噴出口から噴出させ、地面に突き刺さった。

 その瞬間、世界が真っ暗に落ち、音や香り、味さえも消し去った。

 次に暗闇が晴れた時には国があった痕跡はなく、地面には大きな半円の穴が空いていた。

 空気が弧を描く地面を滑り、バランの隣を吹き抜ける。


「……とんでもない威力だな」


 歩み寄ってくるアルデにバランも頷いた。


「あぁ、これは凄まじいな……」


 バランは剣から出る黒い靄を見る。靄はゆらゆらと揺れ、宙へと逃げていく。先程の勢いよく吹き出た時とは大違いだ。


 ──この黒い靄に爆発的な力を産む何かがあるのか?全くわからんな。黒い靄が力を生み出す、もしくは力に何らかの影響を与える。奇妙な話だ


 バランは剣を地面に突き立てた。

 そして、目の前でボロボロになりながら息をするヘカーチに目を向ける。


「よぉ、生き残ったんだな、お前ただ一人」


 バランの言葉にヘカーチは目だけ向ける。返答を返さず、口で呼吸を繰り返す。


「誰一人守れず、ここで地面に這いつくばって。まだ生きたいか?貪欲だな」


 バランは剣を地面から抉りとり、ヘカーチの眼前に剣先を向けた。


「このままお前の息の根を絶っても俺的にはいいんだが、ちょっと面白みが足りないって顔をアルデがしてるし、ちと遊んでけよ」


 そう口にし、剣を振り下ろす。鈍い音と共にヘカーチの四肢が地面を転がった。


「……ぁ、ぁぁ……ああああああああ!」

「叫ぶほどのことかよ。アルデ、どうすんだ?」

「後は我がやろう」


 痛みと恐怖に叫ぶヘカーチにアルデが魔法をかけた。


「 ” ヒーモステイシス ” 」


 アルデの口から言葉が放たれた瞬間、ヘカーチの綺麗な断面から溢れる血が止まる。


「はぁはぁはぁ」


 過呼吸を起こすヘカーチを仰向けに倒し、アルデはまた魔法を口にする。


「 ” テンタクル ” 」


 ヘカーチの傷口が沸騰したようにボコボコと音を立てる。


「ぐああああっああ、ああああ!」


 一際大きな声が空虚に響く。その直後、肉を引きちぎる音と共に無数の触手がヘカーチの断面から溢れる。触手は赤く染まり、血を垂らしていた。


「一時間、それに耐えたら生かしてやろう」

「ああああ!あ、あぁっ、あああああ!」


 傷口で暴れる触手にヘカーチは叫び、全く動かない体を小さく揺らす。


「まぁ、一時間耐えれるかどうか、我らは見る気などないがな。せいぜい貪欲に抗うといい」


 ガラガラになった声でまだ叫び、痛みに体を揺らすヘカーチにアルデは鼻で笑った。


「実に滑稽だぞ」


 アルデはそう言ってヘカーチに背を向ける。バランは剣を肩にかけ、アルデの隣を歩く。


「がんばれー」


 興味がないと言わんばかりの声でバランは笑顔でそう告げた。

 曇っていた空はいつの間にか晴れ、今虚空となった穴を照らした。

 それを背にバランとアルデは歩を進め、口を開く。


「次はどうするんだ?バラン」


 アルデの問いかけにバランは首を傾げた。


「どうすっかな」


 その時、バランはアルデの顔を初めて目にした。整った顔立ち、獣のように鋭い瞳孔に小さくはみ出る八重歯。そして何より特徴的なのが傷もなく閉じた左眼。

 バランは眉を顰め、アルデの左眼に触れた。


「この眼、なんで閉じてるんだ?」


 その問いかけにアルデはバランの手を取り、バランの左眼に手を動かした。

 バランの手は自分の左眼を触る。傷がある訳では無いが、閉じている。開こうとしても開かない左眼にバランはため息をついた。


「そういうことか。とんだ迷惑かけたな」

「迷惑などと思ってはいない。相棒と同じになる呪いってだけだ」

「はっ、嬉しそうにふざけたこと言いやがる」


 バランはそう言って地面に落ちている石を拾い上げる。それを半分に斬り、片割れをアルデに渡した。


「ドMか?」

「ちげぇよ」


 鼻で笑うアルデに微笑みながら反論するバラン。片割れの石を左眼に持っていき、バランは口を開いた。


「証だよ」

「証……魔王になるためのか?」

「似たような感じだな。嫌ならしなくていいぞ」

「我の相棒が誘ったんだ、付き合おう」


 バランは笑みを零し、勢いよく角を左眼に擦らせた。縦に赤い線が走り、閉じた左眼から血が垂れる。


「──っ!」


 左眼を抑え、しゃがみ込むバランにアルデは不敵に笑みを零した。


「バランから誘ったのに、痛みに悶えるんだな」

「し、しゃぁねぇだろ。いてぇもんはいてぇんだよ。そういうお前は痛くないのか?」

「こういう痛みには慣れている。眼は初めてだがな」

「そうか」


 垂れる血を親指で掬い、バランは立ち上がった。


「っし、行くか。次の目的地はトウスリーがいにするか」

「確か、魔術が栄えた街だったか」

「そうだな。さっさと行ってぶっ壊すぞ」

「そう急かさずとも分かっている」


 先に進むバランにアルデがそう言い、後を追った。

 それから一時間が経過した。風が吹き抜ける虚空に複数の足音が近づく。


「どうなってる、ポタステート街が消えてる……」

「……王の言っていたことは本当だったのか」

「見ろ!あそこに生き残りだぞ!」


 一人が指を差す。付き添いの二人はその指の先に目を向けた。確かにそこには人が倒れていた。


「近くに行って確認しよう!」


 跨った馬の手綱を引き、倒れている人に近づく。そこには四肢がなく、目と口を大きく開いて死んでいる男性がいた。

 傷口には触手が生えており、未だに動いていた。


「な、なんだこれ」

「う、うおぇっ!」

「お、おい大丈夫か?」

「大丈夫な訳、おえぇっ」


 死体を目にした一人が嘔吐する。それを後ろに一人が馬から降り、死体を確認する。


「……魔物じゃない、傷口が綺麗すぎる」

「嘘だろ、これ、人の仕業だってのかよ」

「……そう、なるだろうな」


 虚空に目を向ける二人。もう一人は吐けるだけ吐き、落ち着きを取り戻している途中だった。その時。


「おい見ろ!まだひとり生き残ってるぞ!」

「しかも動いてる!急いで連れて帰って手当だ!」

「吐き終わったんだったら早くしろ!王様にも報告しなきゃいけない!」

「分かっ、てるけど、ちょっと待ってくれ。ゴホッ!」


 騒ぐ三人の目が向く先、凹んだ地面の端に一人小さな男の子が両脚と片腕を無くしても地を這っていた。


「……ぜっ、たい……殺して、やる……悪魔ぁッ……!」

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