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絶望のアルデバラン  作者: 朱華のキキョウ
Chapter0 絶望の淵
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Episode4 残虐非道

 襲いかかる男。振りかぶった拳がバランを目掛けて飛んでくる。バランはそれを軽々と躱し、男の側頭部を蹴り、地面に叩きつけた。


「ぐっ!」

「おいどうした?さっきまでの威勢は」


 男を踏みつけるバラン。すぐに顔を上げ、振りかぶられた剣を防ぎ、はじき返す。


「こっちはひとりじゃねぇんだよ!」


 踏みつけられている男がそう口を開き、声を荒らげる。バランはため息をつき、襲いかかってくる民衆に剣を構えた。


「知るかよ、虫けらが」


 バランが横に真っ直ぐ剣を振った。その瞬間、刃が触れていないにも関わらず、民衆の体に深い斬り傷が入る。

 次々と傷ついた人達は倒れていく。浅く息をする民にバランは有無を言わさず剣を突き刺した。

 突き刺された人は目から光を失い、次第に息を忘れ、体の力が抜ける。バランは突き刺した剣を抜くために死体の頭を踏みつけ、勢いよく剣を抜いた。顔に真っ赤な返り血が付く。それを親指で払い、剣を振り上げた。


「次はお前だ」


 目を見開き、地面で痛みに蹲っている女を睨みつける。

 それを見た男は全身に力を入れ、歯を食いしばった。


「や、めろ……!」


 しかし、その言葉にバランは耳を傾けることも無く、女の体を踏みつけた。


「うっ!」


 民衆が止めに入ろうとするが、全員体が思うように動かない。いや、動こうとしなかった。助けようとは誰も思わなかった。ただ、目の前の光景に悲しみ、怒り、そして怯えた。


「やめろぉ!」


 十分に体を起こせていない状態で男が地面を蹴った。だが姿勢が悪く、地面に倒れてしまう。手を精一杯伸ばすが、届きはしない。


「……アク……タ……」


 細々とした声で女が男に目を向け、口を開く。

 アクタと呼ばれる男は目から涙を流し、一生懸命に手を伸ばす。その手を取ろうと女も力いっぱい手を伸ばした。

 そして、指が触れ合うか否やの瞬間に鈍い音が響き渡った。

 女の指は突如として脱力し、地面に落ちた。アクタは眼前の光景にただ行きも忘れ、瞳を揺らした。

 女の首と腕は剣に切り落とされ、止めどなく血を噴出させていた。


「あ?なんだお前の知り合いか?」


 バランは切り落とした女の首に手を伸ばし、髪を掴んで持ち上げる。それを口を開けて唖然としているアクタの前に置いた。


「……ぁ……ぁぁ……」


 目の前に置かれた悲しく微笑んでいる女の顔にゆっくりと手を伸ばす。だがその瞬間、女の顔は剣によって真っ二つに割られた。

 真っ二つに割れた顔の片面がアクタの片手に乗る。アクタは何故か咄嗟に手を引いた。それを見てバランは呆れたようにため息をついた。


「おいおい、大事な女なんだろ?じゃあしっかり持ってやれよ」


 そう言ってバランは先程アクタの手に乗った片顔面を拾い上げ、アクタの顔面に押し付けた。それによりアクタの顔は血塗れになった。


「大事な女なのにこんなになった途端そんな顔して見るのか?最低だな」


 バランは片割れの顔を頭上に投げ、剣を突き刺した。それを勢いよく振り、ただ立ち尽くす民衆に飛ばした。

 民衆は気味悪がり、その片割れの顔を避ける。

 それを見て哀れみ混じりに笑みを零す。その時、足元で小さく声が聞こえた。


「……ぶっ殺して、やる」


 憎悪に満ちた声がバランの耳に届く。

 バランはため息をつき、アクタに目を向ける。鋭い眼差しで睨みつけてくるアクタにバランは鼻で笑った。


「そういうのは立ち上がってから言うもんだぞ」


 バランは剣を振り上げた。

 アクタはバランを睨み続ける。剣が振り下ろされる直後まで。


「あの世で女の泣き顔でも見てこい」


 皮肉混じりに言葉を放った後、バランは勢いよく剣を振り下ろした。

 鈍い音と共にアクタの首は切り落とされ、血を撒き散らした。返り血を浴び、バランは笑った。


「あー、ダッセェ」


 バランはそう吐き捨てるように口にし、死体になったアクタの体を剣で突き刺した。そのまま切断された首元まで剣を引き、体を裂く。

 死体に手を伸ばし、血管を引きちぎって心臓を取り出す。それを握り潰し、民衆に投げる。


「うっ、うえぇぇぇ!」

「きゃあああああ!」


 嘔吐する者、悲鳴を上げる者、過呼吸になる者。民衆の精神状態は少しづつ悪くなっていく。

 それを見てバランはまた笑った。


「あぁ〜、おもしれぇ。あと何人殺してやろうかなぁ」


 バランは血塗れの指を舐め、歯を見せて笑った。

 民衆は慄き、更に精神状態を悪くさせる。


「……そこまでだ」


 その時、バランの後ろから声が聞こえる。民衆は声の主に目を向け、とても安堵した。

 バランは振り返る。そこには小太りの男が武器を手に立っていた。


「これ以上民を傷つけることは私が許さない」


 槍を地面に打ち付け、威嚇する小太りの男にバランは欠伸をした。


「へぇ。で?」


 剣を肩に担ぎ、小太りの男に体を向ける。小太りの男は槍をバランに向ける。


「私が直々に貴様を屠ってやろう。このブリリアント・ヘカーチが」


 高々と名乗りを上げる小太りの男、ヘカーチにバランはため息をついた。


「名前なんて聞いてねぇよ」


 剣を肩から下ろし、歩みを進める。どんどんヘカーチとバランの距離が近くなる。ヘカーチは槍を強く握り、息を吸った。

 そして、バランがヘカーチの射程圏内に入った瞬間に腕を動かした。


「はぁ!」


 空を切り、突き出される槍。しかし、槍はバランに当たらず、代わりに禍々しい剣に当たった。


「どうした?気合いを入れて俺を倒す気で攻撃を仕掛けたのに当たったのは俺の剣。ダセェな」


 そう言って槍を掴む。掴まれた槍を振り払おうとするヘカーチだったが、槍はビクともしない。


「なっ!」


 力いっぱいに引っ張っても、力いっぱいに振っても槍は動こうとしない。

 バランは鼻で笑った。


「おいおいほんとに大丈夫か?自信満々に攻撃してきたのに、焦りが顔に出てんぞ?」


 バランは槍を強く握り、勢いよく引っ張った。ヘカーチの体が前方に飛ぶ。唐突のことに体の制御が効かないヘカーチにバランは剣を振り上げた。

 バランは満面の笑みを浮かべ、どんどんと近づいてくるヘカーチに剣を振り下ろした。

 だが、剣はヘカーチに当たる前に金属と衝突する。勢いのついていたヘカーチの体は突然と停止する。


「カ、カルベレン殿!」


 ヘカーチが名前を口にする。ヘカーチを担ぎ、バランの攻撃を防いだガタイのいい男。それがカルベレンという千羅竜を統治する男だった。

 バランは残念そうな顔をし、距離を取る。


「なんだよぉ、もうちょっとでそいつをぐちゃぐちゃにできたのに」


 地面に剣を突き立て、肘を置く。そんなバランに歯を食いしばり、カルベレンは声を張った。


「醜き男よ。そんなふざけた女と契約し、あまつさえこの国を滅ぼそうと邪悪な考えに民を苦しめる不義行為。貴様らのような悪魔はこの俺が葬る!」


 カルベレンの声に耳を塞ぎ、ため息をつくバラン。地面から剣を抜き、呆れ顔で笑った。


「多くの人間を苦しめるのは不義行為なのに、俺とアルデのたった二人を苦しめることは正義行為なのか?とんだ茶番劇にも程があるな」


 バランは剣を肩に担ぎ、カルベレンに近づく。


「知ってるか?道徳ってのは、俺やその小太りの男と同じ人間が語ったエゴなんだぜ。それをお前らは当たり前だと認知し、正しいことだと思い込んでる。んなくそみてぇな決まり、いらねぇだろ」


 バランとカルベレンの距離が目と鼻の先になる。お互いがお互いを睨みつけ、その場を凍りつかせる。

 互いに殺気を立てる。その殺気は空気を淀し、濁らせる。

 そんな時、バランの肩に手が置かれる。


「バラン、少しそこを代わってくれ」


 暗闇の底で何度も聞いた声。バランは振り返ることも無く後ろに下がり、カルベレンと距離を取った。


「悪いな。我にとってこの男は死んでも殺したい男なんだ」


 アルデはそう言ってカルベレンを見る。カルベレンはヘカーチを立たせ、腰に携えた剣の柄に手を伸ばす。


「貴様のような弱者はこの俺に挑むことさえ普段なら有り得ない。だが、今回だけは特別に──」「御託はいい。抜くなら抜けよ」


 話の腰を折り、更に余裕綽々で煽ってくるアルデにカルベレンは眉間に皺を寄せ、剣を勢いよく抜いた。


「いいだろう。貴様のその余裕を真っ向から断ち切り、存在ごと抹消してくれる」


 カルベレンは剣の柄を両手で握り、すぐに剣を振り上げた。


「死に際のセリフでも考えておくんだな!」


 カルベレンはそう言って剣を振り下ろす。その剣には白いイナズマが走り、当たりを照らした。

 目の前で振り下ろされる剣にアルデは不敵な笑みをこぼし、口を開いた。


「 ” クラック ” 」


 アルデの口から放たれたたった一つの言葉。その言葉は具現化する。

 突如として空間に亀裂が走る。それはカルベレンと剣を呑み込み、さらに肥大化していく。

 亀裂が地面へと触れた瞬間、亀裂は硝子のように砕け散り、空間をズラした。

 空間と同時にズレたカルベレンの体と剣は元に戻ろうとする空間の圧を受け、綺麗な断面をつけて切断される。

 横腹から脇に走る一直線の断面は雲から一瞬だけ顔を出した太陽によって真っ赤に光った。

 カルベレンの斬り落とされた上は断面を地面に付着させ、静止する。綺麗に切断された剣が地面に突き刺さる。その剣身も一瞬太陽の光を反射し、カルベレンの目を照らす。

 照らされた瞳孔は縮まらず、広がったまま前方を見ていた。

 アルデはカルベレンの死体に近づき、頭を踏み潰した。


「本当の弱者はどっちだったろうな」


 アルデは笑みを浮かべ、踵を返す。そしてまたひとつ言葉を放った。


「 ” ボラシティー ” 」


 言葉が放たれた直後、地面が割れ、何重もの牙を見せ、落ちてくるカルベレンの死体を貪った。

 カルベレンの死体を食し終えた割れた地面は何事も無かったかのように元に戻り、カルベレンがいた痕跡すらも残さなかった。

 バランはそれを横目で見届けたあと、目の前に立つヘカーチに剣を向けた。


「さ、お前はどうする?このままあの群れた虫けら共と死ぬか、逃亡して名誉を捨て死ぬか、俺に挑んで哀れに負けて死ぬか。気に入ったのを選べばいい。お前に生き残る道も虫けら共を助ける道もない」


 真顔で殺気を立てながら言葉を放つバランにヘカーチは苦虫を噛み潰したような顔を浮かべた。

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