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絶望のアルデバラン  作者: 朱華のキキョウ
Chapter1 継ぐもの
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Episode22 渡る襷

 アルデとガルガンは城の中を駆ける。城内はとても広く、どこかどの部屋かわからず、一つ一つ扉を開けながら進んでいる。


「くっ、この部屋でもないか」


 ガルガンはそう言い、扉を開けたまま別の部屋の扉を開ける。それを何度も何度も繰り返し、二人が通った道にある扉は全て開いたままになっていた。


「ガルガン、片っ端から開けていっても埒が明かない。目標を絞るぞ」

「目標を絞る?」


 首を傾げるガルガンにアルデは頷きを返し、扉に手を置いた。それからアルデは自分の考えをガルガンに伝える。


「ここからあそこまで、目に見える範囲の扉、全ての柄が今まで開けた扉と全く一緒だ。恐らくあの角の向こうも同じなのだろう」

「なるほど?」

「こういう大きな家、今回は城だな。扉や部屋がとても多いだろう。そういうところは大体重要な部屋の扉は他の扉と違って飾られていたり豪華になっているはずだ。家の主もわかるようにな」

「なるほど!」

「それでもあくまで我の憶測だ。本当かどうかは分からないが、今みたいに片っ端から開けるよりも良いだろう」

「そうだな。そうと分かれば他とは違う扉を探すぞ」


 目標を定め、二人は更に足を速めて城内を駆けた。次々と扉が目に入るが、どれも他と何も違わない見た目をしている。

 そうして二人は二階、三階と階段を上り、他とは違う扉を片っ端から探していく。

 気づけば二人は最上階へ上る階段を目の前に立っていた。


「恐らく、これが最後の上り階段。いるとすればこの先か」

「急ごう。妹が待ってる」


 そう言い、一歩踏み出したその時、アルデは眉を顰め、ガルガンの首根っこを引っ張った。


「ぐえっ!首締まるっ」

「すまないガルガン。だが、賢明な判断だと思ってくれ」


 アルデの目線の先、階段を上り切ったその先にはガルガンの妹を攫った男のうち一人、アルデを鎖で繋いだ男が立っていた。


「遅かったじゃないか、龍族ドラゴンけがれ」

「その呼び方、やめてくれないか。我にはアルデという名があるんだ」

「一緒だろ」


 男は階段を一段一段下り、アルデとガルガンへ近づく。


「残念だが、もう()()は助からない。行ったところで無駄だぞ」

「あ?知ったこっちゃねぇな。あいつが死んでも助け出してやるよ」


 その言葉にため息をこぼし、男は首を横に振った。


「バカの言うことはわからんな」

「召使いの中でも随一で頭が悪いと言われたお前には言われたくないな、エクベル」

「貴様よりは頭いいと思うぜ」


 エクベルはゆっくりと腕を動かし、頬を持ち上げてガルガンを指さした。ガルガンは魔法が来ると警戒して構える。その行動にエクベルは嘲笑ちょうしょうした。


「そんな警戒したところで意味なんてないよ、凡愚ぼんぐ戒火かいかもたらさん」


 突如ガルガンの足場が燃え上がる。ガルガンは直ぐに飛び退くか服に引火し、慌ててその火を消した。


「ちっ、面倒くせぇ魔法だな」

「貴様らに俺様は倒せない。この先にも誰一人進めない。ここで詰みなんだよ」


 不敵な笑みを浮かべ、歩みを進めるエクベル。それを見て拳を構えるガルガンだったが、アルデに肩を叩かれ、拳を下ろした。


「我が時間を稼ぐ。その隙に進め」

「は?何言ってんだ、もう魔法は使えないんじゃ──」

「低属の魔法は使える。時間稼ぎには使えるはずだ」

「それで突破できてもお前が」

「この程度で死にはしない。信じろ」


 言葉を喉で詰まらせる。ガルガンは深く悩んだが、真剣な眼差しを向けるアルデにため息をこぼした。


「じゃあ任せるぞ」

「相談は済んだか?」

「待ってくれてありがとな、それじゃあそこを退け!」


 前方に深く踏み込み、拳を構えるガルガン。エクベルは呆れた顔をし、腰にたずさえた剣を鞘から引き抜いた。


「相談した意味を考えろよ、馬鹿野郎が」

「お前も考えろよ、作戦練られてるってことぐらいな」


 そう言った瞬間、ガルガンがしゃがみ込む。その後ろでアルデが両手をエクベルに向けて待っていた。


「 ” ストラム ” !」


 魔法が唱えられる。それとほぼ同時にエクベルが後方に弾かれる。それに合わせて階段を駆け上がるガルガン。それをエクベルは目の端で追っていた。


「逃がすかよ!」


 後ろに振り向き、勢いのまま駆け上がるガルガンに近づき、剣を振り下ろす。


 ──作戦を練ったところで俺様には


 勝ちを確信し、笑みを浮かべたエクベルだったが、その笑みはすぐに消える。

 突如ガルガンが振り返り、エクベルの腹に拳を勢いよくぶつけた。


「先に進ませてもらう!」


 勢いを殺さずにガルガンを追いかけたため、拳の威力が想像以上に高く、エクベルは顔をしかめ、後方に怒涛どとうの如き勢いで殴り飛ばされた。

 殴り飛ばされたエクベルはアルデを通り過ぎ、床に激突する。激突した床が崩れ、エクベルを引きずり込んだ。


「アルデ!あとは任せた!」


 ガルガンはそう言葉を残し、残りの階段を駆け上って奥へと進んだ。

 それを見届け、アルデは崩れた床に全身を投げ込み、エクベルを追った。

 崩れた床が埃を舞わせ、周囲の視界を悪くする。アルデは瓦礫がれきに着地し、エクベルが落ちたであろうところまで歩く。


「くそ、これは減給確定かぁ」


 頭から滴る血を服で拭いながら言葉を零すエクベル。瓦礫を退かし、ゆっくりと立ち上がる。


「大丈夫か?」


 そこへ傷一つないアルデが現れ、エクベルに言葉を投げかける。その言葉にエクベルは眉をひそめた。


「煽りか貴様」

「別にそういうつもりでは無いが、大丈夫でなければ少なからず我が助かったというだけだ」


 頭を振り、エクベルは剣をアルデに突きつける。


「そうかよ、そうならなくて残念だったな」


 その言葉にアルデは頷きを返し、エクベルを指差した。しばし静寂が埃を払い、周囲の見渡しを良くしていく。


「……貴様を殺して俺様はあいつを殺しに行く」

「果たして、それは叶うか?」

「簡単だろ。俺様は貴様の上位の存在、竜人族ドラゴニュートだぞ。魔法が使えない龍族ドラゴンに負けるわけが無いだろ。もっとも、貴様はその中でも特に異端な()()()使()()()()()()だがな」

「魔法も剣も使えるからと、ちと慢心しすぎでは無いか?両方使えるということはどちらも中途半端な証、異端な我にすら敵わない」


 またもや流れる静寂。二人は一切お互いの目を離さず、じっと機を待った。

 抜けた床が軋み、一粒の瓦礫が自由落下を始める。その瓦礫は風の抵抗を難なく受け流し、音も立てずに落下する。そして、一粒の瓦礫は床に広がる岩石のような瓦礫にぶつかり、カツッと音を立てた。

 六徳りくとく、二人は口を揃えて魔法を使用した。


「 ” モウダウン ” !」

咎人とがびと天槍てんそうを齎さん!」


 体が宙に弾き飛ばされ、壁に薙ぎ払われるエクベルだったが、床に剣を突き刺し、勢いを殺してすぐに戦線復帰する。

 槍の雨をかわすアルデ、しかし一本躱し切れず、脹脛ふくらはぎ穿つらぬかれた。


「うぐっ!」


 体勢を崩したアルデにエクベルはかさず剣を振り下ろす。


「 ” ストラム ” !」


 だが、アルデの瞬時の対応によって後方に弾き飛ばされ、壁に激突する。

 脹脛に突き刺さった槍を引き抜き、床に投げ飛ばす。穿かれた脹脛からは血が止めどなく滴り、アルデの動きを封じる。


いった……」


 立ち上がろうとするが、力を入れる度に血が噴き出す。力も勝手に抜け、その場から動けない。

 壁に激突したエクベルは瓦礫を退かして立ち上がり、頭から垂れる血を拭ってアルデの前まで歩き、剣を突きつけた。


ようやく理解した、俺様に貴様の魔法が通用するなんておかしな話だと思ったが、ジルダンがられたからか」


 エクベルは剣を両手で持ち、首斬りの構えを取った。


「その脚ではもう立てないな。それに、魔力も底をきたようだな」


 切れた息を整え、エクベルは剣の柄を強く握り締める。そして、剣を勢い良く振り下ろした。


「あのバカもすぐ送ってやるよ!」


 振り下ろされる剣の刃はアルデの首を的確に狙い、首を切り落とさんとしていた。アルデは窮地に置かれていた。

 だがしかし、それでも尚アルデは笑みを浮かべ、エクベルに顔を向けた。


「誰が魔力切れだって言った?」

「──!」

「 ” リヴアウト ” !」


 エクベルの体が重力に押し潰されるように床に倒れ、剣を手放す。床を滑る剣を更に遠くへ滑らし、アルデはエクベルを見下した。


「どう、なってる……!俺様の真眼しんがんは、確かに貴様を、魔力切れと……!いや、何も間違いは無い……真眼は間違ってない……貴様、まさか命魔ともしびを!」


 服の裾をビリッと破き、脹脛に強く巻き付ける。震える脚でゆっくりと立ち上がり、アルデは笑みを浮かべる。


「我の命はもうないも同然。だが、ここで死ぬ気は無い。まだあるじバランに死を許可されていないからな。それに、我の役割は汝を殺すことでは無い、ただの時間稼ぎだ」


 アルデは脚を引きずりながらエクベルから距離を取り、壁にもたれ掛かる。


「そしてその時間稼ぎもこれで終わり……」

「何を言って──」

「あとは任せたぞ、バラン」


 その言葉が終わった直後、エクベルを縛る魔法が解ける。エクベルは両手で上半身を起こしながらアルデの言葉にはてなを浮かべていた。


 ──時間稼ぎ?俺様をあいつに近づけないためにか?でも今、()()()って……


 嫌な予感が全身に押し寄せる。エクベルはゆっくりと立ち上がり、後ろに顔を向けた。後ろの光景を見て、エクベルは漸くアルデの言葉を理解し、嫌な予感が確実なる悪寒へと変化した。


「脚いってぇな……()()まじで邪魔だな」


 そこには剣を肩に担いだバランとまだ少し吐き気を催しているアトリアが立っていた。

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