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絶望のアルデバラン  作者: 朱華のキキョウ
Chapter1 継ぐもの
22/27

Episode21 咎人

 鎧を着た死体を凍結させ、アトリアは口から気霜きそうを吐く。


「これで終わってくれたら良いんだけど……」


 その言葉を待っていたと言わんばかりに凍えた死体は見る見る色を取り戻し、また武器を手に取った。


「一体どういう原理なのよ」

「これはジルダンの魔法だよ」


 頭を悩ませるアトリアの隣に立ち、リーベットがそう口にする。


「あいつの魔法?」

「そう、彼は付与魔法の使い手。力を強くさせたり、体を頑丈にしたりさせることが出来る。もちろん、()()()()()()()()()()だって使える」

「魔法を無効化!?そんなのアリ?」

「文句を言いたい気持ちは分かるけど、それを使えちゃうのが彼だよ、はー面倒くさい」


 リーベットはそう言い、鎧を着た死体を殴り倒した。それを見てアトリアは眉を顰めた。


「……あなた、突然すごいことしだすのね」

「魔法が効かないなら仕方ないからね。剣とかは持てないから殴るしかないんだよ」

「まぁ……確かに、それが一番だけど」


 困惑しているアトリアの前を唐突にバランが現れ、剣がアトリアの髪を掠めた。


「──!?」

「あ、悪い」


 びっくりしすぎて尻もちをつくアトリアにバランは心の一切籠っていない謝罪を口にした。

 心無い謝罪にアトリアは立ち上がり、頬を膨らませ、尻を撫でながら怒っていた。


「ちょっとバラン!あとちょっとズレてたら私死んでたよね!?ね!?」

「実際当たってないしいいだろ」

「良くないよ!?全然!良くないよ!?」

「分かったから後にしてくれ。今斬りかかられてる途中なんだ」


 バランの言葉が終わった直後、剣がバランに振り下ろされる。それを剣で受け、死体の剣に滑らせて体を斬る。しかし、斬られた傷が血肉の引っ張り合いにより塞がり、次の一撃が飛んでくる。


「斬っても全く意味が無いなんて、便利だな」


 死体の腹を蹴飛ばし、ジルダンに剣を向けた。

 それに対しジルダンは首を振り、口を開いた。


「そこまで便利じゃないよ。魔力の消費は激しいし相手の攻撃方法に応じて付与魔法を変えなきゃいけない。頭も使うし疲れる」

「自分で戦えばいいだろ」

「軍隊の方が楽なんだよ」


 ガシャガシャと音を立てながら死体達が次々とバランの前に立ちはだかる。


「それにしても……屍の軍隊じゃ、君たちを殺すまでには至らないね。フィスティーナ、ファルティエラ」


 ジルダンに名を呼ばれ、体をビクッと震わせる。


「そこで震えてるならこっちについてよ」

「「えっ……」」

「まさか、嫌だなんて言わないよね。もしそんなこと言ったら、どうなるか……」


 ジルダンがゆっくりと振り向く。その一挙一動にフィスティーナとファルティエラは体を震わせる。

 フィスティーナとファルティエラの方に完全に顔が向いた瞬間、ジルダンは目をひん剥いて圧をかけた。


「……わかってるよね?」

「……え、と……」

「あ、あ……」


 顔を真っ青にして震える二人にジルダンは笑顔を向けた。


「大丈夫、ただで手伝ってなんて言わないよ。手伝ってくれたら殺さないし、二人が嫌がることはやめよう」

「「え」」

「どうかな?悪い話じゃないと思うんだ」


 そんな提案をするジルダンにリーベットは歯を食いしばった。


「……そんな根拠の無い提案をするなんて、君は悪魔か?」

「嫌だなぁ、悪魔だなんて。オレの何処が悪魔なんだい?」

「二人の心に漬け込んで嘘の提案をするような人を悪魔と言わずなんだと言うんだ」

「嘘?別に嘘じゃないけどなぁ……確かに、()()()()()()()()()けど、あの二人はこの提案、呑むと思うよ」

「そんな訳──」


 拳を強く握り締め、リーベットは怒りのままに声を荒らげようとする。が、互いに支え合い、立ち上がるフィスティーナとファルティエラに言葉が詰まった。


「……ごめん、リーベット」

「……ごめん、バラン」

「「……でも」」


 フィスティーナとファルティエラは左右の手を前に突き出し、涙を浮かべた目を向けて口を開いた。


「「……死にたくないから」」


 ジルダンは不敵な笑みを浮かべ、指を差した。


「まずはバランからだ」


 ジルダンの言葉にフィスティーナもファルティエラは頷くしか無かった。

 バランは何も言わず、剣を肩にかける。


 ──リーベットとカルミアは仲間を傷つけることはしないだろう。実質人質、なら無闇に攻撃はしてこない。なら、一番未知数のバランを初めに叩くのがいい


 ジルダンは考えを巡らせ、死体達をバランの方に向けた。


「さぁ、どうするバラン?」


 その問いにバランは何も反応せず、剣を肩にかけたまま立っていた。


 ──バランもさすがに仲間を攻撃するのはできないのか?それなら好都合、このまま全員殺して王から賜り物を貰うとしよう


 不敵な笑みを浮かべ、ジルダンはフィスティーナとファルティエラに攻撃を命令した。


「フィスティーナ、ファルティエラ、バランを攻撃しなさい」


 フィスティーナとファルティエラは震える手を何とか抑えながら申し訳なさそうな顔をバランに向けた。


「「……バラン、ごめんなさい」」


 そう言い、魔法の詠唱をしようとしたその時、バランが笑みを浮かべ、死体を薙ぎ払いながら走り出した。

 そのバランの行動に全員が驚きを隠せずにいる中、アトリアだけは確信していた。


「待って、バラン!」


 その言葉を言い終わるか終わらないかの時には既にバランはフィスティーナとファルティエラの目の前に立っていた。


「バラ──」


 言葉は途切れ、剣は勢い良く流れ、鈍い音が周囲の静寂を震えさせる。


「──え」


 ファルティエラは腑抜けた声を出し、フィスティーナに顔を向ける。フィスティーナもゆっくりとファルティエラに顔を向けるが、その道中で顔半分が地面に滑り落ちる。

 顔の断面から噴き出す血がファルティエラの顔にかかる。ファルティエラは自分の顔に触れ、手についた血をただ呆然と眺めた。それから少し経ち、フィスティーナの体が地面に倒れる。


「……ど……ぅ、して」


 自分の手から視線を変え、バランに目を向ける。ファルティエラの目に映ったバランの顔は。


「どうして?もう約束は果たしたろ?なら生かす理由なんてねぇよなぁ!」


 剣を振り、ファルティエラの胴を横に両断する。ファルティエラは止めどなく涙を流した。


「……これが、裏切った報いなのかな、フィスティー、ナ──」


 ファルティエラは膝をつき、地面に倒れ伏す。その時、斬られた上半身が下半身から分裂し、血を撒き散らす。それを見たバランの顔は。


「ひ、ヒヒヒ、あははははは!」


 とてつもなく笑顔だった。そしてバランは地面に倒れるフィスティーナとファルティエラの体を踏みつけ、剣を突き刺した。


「はははははは!いひひひひはははは!」

「……悪魔」


 ジルダンが思わず言葉を漏らす。その言葉にバランは嬉しそうに口を動かした。


「クヒヒ、嬉しいなぁ、そんなに褒めてくれるなんてよォ!」


 バランは剣に突き刺さった頭をジルダンへと投げ飛ばす。

 ジルダンは顔を真っ青にし、その頭を躱した。投げられた頭に注意を向けすぎたジルダンは気づけなかった。バランが目と鼻の先にいるということに。


「さっき自分で言ってたこと、忘れたのか?油断大敵ってよォ!」


 黒い靄を噴き出しながら剣がジルダンの体に当たる。刃はくぐもり、肉をただただ斬り裂いていく。


 ──斬られ


  思考が勝手に巡ろうとする。だが、先程飛んできた顔と目が合う。瞳孔が開き、死の淵へと引き込むかのようにただじっと、ただひたすらに凝視する。そのまなこが思考を鈍らせる、思考を遮断する、ジルダンを、殺していく。


「──へ」


 視線が傾く。地面が近づき、目線が眼からズレる。天地が逆転する感覚が悠悠ゆうゆうと流れる。洩れた声も、振り払われた剣も、噴き出す黒い靄も、恐ろしい破顔はがんを浮かべるバランも、目に映る万事が延延と感じる。

 地面に落ちる刹那さえ十数分と憶え、意思すらも遅延する。

 地面に激突し、首がガクッと曲がる。骨が砕け、動かせなくなる。その砕けた首は投げ飛ばされた顔の方に固定され、悉皆しっかい動かせない。目と目が合わさる。

 ジルダンが息絶えるまでの刹那、ジルダンの体が憶える縷縷るるたる刻の間、目と目は離れることはなく、ジルダンを恐怖の奈落ならくへと引きずり込んでいった。


「キヒヒ、はぁあ。ちょっと笑い疲れたなぁ。グヒヒヒ」


 笑顔を浮かべ、とても満足そうな顔をするバランにリーベットは嫌悪感さえ覚えた。


「……バラン、君は……本当に人、なのか……」

「あ?当たり前だろ」


 立ち尽くすジルダンの下半身を蹴り倒し、バランはリーベットに近づく。

 一歩、二歩と後じさるリーベットは震えた脚が体を支えきれず、膝から崩れ落ちた。そんなリーベットの目の前に立ち、バランは剣を肩にかけ、不敵に笑った。


「人間だからここまで醜くなれるんだぜ。最っ高だよなぁ」

「……狂ってる」

「褒め言葉として受け取っておくぜ」


 リーベットに背を向け、バランは歩き出した。地面に横たわる姉妹の体を踏みつけながら。


「行くぞ、まだ終わりじゃないからな」

「……もしかして、リゲルってこれ見慣れてるの……?ちょっと、私無理かも」


 吐きそうなのを必死に抑え、アトリアはゆっくりとバランの後を追う。

 リーベットは未だ恐怖によって立てず、姉妹の亡骸に目を向けた。


「……今まで、多くの人を殺した末路なのかな」


 独り言のように口から漏れる言葉は自然と震え、何もかもを諦めたようだった。


「……報われたかったのにな……報いが回ってくるなんて、なんで必死に生きてたのか、分からなくなっちゃったよ」


 リーベットの脚は震えているにも関わらず、何とはなしに姉妹の亡骸に近づき、頭を撫でた。


「……やっぱり、生きるのすら……面倒くさいなぁ」


 リーベットはしばらくの間、姉妹の亡骸の隣で漠然と思考を巡らせていた。

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