Episode20 植え付けられたトラウマ
「あ?なんだ、もう終わりか?」
そう言ってバランは握り締めた敵の髪を手放し、剣を死体に突き立てた。
「ふぅ、もうやりたくないな、こんな大勢相手」
「何言ってるのリーベット」
「そうだよリーベット」
ファルティエラとフィスティーナの言葉にリーベットは嫌な顔を浮かべ、明らかに面倒だという雰囲気を醸し出した。
「……もしかして」
「きっとまだまだ来るよね、フィスティーナ」
「多分来るよね、ファルティエラ」
「えー、もう本当にいや──」
リーベットが言葉を続けようとしたその時だった。
「「……!」」
「「!?」」
「……んあ?」
全員が反応した。同じ方向を見て、ほぼ同じ反応をして、そして、バランを省いた全員が背を寒くさせられた。
「──誰かと思ったら、お前らだったか」
「……あ、主……様」
「……ある、じ……」
ファルティエラとフィスティーナは互いに手を合わせ、体を震わせながら地面に膝をついた。
「随分と暴れてくれたな、雌豚共が」
「「ヒッ……」」
ファルティエラとフィスティーナは完全に怖気づき、動けなくなっていた。
「ダルズダン、その呼び方良くないって何度も言ったよね」
「何の抵抗もなく体差し出す女にそう言って何が悪いんだよ。それに、お前もだぞ、リーベット」
「……っ」
「主であるオレサマにその言い種、教育が必要みたいだな。雌豚共もだ」
「「……ごめ、な……さ──」」
「こいつが言ってたやつか?面白くなさそうなやつだな」
バランの言葉にアトリア含め全員が目を丸くした。それは遠くからこちらを見ている二人も同じだった。
「……テメェ、今なんつった?」
「あ?聞こえないのか?耳の遠いやつだな。もう一度言ってやるからその耳の穴かっぽじってちゃんと聞けよ」
バランはそう言い、死体から剣を抜き、ダルズダンに剣先を向けた。
「面白くなさそうだって言ったんだよ」
「テメェふざけんなよ、ぶっ殺してやるよ」
「ちょっとバラン!何怒らせてるのよ!」
「別にいいだろ、ホントのことなんだし」
「だからって──」
「カルミア、テメェも殺してやるよ……いや、その前にオレサマが存分に使ってやるよ」
その言葉にアトリアは眉を顰め、手を握り締める。そしてバランに言葉を投げかけた。
「……バラン、こいつぶっ殺すわよ」
「あ?急にどうし……あぁ、わかった、殺すか」
「テメェらに殺せるわけないだろうが」
「調子に乗れるのも今のうちよ、カス野郎」
剣幕を悪くしたアトリアはダルズダンに人差し指を向けた。
「後悔しなさい、カス野郎。全身バラバラに砕いてやるわ」
「やれるもんならやってみろ性奴隷が!」
ダルズダンは凍てつく地面を躱し、アトリアに拳を振りかざした。
しかし、横からの攻撃に足を止め、後方に回避する。
「おぉ、勘いいな」
「実力だって気づけないテメェは弱いな」
「実力?面白くもない相手の実力探る必要ないだろ」
「なんだと──」
「──捕まえた」
「!?」
バランに気を取られているうちに足場が凍りつき、足を取られていた。
「貫け!」
アトリアの言葉に地面に広がる氷が反応し、ダルズダンに鋭い氷柱を突き立てようとする。
「そんなもん喰らうわけ──」
「お前、やっぱり面白くないな」
「は?──」
地面から伸び出す氷柱を砕こうとした瞬間、バランがダルズダンの背から剣を突き立てる。
鈍い音を奏で、バランの剣とアトリアの氷柱はダルズダンを貫いた。
「ごはっ!……クソゴミが」
「そこに転がってるやつらの方が面白かったわ」
バランはため息をつき、剣を捻り、ダルズダンの上半身を斬り裂いた。その瞬間にダルズダンの体は凍てつき、冷気を漂わせた。
「これで、有言実行ね」
アトリアは凍てついたダルズダンの前まで歩き、勢いよく蹴飛ばした。凍てついたダルズダンの体は砕け散り、ゴトゴトと重い音を立てながら地面を滑った。
砕けて地を滑るダルズダンの片目が底の厚い靴に踏み壊された。
「全く、油断大敵一寸先闇……何度も教えただろうに」
上げられた靴底から血が滴り落ちる。それを目にしてアトリアは眉を顰めた。
「仲間の破片を踏み潰すなんて、やっぱりまともじゃないね、ジルダン」
アトリアの言葉にジルダンは笑みを浮かべ、靴底の血を払い落とした。
「叛逆の淫乱魔……オレのであんな声を出してたとは思えない顔だな」
「あれは演技よ。男は、女性の甘〜い声に興奮が高まって知能が落ちるから、そんなこともわからないなんて、ホント……乙女心がわからない変態おじさんね」
「演技?そうには見えなかったけど、じゃあもう一回喘がせてあげるよ」
そう言い、ジルダンは指をパチンと鳴らす。音が城中に響き渡り、空間を揺らす。
「……さぁ、起きた起きた。仕事の時間だ」
その言葉を合図に先程まで地面に倒れていた兵士の死体がむくっと起き上がり、武器を取り始めた。
その光景にリーベットは汗を顎から滴らせた。
「やっぱりこんな面倒なことになるよね……」
「第二試合と行こう。敵をなぎ倒せ、死者操染」
死した兵士たちが武器を構え、一斉に走り、バランたちに武器を振り下ろした。
一方、アルデとガルガンは城の正門前まで来ていた。
「準備はいいか、アルデ」
「我は問題ない」
「よし、それじゃあ──」
ガルガンが正門の鉄柵に手を掛けた。その直後、とてつもない音と共に城の扉とその周りの壁が崩れ、バランが飛び出してきた。
「バラン!」
アルデがそう叫ぶと同時にバランは背中から鉄柵にぶつかり、地面に倒れる。その後、ゆっくりと体を起こした。
「アルデか?遅かったな、こっちはもうやってるところだ」
「こっちの攻撃に耐えて、更には鉄に激突しても普通に立てるなんて……魔物に魅入られず能力すら持たないとは思えない頑丈さだ」
砂埃の先からジルダンが現れる。その周りを鎧を着た死体達が進む。
「この剣のおかげってやつだ」
「剣?よく分からないけど、まぁタフなのはわかったよ……ん?」
ジルダンが顎に手を当て、ガルガンを見る。そして、ゆっくりと頬を上げ、嘲るように笑った。
「おぉ、ガルガンじゃないか。久しぶりだね」
「お前の顔なんて二度と見たくなかったんだが。それよりも、俺の妹を返せ」
その言葉にジルダンは鼻で笑い、首を横に振った。
「悪いけど、それは無理な話だよ。もう既に儀式の準備は始まってる。もう時期準備も終え、最終段階に差し掛かる。もう手遅れだよ。あぁ、でも──」
ジルダンは頬を更に持ち上げ、不敵な笑みを浮かべてガルガンを挑発した。
「──その前に男共に揉まれるかもねぇ」
「──!」
バキッと音が鳴り響き、鉄柵がガルガンの手によって歪められる。歯を食いしばり、歯茎から血を垂らすガルガンの目には怒りが込み上げていた。
「全員ぶっ殺す」
「やれるものならやってみなよ、まぁ無理な話だけどね。じゃあ始末しちゃって」
ジルダンが手を叩く。それを合図に鎧を着た死体達は金属の擦れる音を立てながら剣を掲げ、バランに向かって走った。
「めんどくせぇなぁ……こんな生ゴミとやり合っても楽しくねぇんだよ。いい加減にしろよ腰抜けが」
「挑発のつもりか?下手だなぁ、その程度で僕が前に出るわけないじゃないか」
「挑発?何言ってんだよ事実だろ。ったく……耳まで腐ってるみてぇだ、なっ!」
黒い靄を漂わせる剣は鎧をいとも簡単に斬り、死体の体を両断する。
「何ボーッと見てんだよ、手伝うか先行くかしてくれ」
「進みたいのは山々だが、どうも邪魔が多いみたいでな」
「魔法ぐらい使えばすぐ突破できるだろ」
「先程強力な魔法を使ったばかりなんだ、魔力があまりない」
「はぁ、じゃあ俺が道を開ける、それで進めるだろ」
バランとアルデの会話にジルダンはまた鼻で笑い、呆れ口調で言葉を発した。
「道を開ける?残念だけど君には無理だよ。全員もれなくここで死ぬ。あの淫魔もめんどくさがり屋も双子姉妹も全員、もちろんそこ三人も例外なくね」
「言ってろ」
剣を両手で持ち、バランは勢い良く横に振り払った。
「-黒闢 朧月-」
剣から溢れる黒い靄が斬撃となってジルダンの元へ飛んでいく。
ジルダンはそれを防ぐために鎧を着た死体達を盾にする。しかし、靄の斬撃は死体達にぶつかると同時に勢いよく分散し、鎧を着た死体達とジルダンの視界を塞いだ。
「ほら、早く行けよ」
「すまないなバラン」
「ありがとう、この恩は返す」
「別にいい、どうせ俺が覚えてないだろうしな」
そんな短な問答を終え、アルデとガルガンは靄の中に消えていった。
それを見てからバランは口を開いた。
「最初から通す気だったろ、お前」
その言葉に答えるように靄を払ってジルダンが現れる。それからジルダンは笑みを浮かべ、口を開いた。
「そんなことないさ、本当に、前が見えなかっただけだよ」
「全く、調子のいい野郎だな」
「そんなことより、続きを始めようか」
そう言い、ジルダンはまた鎧を着た死体達を並べた。
「はぁ……ほんと、つくづく面白みのない奴だな」
黒い靄が漂う剣を肩にかけ、バランはため息をついた。




