Episode18 誓い
突然のことにバランは困惑していた。
「あ?助けてください?何、どゆこと?」
戸惑うバランを見てフィスティーナが口を開く。
「……私たちは、元々奴隷の身。任務のためにと依頼主に買われて、今まで負けることは許されなかった」
それに続いてファルティエラも口を開いた。
「失敗すれば殺すと、言われ続けてきたから。私たちは死にたくなくて、今まで負けずに頑張ってきた」
そして二人は揃ってバランに目を向け、口を同時に開いた。
「「でも、今回は失敗した……私たちは今こうして負けた。だから、殺されちゃう」」
「なるほどな。だが俺に言われても困るな。頼むならこのおっさんにしてくれよ」
「えっ、わし?そんな面倒事引き受けたくはないんじゃがなぁ」
「「お願いします」」
二人は頭を深々と下げ、涙声で続けた。
「ファルティエラを」「フィスティーナを」
「「助けてください……なんでもします」」
二人の意思は固いものだった。バランもリゲルも、その意思を切り捨てるほどの頭はなかった。
「助けるっつっても、どうするんだ?その依頼主殺すのか?」
「……一番は、依頼主を殺すこと」
「でも依頼主は強い。この街でも屈指の力を持ってる」
その言葉にリゲルが手を顎に当て、考え始めた。
「ほう、この街でも屈指の力を……」
「なんだ、知り合いか?」
「屈指の実力を持つ者ならば名前ぐらいは知っておる。ヴェグネット、サイザー、ルビリオン、ボルガナ……他にも数人おるが、ざっと有名なのはこの五人じゃな。その依頼主の名前は今の五人の中におるか?」
リゲルの問いかけにフィスティーナとファルティエラは首を横に振った。
「「依頼主の名前は、知らない」」
「……知らない?」
二人の言葉にリゲルはまた首を傾げた。
「珍しいのぉ、名を隠して依頼しとるのは」
「依頼主は名前を教えるもんなのか?」
「基本はの、請負人に信頼を与えるためじゃ。まぁ、この子娘二人は奴隷じゃったようじゃし、名を教えられんのも納得か」
「「……でも、顔に特徴があるのは覚えてる」」
リゲルの話が終えるのを待っていたかのようなところで二人が口を開き、そんなことを話した。
「ほう?顔に特徴、ならばダルズダンという男じゃないかの」
「ダルズダン?」
「この街でも指折りの魔法使いで、能力に低魔法無効というのを持っとる」
「低魔法無効?強いのかそれ?」
「ほとんどの魔法使いは低魔法で戦う。魔力消費が抑えられるからじゃな。じゃからほとんどの魔法使い相手では歯が立たんのじゃよ」
「へぇ、面白い能力だな」
「まぁ、相手になれば厄介じゃがの。低魔法は能力によって無効、強魔法は同じく強魔法で相殺すれば、一方的な蹂躙ができるからのぉ」
リゲルはそれから少し唸り、フィスティーナとファルティエラに問いかけた。
「お主らは奴隷として買われた時から失敗すれば殺すと言われとったのか?」
リゲルの問いかけに二人は同時に頷く。それに対し、リゲルはまた唸り出した。
「どうした、そんなに唸って」
唸り続けるリゲルを見てバランが問いかける。リゲルは唸るのをやめ、バランに顔を向けた。
「いやのぉ、彼奴はそういう性格じゃなかったからな、おかしいと思ったんじゃよ」
「……依頼主は最初から厳しかった」
「……呑み込みが遅い時は何度も殴られた」
「ふむ……」
二人の言葉にリゲルはまた唸り出した。
「……彼奴はこの街でもかなりのお人好しじゃった。そのお人好しさはまるで仏とも呼べるほどじゃった」
突然語り出すリゲルにフィスティーナとファルティエラは眉を顰めながら聞き耳を立てた。
「人だけでは無い。小動物や魔物にも優しくてのぉ、周囲からは気味悪がられるくらいじゃったわ。そんなある日、この街に旅人が一人来おったんじゃ。ダルズダンはそやつを家に泊めさせた。その旅人は千里眼という能力を持っていてのぉ、他人の心が読めるものじゃった。数日留まったその旅人は酷くダルズダンを信頼しておった。それほど彼奴は優しかったんじゃ」
それからリゲルは二人に問いかけをした。
「お主らがダルズダンに買われたのはいつ頃じゃ?」
二人は口を揃えて言った。
「「……五ヶ月前」」
「五ヶ月前か……」
またリゲルは考え出す。そんな中ファルティエラとフィスティーナはバランの足を掴んで身を潜めた。
「……何してんだ」
「あの人、怖い」
「怖い」
二人はそう言ってバランの足元に隠れる。バランはため息をつき、リゲルに目を向けた。
ずっと悩んでいたリゲルは突然頷き、口を開いた。
「わしが最後に彼奴と杯を交わしたのは一年ほど前じゃから、その小娘たちが買われるまでの七ヶ月間の間で彼奴に何かが起きたんじゃろう……」
結論を口にするリゲルだったが、バランの足元に隠れるフィスティーナとファルティエラを見て首を傾げた。
「……小娘たちは何をしとるんじゃ?」
「おっさんが怖いんだってよ」
「なぜ!?」
「こいつらが怖がってる奴を擁護してるからだろ」
「……なるほどのぉ」
リゲルはフィスティーナとファルティエラに目を向ける。二人はリゲルと目が会った瞬間下を向き、目を合わさないようにした。
それを見てリゲルはバランに目を向けて口を開いた。
「わしを信用するのは無理そうじゃし、お主が何とかしてやれ、バラン」
「え」
「嫌そうに返事をするな。何やら小娘たちはお主をどこか信頼しているように感じる」
「俺を?」
「でなければお主に隠れたりはせん。お主とわしが仲間ならお主も怖がられてもおかしくは無い。じゃがわしだけを怖がっておるってことはお主を怖がってないということ。どれくらいかは知らんが、信頼されとる証拠じゃ」
バランは二人に目を向ける。フィスティーナとファルティエラは顔を上げ、バランを上目遣いで見つめた。
バランはため息をつき、面倒くさそうに肩を落とした。
「ったく……分かったよ」
「ほんとに?」
「あぁ。だが先に言っとくぞ、俺じゃそいつには勝てないからな。あくまで牽制程度だ」
「ありがとうバラン」
「……話聞いてたか?」
「「聞いてた」」
二人はバランの足をギュッと抱き締める。バランは身動きが全く取らず、またため息をついた。
「何はともあれ、小娘たちはお主に預けるしかないわぃ」
「……仕方ねぇなぁ」
頭を搔くバランはふと思い出したかのようにリゲルに問いかけた。
「そういや、あいつはどうしたんだ?」
「あの子娘か?圧倒しておったが、どうなっとるんかのぉ」
「見に行くか」
「そんな軽いノリで……まぁ良い、わしも気になっておったところじゃ」
「「……どこに行くの」」
歩みを進めようとしたバランだったが、足を強く引っ張られ、バランは転けそうになる。
「あぶねっ……お前らの他にもう一人来てるだろ、そいつと戦ってるやつの様子を見に行くんだよ」
「……分かった」
「バラン、手、握ってていい?」
「手?まぁ、別にいいけど」
バランの返事にフィスティーナとファルティエラはバランの手をギュッと握り、体をピタリとつけた。
「……動きにくいんだけど」
「このままがいい」
「このまま行こ」
「……はぁ、なんなんだこいつら」
バランはゆっくりと歩き出す。それを後ろで見ていたリゲルは少しだけ羨ましそうにしていた。
「……歳を取ってもああいうのを見ると羨ましく感じるのぉ。あ〜腰いて」
バランと二人に合わせてリゲルもゆっくりと歩みを進めた。
バランと二人の決着を知らず、アトリアとリーベットは魔法をぶつけ合っていた。
「……あんた、なかなかやるわね」
「あなたもね……あ〜やだやだ、もう帰りたい」
リーベットは弱音を吐きながら魔法を打ち続ける。いつしか二人の魔法は徐々に威力を弱めていった。
「……ねぇ」
「はい、なんでしょう?」
「もう終わりにしない?」
「……ちょうど思ってたよ」
二人は魔法を打つのをやめ、その場に立ちつくした。
「なんか私もやる気なくなってきちゃった……腹いせとかもう面倒くさい」
「その気持ちわかる」
地面に座り込むリーベットを見てアトリアも腰を下ろした。
そんな所にやってきたバランたち一行は困惑していた。
「……え、なにこれどういう状況?」
「あ、バラン……生きてたのね」
「勝手に殺すな。で、これ本当にどういう事だ?もう終わったのか?」
首を傾げるバランたち一行にリーベットは地面に寝転がって口を開いた。
「もうめーんどくさくなっちゃって、もういいかなって」
「軽いのぉ……」
「私も面倒くさくなっちゃって」
「そ、そうか」
バランとリゲルはだらけた二人を見て苦笑いを浮かべていた。
先程からバランと手を繋いでいたフィスティーナとファルティエラはそそくさとリーベットの元へ行き、二人してリーベットの顔を覗いた。
「……私たち負けだよ」
「え、二人負けたの?強いんだねバラン」
「倒したの俺じゃねぇよ」
「私たちを倒したのはあそこの怪しいおじちゃん」
「怪しくないわぃ」
「そうなんだ、まぁもう面倒だからどっちでもいいよ」
リーベットはゆっくりと体を起こし、二人の頭を撫でた。
「よく頑張ったと思うよ、お疲れ様」
「「……ありがとう」」
「手懐けてんなぁ」
二人の頭を撫でるリーベットを見てバランがそんなことを口にする。
それを聞いてリーベットは首を横に振った。
「別に手懐けてる訳じゃないよ。ただ、奴隷として辛いことさせられてるのに頑張ってるからこうして撫でてあげてるだけ」
「いや、手懐けてはいるだろ」
「それよりもバラン」
くいっと振り返り、ファルティエラがバランに問いかけてきた。
「ん?なんだ?」
「バランも撫でて……じゃなかった」
「言い間違いにしてはしっかり言ったな」
「バランはどうして命狙われてるの?」
「……なんで俺を襲う奴は尽く知らないんだ」
バランはため息をつき、三人の元まで歩み寄る。それからゆっくりと腰を下ろし、口を開いた。
「質問は少しだけ受け付けてやる」
バランはそう言って狙われる理由を話し始めた。




