Episode14 垣間見える悪魔
アルデとガルガンは少し遠くの店に入った。なんでも珍しい料理が提供されるとガルガンがおすすめしたお店だった。
「店の内装も見たことない感じだろ?」
「あぁ、斬新な感じだな」
二人は定員に案内され、二人用の席に座った。それと同時に定員がコップに入った水を二つテーブルに置いた。
「二人用の席なんてのもあるんだな」
「俺もここに来た時びっくりした」
ガルガンはそう言いながらメニュー表をアルデに渡した。
「……品書きか?丁寧な店だな」
アルデはメニュー表に目を通す。そのままアルデは黙り込み、少しの間思考を巡らせていた。
とうとう諦めたのか、アルデはため息をついてガルガンにメニュー表を見せた。
「ガルガン、この ” パスタ ” というのはなんだ?」
「あー、それか?そこに絵が書いてあるだろ。 ” 麺類 ” っていう棒状の柔らかい食べ物だ」
説明されても全く理解が出来ないと首を傾げるアルデにガルガンが少し笑みをこぼして指さした。
「気になるなら頼めばいいんじゃないか?」
「んー、まぁそれもそうか」
その時、ガルガンが机に置いてあった呼び出しベルを一回チリンと鳴らした。
すると、奥から中年ほどの筋肉質の男性が歩み寄ってきた。
「お待たせしました、注文をお伺い致します」
メモ帳とペンを両手に現れた定員にガルガンがメニュー表を見せながら料理を指定する。
「マンドラゴラとヴェンデラのパスタ、ランバルのハンバーグですね。少々お待ちください」
定員は言われた料理をメモ帳に書き写し、一礼してからその場を去っていった。
「ガルガンが頼んだ料理、 ” ハンバーグ ” と言ったか。どういう料理なんだ?」
アルデの質問にガルガンは唸りながら回答した。
「そーだなぁ……簡単に言えば、粉々にした肉と野菜を練って焼いたものかな」
「初めて聞く調理法だな。どれだけ遠方の街から来たんだ?ここの店主は」
アルデの言葉にガルガンは頷きながらテーブルの上に乗ってある水を口にした。
「相当遠いところから来たらしい。確か……こちら側では無い場所って言ってたか」
「こちら側では無い場所?」
「あぁ、俺も詳しいことは分からない」
そんな話をしていると、先程の定員が湯気の立つ二つの丸皿を持ってきた。
「お待たせしました。こちら、 ” マンドラゴラとヴェンデラのパスタ ” と ” ランバルのハンバーグ ” です。それでは、ごゆっくりください」
定員はそう言ってまた一礼し、その場から離れていった。
「さ、食おうぜ」
「あ、あぁ」
アルデは疑問を残したままフォークを手に取り、パスタを掬って口へ運んだ。
口に麺が入った瞬間、アルデは目を見開いた。それを見たガルガンは笑みを浮かべていた。
──なんだこれ、この麺というのに絡みついたソースが美味いのか?違う、この麺や具材、それらが合わさってようやくこの美味さが生まれてるのか!これは、止まらない
アルデは黙り込み、無我夢中でパスタを口にした。その向かいでガルガンはナイフでハンバーグを切り分け、フォークを刺して口にする。
目を閉じ、口の中に広がるデミグラスソースの風味と肉汁を噛み締めながら頷いていた。
二人は先程の話など忘れたかのように食事へ没頭した。
十分後、二人は皿の上にカトラリーを置き、同時にため息をついた。
「……パスタか。美味かったな」
「……変わらない美味さだなぁ」
独り言を二人ポツリと放ち、目を合わせた。それから少しだけ笑い、椅子から二人して立ち上がった。
「機会があればまた来たいものだな」
「その気持ちわかるぜ」
ガルガンはそう返事をしながら振り向き、勘定場へと向かった。アルデはその後ろをただついて行く。
勘定場に鼻の高い男が立っていた。
「会計でスネ」
「あぁ、これで足りるか?」
そう言ってガルガンは銀貨を七枚木製の机に置いた。それを見た男は頷いた。
「はい、丁度でスね。いつもご利用アリがとうごザイます」
「こっちこそ、いつも美味い飯をありがとうな。また来る」
「いつでモお待ちシテおります」
ガルガンは鼻の高い男とそんな言葉を交わしながら店を出ようとする。それを見て鼻の高い男は深く一礼した。
そしてガルガンが店を出ようとしたその時。
「おっと」
突然扉が開き、男集団が入ってきた。ガルガンは正面からやってきた先頭の男とぶつかりそうになり、横にズレる。
「……惜しいな」
「?」
ポツリと小さな声で呟く男にガルガンは首を傾げた。
男はゆっくりとガルガンに顔を向ける。フードを深く被っていて目元は全く見えない。だが、妙に殺気立っていることだけはわかった。
ガルガンは二歩ほど男から離れ、警戒心を強めた。
「俺は今美味い飯を食って上機嫌なんだ。何もしないって誓ってくれるなら見逃してやってもいいぜ」
男はその言葉に返事する代わりに体をガルガンの方へと向けた。ただ黙り込む男の殺気は先程よりも強まり、ガルガンの指を痺れさせる。
「……やる気満々ってか?なら外でやろうぜ。ここは人が多い」
ガルガンが外へ出ようと歩みを進めるが、一向に動こうとしない男集団に眉をひそめた。
「……外ではしない」
首を傾げ、頭の上にはてなを浮かべるガルガン。
「あ?俺とやりてぇんだろ?だったら──」「その必要は無い」
男の低い声が店内を震わせる。
「この店にいる全員、お前の人質だ」
「……おま、何言って──」「さて、お前は今から何人守って死ねる?」
フードの奥から笑みがこぼれる。その瞬間、集団のうちの一人が店内に飛び入り、客人の一人を切り殺した。
それを目にしたガルガンはただ言葉を失った。
「始めようか、クソゲーってやつを」
店内に広がる悲鳴、首から血を流し、机に突っ伏す客人、そして前方から放たれる殺意と楽しそうな声。
ガルガンは男に顔を向け、睨みつけた。
「……おい、お前、何したかわかってんのか?」
その言葉にただ笑みを浮かべる男。胸の奥からふつふつと湧いてくる狂りを握りしめ、男に向かって勢いよく拳を振りかざした。
「このクソ外道どもが!」
勢いよく振りかざされた拳は男には当たらず、空を打った。
難なく拳を躱した男は懐からナイフを出し、ガルガン目掛けて突いた。
「 ” デッドロック ” 」
しかし、ナイフはガルガンに刺さる前に止まる。男は声のした方へと顔を向ける。そこにはため息をついているアルデが立っていた。
「美味しい飯を出してくれた店に失礼だろ。それに、我も上機嫌だったのだ。どうしてくれようなぁ?」
明らかに苛立った顔をするアルデに男は笑みを浮かべる。
「これは好都合か。お前も殺してやろう」
「……我は今少し苛立っている。これ以上怒らせないでほしいな」
アルデはカウンターに座り、足を組む。膝の上に両腕を置き、口を開いた。
「今すぐ、我の前から消えてくれるか」
その言葉に返事がない。店内に残る悲鳴の色にアルデは舌打ちをしながら顔を下に向けた。
「……どうやら、我を今以上に怒らせたいらしいな。言っておくが、我はガルガンのように優しくはないんだ。ここにいるゴミ共を守る気は微塵もない。なんなら、お前ら諸共全員地獄に叩き落としてやってもいい。我はそれほどに今怒っている」
アルデの言葉に店内に残っていた悲鳴の色は消え失せ、困惑と絶望が混濁していた。
全員が背筋を冷やし、固唾を呑む。
ガルガンですら恐怖の色が目から滲み出ていた。
「……アル、デ?」
ボソリと口からこぼれる声。が、アルデには聞こえず、静寂に消えていった。
男は重たい体を力いっぱいに動かし、ナイフをアルデに向けた。
「やれるもんならやってみろ」
その言葉を最後に男集団は跡形もなく消え去った。そよ風がガルガンとアルデの髪を撫で、静寂を静寂たらしめた。
「 ” ミーニングオブライフ ” 。お前たちに価値などない」
アルデはカウンターから立ち上がり、出口の扉へと向かう。扉の取っ手に手をかけ、外に出ようとするアルデだったが、足を止め、客人に顔を向けた。
「邪魔したな」
それだけを口にし、アルデは店を出た。
ガルガンもアルデの後を追うように店を出る。店内には未だ、冷たい空気が漂っていた。
歩みを進めるアルデを追い、ガルガンは呼び止めた。
「おいアルデ!少し待ってくれ!」
それでも歩みを止めないガルガンは仕方ないと言った顔で疑問を投げかけた。
「さっき、店のやつらをゴミだって言ってたけど、あれ本気で言ってんのか?」
アルデは背を向けたままゆっくりと足を止める。少し距離がある位置でガルガンも足を止め、アルデの回答を待った。
「……我は変わったんだ」
ゆっくりと振り返るアルデの顔は物寂しげな笑みを浮かべていた。
「……アルデ」
それに心配した顔を浮かべるガルガン。アルデは目線をガルガンから逸らし、鼻でため息をつきながら目を瞑り、前を向いた。
「……汝なら、そんな顔をすると思っていた」
ボソッと呟き、アルデはまた歩き始めた。
「……なぁ、アルデ。聞かせてくれないか。お前に何があったのか、今朝の事件とはなんだ」
その言葉にアルデはまた足を止める。ガルガンは自分の発言に少しだけ悔やみを顔に出すが、首を横に振り、アルデに顔を向けた。
アルデは振り返るでもなく口を開いた。
「場所を変えよう。教えてやろう、今朝の事件……そして、我がこうなった理由を」
「……わかった。俺についてこい」
ガルガンは不安を感じ、咄嗟にそう言葉が喉から出る。その言葉にアルデは踵を返し、真剣な顔で頷いた。
行く宛を考えていなかったガルガンは自分の家へと足を進めた。その後ろを今度はアルデがついて行った。




