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絶望のアルデバラン  作者: 朱華のキキョウ
Chapter1 継ぐもの
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Episode13 いっときの賑わい

 一頻り泣いたサキュバスの女は真っ赤に染めた目をバランに向けた。


ごべんで(ごめんね)ぎゅうにごんな(急にこんな)あなじじで(話して)

「別にいいが、とりあえず涙と鼻水拭けよ」


 バランはそう言って机の上に置いてあったティッシュを二枚手に取り、サキュバスの女に渡した。

 サキュバスの女は鼻をかみ、涙を拭ってから笑みを浮かべた。


「私の助けに応じてくれてありがとう」

「大したことじゃない。助けてって言われたんだし助けるよ」


 そういうバランを見てサキュバスの女は照れくさそうに頬を染めた。それから思いついたと言わんばかりに口を開いた。


「そういえば、自己紹介がまだだったわね。私の名前はアトリア。周りからはカルミアって呼ばれてるわ」

「一応俺も自己紹介しとくか。知ってるとは思うが、俺はバランだ。よろしくな」


 バランはそう言ってアトリアに手を差し出した。その手を見てアトリアは少し躊躇いを感じていたが、バランの顔を見て安心し、反対の手を差し出した。

 二人は固い握手を交わし、それから椅子に腰かけた。


「それにしても、少し驚きだわ。雇い主からはバランは残虐非道な人間だって聞いていたのだけど」

「その考え方は間違っちゃいねぇよ」

「え、そうなの?」


 首を傾げるアトリアにバランは頷き、口を開いた。


「俺は今朝、自分の故郷をぶっ潰したからな」

「えっ!?それどういうこと!?」


 ガタッと椅子から勢いよく立ち上がり、バランに問い詰めるアトリア。バランはアトリアを宥めながら事情を話した。


「まぁまぁ、少し聞け。俺が故郷を潰した理由は三つある。一つは故郷の全員が協力して俺の両親を殺したこと、二つ目が俺の友人を魔物の群れと結託して殺したこと、そして最後がこの俺とアル……契約獣を殺そうとした。もっと深く言えば理由はあるが、大まかな理由はこれだな」

「じゃあバランは街の人全員から恨まれてたってこと?」

「恨まれてたかは知らんが、まぁそんなところだな」

「でもそれはどうしてなの?何か悪いことでもしたの?」


 首を傾げながら椅子に腰を下ろすアトリア。疑問に首を横に振り、バランは言葉を繋げた。


「別に悪いことをしたわけじゃない、恐らくな。俺は弱いんだよ」


 アトリアは更に疑問を浮かべていた。


「弱い?あの男を殺して尚且つ私を押し倒しておいて?」

「あぁ、奇襲をしかけてきた男か。あれは不意打ちをしただけだし、お前に関しても、そもそも抵抗する意志を感じなかった。だから簡単に押し倒せただけだ」

「確かにそれはそうだったけど、それで弱いっていう定義にはならないわよ。何せ、故郷を潰してるんでしょ?」


 アトリアの言葉にバランは右手を少し上げた。それと同時に黒い靄がバランの手の上で渦を巻き、剣の形を作り上げていく。

 それを見たアトリアは驚きを顔に出していた。

 黒い靄によって形成された剣の柄を強く握る。剣は噴出口から勢いよく黒い靄を噴出し、剣の全貌を顕にした。


「俺が街をぶっ潰せたのはこいつのおかげなんだ」

「剣のおかげ?」


 バランは頷き、左手に剣身を置く。その剣を見るアトリアは少しだけ嫌な顔をしていた。


「気分悪いか?」

「……顔に出てた?」


 アトリアの顔み目だけで確認して問いかけるバラン。それに対しアトリアは申し訳なさそうに言葉を発した。


「顔には出てたが、それよりもこれを見て不快に思ったやつがいたからな。もしかしたらと思ったんだ」

「そうだったのね」


 アトリアは剣に目を向ける。やはり異様な雰囲気を感じ、眉を顰める。


「この剣、何が強いの?私からしたら変な雰囲気放ってるだけの黒い剣だけど」

「まぁ、見せた方が早いか。強さは後々にわかる」

「えぇ、そこで焦らすの?」

「仕方ないだろ、無闇に使えるようなものじゃない。ここにはおっさんもいるし、まだアルデ……あ〜、契約獣が街に出てるからな」

「でも街を一回に潰してしまえば終わりなんじゃ?」


 アトリアの言葉に頷きはしたが、あまりしっかりとした返事ではなかった。


「それはそうだが、この街は世界で三番目だ。経済力も去ることながら、街の奴ら一人一人が強い。逆に民衆が弱い国はこの世界で経済力を回すことは出来ない」

「だから無闇に街を破壊しようとすれば不意を突かれてしまうってことね」

「そうだな」


 バランは返事を返しながら剣に目を落とした。


 ──それに、俺はこの剣を使いこなせているわけじゃないしな。あの時出した技じゃこの街を一撃の元にくだすことはできないだろう。早く使いこなさなきゃな


 剣の柄を強く握る。剣は噴出口から靄を噴出する。その靄は剣を多い、空気の中へと消えていった。


「不思議な剣ね。霧みたいになっちゃうなんて」

「俺もまだよくわかってないが、とんでもない力を持っているのだけはわかる」

「そうね、見てるだけだったけれど、溢れ出る力は感じられたわ」


 アトリアが共感して頷いているところに扉が勢いよく開いた。


「どこじゃ小娘!わしの剣にヒビ入れよってぶち殺してやるわ!」


 柄に小さな傷の入った剣を握ったリゲルが鬼のような形相で現れた。それを見たアトリアは苦笑いを浮かべていた。


「見つけたぞ小娘……よくも一週間もかけて作ったわしの剣に傷をつけてくれたな。その首切り落としてやるわ!」

「ひゃー!ごめんなさーい!」


 バランの後ろにすぐさま隠れ、涙目で謝るアトリア。それを見ても顔色を変えず、リゲルは剣を持って近づいてくる。

 そんなリゲルを見てバランは口を開いた。


「なんだおっさん、生きてたのか」

「わしはまだピッチピチ三百四十一歳じゃぞ?まだ死ぬような歳じゃないわ」

「いや、だいぶ老いぼれっつうかむっちゃ歳食ってんな」

「細かいことは気にするでない。それよりバランよ、そこを退かんか。その小娘を切れんじゃろ」


 ギラリと剣身が光を反射し、光る。それにアトリアは真っ青な顔で体をビクッとさせ、更に萎縮した。

 バランは溜息をつき、立ち上がった。


「え?」


 立ち上がったバランにアトリアは気の抜けた声を出す。それからバランはその場から離れ、寝床に腰を下ろした。


「え、え?ちょ、え?」


 戸惑いを隠せないと言った表情でリゲルとバランを交互に見るアトリア。リゲルはニヤリと頬を持ち上げ、剣をアトリアに向けた。


「さぁ、さっさとその首をわしに差し出さんかい!」

「ウギャァー!」


 勢いよく振り下ろされた剣をギリギリで躱し、アトリアは距離を取るために後方へ下がる。しかし、距離をあまり取ることが出来ぬままアトリアは壁に背を当てた。


「えっ嘘!?」


 背中に壁が当たり、驚きを隠せないアトリア。その前でリゲルは剣を振り上げ、笑みを浮かべていた。


「しっかり命払わんかい!」

「ギャアー!やめて許してぇー!」


 バランはため息をつき、リゲルに顔を向けた。


「おっさん、その辺で許しといてやれよ」

「……!バラン〜!」

「おい抱きつくな」


 助けられ、嬉しさのあまり抱きつくアトリアを引き剥がそうとするバラン。それを横目にリゲルは残念そうにガクッと顔を落とし、剣を見る。


「仕方ないのぉ。幸い傷がついたのは柄だけじゃし、そんなに修理に時間はかからんから、まぁ今回だけは許してやるとするかの」

「柄だけなら最初から怒らなくても──」

「あ?」

「誠に申し訳ございませんでした」


 リゲルに睨まれた瞬間すぐさま土下座して謝るアトリア。それを見てバランは窓の外を見た。


 ──賑やかだなぁ


 少しだけ眠気に襲われながらバランはベッドから立ち上がった。眠気のせいか、バランは気づかなかった。煙が月を隠していることに。

 街外れにある小さな集落。そこは今や真っ赤に染まり、炎がゆらゆらと揺れていた。

 膝を着き、傷の着いた腕を抑える初老の男。歯を食いしばり、目の前に立つ人物に顔を向けた。


「……っ、よくも、我らの計画を邪魔してくれたな」


 そう言って睨みを効かせる初老の男に怪しげな人物はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


「安心してや、お前さんたちの意志はしっかりとこちら側が受け継ぐさかい、安らかに眠りぃや」


 右手に持つ戦斧を振り上げ、初老の男の首目掛けて勢いよく振り下ろした。

 痛々しく鈍い音と共に初老の男の首は切り落とされ、血を吹き出す。膝を着いていた体は力が完全になくなり、崩れように前方へ倒れた。


「……姉さん、少しやりすぎじゃないかな」


 一部始終を見ていたもう一人の人物がそう声をかける。


「そないなことあらへんよ、こんくらいやらにゃあかんでしょ」

「……まぁ、それはわかるけど。この後はどうするの?」


 その言葉に ” 姉さん ” と呼ばれる人物は考えてから不敵な笑みを浮かべた。その顔を見てもう一人の人物は眉を顰めた。


「……またよからぬ事を考えてるでしょ、姉さん」

「よからぬ事やなんて人聞き悪いわぁ。ただちーっとおもろいこと思いついただけや」

「……ほんとかなぁ、まいいけどさ。じゃあ思いついたこと、やろ」

「そやね、でもまずその前に、()()の偵察からやね」


  ” 姉さん ” と呼ばれる人物は懐から扇子を出し、勢いよく開いて頬を持ち上げる口を隠した。

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