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絶望のアルデバラン  作者: 朱華のキキョウ
Chapter1 継ぐもの
11/27

Episode10 久方ぶりの再会

 それからバランとアルデが目を覚ましたのは夜が老けていた頃だった。

 部屋に置いてあった時計は夜の九時を刺しており、窓の外は暖色の光が街を包み込んでいた。


「朝から飲まず食わずだったからお腹がすいてきたな」

「そうだな、おっさんに飯がないか聞いてくる」


 バランはそう言って部屋を出る。店番をしているリゲルの元に向かってる途中、脳裏にアルデの寝顔が過ぎる。


 ──なんでこんな鮮明に覚えてんだろ


 首を傾げながらバランは歩みを進めた。

 薄暗い廊下を抜け、強い光が放たれる長方形の穴から顔を出し、バランは口を開いた。


「悪いがおっさん、飯ないか?」


 そう問いかけるバランにリゲルは談笑を中断して振り返った。


「お?ようやくお目覚めか?悪いが飯は無いんじゃ」

「そうか……ん?お目覚め?」


 頭の上にはてなマークを浮かべるバランにリゲルは咳払いをして顔を戻した。


「彼奴がさっき言った旅人じゃ」


 リゲルがそう言葉を放つ先には一人の男性が立っていた。バランよりも身長がやや高く、短い黒髪の間から細く鋭い目をバランに向けていた。


「……そうか」


 男はそれだけ言い、バランの元に近づく。バランはそれに気づき、口を開いた。


「なんだ、客人が来てたのか?」

「あぁ、客人というより、ここの元従業員数且つわしの友人じゃ」


 リゲルの紹介が終えると、男は足を止める。それからゆっくりと手を上げ、バランの前に差し出した。


「俺の名前はガルガン。リゲルのオヤッサンの言ったように俺はここの元従業員だ。今は冒険者をしている」


 バランは差し出された手に目を向ける。握手を求める手を見てバランも手を差し出した。


「おっさんが言ったみたいだが、俺はバランだ。旅人をやっている」

「今どき旅人とは珍しいな」


 固い握手を解き、ガルガンがそう言葉を投げかけた。バランはそれに首を傾げた。


「そうなのか?」

「あぁ。最近は魔物の凶暴化が激しくなってきて、旅をする人はめっきり減ったんだ。冒険者もこれには手を焼かされる」


 バランはその言葉に一昨日の出来事を振り返っていた。


 ──魔物の凶暴化か……あの巨大な魔物の討伐にファルバ達が苦戦してたのはそのせいだったのか


 そんなことを考えながらバランは眉を顰めた。


「……お前契約してないのか?」


 妙に伝わってこない緊張感に違和感を感じ、バランはそう問いかける。魔物と契約している人は異質な緊張感を一般的に放ち、契約を証明している。だが今のガルガンからそれを感じず、バランは疑問を抱いた。

 問いかけられたガルガンは苦笑いをしてため息をついた。


「つい最近、契約を破棄したんだ」

「契約を破棄した?」


 バランは更に疑問を抱いていた。


 ──一度結ばれた契約は基本的には解除できないはずだよな。互いの利害が一致しない限りそうそう契約を破棄するなんてのはない。それに契約をしていた方が両者共に利得がある。珍しいな


 そんなことを考えているバランにガルガンは契約を破棄した理由を話した。


「契約を破棄した理由は三つぐらいある。一つ目は互いの能力がぶつかると減力現象が起こるからだ」

「減力現象?これはまた珍しいな。相性がいいか悪いかは契約する前に何となくわかるはずだが」

「二人で一緒に戦うなんてことはそうそうなかったから気にしてなかった。でも魔物の凶暴化によって俺一人だときつくなってな。そのせいか互いに能力を打ち消し合うみたいな状況があって、さすがに俺もあいつもまずいと思ったんだ」


 ガルガンはそう言いながらため息をついた。


「なんだかんだ、これが契約破棄をした一番の理由かもな」


 その時一瞬だけガルガンの声が震えた。バランはそれを聞き逃さなかったが、敢えて詮索するのをやめた。


「他にも理由はあるんだろ?」

「あぁ。だが他のふたつはそう大したことじゃない。互いに連携が取りずらいとかそんな理由だ」

「そうなのか」


 バランは顎に手を当て、少し唸った。


 ──嘘では無いな。あの()()が気になるところだが、今は触れないでおこう


 バランは考えを辞め、それから思い出したかのようにため息をついた。


「そうか、飯ないのか。この時間なら材料は買えなそうだな」


 バランは諦めて部屋に戻ろうとした。その時、バランは何かにぶつかった。


「わぷっ」


 バランの聞き慣れた声が聞こえ、目線を下に向ける。そこには少しふらついているアルデがいた。


「なんだ、来てたのか?」

「あ、あぁ。汝の帰りが遅かったからな。で、バランは誰と話してたんだ?」


 そしてアルデはバランの脇下から顔を出した。その顔が向く先にはガルガンが立っていた。


「お?ガルガンか!」

「え、お前アルデか!?」


 二人同時に驚きの声を上げ、嬉しそうに笑った。


「来てるならそう言ってくれ!まさかこんな所でまた会うなんてな!」

「それは俺のセリフだ!何年ぶりだ?」


 顎に手を当てるガルガンにアルデが答える。


「もう十年は経っているぞ」

「まじか、もうそんなに経ってるのか。懐かしいな」


 微笑むガルガンにアルデも微笑んだ。


「昔よくここで遊んだよな」

「そうだな、よくふざけてリゲルのオヤッサンに怒られたっけな」

「ようそんな昔のこと覚えとるなぁ。わしはもうほとんど覚えとらんわ」

「爺さんも歳重ねたからなぁ」

「まだわしは八十三歳じゃがな」

「立派なじじいだわ」

「なんじゃと!?久々じゃと言うのに口の利き方は変わっとらんようじゃなサルバンよ!」

「やっぱリゲルのオヤッサンも覚えてんじゃねぇか!」


 三人で楽しく談笑しているのを眺め、それからふっと振り返ってアルデの頭を二回ポンポンと叩いた。


「飯ないみたいだから俺は先に部屋に戻ってるぞ」

「ん?あぁ、わかった」


 薄暗い廊下をバランは何故か少し足早に歩いていった。


「なんじゃ、結局飯探しに来ただけじゃったんか。お主もか?アル──」


 その時、リゲルの目に映ったのはポンポンと叩かれた頭を触り、頬を少し染めて微笑むアルデの姿があった。

 それを見てリゲルは手を目元に持っていき、鼻からため息をついた。


 ──眩しすぎて見れんわこんなん……なんなら吐血してまうわ


 心の声と同機するように口から血が垂れる。それを二人にバレないようにすぐ拭き、リゲルは口を開いた。


「そうじゃ、久々に再開したんじゃし、何処か食いに行ったらどうじゃ?まだこの時間ならいとるじゃろ」

「え?まぁ開いてるところは開いてるけど、バランはどうするんだ?」

「彼奴にはわしの特性シチューを食わせとくわい。気にせず行ってきな」


 リゲルがそう言ってウィンクを飛ばす。それを見てやや不機嫌そうにするアルデを横目にガルガンは口を開いた。


「俺は構わないぞ。──」

「ん?ガルガン、今なんて言ったんだ?」


 後半の部分が小声で聞こえず、アルデが聞く。それに対しガルガンは首を横に振った。


「いや、特に何も言ってないぞ。空耳だろ」

「んー、空耳……」


 顎に手を当てて唸るアルデを背にガルガンは店の扉まで歩いていった。


「何にせよ、早く行こうぜ。あまり遅いと店に迷惑がかかっちまうからな」

「あ、あぁ。わかった」


 店を出るガルガンの後を追うアルデ。一度しまった扉を開けようとレバーハンドルを握った時、リゲルが声をかけた。


「アルデよ、お主達が犯罪者だということは彼奴には言うておらんから、ボロを出さんようにな。受け入れるかどうかも未知数じゃから」


 リゲルのその言葉を聞き、アルデは頬を持ち上げて振り返った。


「恐らくは大丈夫だろう、ガルガンだからな」


 その笑顔はガルガンを心から信用しているという証だった。それを見てリゲルは呆れたような顔をした。


「その信用、わしにも向けて欲しかったのぉ」

「ちゃんと向けてるだろう?」

「そんなの向けられた覚えはないが」


 アルデは嫌そうな顔をして口を開いた。


「しっかり向けてただろう。エロジジイと」

「それを信用と言われたわしの気持ち考えろ」


 とてつもなくテンションが低いリゲルにアルデは笑みを零し、レバーハンドルを下ろした。


「そんな悪口を言える仲だと言うことだ」

「悪口言うてもうとる」


 更にいじけるリゲルにアルデはため息をこぼし、口を開いた。


「安心しろ。爺さんのこともちゃんと信用してるから」


 その笑顔を見てリゲルは思わず微笑んだ。


「ちょっと見んうちに偉くなったもんじゃな」


 リゲルはアルデに顔を向け、口を開いた。


「ほれ、さっさと行かんか。外でガルガンが待っとるぞ」

「分かってるよ。それじゃあ、行ってきます」


 それを聞いてリゲルは目をうるっとされ、ニカッと笑った。


「あぁ、行ってこい」


 リゲルの笑顔に気づかず、アルデは店を出た。

 街の灯りが路地裏にも少し漏れ出しているのがとても幻想的で静かで暗い夜を賑やかにさせる。


「あれ?ガルガンのやつどこに行ったんだ?」


 店を出てすぐのところにガルガンがいると思っていたアルデは左右を確認した。すると、何やら揉め事をしているガルガンが見えた。

 アルデは取り敢えずゆっくりと近づき、バレないように聞き耳を立てた。


「てめぇだな?()()()を匿ってる野郎は」

「だったらなんだ。今俺は忙しいんだ、話はあとにしてくれ」


 五人の男に集られるガルガンはため息をついてそう答える。

 それからその場を離れようとするガルガンの行き先を止め、先程質問をしていた男がまた口を開いた。


「おいおい、今お前がどんな状況なのかわかって言ってんのか?」


 ガルガンの周りを囲み、逃げられないように男共は道を塞いだ。ガルガンは舌打ちをして男に顔を向けた。


「知るか。さっさと退け。でなければ殺す」

「おぉ〜、怖ぇ怖ぇ。物騒にも程があんぞ。ま、そんな大口叩けるのは今だけだけどな」


 そう言って拳を掲げる男。それを見て周りの男共は声を上げて湧き始めた。


「答える気がねぇんなら仕方ねぇよな。実力行使させてもらうぜ!」


 ガルガンに向かって男が拳を振り下ろした。それを躱して反撃をしようと考えていたガルガンだったが、その前に男の拳が宙で止まった。


「そこ、退いてもらえるか?」


 男の拳が止まった理由。それはアルデの声が聞こえてきたからだった。

 男共とガルガンはアルデの方向に顔を向ける。そしてガルガンに殴りかかろうとしていた男は不敵な笑みを浮かべた。


「左眼に大きな傷のある女……お前だな、アルデっていうのは」

「そうだが、それがどうかしたか?」


 男は益々笑みを大きくし、アルデに体を向けた。


「ちょうどいい。依頼主からお前も捕らえるように言われてんだ。相方が居ないのは残念だがな」

「ほう?この我をか?そいつは相当見る目があるようだな」

「当たり前だろ。()()()()()を起こした張本人サマなんだからな」


 男はそう言ってアルデを指さした。


「悪いが金のためだ、大人しく捕まれ」

「無理な相談だな」


 睨み合うアルデと男を見ながらガルガンは驚きを顔に出していた。


「……()()()()()……」


 ガルガンは固唾を飲み、冷や汗を垂らしていた。

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