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絶望のアルデバラン  作者: 朱華のキキョウ
Chapter0 絶望の淵
1/27

Episode0 畢り

 震え立つ大地、その中心に立ち、高々と雄叫びを上げる巨大な魔物。凶悪な角を日に照らし、牙を剥いている。


「────!!!」


 雄叫びをやめ、その魔物が向ける眼差しに立つ男は大剣を担ぎ、地面を勢いよく蹴った。


「ぶった斬る!」


 一直線に走ってくるその男に魔物は右腕を振り下ろした。だが、その右腕は目に見えないバリアによって防がれる。


「先々突っ込むな、援護しにくいだろが」


 ガタイのいい男が杖を片手にそう口にする。その隣でエナンの鍔を掴み、女性が杖を魔物に向ける。


「鎖よ、縛りあげよ!」


 言葉が放たれると同時に地面から金色の鎖が出現し、魔物を縛り付ける。


「──!?」


 身動きが取れなくなり、暴れる魔物。大剣を担ぎ駆け抜ける男性は地面から勢いよく跳び上がり、魔物の懐に入った。


「うおおおお!」


 態勢を整えにくい宙で男性は大剣を構え、勢いよく魔物に振る。その大剣は魔物の右胸に突き刺さる。

 その状態で男性は柄を強く握り、大声で叫んだ。


「-神焔-!」


 その瞬間、大剣は火を吹き、大剣はさらに深く深くへと刃を進めた。


「うおりゃああああ!」


 男性の雄叫びに応えるように大剣は勢い良く魔物の胸を切った。その切り傷から炎が溢れ、魔物の体を呑み込んでいく。


「────!!!」


 雄叫びと共に散る火花。炎は魔物の体を蝕み、次第に弱まっていく。

 そして顕になるのは、魔物の焼け爛れた体。垂れ落ちる眼球。崩れ、地面に突き刺さる牙や爪。

 魔物はゆっくりと後方に倒れ、空に湯気を上げる。


「よっしゃぁ!勝ったぜぇ!」

「「うおぉぉぉ!!!」」


 大剣を担ぐ男性に続き、皆が歓喜の声を上げる。

 その中に一人、大剣を担ぐ男性に見惚れる一人の男性がいた。先の戦いで、何も加担しなかった男性だ。

 片手に地図を持ち、背中には大きなバッグを担いでいる。


「さ、素材を頂きましょ。ほらバラン、あんたの出番よ」

「あ、う、うん」


 大きなバッグを担いでいる男性の肩を叩く女性。男性の名はバラン。荷物を多く持つことが出来るスキルを唯一取得している。戦闘には一切参加しない。


「えっと、爪と牙……だったよね」

「おう、そうだな。俺も手伝うぜ」

「あ、ありがとう、ファルバ。助かるよ」


 大剣を背に戻す男性、ファルバは腰から剥ぎ取りナイフを手に取り、爪と牙を持ち帰りやすい大きさにカットする。その隣でバランも同じことをする。


「バラン、ファルバ!剥ぎ取り終わったら直ぐに戻るぞ!もう日が沈みそうだ!」

「りょーかーい!」

「わ、わかった!」


 二人は黙々と作業を行う。ひとしきり細かくし終え、バランの背負うバッグに入れる。

 その時、ファルバがバッグに爪と牙を詰めている時、不意に優しい口調で言葉を発した。


「荷物持ちに、地図を見るのも、立派な仕事だ。武器を振ることだけが戦闘じゃない。行きの道や帰りの道、野宿をするための道具、食料も。必要不可欠なもんだ。自信持てよ」


 爪と牙をバッグに詰め終わり、ファルバがバランの背中を叩いてそう口にする。


「……ありがとう」


 腑に落ちないという笑顔でそう口にするバラン。こちらを見ている仲間たちを眺め、口を開いた。


「……僕は、情けないと思っているんだ。僕のせいで、みんなまで周りから変わり者だとからかわれたりする。みんな強い。戦うことも、それ以外のことも、それぞれが長けてる。力がないと、何も出来ない。みんながもし、危機に陥った時、僕は恐らく、何も出来ない。そう考えると、申し訳なくなるんだ」


 ポツリと口から漏れ出した言葉。その言葉を近くで聞いていたファルバは沈む夕陽を見た。それからバッグをバランに渡し、歩き出す。

 バランはその背中を歩いて追う。

 ファルバから出される言葉はない。無論、バランの口からも言葉はない。みんなと合流してからも、話はしなかった。

 ファルバやバラン含め、皆戦闘で体に疲労が溜まっていた。話はあれど、それほど盛り上がるという感じでもなかった。

 皆は街へと入り、街の一番西側に位置する冒険者協会へと向かった。

 酒場と宿屋と協会が合わさっている為、そこが街で二番目に大きな建物になっている。

 扉を開き、ファルバが先頭に歩く。そのまま受付嬢が立つ受付まで進む。

 バランのバッグから爪と牙を取り出し、受付嬢に渡した。


「任された依頼はこれでいいな?」

「はい、しっかり確認しました。こちら、それぞれの報酬となっています」

「ありがとう」


 ファルバから順に報酬を受け取る。バランの順番は最後だった。

 順々に報酬を貰い、バランの順番へと変わった。

 受付嬢は少し嫌悪した顔をし、報酬を唯一手渡ししなかった。

 置かれた報酬袋を手に取り、バランは受付から少し離れたところに立っている皆の元に向かう。


「よし、全員報酬は受け取ったな。今日はもうみんな疲れたろ。それぞれ帰って、明日に備えようぜ」

「そうだな」

「そうね」

「うん」


 それぞれ返事をし、協会を後にする。


「じゃ、俺とシグマはこっちだから。また明日な」

「えぇ、また明日」

「うん」


 ファルバとガタイのいい男性、シグマに手を振る二人。

 それから女性がバランに言葉を放つ。


「私たちも行こっか」

「そ、そうだね」


 二人は踵を返し、隣同士で歩く。

 互いに話すことも無く、黙り込んだまま帰路を進んだ。日もだいぶ沈んだ頃、女性の家に着いた。


「じゃ、私はここだから。また明日ね、バラン」

「うん。おやすみ、フェルア」

「おやすみなさい」


 エナンを被る女性、フェルアが家に入るまで見守り、バランは自分の家へと向かった。

 十分ほど歩き、バランの家に着く。落書きとポイ捨てされたゴミが散らかっている。

 バランはその家を眺めてから家に入った。


「ただいま……誰もいないか」


 バランは自分の部屋へと向かい、バッグを置いてベッドに倒れ込んだ。

 そして、バランはため息をついた。


 ──……お父さんとお母さん、か。どんな人たちだったんだろう


 想像を膨らませながらゆっくり目を閉じる。


 ──みんな……ホント、優しいな。やっぱり、情けないや。元気もないし、力もない。知恵も、さほどない。どうして僕は生まれてきたんだろう。みんなをこんなに困らせて、いろんな人から軽蔑の目を向けられて。僕は一体、何ができるんだろう……


 意識はどんどん沼へと浸かっていき、とうとう意識はそこで途切れた。それから長い時が過ぎた。

 朝日は無慈悲にも、その草臥くたびれた家を照らし、世の始まりを告げる。

 バランは朝早くに目を覚まし、外に出る準備を済ませる。

 考えることは昨日のあの冷たき目のこと。そして、仲間のこと。

 支度を終わらせ、巨大なバッグを担いで外に出る。外は人と、共存する魔物で溢れ返っている。

 その者達は全員、バランを見る。いつもと変わらぬ冷淡な眼で。

 バランはそれを横目に歩き始める。目の前に広がる地獄、今の自分に向けられる地獄、自然すらも冷ややかにバランを靡かせる。

 バラン本人は気づいていない。胸の奥底にある心は既に砕けている。絶望、地獄、それら全てに侵食されて。

 バランはもう痛みもしない心を無視し、仲間の元へと向かった。唯一の救いの元へ。


「お、しっかり来たなバラン」

「おはよう、みんな」


 みんなの顔を見るバラン。その瞬間、心が更に崩れる。本人の知らず知らずのうちに。


「今日は確か、鳳竜ほうえんりゅうの討伐だったか」

「今日こそ早く済ませましょう。久しぶりにみんなで食事したいし」

「お、いいな。賛成だ。な、バラン」


 ファルバの笑顔がバランの目に映る。またも心が崩壊する。

 バランは弱々しい笑みを浮かべ、頷いた。


「うん、僕も賛成だよ」


 バランの手が震える。しかし、バランは気づいていない。他の誰も気づかない。誰一人として、バランの苦しみを理解出来ていない。当の本人でさえも。


「よぉし!行くぞ!」

「「おぉ!」」


 気合を入れて四人は街を出た。そして、鳳竜が暴れているとされる峰浪山ほうろうざんへと向かった。

 さほど距離はなく、四人はすぐに山へと着いた。そして、そこに待っていたのは巨大な体の竜だった。


「────!!!」


 耳を劈く咆哮。それと共に押し寄せる爆風に四人は少し冷や汗を垂らした。


「勝てるのかな、こんなバケモノに……」


 弱音を吐くバランにファルバは笑みを浮かべた。


「勝てるかじゃねぇよ、勝つんだよ!」


 大剣を構え、ファルバは竜へと一直線に駆けた。それを援護するようにシグマとフェルアが杖を構える。それをバランは傍から見ることしか出来なかった。

 何も出来なかった。バランはまた下を向いた。


「────!!!」


 傷だらけになり、倒れる鳳竜。三人も疲弊し、地面に座り込んだ。


「はぁ、はぁ……勝っっったぁぁぁ……」

「何とか勝てたな……ふぅ、何とかなったな」

「そうね……じゃ、みんなで素材を取るわよ」


 バランは下を向いたまま素材を集めてくれている三人の元へ向かい、同じく素材を確保する。

 バッグに素材を詰め込み、昨日のように帰宅する。そして、いつもより早く切り上げ、みんなで飯を食らう。

 そのはずだった。


「────!!!」


 突如響き渡った咆哮。全員が空を見上げる。そこには、先程倒した鳳竜よりも更に一回り大きな鳳竜がいた。


「まさか、親か!」


 考えるのも束の間、鳳竜は大きく口を開き、喉を赤く張れさせた。

 それを目にした瞬間、ファルバが大剣を手にした。


「お前ら!逃げろぉ!」


 その言葉と共に放たれた爆炎は悉くを燃やした。あまつさえ、自らの子の死体までも。

 五秒もの間、炎が鳳竜の口から吐かれた。炎を吐き終え、口を閉じ、焼き跡を見下ろす鳳竜。

 そこには焼け爛れた鳳竜の子供と、ファルバ達が倒れていた。

 真っ黒焦げに焼け、もはやピクリとも動かないその死体は地面に押し潰されるように倒れていた。

 そして、たった一人だけ別の方向を向いて死している死体の先には、傷一つないバランが地面に倒れていた。

 仲間に突き飛ばされ、燃えずに難を逃れたバラン。


「いってて……はっ!み、みんな!」


 急ぎ立ち上がり、目の前の光景に目を向けた。

 バランは、絶句した。焼けた肉の匂いと湯気が顔を掠める。

 目の前に広がる地獄。それはバランの心を粉々に粉砕し、全てを破壊した。


「……ぁ……ぁぁ……」


 間の抜けた声を出すバランは地面に膝を着き、手を着いた。目の光は消え、水も消え、全てが壊れていく。


「……ど、う……して……」


 地面に崩れ落ちるバランを目に鳳竜は口を大きく開き、また喉を赤く張れさせた。

 バランは歯を食いしばり、地面を抉りながら拳を握った。


「殺してやる……」


 バランは酩酊した足取りで立ち上がる。握る手から血が滲み、歯を食いしばる力が強く、歯茎が切れて血が溢れる。

 喉を赤く張れさせる鳳竜を見上げ、バランは怒りを言葉にした。


「ぶっ殺してやる!」


 その言葉と同時に、先程と同じ爆炎が鳳竜の喉から放たれた。

episode0を読んで頂き誠にありがとうございます

あらすじにもある通り、作品の投稿は23時〜25時くらいになります

投稿頻度も遅い時と早い時あると思いますが、応援して頂けると幸いです

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