1.騎士の食卓を彩るのは
騎士として働く皆に、先輩騎士の出撃後に依頼が飛んでくる。
ゴケルブルグ大公国首都ゴケルブルグ。その王城の大広間。今日も喧騒が聞こえてきた。
「おい、新入り。肉が足りないぞ!」
と先輩騎士であるユリシーズ・ラザフォードが叫んでいるのを脇目にアルセウス・イリーナはとてとてと駆けていた。アルセウスはこの大公国の新入り騎士であり、まだ見習いであった。第三の剣に連なるパロの神官である彼は、まだ15歳であった。同時期に騎士団に入ったのはミルセ・ドトンというドワーフの男とミリア・エルカッセというエルフの女とイルド・ミオークという外見は人間だが、実はナイトメアの男である。
ゴケルブルグ大公国は鉄道共和国キングスレイ鉄鋼共和国の隣の隣の国であり、マグノア草原国の隣にあるドーデン地方有数の国である。中央にはドーデン横断鉄道が通っていて、人の行き交いが盛んな国である。中央政庁には神殿もあり、様々な古代神や大神を祀っている。パロは大神であり、知識人を中心に信仰が篤い。
そんな中、食事中の騎士団に対して伝令が走ってきて
「大変です!皆様!蛮族の一隊が攻めてきました。出陣しなければなりません!」
と魔動機の拡声器で大広間に伝えた。ユリシーズがシチュー・スープを飲み干してから
「ちくしょう!こっちは飯の時間だってのに!」
と言ってから、肉を片手に剣を掴み
「出撃だ!迎え撃つぞ!」
と言って、騎士を引き連れて出ていった。大広間に残ったのは、新入りのアルセウスたちだけであった。皆が出払ったのを見て料理長のミハエル・グラハムが慌てた様子で出てきて
「しまった!肉が不足している。大変だ」
と言った。彼はあたりを見渡し
「おお、新入り。お前らが残っていたか。丁度いい。依頼だ。肉を狩りに行ってくれないか?」
と言った。
依頼:肉狩り
ゴケルブルグの南西に半日行ったところに野生の猪のすみかがある。そこで猪を5頭狩って来て欲しい。
報酬1人400G
アルセウスは
「猪を狩るだけで400Gって多くないですか?」
と聞いた。
「そりゃあ、緊急の案件だ。それに道中は魔物も出る。それに報いるだけの報酬だとはおもうが?」
とミハエルが言うと
「それもそうだな。猪のすみかとやらをみせてくれはしないか?」
とイルドが聞いた。
「地図の印がついているところだ。ゴケルブルグ騎士団が帰ってくるまでに終わらせて欲しい」
とミハエルが地図を出しながら言うと
「わかったわ。それじゃあ、早速行きましょう!」
とミリアがクォータースタッフを掴みながら立ち上がった。
「ほらよ、保存食。干し肉だから、齧ればなんとかなるぞ」
とミハエルが干し肉の塊を投げてよこした。
「ありがとう、料理長!」
とミルセが言った。
城から出て、ゴケルブルグの西門に向かった。
「しかし、場所が曖昧すぎるぞ。猪というものはこんなにも行動範囲が広いものなのか?」
とイルドが言うと
「野生だから、あちこち動き回っているんじゃない?」
とミリアがどうでもいいという感じで答えた。アルセウスは考え込みながら
「ミリアの意見はたしかにもっともだ。早く行こう」
と言った。
南西の猪の生息地に向かう途中、アルセウスは隊列を整えながら
「何が出てくるかわからないから気をつけていこう」
と言った。その時、前方の草むらでザワザワという音がした。
「隠れても無駄だ。出てきやがれ」
とミルセが言うとゴブリンが2体出てきた。
「あれはゴブリンだな」
とアルセウスが言うと
「弱点は魔法攻撃よ」
とミリアが言った。
「そこまで見破ったのか」
とアルセウスが言うと
「ほら来るわよ!」
とミリアが注意した。
「よっしゃ。先制を取ってやる」
とミルセが言って、意気揚々と先頭に出て滑った。ミリアが肩を竦めながら
「何やってるのよ。先制取ったから、早いことやっつけちゃいましょう。片方の方にエネルギー・ボルトを撃つわ」
と言って、詠唱に入った。しかし、肝心の攻撃が勘所を外したらしく、致命傷にはならなかった。
「っと。前に出る前に、フィールド・プロテクションだ」
とアルセウスが言って、フィールド・プロテクションを行使した。
「っしゃー。それじゃあ、スパークだ」
と言って、イルドがスパークを詠唱した。魔力が高くないイルドは致命傷を与えることは叶わなかった。ミルセが
「よっし。それじゃあ、前線だ」
と言って、前に出た。そして、キャッツアイで命中力を強化して、攻撃した。フレイルの一撃はゴブリンの片割れを砕いた。相手のゴブリンは汎用蛮族語で
「畜生!やってやらァ」
と言って、ミルセを狙ったが、彼が紙一重で躱した。そのまま彼はライジングサンを振り下ろした。ライジングサンはゴブリンに重度の傷を負わせた。それを見たイルドが
「加勢するぜ」
と言って、魔力撃を放った。魔力を帯びた拳はゴブリンの残りの方をミンチにした。
「よし。完勝!」
とイルドがバンダナをたなびかせながら言うと
「レブナントにならないように供養しておこう」
とアルセウスが言って、街道脇に墓を建てた。
「よし、戦利品を剥いでおこう」
とイルドが言って、ゴブリンから武器を剥ぎ取った。
「さて、もう少しなのよね。早く行きましょう」
とミリアが言って、先頭を切った。
そして、猪の住処と思われるところに着いた。そこには先客がいた。彼らを獲物と認識した先客は牙を剥いてきた。
「なんだ?」
とイルドが聞くと
「片方はディノス。もう片方はジャイアントリザード。ジャイアントリザードの方は弱点は物理攻撃」
とアルセウスが答えた。それに続いてミリアが
「ディノスの方の弱点は衝撃属性ダメージよ。私じゃ先手が取れなかったわ」
と言った。
「先手はなんとか取れた」
とミルセが言って、構えた。
「まずはダメージ軽減だ。フィールド・プロテクションだよ」
と言って、アルセウスがフィールド・プロテクションを行使した。行使された感触を確かめつつ、イルドが
「スパークだ」
と言って、スパークを放った。ディノスの頭部には抵抗されたが、ディノスの胴体やジャイアントリザードには的確に急所を当てることができたので、大ダメージを食らわせることができた。ミリアは
「それじゃあ、ディノスの頭にエネルギー・ボルトを撃ち込むわ」
と言って、詠唱を始めた。ディノスの頭部を正確に撃ち抜いたミリアのエネルギー・ボルトは、重傷を負わせることができた。ミルセが
「それじゃあ、吶喊するぜ」
と言って、吶喊して、ジャイアントリザードに攻撃を仕掛けた。ギリギリ、ライジングサンを当てたミルセは力でねじ込んで、ジャイアントリザードを倒した。ディノスは大ダメージを与えたミリアに冷気のブレスを放った。しかし、大ダメージを食らったためか、狙いが定まらず、大ダメージを与えることができなかった。胴体はミルセを狙った。しかし、精度が低く当たらなかった。ミリアが
「もう一度、頭にエネルギー・ボルトを撃つわ」
と言って、エネルギー・ボルトの詠唱を始めた。ディノスの頭部を正確に撃ち抜いたミリアのエネルギー・ボルトはディノスに致命傷を与えた。
「よし、それじゃあ、供養だ」
とアルセウスが言って、お墓を建てた。イルドが
「よっしゃ剥ぎ取りだ」
と言って、ディノスの頭部から凍った肉と亜竜鱗をジャイアントリザードから上質な鱗を剥ぎ取った。そして、ディノスの頭部からさらに剣のかけらを3個回収した。
「しかし、猪がいないわね。どこに居るのかしら?」
とミリアが言ってあたりを見渡した。そして、猪の足跡を見つけた。
「おっ、こっちは来た方向だ。ということは、そっちに向かったんだな」
とミルセが言うと
「珍しく見解の一致ね」
とミリアが言って、南西の方向へ向かって歩いていった。1キロメートルほど進んだところで猪の群れがいるのを発見した。アルセウスが
「猪だ!」
と叫ぶと群れの一頭が猛進してきた。アルセウスがクォータースタッフで殴ると簡単に死んだ。
「あれ?簡単だ」
と彼が言うと
「魔法を使うまでもなさそうだぜ。一人頭5,6頭狩っておこうぜ」
とイルドが言って、殴った。10分ほどで猪30頭が集まった。
「これだけありゃあ、困ることはないだろう」
と言って、ミルセが猪の頭を割った。
帰路についた。スマルティエの怪力の腕輪が落ちているのがわかった。
「俺がもらっていいか?」
とミルセが言うと
「いいよ。どうせ筋力なんて誰もいらないし」
とアルセウスが言った。そんなこんなで、戻ることができた。
「おお、新入り。無事に猪を狩ってきたか」
とミハエルが大きな体を大きくしながら言って、猪を受け取った。
19日経過。