騎士みたいだったよ! (2/2)
「きゃあっ!」
私は、また悲鳴を上げてグレンを突き飛ばした。状況は把握できたけど、頭が真っ白になっていたから、それ以外の行動は取れなかった。
赤面していたグレンは、そのまま天幕の支柱にぶつかる。
「ご、ごめん……」
グレンが少し傷ついたような声を出した。自分のしてしまったことに気付いた私は、動揺する。
「ち、違うの!」
思わず大声を出した。
「あのね、そうじゃないの! その……違うの! 本当に違うんだよ!」
ああ! パニックになって頭が上手く回らない! じれったくて歯ぎしりしながら、私は大げさな身振り手振りで何とか自分の気持ちを説明しようとした。
「えっと……びっくり……したの! ……そう! 驚いただけだよ! 嫌だから突き飛ばしたんじゃなくて!」
やっとしっくりくる形容を見つけて、私は大きく頷く。
「さっきのグレン、すごかったよ! 私を助けてくれるなんて、騎士みたいだった! ……あっ、『騎士みたい』じゃなくて、『騎士』なんだよね」
「……まだ見習いだけどな」
私の必死さが伝わったのか、グレンの顔つきが柔らかくなった。……あれ? ちょっと笑ってる?
どうしよう。何だかドキッとしたかも。だってグレン、普段はあんまり笑わないのに……。
「次は気をつけろよ、シンシア」
「う、うん……」
予想外のときめきを覚えてしまったせいで、緊張して上手く話せない。こんな状態じゃ、グレンに私の気持ちを伝えるなんて、とてもじゃないけどできそうもなかった。
「見て! イルカよ!」
黙り込んでしまいそうになった私は、聞こえてきた歓声にハッとなる。桟橋の辺りに人だかりができていた。
「すごーい! 可愛いわね!」
「あの体の大きいのが親で、小さいのが子どもかな?」
皆が夢中になっていたのは、海を優雅に泳ぐイルカの親子だった。そう言えば、どこかから迷い込んで来た個体が、港で目撃されたって噂、聞いたことあったっけ。
「へえ……あんなに人がいても逃げないんだな」
グレンは興味を引かれたみたいな顔になった。
「行くか? シンシア」
グレンが提案してきた。多分、動物好きの私に、イルカを見せたら喜ぶと思ったんだろう。
「おーい、グレン! ちょっとこっち手伝ってくれー!」
でも、私が返事をする前に、グレンに声がかかった。呼んでいるのは、騎士団の制服を着た男の人だ。
よく見てみると、辺りでは騎士団員が忙しそうに立ち働いていた。のんびりお喋りを楽しんだり、イルカに気を取られたりしている人なんて誰もいない。
「すみません、先輩、その……俺……」
グレンは困り顔になる。とっさに私は「行ってきなよ」と言った。
「ごめんね。お仕事大変なのに邪魔しちゃって……。イルカなら、一人で見てくるから!」
「えっ……でも……」
「いいから! サボってるなんて思われたら、後で叱られちゃうかもしれないでしょ?」
私はグレンの背中をぐいぐいと押した。
「……じゃあ、また後で」
何だか申し訳なさそうな顔でグレンは去って行った。その後ろ姿を見送りながら、告白はまたの機会にしようと決める。今度は、グレンの迷惑にならないときを選ばないと。




