騎士みたいだったよ! (1/2)
次の日。私はクリストフ兄様と一緒に、予定通りに港の開港記念祭に来ていた。
到着したときには、会場の港前広場はすでに多くの人で賑わっていた。たくさんの天幕の下に、小さなテーブルに載った美味しそうな料理や飲み物が並んでいる。立食パーティー形式だ。
「シンシア! エルフリーデ殿下だ! 殿下がいたぞ!」
食事をしたり談笑したりする大勢の人々の中から、いち早く恋人の姿を見つけたクリストフ兄様が浮かれた声を出す。
「二人とも、ご機嫌よう」
エルフリーデ様も私たちに気が付いたみたいだ。一緒にいた女官たちをうるさそうに追い払って、こっちに来た。
「エルフリーデ殿下、素敵なお召し物ですね」
クリストフ兄様がうっとりと囁く。
今日のエルフリーデ様は、初夏にふさわしいサンドレスを着ていた。色はいつも通りの赤だったけど、透け感のある柔らかい布でできているからなのか、あまりどぎつさは感じられない。風が吹く度にひらひらと揺れる裾が爽やかだ。
きっとクリストフ兄様、この服と同じデザインのものを『もふもふ殿下』のために作ってあげようって考えているんだろう。観察するように上から下までじっくり眺めている。
「今日のために新調したの。……シンシア、お前の格好、ちょっと暑くないかしら?」
嬉しそうにクリストフ兄様に応じたエルフリーデ様は、私の服装を見て眉をひそめた。
「……はい。あんまり涼しくはないです」
私は手で顔をあおぎながら、額の汗を拭った。
オーバースカートを何枚も重ね、胴の辺りが体にフィットするデザインのドレスは、エルフリーデ様の言う通り、風通しが悪くてむしむしする。首元もフリルのついた高い襟で覆われているので、こもった熱気の逃げ場がなかった。
せっかくの記念祭だからお気に入りのドレスを着てきたんだけど、ちょっと季節感を無視しすぎたかも。そう言えば、服を用意してくれた使用人も、「本当にこれで行くんですか?」って顔してたっけ。
でも、今さら着替えてくるわけにもいかないので、帰るまではこれで我慢するしかない。
「シンシア、あれ」
ウエストを締め付けている装飾用のリボンを緩めて、少しでも涼しくしようと頑張っていると、クリストフ兄様が私の肩を叩いてきた。
その視線の先にいたのはグレンだ。杖をついた老婦人が会場に入るのを手助けしているところだった。
「ほら、行ってこい、シンシア」
クリストフ兄様に背中を押され、私は昨日のことを思い出した。今日はグレンに好きだと言うと決めていた。そして、グレンが私をどう思っているのかも知りたかった。
「……失礼します、エルフリーデ様、クリストフ兄様」
一礼した私は重いスカートを持ち上げて、袖についたフリルを手首の辺りで揺らしながら、グレンの元へと駆け寄った。
「きゃあっ!」
でも、ちょっと張り切りすぎたみたいだ。道ばたに落ちていた石に気付かなかった私は、それにつまずいてバランスを崩す。
「危ない!」
でも、そのまま転んで大怪我……なんてことにはならなかった。地面に激突する前に大きな手が伸びてきて、あっという間に私の小さな体は広い胸の中に抱き取られる。
「……大丈夫か?」
気遣わし気なグレンの声がした。何が起きたのかすぐには分からなかった私は、その声に釣られるように顔を上げる。すると、至近距離でグレンと目が合った。
……私、グレンに抱きしめられているの?




