グレンの本心(1/2)
「エルフリーデ殿下の~瞳は~生まれたての~子馬のよう~」
夜、エルフリーデ様たちが帰っていった後で、私は談話室のソファーに腰掛けながら、手の中の花を見つめていた。
「パカパカ~ひひん~元気が~いいね~」
グレン、どうしてあんなことをしたんだろう。私に似合うからって、白いお花を取ってくるなんて。それで、そのお花を私の髪に飾ってくれるなんて。
「エルフリーデ殿下の~お肌は~海に住む~魚のよう~」
それに、「私のこと、好き?」って聞いたときのグレンのあの反応。どうしてあんなに顔が赤かったの? ただ困ってただけ? それとも、別の意味があったの?
「キラキラ~ぴかぴか~焼くと~美味しい~……よし、できた!」
トンチキな歌がやんで、私の隣から、クリストフ兄様の嬉しそうな声がした。
「見てくれ、シンシア! 名付けて『もふもふ殿下』だ!」
クリストフ兄様が自信満々に見せてきたのは、エルフリーデ様を模したぬいぐるみだった。ちょうど、膝に乗るくらいの大きさだ。
髪はフェルトを細かく切り抜いて作ってあるし、高価な布で出来たドレスの刺繍は、びっくりするくらい繊細だ。その生意気な表情も、エルフリーデ様そっくりだった。
運動能力も歌詞のセンスも残念としか言いようがないクリストフ兄様だけど、手先だけは昔から器用だ。と言うよりも、唯一の特技かもしれない。
「着替えもあるんだぞ! さあ、エルフリーデ殿下、本日のお召し物はいかがなさいますか? ……ワタクシ、ソレガイイワ! 赤イ宝石ガツイテルノ! はい、かしこまりました!」
クリストフ兄様は全然似てないエルフリーデ様の声真似をしながら、おままごとを始めてしまった。かわいそうな人にしか見えなくなる光景だ。
「アラ、しんしあ、イイ花ネ、ソレ」
クリストフ兄様は声真似をしながら、『もふもふ殿下』に私の手の中を覗き込ませる。
「誰ニ貰ッタノ?」
「……兄様、普通に話してください」
私は『もふもふ殿下』の顔に手を当てて、ずいっと押しのけた。……あっ、本当に『もふもふ』だ。
「よかったな、シンシア」
『もふもふ殿下』を膝の上に置いたクリストフ兄様が、やっと地声で話しかけてきた。
「グレンからの花のプレゼントなんて、珍しいじゃないか」
クリストフ兄様は、腕を組んで何かを考え出す。
「確か、五つのとき以来じゃないか? グレンがシンシアの好きな花と一緒に茶葉を持って、うちに遊びに来て……」
「私とグレンと兄様でお茶会しましたよね」
懐かしい思い出に、私の頬が緩む。反対にクリストフ兄様は、「あのときは大変だったな」と、少し険しい顔になった。
「張り切ってグレンにお茶を入れてやろうとしたシンシアが、うっかりポットをひっくり返して大騒ぎになった。確か、指をやけどしたんじゃなかったか?」
「ああ、ありましたね、そんなこと」
私は苦笑いだ。跡が残るほどひどい怪我じゃなかったけど、周りで見ていた使用人たちがとても狼狽えていた記憶がある。
「グレンもかなり慌てていたな。医師のところに連れて行かれるシンシアを見ながら、半泣きになっていた」
「そんなことがあったんですか」
これは初めて知る話だ。グレンが泣くところなんて、ちょっと想像できない。
「本当に大変だったんだぞ? 『もうこれから先は、お茶を飲む機会があっても、絶対にシンシアに注がせたりしない』なんて言っていた」
「私にお茶を……?」
意表を突かれて固まった。
私は、前のお茶会でグレンがしたことを思い出していた。グレンは私からお茶の入ったポットを取り上げた。「自分でするから」って言って。
てっきり、私の気遣いなんていらないってことなんだと思ってた。でも、本当は違ったの? 私のためを思って、そうしてくれていたの?
意外な事実を知って、ふわりと気持ちが軽くなった気がした。同時に、胸の中へと温かいものが流れ込んでくるのを感じる。
落ち込む必要なんてなかったんだ。あれは、グレンなりの親切心の現れだったんだ。




