イチャイチャ対決が始まりました(2/2)
「見て、あの木、お花が咲いているわ!」
でも、理由を聞こうとした途端にエルフリーデ様が大声を出したせいで、完全に出鼻をくじかれてしまった。喉元まで出かかっていた言葉が、お腹の中に落ちていく。
「白いのと赤いのがあるわね。わたくし、赤いお花が欲しいわ。取ってきてちょうだい、クリストフ」
エルフリーデ様が指差した方には、赤と白のお花が咲いた木が立っていた。人の家の庭にあるものを遠慮もせずに欲しがる辺りは、やっぱりエルフリーデ様だなって感じだ。
「お任せを!」
主人に芸を命じられた子犬のような表情で、クリストフ兄様が駆け出そうとする。
でもエルフリーデ様は、「ああ、ちょっと待って」と兄様のシャツの裾を引っ張って、それを止めた。
「どうせなら、これも競争にしましょう。ほら、グレン、位置につくのよ。お前もお花を持ってきて、シンシアにあげなさい」
「お、俺が?」
グレンが目を見開いた。
「ほら、位置について!」
グレンは抗議しようとしたみたいだけど、エルフリーデ様は聞く耳を持たなかった。もう競争するのは、エルフリーデ様の中では決定してるんだね。私、別にお花なんて欲しくないんだけど……。
それにしても、クリストフ兄様とグレンを競争させようだなんて、ちょっと無理のある話だ。なにせ、クリストフ兄様は……。
「よーい、スタート!」
エルフリーデ様のかけ声を合図に、グレンとクリストフ兄様が駆け出した。
……と思った矢先に、クリストフ兄様が転んだ。何もないところで。
「クリストフ! しっかりなさい!」
エルフリーデ様が叱咤する。それに応えるようにクリストフ兄様は立ち上がって、必死で走り始めた。って言っても、すっごく遅いんだけど。グレンとは、かなり差が開いてしまっている。
クリストフ兄様、かなり運動音痴だからね。特に足はものすごく遅い。私の方が速く走れるって言い切れるくらいだ。
それに引き換え、グレンの走り方は颯爽としていて格好よかった。やっぱりやる気がないのか、全力疾走じゃなくて小走りって感じだけど、それでも十分速度は出ている。思わず見惚れてしまいそうだ。
「ほら、見つめてばっかりいないで、シンシアも応援なさいよ」
エルフリーデ様に肘で突かれて、我に返った。わ、私、そんなにグレンのこと凝視してたの?
「が、頑張って、グレン!」
恥ずかしさを誤魔化すように大声を出した。グレンはすでに目的地の近くにいる。伸びていた枝を掴み、難なく木に登ると、花を一輪摘み取った。そのまま、涼しい顔で戻ってくる。
勝負はあっという間に決着がついてしまった。
「すみません……負けてしまいました……」
転んだせいで土だらけになったクリストフ兄様が謝る。さすがのエルフリーデ様も、こんな格好悪すぎる姿には、恋が冷めちゃったんじゃないかな?
「ああ……クリストフ……。わたくしのために、こんなに泥だらけになって……。もう、仕方ない人!」
……いや、そんなことはなかったね。やっぱりバカップルだ。エルフリーデ様にハンカチで顔についた汚れを落としてもらってるクリストフ兄様も、何だかすごく嬉しそうだ。
はあ……何だろう、これ。勝ったのはグレンのはずなのに、すごい敗北感……。
「……あれ、グレン。それ、白いお花じゃないの?」
肩を落としてグレンの方を見ると、妙なことに気が付いた。
グレンが木から取ってきたお花は、白色のものだったんだ。エルフリーデ様は確か、「赤いお花を取ってきなさい」って言ってたはずなのに。
「……別に勝負なんかどうでもいいから。それに白い方が……シンシアに似合うかと思って」
私の疑問に、グレンはそっぽを向きながら小さな声で答えた。
「ほら、やるよ」
グレンの指が、私のダークブロンドの髪に触れる。日焼けした手の中のお花が、私の耳の上辺りに飾られた。
「もう行こう。曇ってきた。雨が降りそうだ」
グレンが私に広い背中を向けて、屋敷へと戻っていく。
でも、私は動けなかった。ほんのりと自分の髪から漂ってくる甘い花の香りを嗅ぎながら、その場に立ち尽くしている。心臓が大きく音を立てていた。
「あら、今回は引き分けね」
私の花飾りを見たエルフリーデ様が、そう言うのが聞こえてきた。




