2. 旅立ち
「お久しぶりですゼール国王」
ウォルターは軽く頭を下げる。
「お久しぶりです。ゼール国王」
レナも軽く頭を下げた後微笑んだ。
「立ち話もなんだから座って話そう」
ゼールはそう言うと、部屋にある椅子に座った。
ウォルター達もゼール国王の向かい側に座る。
ゼールが話始めた。
「さて、本題に入ろう。君達に頼む依頼だが....魔王ガウスの討伐だ」
「魔王ガウス....確か、ミクストピアとかいう魔物の集団を束ねている......」
ウォルターは思い出しながら答える。
「そう、その魔王ガウスを討伐し、その証に首を持ってくるのだ」
「わかりました、ですが今回はレナを置いていきます」
「えー、なんで私行けないの?私も行きたいー!」
わがままを言うレナにウォルターは答える
「いいか、今回は国外に出るんだ。戦闘経験がある程度ある奴じゃないと生き残るのは難しい」
「私も剣術は教わったもん、生き残れるもん」
「頼むからここにいてくれ、な?」
ウォルターの言葉にレナはほっぺを膨らませる。
「あと、一つお願いしたいことがあります」
ウォルターは人差し指を立てる。
「案内役をつけてほしいのです」
「そういうと思ってな」
ゼールは笑みをこぼす。
「既に詳しい者を用意してある」
ゼールが言い終わったと同時にドアがノックされる。
「いいぞ」
ゼールの合図の後、勢いよく扉が開く。
「ちわーっす、案内役1名入りまーーす」
勢いの良い声とともに、緑のソフトハットをかぶりチャラチャラとしたアクセサリーを腰につけている
ひょろっとした狩人のような恰好をした男が部屋に入ってきた。
「紹介しよう、案内役のグリフだ」
ゼールがグリフのテンションに慣れた様子で話す。
「グリフ・アーフォートでーす。以後よろしくぅ!」
「これホントに案内できるんですか。信頼しちゃっていいヤツですか?!」
素早くツッコミを入れるウォルターにゼールは落ち着いて答える。
「これでもミクストピアの城を目視できる場所までたどり着いた唯一の生き残りなんだ。まあ、仲良くしてやってくれ」
「そこまでおっしゃるのなら....」
ウォルターは渋々承知する。
「では、精霊の間に行こう。二人ともついてまいれ」
「はい」
「りょーかーいでーす」
ゼールに続いてウォルターとグリフも部屋を出る。
一人取り残されたレナが叫ぶ
「何なのよもーーーーーう!」
★
ゼールに案内されてお城の地下の精霊の間への石造りの螺旋階段を下りていくウォルターとグリフ。
地下室への階段には壁にランタンが吊るされており、中には黄色い光が幾つも入っている。
「相変わらずジメジメとしたところですねぇ~。ウォルターさん来たことあります?あ、あるからこんなに落ち着いてるんですよね。っていうかウォルターさんは国王様とどんな関係なんです?」
「少し黙ってくれないかなぁグリフ君」
怒り気味でウォルターはグリフに行った。
下に進むにつれて明かりも少なく薄暗くなり、いつしか壁や天井は淡くて青い無数の光で満ち溢れるようになっていった。
そして遂に地下にある精霊の間に到着した。
石造りの広い空間のど真ん中に魔法陣らしきものが彫られている。そしてそれを取り囲むようにして大きな柱が4本立っていた。
「ここに立っていてくれ」
ゼールに言われて二人は魔法陣の上に立った。
ゼールは魔法陣の外へ行き、ぶつぶつと聖書(?)のようなものを読み始めた。
「我ら善良なる臣民は神聖なるサラディア様のために........」
すると壁や床、天井の青い光が一層輝きを増して、掘られた魔法陣の中から青い光がたくさん飛び出す。
その光は魔法陣の中で渦を巻き魔法陣の中の二人を巻き込んでいく。
「幾たびの試練を乗り越え、民を守らんとするものに今、神聖なるサラディア様のご加護を附与せんとする。生きとし生ける臣民に栄光の光あれ!」
ゼールが言い終わるころには二人の体中に光がへばりつき、誰かもわからないほどだった。
そして二人は気を失った。
★
ウォルターが目を覚ました時、ウォルターは城の医務室のベッドに横になっていた。
「毎回気を失うの、どうにかしてほしいよな」
呟いた後、体を起こし、持ち物を持って医務室を出るとグリフがメイドをナンパしていた。
「そこのお嬢さん、僕とお茶でもどう?」
メイドは困った顔をしている。
「な?!」
ウォルターは驚きの声を上げた後、走ってグリフの首根っこをつかみ、そのままお城の外まで爆走していった。
「何やってんですかウォルターさん、せっかくいいところだったのに」
「1ミリもよくねーよ!ってかむしろメイドの人困った顔してたよ!」
「とにかく、これから必要なものを買いに行くぞ」
ウォルターは道具屋に行こうとする。
「ああ、それならすでに買い揃えておきましたよ」
グリフは事前に買い揃えていたものの場所へと案内する。
そこには、グリフが買いそろえたものを乗せた馬車があった。
「へぇ~何から何までそろってんじゃねーか」
ウォルターは感心する。
「ま、まぁ、これくらいは当然ですよ」
照れながらもうれしさを隠せないグリフ。
続けてグリフは手を差し出す。
「これから、よろしくお願いしますよ、ウォルターさん」
「ああ、よろしくな、グリフ」
ウォルターは差し出された手を取った。
「あ、あとこれを....」
グリフが出したのは銀色の片手剣。
ウォルターはそれを手に取ると素振りをやり始めた。
「うぉ?!なんだこれ使いやすい!」
「でしょ?苦労して手に入れたんですからね!」
素振りに夢中になっているウォルターにグリフが急かす。
「さあ、早く乗ってください」
「わりぃ、わりぃ」
グリフに言われて馬車に乗る。続いてグリフが馬車に乗って運転をし始める。
「もう寄るところはありませんか?ウォルターさん」
「あーっと、あと1か所寄りたいところがある」
「わかりました。どこでもお供しますぜ、旦那!」
グリフはどや顔でグッドポーズをする。
「いや、そういうのいいから」
ウォルターは冷静にツッコミを入れる。
馬車を走らせていると城下町の住宅や店が立ち並んでいる景色から広大な田畑ばかりの景色へと移り変わる。
「ここで止めてくれ」
ウォルターがそう言ったのは広大な田畑の中にポツンとある農家の家の前だった。
その農家の家の庭に、カカシを敵に見立てて自前の木刀で剣術の練習をしている青年がいる。
馬車が停まり、ウォルターが馬車を降りる。
すると青年はウォルターに気づき、駆け寄ってきた。
「ウォルターさん、また来てくれたんですね」
「おう、来たぜー」
ウォルターは気さくに返事をする。
「剣術の稽古、またやってくれますか!」
青年は目をキラキラと輝かせながら聞いてくる。
「あーっと、今日はこれから仕事なんだ」
ウォルターの言葉を聞いた瞬間、青年の顔がしょんぼりする。
悲しい顔をする青年の頭をウォルターはそっと撫でた。
「安心しろ、仕事が終わったらまた稽古をしてやる」
青年の顔がぱぁーっと晴れる。
「絶対ですからね、どんなに疲れていても稽古つけてもらいますからね!」
青年はウォルターに念押しをする。
「はは、わかったよ。じゃあ約束の証にサージにこれをあげよう」
そう言ってウォルターは農家の青年、サージに自分の身に着けている黒い十字架のペンダントを渡した。
「いいんですか?!これってウォルターさんの師匠さんからもらったペンダントなのでは?」
驚くサージにウォルターは落ち着いて話した。
「いいんだよ、俺の師匠は約束の証にこのペンダントを俺に託した、今度は俺がサージに託す番だ」
そのあと、ウォルターはまた馬車に乗った。
「ぜーーーーったいですからね!」
サージの声にウォルターは「おう!」と返事をした。
一連のやり取りをあったかく見守っていたグリフが馬車を動かす。
「惚れなおしましたよ、ダ・ン・ナ!」
茶化すグリフに、ウォルターは「うるせぇ」としか言い返せなかった。
★
「もうすぐアルフド王国の国境線ですぜい旦那ァ」
馬車を走らせながらグリフは少し興奮した様子で言う。
「そういえば、グリフはどうやってミクストピア付近まで行ったんだ?」
ウォルターが素朴な疑問をグリフにぶつける。
「ここから南に行くとアルフド平原があってその先にサイラスの森がある。そこまでは知っていますよね?」
「ああ」
「サイラスの森を抜けるとレオナルド砂漠っていう砂漠があったんですよ」
「あの森の向こうには砂漠があるのか!」
ウォルターは驚きを隠せず、グリフの話に夢中になる。
「んで、その砂漠も超えていくと谷があったんですよ。まるで世界にひびが入ったような」
グリフは話を続ける。
「でもその谷にはおっかない化け物がいて....僕の仲間は全員殺されてしまいました」
「なるほど、で、谷は越えれるようになっているのか?」
「一応、大きくて頑丈そうな橋が架かっていました」
「そこからいけそうか....」
ウォルターが呟くと、グリムが念を押して言う。
「僕が案内するのはレオナルド砂漠を超えるまでですからね!」
「ああ、わかっているよ、ってかそれ以上は案内できないんだろ?」
「それもそうですけど、もうあの場所には行きたくないんで....」
グリムの手が震える。
「そっか」
ウォルターは優しく言うと、それ以上は何も聞かなかった。
「もうすぐ国境です」
グリムが真剣な表情で言う。
「ああ、もうすぐ外に出る。覚悟固めろよグリム!」
「わかってますよ、旦那ァ!」
意気込む二人の目の前には国を大きく囲んでいる巨大な壁と、その壁を境に透明な結界が空を覆いつくしていた。