1.旧友の再会
外に出ると、目の前には真っ赤で気品のある馬車が停まっており、馬車の中からレナが待ちくたびれた顔でウォルターを見ている。
「お待ちしておりました。ささ、こちらへどうぞ」
執事らしき老人は馬車のドアの前でウォルターに微笑みながら言った。
ウォルターは馬車に入り、レナの横に座った。
そのあと、執事らしき老人は馬車の扉を閉めたのち、ウォルターと対面するように座った。
馬車が走り出す。
「ご無沙汰しております。ウォルターぼっちゃま、レナ様」
「やめてくれ、俺は王族でもないし子供でもないぞバイリー」
呆れた顔でウォルターが言う。
「申し訳ございませんウォルター様。つい昔の癖で....」
二人のやり取りを聞いてレナがクスクスと笑いをこらえる。
「まだ子供扱いされてやんのー」
「う、うるせー、俺はもう大人だ!」
ウォルターが大声を張り上げる。
「うるさいわねぇ、そういうところが子供なのよ」
レナがウォルターに悪態をつく。
「なんだとー!」
今にも喧嘩が始まりそうなとき、バイリーが二人をなだめる。
「まあまあ、お二人とも喧嘩なさらずに....」
「ふん!」
二人が同時にそっぽを向く。
そのあと、険悪な空気に耐えられなかったのかウォルターが口を開いた。
「それで、クラムは元気か?」
「あ、それ私も聞きたーい」
さっきの出来事などなかったようにレナが興味津々な反応をした。
「はい、クラムぼっちゃまはいつもお忙しそうになさっています。ですが最近は特に成長なされて、いつかこの国を支える立派な王になると思うとわたくし本当に涙が出てきて....」
言い終わる前にバイリーは目から涙をこぼし、ポケットから取り出したベージュのハンカチで涙を拭いた。
「おいおい、泣くのはまだ早いぜバイリー」
「そうよ、泣くのはクラムが王様になってからでも遅くないわ」
二人は必死にバイリーを慰める。
「失礼しました。最近は気が早くなっていて....」
「そういえば、話は変わりますが、お二人は最近いかがお過ごしで?」
バイリーの唐突な質問にウォルターは落ち着いて答える。
「相変わらず何でも屋をダラダラとやってるよ。探偵やったり、簡単なものを修理したり....」
「ここ一か月一件も仕事来てない癖によく言うわ」
レナが呆れた顔で言う。
「ご安心なさいませ。報酬はたんまりでるそうですよ」
微笑みながらバイリーは言った。
「ええ!!ホントに?!」
レナが話に食いつく。
「お、おい。俺達はゼール国王に頼まれたからやってるわけでカネ目的では....」
「で、で、いくらもらえるの?」
ウォルターの言葉をかき消すようにレナが言った。
「はい、これぐらいでございます」
バイリーは指を五本立てた。
「ご、5万か、仕事内容によっては妥当だな」
ウォルターは内心驚きながらもなんとか平静を保った。
「5億でございます」
バイリーは笑顔で言い、ウォルターの平静な心を打ち壊した。
「5億だってぇぇぇぇぇ?!」
「5億ですってぇぇぇぇ?!」
驚きを隠せないウォルターと目をか輝かせるレナの声が重なった。
「はい、さようでございます」
バイリーは表情を変えずに肯定する。
目を輝かせているレナとは対照的にウォルターはまるで恐ろしいものでも見たかのような恐怖におののいた顔をする。
「それって、一体どんな危険な仕事なんだ?」
「詳しい話は国王様が直々におっしゃる予定でございます。まずは国王様にお会いくださいませ」
「はぁー、わかったよ。国王様からジ・キ・ジ・キに、聞いてやらぁ」
ウォルターがぶっきらぼうに答える。
「そろそろ到着致します」
「そのようだな」
ウォルターの口がにやりと笑う。
ウォルターは、窓の外のグレイン城に目を向ける。
「どんな仕事でも大役でもこなしてみせるぜ。待っとけよゼール国王!」
その時のウォルターの茶色い瞳は、まだ空を登り始めた太陽に照らされて、一段と輝いていた。
馬車が止まる。
城壁塔の門番が馬車を確認すると、分厚くて頑丈そうな跳ね橋がギシギシと音を立ててゆっくりと降りてきた。
城門をくぐり、正面の大扉の前で馬車が停まる。
「到着致しました」
バイリーは馬車の扉を開け外に出る。
「ささ、お足もとにご注意くださいませ」
バイリーはそう言いながら馬車の扉のそばに立つ。
「サンキュー、助かるぜ」
ウォルターは馬車を降りるとバイリーにお礼を言った。
「ありがとね!」
続いてレナも馬車を降り、バイリーに礼を言う。
「いえいえ、私の務めですので」
「部屋まで案内いたしましょうか?」
ウォルターは首を横に振る。
「いや、大丈夫だ。子供ん時どんだけ城で遊んだと思ってんだ?」
「失礼いたしました。では、また後程」
バイリーは深々とお辞儀をする。
ウォルターとレナは正面の大扉に向かって歩く。
その姿をお辞儀を終えたバイリーがしみじみと二人を見る。
「やはりお二人は本物の兄妹なのですね」
二人の姿を見てバイリーは呟いた。
「例え血が繋がっていなくとも....」
バイリーは扉を開けて入っていくウォルター達が見えなくなるまで見送った。
★
ウォルター達が中に入るとそこは広間になっており、正面には幅の広い階段が待ち構えていた。
そして至る所に兵士や執事、メイドがいて、各々の仕事をこなしていた。
メイドの一人がウォルター達に気づいて
「ようこそお越しくださいました。ウォルター様、レナ様こちらへどうぞ」
と言ってウォルター達を別室に案内する。
別室に着くと、レナが真っ先にソファーに横たわった。
「んん~、やっぱお城のソファーは格別よね~」
レナが体を伸ばしながら気持ちよさそうに呟く。
「はぁー」
ウォルターがため息をつく。
「レナ、俺達はくつろぐためにここに来たんじゃないんだぞ」
呆れた顔でウォルターは言う。
「別にいいじゃない。待ってる間だけなんだし」
レナはくつろぎながら答える。
流石のウォルターも呆れすぎて言葉も出なくなっていると、廊下から大きな音が近づいてくる。
ド、ド、ド、ド
「なんか騒がしいね」
レナが気づいてふと呟く。
「しっかたないなぁ。俺が見てきてやるよ」
得意げにウォルターが確認しようとドアのほうまで歩きドアノブに手を置こうとした瞬間、うち開きのドアが開き、ウォルターをぶっ飛ばした。
「んあ?!」
情けない声を出してウォルターが倒れていることに気にも留めず、ウォルターをぶっ飛ばした張本人がしゃべり始めた。
「レナ、来てたんだね!」
そこには金髪で済んだ青い瞳をしている童顔の美青年が立っていた。
「クラム!久しぶり~元気にしてた?」
「レナこそ、ちゃんと生活できてるウォルターに変なことされてない?」
「大丈夫よ、イ・チ・オ・ウだけど生活もできているし、変なことされたら縛り上げて暖炉の炎で燃やしてるわ」
「強いなぁレナは」
二人で歓談しているとウォルターが起き上がって物申す顔で二人に言った。
「あのなぁ、人がぶっ飛ばされたら普通、大丈夫?の一言でもかけるだろ」
「ああ、ごめんね」
「気を遣わなくてもいいわ、いつもぶっ飛ばされているから」
「それはおめーにな」
ウォルターは勘違いされる前に補足した。
「ふふ、確かに。昔からそうだったもんね」
「昔も今もちげーよ」
ウォルターはクラムの発言を全否定する。
「そういえば、うちには依頼内容を聞きに来たんでしょ?」
「ああ、ゼールのおじさ....いや、ゼール国王様に依頼内容を聞きに来たんだ」
それを聞いたクラムがレナに近づき、ひそひそと話す。
「ねぇレナ、ウォルターはいつから国王様って呼ぶようになったの?」
「正式な場所で間違っておじさん呼びしないようにするためって言ってた。でもどーせ、この国の王様をおじさん呼ばわりするのが恥ずかしくなったからーとか、そんな理由よ」
「なるほどね」
「二人して何ひそひそしてんだよ」
ウォルターがムスッとして二人に聞く。
「別にぃ」
レナがそっけなく答える。
「あ、そういえばこれからピアノのレッスンがあったんだ。ぼ、僕はこれでもう行くね」
クラムはウォルターの質問から逃げるように急ぎ足で部屋から出て行った。
コン、コン、コン
クラムが立ち去ってからしばらくすると、ドアがノックされた。
「どうぞー」
ウォルターが言うとドアが開き、白髪の青く鋭い目をした気品のあるおじさんが部屋に入ってきた。
「いやぁ、待たせてすまないね」
「いえ、お構いなく」
「久しぶりだね、ウォルター君、レナ君」
そう言った白髪の男、ゼール国王はウォルター達をまじまじと見つめた。




