表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

無能はいらないからと見捨てられ敵陣に単身突撃することになった俺、敵の最強にスカウトされて成り上がり古巣に牙を剥く

作者: Fis


オチがなるべく最初の方でわからないようにと頑張って書いたため、多少文章がおかしなところがありますが目をつぶってください。


「おい、そこのお前」

 矢が飛び、馬が跳ね車両が走り回る戦場のど真ん中で、俺は後ろの将兵から声を掛けられた。

「はっ!! 何でございましょうか?」

 俺は一般兵、一番階級の低い兵士であり、上官に声を掛けられたとあっては快い返事をしないわけにはいかなかった。


「威勢のいい返事だな。よし、お前、その勢いのままただひたすらまっすぐ突っ込んで来い」

「はっ!!……は?」

 戦場では上官の命令は絶対である。

 しかしながら、その命令は俺に間抜けな声を挙げさせ、行動を止めさせるのには十分すぎるほど残酷なものだった。

 俺たちは今、敵軍とまっすぐ向かい合って居り、俺のいる場所のすぐ正面には敵も武器を構えて陣を築いている。

 今、戦争は膠着状態に陥っており、どちらが先に仕掛けるのかとお互い力をためて待っている状態だった。

 そんな中の前進命令、しかも俺だけ……いや、よく耳をすませば、俺が突撃した後に同じような突撃を強いられている同僚がいた。


「そんな!! 弓矢部隊が狙っているわけでもない、騎兵が駆け付けられるわけでもない、将兵のバックアップがあるわけでもない、その上、敵本陣にかかるわけでもない、そんな場所に1人で突っ込めって言われたって、その場所は相手の車両の射程圏内ですよ!?」

「それがどうした?」

「どうしたって……あんなところに突っ込んだらただ殺されるだけ、犬死じゃないですか!?」

「かもしれないな。だが、仕方がない。これは王が決めたことだ。兎に角、お前たちは上の指示に従って前に進めばいい。それとも何か? 貴様は上官の命令が聞けないというのか? それならば、俺がこの場で切り捨ててくれる」

 俺に命令を下した将兵は、腰に下げていた刀をすらりと抜くと俺に向かって突き付けた。

 俺は唇を噛み、拳を強く握りしめながら首を縦に振った。


「わかりました。命令に従います」

「ふん、それでいい。よかったではないか。お前みたいな無能が最後に役に立てて。いや、これでは役に立てているかどうかも怪しいか。はっはっは!」

 嫌な相手の、嫌の言葉を背に受けながら、俺は抜刀して一心不乱に前に突き進んだ。



 そしてその結果――――――ガラガラガラガラッ

 側面から、車輪が石をはじきながらこちらに向かってくる音が聞こえる。


 ————————ガラガラ

 そしてその音は、俺のもとまで一直線にやってきて。

 あぁ、俺の人生もここまでかと、考えて終わりの時を待っていた。







―――――――パシィ!!

 しかし、待てども終わりの時は一向にやってこなかった。

 それどころか、気づけば俺は荷台の上に乗せられていた。


「え?」

「おや? 気づいたかい? まったく、あちらさんも非情だねー。明らかな無駄死に、相手はただ兵力を一つ失っただけ、いや、これで二人目か」

 俺が目を丸くしていると、車両に乗っていた女がそんなことを言いながら、走り抜けざまに俺の同僚を俺がいる荷台に放り投げているのが見えた。

 そして、俺たちが突撃する前の位置まで一瞬で戻った。


 その光景は、俺たちのような力無き兵士には到底まねできないものであり、それを実現させた彼女はまるで女神のようであった。

 そして、その女神は俺たちに言った。


「どう? 君たち、こっちにつくつもりはないかな? 少なくとも、あっちと違ってうちは君たちのようなものも割と重用するし必要としているよ? 少なくとも、今のような犬死はさせない」

 そう言って女神から差し伸べられた手を、俺たちが振り払うことはなかった。


 それから俺たちは、荷台の上で体を休めながらも、いつ呼ばれてもいいように戦況を見守り続けていた。










 それから、少しの間小競り合いが続いた後、その時はやってきた。

「よし、そっちの君、騎兵の正面を抑えて!!」

 俺の同僚が呼ばれて、荷台に乗せられたままだったそいつは馬にまたがりいつも偉そうにしていたそいつの前に降ろされた。


 突然、目の前に現れた兵士に騎兵は対応ができなかったみたいで

「うおおおおおおおお!! 俺たちは、不必要な駒ではなあああああい!!」


――――――ザシュッ

 俺とともにここに乗せられていた同僚は、見事騎兵を打ち取って見せた。

 だが、すぐさま別の兵に斬られてやられてしまった。


「くっ……いや、お前は立派だった」

 未だに荷台の上の俺は、彼の死をその目に焼き付ける。

 彼の死に際は、どこか誇らしげな、大きなことを成し遂げた男の死に様だった。


 俺も、もし死ぬとしても、ああやって一矢報いてやりたい。

 そう思いながら、その時を待った。








 それから、また少しの時間がたった時、俺の出番が来た。



 俺の役割は敵の本陣————王が隠れている矢倉の中であった。





<敵陣営>

「ええい!! どうなっておる!? どうしてそこまで敵が入り込んでおるのだ?! 将兵たちはどうした!? 敵の捕虜はどうした?」

 矢倉の中央で、遠方から敵軍の最高戦力である竜王ににらまれ、今にもブレスで吹き飛ばされるのではないかと気が気でない王は現状の確認を急がせた。


「それが、護衛の将兵たちは口をそろえて『あんな雑魚と刺し違えるくらいなら俺は逃げる』と言って少しずつ後退してきて、もうこの本陣は包囲されている状況にあります!!」


「ちっ、仕方がない。ならばこういうこともあろうかと用意しておいた非常口から脱出するしかあるまい」

 王は自分の保身を何よりも最優先していた。

 そのため、こうして敵に迫られたときに脱出するための経路も用意していたのだ。王はその道を使って危なくなった本陣から逃げ出そうと画策する。


「ダメです!! そちらは敵の狙撃手が狙いを定めています!!」

 しかし、そこには遠方から出口のみに狙いを定めた弓兵の姿。

 戦場には一筋の線ができており、その線が脱出経路と狙撃手を結んでいた。


「ちっ、なら早く肉壁でもなんでも使って我を隠せ! 我はそのうちに脱出する!」

「それもダメです! もう、我々には使い捨てにできる雑兵が残ってないのです! これを打開するには、最低でもこちらの車両を使いつぶすくらいはしないといけません!!」


「ならん! それはならんぞ!! あれは王家に代々伝わる車だ! 何としてでも死守せよ!」

「そんなことを言っている場合ではないでしょう!!」


―――――――ドガアアアアアン


 王とその側近がそんなやり取りをしている間に、矢倉の壁に大きな穴が空いていた。

 そして、その穴をあけたものの正体は――――――


「お、お前は!!?」

「よぉ、戻ってきてやったぜ。感謝しやがれクソ野郎!」

 いつぞやの、使い捨てにした一般兵だった。

 王はその顔を覚えていない。


 だが、その側近であった彼はその顔を確かに覚えていた。

 金色の鎧に身を包み込んだその将兵は、忌々し気にそいつを睨みつけながら抜刀。訓練の時のようにわき腹を切ってしとめるつもりだった。

 だが、


「甘えよ。そんなんじゃ今の俺は止められねえぜ!」

 そこには、かつて前進しかできない雑兵の姿はなかった。

 彼は敵に寝返り、最高の環境で最高の経験を積むことによってその力を大幅に強化し、遂には自分をぼろ雑巾のように捨てた将兵と同じほどの強さを得ることができたのだ。

 未だ、隙はあるがその隙も仲間がカバーしてくれているから、彼は思う存分戦えた。


「畜生!! なんでだ! どうしてお前が、こんな!! 最強の守りを誇る俺と渡り合えるだけの力を―――――グフッ」

 そして、遂には金の将兵を打ち取ることに成功する。


「はぁ、はぁ……」

 その元雑兵は、将兵の屍を踏み越え、肩で息をしながらも王に向けて剣を突き付けた。

 王は自分の命の危機に、ひぃとおびえながら声をかけた。


「わかった!! お前の強さは十分にわかった!! これからはもっといい待遇を確約しよう! だから戻ってきてくれないか?」

「はぁ、はあ? 無理に決まってるだろ?」


「金か? 金が欲しいのか? なら望む額を用意しよう! それでどうだ?」

「いまさら!!! そんなことを言っても遅えだろ? あんたはここで終わるんだよ。諦めて逝きな」


「ぬうううん、この叛逆者め! 貴様こちらが下手に出れば図に乗り折って。我が側近を倒せたから調子に乗ったか? なら残念だったな。我の方が奴よりは強い。貴様は我が直々に叩き切ってくれるわ!!」


 王は、素早く刀を抜くとその勢いのまま目の前の男を切った。

 彼は、確かに力を得たが、それは一般兵として強いというだけで、無敵というわけではなかった。

 それ故、個として強者である王に打ち取られてしまった。

 だが、彼はそれでもいいと思い、死に際に笑って遠方に目をやり、口を小さく動かした。


「女神様、あとは頼みしたぜ」


『……あぁ、任せろ。君の死は無駄ではなかった。君のおかげで、この戦に勝利できる』


 王が男を打ち取った直後、男たちを救出した後の戦いで竜王へと姿を変えた車乗りの女性は、男を打ち取って気が緩んだ瞬間にブレスを放つ。

 そしてそのブレスは、男の亡骸とともに王を確実に仕留めることとなった。




――――――――――――――――――――――――――――――――――


「……参りました」

「うん…ありがとうございました」


 和室で向き合う2人の人間。

 彼らはパチパチと時間を戻すようにその盤の上の駒を並べなおしながら話を始める。


「何が悪かったのでしょう?」

「やっぱり、序盤の歩の突き捨てがやりすぎだったな。明らかに突かなくていいところが2つあっただろう?」


「あー、ですよねー。あとの展開考えると先についた方がいいって思ったんですけど、結局無駄に渡しただけでしたからね」

「結果的に歩切れになって厳しい展開が続いただろう?」


「はい……あ、あと桂頭攻めとかも嫌でしたね」

「さすがに跳ねるが早かった印象だったからね。桂馬は大胆な動きができるが性質としては一番繊細だから跳ねるタイミングだけは考えないといけないよ」


「それに、先生の序盤中盤が有利だったのを見てからのゆっくりと固めてからと金で攻めるのもかなり効きましたね」

「勝っているときは堅実にいった方が強い。それに、と金の攻めは見た目よりもずっと早いからね」


「あとは―――――」


 こうして、小さな戦争が一つ、幕を下ろしたのであった。




まぁ、予想はできていたと思うけど将棋だよねこれ


追放? ざまぁ? もう遅い? 力の覚醒?


まるで将棋だな

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ