第4話【恋と選択と下手糞な尾行】
初々しい初恋をしたような、頬を真っ赤に染めた霧崎にサキの方が緊張してしまう。もじもじとしながらも奥ゆかしさを感じさせる大和撫子タイプだ。
「分かったわ! まずは私が、そのシュンって人に好きな子いるか……それと無く聞いてみる。そう言えば名前聞いてなかったわね?」
「はい。【霧崎ツユハ】って言います」
ブレザー制服に付いているリボンの色が青色であり、同学年の1年生である事は直ぐに分かった。血気盛んな乙女が初々しくも早い段階で恋愛をしたいと言い出しているのだから、ここはしっかりと恋のキューピットになろうではないか。
「そう……任せて! 学校生活は青春が大事よね。恋も勉学も本気で! ――あ、個人的な質問だけど、どうしてその人の事を好きになったか聞いていい? ちょっと興味ある」
「そのぉ、困っている時……助けてもらったから」
「ツユハにとってのヒーロー君なんだね」
「そうです。でも、助けてもらったのは『昨日』で、それも偶然で。その前から何度か話したことはあるんですけど、今日もお弁当を作ったりして緊張しました」
(あれ? これ、私要らなくない? もう付き合う流れがほぼ完成してる気がするんだけど!?)
≪聞く? or 聞かない? → サキは『聞かない』を選択≫
多少の『引っ掛かり』を残しながらも、たどたどしい口調で話すツユハはとても魅力的に見えていた。少し長めのスカートに凹凸が強調されている体付きは男子だけでなく、女子も羨ましいと思うに違いない。
サキは自分の貧相な体つきを片目に、どうやったらそんなに大人らしい女性になれるのか少しだけ考えた。(やはり肉や乳製品なの?)などと考えながらもその依頼を承諾した。
手始めにやる事。いや、正確には人生で一度はやってみたいこと、それは尾行である。接触する前に鷺乃シュンという人間を知りたいと思ってしまった。
■□■□
【4月22日(月曜日)/17時20分】
学校が終わり、夕日が程よく刺している教室でシュンは悪友であるユウキに声をかけた。教室の中はポツポツと声が聞こえるが、ほとんどの生徒は部活や帰宅をしており、残っているのはシュンとユウキを含めても片手で数えられる程度だ。
「さっさと帰ろうぜ?」
「悪いね、シュン――僕はこのあと予定が入ってるからさ、今日は一緒に帰れないや。何ならもういないけど、霧崎さんと帰るのもよかったんじゃない?」
「ダメだな……好感度を上げ過ぎて告白されたらどうするんだよ? 今ぐらいの関係が一番理想的だっての! 何でお弁当を貰えたのかは分からないけどさ」
「クズだね、シュン」
「まぁ、クズだな」
「彼女作る気とかない訳?」
「無いに決まってんだろ! 彼女1人で妹と焼き肉の食べ放題に行けちまうんだぞ!? デートやクリスマスやバレンタインや誕生日……女に貢いで貢いで、そんなの奴隷と変わらないだろ!? 俺にそんな余裕は無い」
「はぁ……まぁシュンの気持ちも分かるけどさ。僕はそれを含めてありだと思うけどね。シュンは人格が破綻してるから、少しは本当の愛を知ってもいいと思うけど?」
「ミズキを愛してる」
「ごめん、そうだったね(僕が言いたいことと少し違うんだけどなぁ)」
「それに俺に恋愛は無理だね……俺に彼女が出来たら、ミズキを一人にさせちまう。クソおやじと変わらないじゃねーか」
「――……まぁ、そうだね。仕方ないからアルバイトで貰ったコーヒーチケットを上げよう。またもらったら、シュンに渡すよ」
「――お前、実は優しいのか?」
「僕は昔から優しかったと思うけど?」
「それは無い」
そんな会話をしばらく続けた後、廊下でシュンとユウキは別れた。(教室の前にミカン箱があったけど……あれは何だ?)などと考えながら下駄箱で上履きと靴を入れ替える。
学校に残ったユウキが何をしているのか少しばかり気になったが、プライベートに首を突っ込んでいるほど暇でもない。ユウキから頂いたコーヒーチケットを財布の中へしまい、正門を後にした。
スポーツバックを片手に朝ほどの忙しさは無く、シュンはゆっくりと歩きながら家の方向とは真逆の道へと進んでいく。明後日の食料を手に入れるため、川村高等学校から徒歩15分ほどで付いてしまう【勝浦女子高等校】へと足を進めた。元々行く気は無かったのだが、時間が空いてしまったのだから仕方がない。
――しばらく歩いて、シュンは違和感を抱いた。
そしてそんなシュンの姿を10mほど離れた場所からサキが覗いている。
サキは昼休みが終わり、5限と6限の間で設けられている休み時間を使って鷺乃シュンという男子生徒を特定した。放課後の教室で先ほど話していたシュンとユウキの会話も教室のドア越しで聞いており、廊下で腰を下ろして『あなたはスネ〇クですか?』といってしまいたくなるようなミカン箱も隣に置かれている。
まずは形から入るのが川村流なのかもしれないが、それはエージェントやスパイであり、決して探偵では無い。
「今の私……すごい探偵っぽい! でも鷺乃シュン――教室の会話を聞く限りただのクズ男だわ。このままツユハとくっ付けていい物かしら?」
※ただの変質者です。
大きなミカン箱を折りたたんでそそくさと後ろを付いていくサキだが、それにシュンが永遠と気付かないわけも無く、長々と背後を付けている少女に視線を送っていた。シュンが視線をサキに向けるとサキは近くの電柱に隠れ(ミカン箱が見えてるぞ?)、時にはミカン箱でバリアを作り(そう言えばあれ、教室の前に置いてあったな)、とにかく目立つ。
しかしシュンが目を細めても女子生徒という事ぐらいしか分からず、追いかけるのも面倒なので無視する事にした。(知り合いか? もしかして朝に弁当をくれた……そそ、霧崎さん? どう見ても尾行されてるよな? めちゃくちゃ下手糞だけど)などと飽きれてため息が漏れる。
シュンは尾行しているのが霧崎ツユハだと仮定して、面倒ごとに巻き込まれるのを少しばかり恐れた。なので予定通り女と会う事を選択。別の女と仲良くしている光景を見せれば嫌われるかもしれないが、もう関わる事も無いだろうと思ったわけだ。
このシュンの勘違いと選択が更に状況を複雑にさせていく。
読んでいただきありがとうございます!!
『読者用の本編では語られない裏話①』
※本編と照らし合せれば理解できるようになってます。謎解きという訳ではありませんが、簡単なので暇つぶしに考えてみてください。分かったらコメントいただけると嬉しいです。
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それは運命である。
肌寒い春の夜風――制服姿で来いと言われてしまった。断ることも出来ず、最寄り駅の前で彼のバイトが終わるのを嫌々待たされていた。制服姿では寒いのでコートを羽織っている。
何度も帰ろうと思った。
誰かが遠くで電話をしている。それは知り合いと言えば知り合いで、しかしそこまで関係が深い訳でも無い人物。何となくその背後から声をかけようとした。しかし『声をかけるのは失礼だろう』と思い、後ろで電話が終わるのを待っている。
話している内容が聞こえた。
こんな声だっただろうか? そして驚愕する。
私は目を見開き、そっと距離を取る。何となく聞いてはいけない事を聞いてしまい、動揺してしまった。目の前にいた彼は私に気づかない。
私はそれから1時間ほど待たされて、バイトが終わった彼が来る。
向かう場所はホテルだった。大学生という年上が相手でホテルに向かうのは恥ずかしい。私はそういう人間では無いのだから。
ホテルに着くまで何度も何度も目の前にいる男を殺そうと思った。コートの内側に入っている刃物を目の前に立つ彼に突き刺してやろうと。
――しかし
ホテルに到着するギリギリで彼に一通の連絡が入る。それは0時に入れ替わった店長らしき人からの電話――彼は慌ててその場から立ち去った。
理解しているのは、私だけ。
この気持ちは何だろう?
何を話すべきか?
あぁ、話題ならある――彼が『2日前』に、いや、『先週』言っていた事を思い出す。そんな気は無かったのに。




