第2話【バイトと学校と自称名探偵?】
【4月22日(月曜日)/4時20分】
グーテンモルゲン――それと同時に鷺乃シュンの朝は早い。青白い顔でふらふらしながらキッチンまで向かい、冷水を頭からかぶる。それでも後から誘われる眠気にギリギリで勝利して、2時間ほど新聞配達のバイトへ向かうために準備を始める。
STUDIOタイプと呼ばれるキッチンと畳部屋を合わせた6畳部屋でぐっすりと寝ている妹の【鷺乃ミズキ】の姿に自然と頬が緩む。小学生の妹を一人で家に残す事に歯痒い思いをしながら、しかっり施錠をしてアパートを出た。
(心配だぁ。俺の可愛い妹に何かあったら、そいつは殺す)
つまりシュンはシスコンなのだ。多分、妹に死ねと言われたらこの世で最も辛い死に方である水死を喜んで選ぶこと間違いなし。と、言い切れるぐらい妹を愛している。
そして住宅地を数分ほど歩いた場所にある小さな駄菓子屋みたいな職場に入って行き、中学生の頃からお世話になっている上司の【松浦トウヤ】さんに挨拶をした。とても新聞配達を行っている様には見えないボロボロの職場だが、俺はここが嫌いじゃない。
「おはようございます」
「おぉ、シュン君……おはよう。今日も早いね」
「はい。この後学校がありますから、早めに来ちゃってます」
「何時もご苦労な事だね」
松浦さんは50代後半と言った感じで、所々に白髪が出来た強面のおじさんだ。見た目に反して大人しい性格をしており、上司というよりはおじいちゃんみたいな存在かもしれない。
片目で軽く目を合わせて分かる。疲れが溜まっているのだろう。青白い表情を浮かべており、体調があまり良いとは言えない。
シュンは束になっている新聞を自転車のカゴに詰めていく。そして普段通りに「じゃ、少し行ってきますね」と一言挨拶をして新聞を配り回る訳だ。巡回ルートはすでに暗記しているので、どこのポストに新聞を入れるのかが手に取るように分かる。
(あと10年後には目隠しをしても行けそうだな)
などと自慢にならない経験を磨きながら、7時過ぎには全ての新聞を配り終える。そして誰もいなくなった職場に入ってき、配り終えた場所を地図越しにペンで書いて、体を引きずるようにしてマイエンジェルである妹の元へ戻る毎日。
ガチャ……(やばい、死にそう)
扉の先には、女神がいた。
「あ、お兄ちゃん! お帰りなさいだね!」
目を見開き、鼻息を荒くすると同時に血走った目で全身をくまなく見渡す。綺麗に切りそろえられた少し長めの髪(問題なし)、愛くるしいパッチリとした目(以上ありません)、少し小さめのアヒル口(可愛い)、小さいながらも将来有望な胸(あぁ、お兄ちゃん死んじゃいますよ?)、そして小学5年生とは思えないほど純粋な性格(やべぇ、20年ぶりのおふくろの味レベルだ……涙が出る)
しかしそんな情けない姿を妹に見せる事など出来るわけも無く、コンマ数秒で平静を装い、クールで優しい笑みをミズキに向ける。シュンがコールドリーディングや現在使っているポーカーフェイスは、もしかするとこういった意外な日常で鍛えられた物なのかもしれない。
「おはよう、ミヅキ……今からご飯作るからちょっと待っててな」
「うん! お兄ちゃん大好き!」
「うぅ……ありがどう」
(あれ? 一瞬……心臓が止まった気がする?)
※妹に抱き着かれた、またはキスをされるとこの主人公は死にます。
そしてそのあと、キッチンから食パンを1枚取り出してパンの耳が苦手な妹のためにその部分を綺麗に切断する。そして卵を沸騰させて袋の中にゆで卵・ブラックペッパー少々・マヨネーズを加えたら、それをパンの上に乗せてサンドウィッチを作った。
妹にそれを食べさせている間にシュンは余った耳を少量の油で揚げて、それを何もつけずに口へ運ぶ。(ごちそうさま……はぁ、腹減った)
「お兄ちゃんは食べなくていいの?」
「あぁ、お兄ちゃん……朝は食べないタイプだから平気だよ」
「うん。分かった! お兄ちゃんも朝ちゃんと食べてね!」
(いや、っちょ、もうおなかいっぱいだから……それ以上は死ぬって!!)
ただのバカ兄貴である。
それから8時00分頃にミズキは可愛らしい真っ赤なランドセルを背負ってアパートの前まで迎えに来てくれる小学生の大行列の後ろに加わった。学校のルールでその子達と一緒に登校していくらしい。大きく手を振ると同時にミズキは小学校へと向かった。
それからシュンは秒速で学校の支度をして、ほとんどお金が入っていない財布とスポーツバックを片手に猛ダッシュで今年入学した【川村高等学校】へと登校する。まだ1ヶ月も経っていない新品のブレザー制服は、替えが無いので大切に着てる事を忘れてはならない。
そして学校まで歩いて約40分かかるため、こんな感じで早朝ランニングコースを走り込みしながら8時30分に閉められる正門をギリギリで潜り抜けているのだ。その後は息切れと胃袋の中身が空っぽの体に水道水というオアシスを摂取して、正面にある『北棟校舎』へと入って行く。
「はぁ……はぁ、自衛隊の訓練みたいな生活だな。このまま生活を続けてればレンジャー取れるんじゃねーの?」※本気で思ってます。
ここ川村高等学校は『5年前』に開校された新設校であり、特別教室や職員室、それから室内で行う部活動の部室が並んでいる校舎が『東棟校舎』と呼ばれている。シュンが現在いるのは全学年の一般教室が並ぶ『北棟校舎』である。
そして学校が始まってから半月、シュンのクラスである1学年『Aクラス』の中ではすでにグループがいくつか出来ている。それは一つの教室で不可侵条約でも結んだんですか? と言いたくなってしまうほど、それぞれの空間は干渉を許さない。
結論、シュンはボッチ! ――何て言うテンプレートな展開になる訳も無い。相手の事を観察してどんなことが好きなのかをしっかりと把握しながら話を盛り上げているシュンは、自分が嫌われる事などありえないと内心で豪語している。
ぶっちゃけてしまうと、かなりモテてる。そこそこ整った容姿で生まれた事に感謝しており、それをうまく活用している事も認めよう。主に……
「あ、シュン君おはようです。 ――そのぉ、先週の約束通りお弁当作ってみたんですけど、食べます?」
「本当に!? ――すごい嬉しいよ。ありがとう、本当に貰っちゃっていいの?」
「は……はい。シュンさんのために作りました」
「ありがとね」(よっしゃぁー! マジで助かる。えっと、名前何だっけ? ――とりあえず親切な人Aさん)
みたいな感じで手作り弁当が食べたいなぁ~と言いつつ、食料という生命線を上手く繋いでいく為の女子をかき集めていた。すでに他校にもそういった生命線ロジックが組みあがっており、お金と連絡先を交換せずに食べ物を生み出す人間関係の構築に成功していた。
ポイントは、告白されればOKだよ。でも、あんまりあなたの事を知らないからこれから教えてね。ってぐらいの好感度が一番適切だ。テンションが少し高くて面白い。時々可愛いところを見せてくれて、不意に優しい……みたいなムカつく男になればいい。
望み薄で試しに頼んでみた事が成功し、2日連続で食料にあり付ける事に最高の笑みを浮かべながらイケメンに生まれた事に歓喜している自分の姿がそこにはあった。自分の席に弁当を持っていく。
しかし、俺はそこで足を止めた。まるで時が止まった世界で歩みを進める美少女に、クラス全員の視線が強制的に集められるというあり得ない光景を見たからだ。誰もがその姿を見た瞬間に動きを止めて見入っている。
ホームルームが始まる5分前という時間に、美少女は黒板の前に置かれた教卓の上に立った。教室にいるシュンを含めて、いきなり教卓の上に仁王立ちする150㎝ほどの小さな少女に視線を集められ、静寂な空気と共に美少女は大声で宣言する。
黒い髪が教室の開けられた窓から靡く。
「えぇ、スゥ~。――私は、名探偵になりたい! この中で事件、または問題を抱えている人がいるなら私、1年Cクラスの【川村サキ】の元まで来なさい!」
高らかに宣言した少女に、俺を含めてAクラスの生徒たちは目を見開いた。だって、教卓の上に立つサキは気付いていないが、開けられた窓から入る風はサキのスカートを羽ばたかせており――可愛らしいピンク色の下着を見せつけていたのだから。
それが、川村サキという自称名探偵とのファーストコンタクトである。
(いや、何のパクリだよ! こんな光景を見た事あるぞ!? オイ!)
読んでいただき、ありがとうございます!!
ふと、こちらをまた書き始めたいと思い……少しだけ読み直したんですが酷いので全部書き直した。今後もちょこちょこ更新していくのでよろしくお願いいたします。
無理ゲークリアしたらゾンビ世界になってしまったのですが※ の方もチラ見していただけると嬉しいと思います!