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第1話【プロローグと詐欺師と弁当】

10月22日からリニューアルで書き始めました!

 ミステリー小説に憧れた少女は『名探偵』になりたかった。


 その流れるような無駄のないストーリーと、探偵と助手という最高のパートナー関係。そして、無理難題を解いていく爽快感とどんでん返し、私はそんな名探偵たちに憧れた。


「私はいつか、シャーロックホームズを越える」


 【川村サキ】――黒いロングヘアーをなびかせ、宝石と変わらないキラキラとした瞳は少年を見ながら思う訳だ。(私は自分の人生を変えるための、名探偵になるための切符を探している!)


 ――しかし


 そんな私が探し求めた切符は、最低最悪の【詐欺師】でした。今更ながら思うけど、これは本当に最低最悪で……でも、これ以上の選択肢は無かったんだと思う。


 これは詐欺師と凡人探偵が名探偵と呼ばれる天才たちと肩を並べるまでの物語。


■□■□


【4月21日(日曜日)/23時34分】


 【鷺乃さぎのシュン】――黒い髪に死んだ魚の様な目をした少年だが、鋭い目つきの割りに容姿はそこそこ整っている。そんなシュンは現在、はらわたが煮えくり返るほど怒りに打ち震えていた。しかし、それを表に出すような事は決してしない。


 この怒りの経緯を説明すると、時間は30分前に遡る。


 シュンは夜遅くの、客が誰もいないコンビニへとやって来た訳だが、悲しいかな――貧乏生活を送るシュンは2日ぶりの食事に歓喜の声を上げながら、まるでパーティー会場に行くようなテンションで店に入店して弁当を眺めていた。


 550円のハンバーグ弁当はダイヤモンドの様に輝いており、450円の幕の内弁当は金の様に神々しく見える。まるで財宝パーティーの無限トレジャーハンティングをしている気分だ! コンビニ弁当のためなら犯罪だって……頬が火照る。


 ※この主人公はテンションが空回っています。


 その中から自分にとって最高のソールフードを、まるでゲーム本編を始める前のジョブ選択画面を長々と眺めるように、震える手先でゆっくりと一つの弁当を握りしめる。


(まるでエクスカリバーを持っている気分だ……)


 そして握りしめた462円のしゅうまい弁当をシュンは出来損ないロボットの様にカクカクと店員の立っているレジスターまで持っていく。そこで事件が起きてしまった。


 『事件ナンバー①』――お弁当の温めを聞いて来ない!


 シュンの家に電子レンジという革命的な新人類の持つ伝家の宝刀があるはずも無く、ここで口を挟まなければ温かい夕食を頂くことは出来ないのだ。同じ料金でも月とスッポン、パフェとサンデー、油と水ぐらい違う。※意味が分かりません。


 しかしここだけはしっかり伝えなければ一生後悔すると思い、恥ずかしながら袋に入れられたにも関わらず、口を開いた。


「すいません、温めてもらってもいいですか」


「はぁ」


(はぁ……じゃねーよ。ブチ殺してカンガルーのサウンドバックになりてぇのか!?)


 などと思いながらも、怒りゲージはギリギリ許容範囲内に収まっていた。グラスから何時零れ落ちても可笑しくないほど怒りやすいシュンだが、ここは我慢する。


 しかし事件は続く。『事件ナンバー②』――箸を入れない。


 コンビニの店員は箸をあろうことか入れ忘れやがったんだ。それを受け取るか受け取らないかで数か月分の箸のストックが決まるというのに。シュンの家に100円ショップで置かれているような高価な箸を購入する余裕は無く、割り箸を何度も使い続ける事で丸みを帯びていく相棒の姿を思い描く。


「すいません、箸も入れてもらっていいですか?」


「はぁー、分かりました」


(こいつ……ため息つきやがった? え? 死にたいのかな? 学生さんだよねぇ!? っち、戦争じゃぁぁぁあああごらぁぁぁぁぁぁ!!)


 誰もいないコンビニで、シュンの瞳はゆっくりと鋭さを増していく。冷たい視線は氷の様に綺麗で、透き通る様な瞳は細かく、そして激しく動く。相手の全てを経験と技術で見通す目――【コールド・リーディング】


 外見や何気ない会話を交えるだけで相手の事を言い当て、相手の仕草や嘘を見抜く技。詐欺師や占い師や霊能力者や手品師、時代によっては宗教家も扱ってきた偽りだらけの力。その目でコンビニ店員を数秒ほど眺める。


(感情の起伏が激しいタイプ。一人で働いている夜勤バイトのためか、サボりがちな性格。上司に対しては弱気な態度を取り、裏でネチネチという感じだな。言われた事だけを最低限こなす系で、それ以上の事はやらないと予想)


 その後、店員の胸に付けられた名前――【谷口正平】を確認してコンビニから出た。外に張り出されているバイト募集のポスターから電話番号を入手して、手に入れた断片的なピースを嘘と偽りで綺麗な形に整えていく。


 肌寒い春の夜風がシュンの体を冷やして、背中が震えあがる感覚に襲われながら数分ほど歩いた駅前の公衆電話ボックスに入る。財布の中に入っている残り少ない金銭から貴重な50円玉を涙目になりながら入れて、先ほどのコンビニに電話した。


「はい、こちらミスマート〇〇店です」


 先ほどのムカつく店員の声が電話越しで聞こえ、落ち着いた様子から他に客がいない事がすぐに分かる。シュンは喉を少し潰して、年齢を20歳ほどプラスしたような渋い声を出した。


「――はい。こちらはミスマート本社、経理システム担当の長井と言います。そちらの店長さんに先ほど確認を取りまして、谷口さんでよろしかったですか?」


「え? あぁ、はい。あってます」


 勿論、経理システム担当や長井なんていうのは全て嘘だ。相手を騙すための小さい連鎖的な虚言であり、相手の感情を読めるからこそ最も相手が苦手とする人物になりきることが出来る。そして相手の反応を電話越しで聞いた瞬間に、シュンは勝利を確信した。


(あぁ、これはいけるわ……もう余裕すぎ)


 相手が理解でき無さそうな専門用語を上手く活用して、遠回しに『電子マネーをレジで通して番号を俺に教えてください』と伝える。イメージ的には「ただいまこちらのシステムエラーで電子マネーの販売が出来なくなってしまったのですが、確認のためレジで一度通してもらえませんか?」とか「番号をこちらで控えさせていただきます。後ほどこちらの方で処理しておきますのでカードの方は捨てちゃって大丈夫ですよ」なんて言いながら種類別にそれぞれお金を通してもらい、合計8万円もの電子マネーを騙し取る事に成功した。


 50円で5分ほど会話をして8万という大金を手に入れた。


「はぁ~チョロ過ぎるだろ……さすがに」


 シュンはその後、8万円分の電子マネー番号が書かれた紙を公衆電話ボックスから出た後にぐちゃぐちゃにして丸めた。そしてそのまま駅の近くに置いてあるゴミ箱に捨てて欠伸交じりに家へ向かう。


 あくまでシュンにとってこれは仕返しであり、そこより先はただのクズになってしまう。自分の中で確かな美学があり、自分の利益のためだけに他者を騙すような真似は余りしたくはないのだ。(まぁ、怒り任せで自分の利益のために動いたけどさ……)


 俺の様な人間を世間じゃ、詐欺師というのだろうか?


「はぁ、弁当冷めちゃってるよ……割に合わねぇ~」


 まさかこの後、あんな訳の分からない女と出会うなんて思いもしない鷺乃シュンである。もしもこの瞬間に記憶を持ったままタイムスリップできるなら、俺はどんな選択をしたんだろうか? 


 ――はは、決まってるか。


(全力で逃げるに決まってんだろ……)


■□■□


読んでいただきありがとうございます!

リニューアルで1から書き直す事にしました。1話のみ削除する事が出来なかったので、2話以降からゆっくりと更新していくと思います! コメントも消えてしまったので申し訳ありません。


更新日は10月22日

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― 新着の感想 ―
[良い点]  名探偵になりたい少女……いきなり好みの女の子に出会ってしまいました。ストーリーの始まり方もドキドキが止まりません! [一言]  評価が少ないのはまだ読み始めたばかりだから、です。  応援…
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