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18話「王国の外は狼の魔窟のようです」

 ウェアウルフマンの奇襲きしゅうを撃退し、村に入ったレッド達はやっと休むことができた。雪の中の行軍は思った以上に足に力がかかり、寒さはレッド達の体力をそこそこ消耗させていた。


 外の様子はどうかといえば、ウェアウルフマンたちはしばらく壁の下をうろついた後、特に侵入する様子も攻撃する姿勢もなく去って行った。


「村に入れてくれてありがとう。俺達はこの大陸の外からきた騎士団のものだ」


「ほえー、騎士団出身か。噂には聞いていたが、先の戦いは見事だったよ」


 オーダーニューロマンスのNPCはかなり発達した汎用性AIが導入されているため、会話もスムーズだ。対応によって態度やストーリーの展開も変わるため、やりこみ勢はひたすら村人と会話する、なんてプレイングもあるくらいだ。


「あのウェアウルフマンの数は異常だな。前からあんな状態で?」


「いいや、昔は数も少なくたまに狩りをして数を減らせていた。城主様はいずれストレンジオブジェクトを破壊すると言いながら、ほっておいたツケがこれさ。今じゃ森中の動物を食い尽くして村を襲おうとする始末だよ」


「それは困った話だな。助けてやりたいが、俺達は先を急ぐ身でな。王国ってのはもう入国しているのか?」


「ここが王国? そんなバカな話をしちゃいけねえ。王国に入るには城主様の許可がないと到底無理とうていむりさ。無理に入ろうとしたら殺されちまう」


 村人の話で思い当たる。入国に対して殺害も容赦しない王国に飛行船の集団が近づいたらどうなるか、過剰な反応だとしても攻撃された合点はいく。


「ってことは俺達は無断入国しそうで撃ち落とされたのか? やりすぎだと思うが、完全に敵対したわけじゃないならまだ穏便に調査できそうだな」


 レッドは他にも必要な情報を引き出すと、村人との会話を追えてエリンとアンジーの元に戻った。


「城は南にまっすぐ行ったところにあるらしい。ウェアウルフマンのこともあるし、少し時間を置いてから行こう」


「城主さんに会って王国への入国許可をいただくんですね。王国に入国した後はどうします?」


「運営の公式サイトに概要があるんだが、このレイドイベントの第1目標は王国への入国。第2目標はその後に開示されて、だんだんイベントゴールの構造が見えてくるって寸法だ。今はまだ待て」


 レッドとエリンがそう話している最中さいちゅうも、アンジーの方は青白いウィンドウを開いてネットの情報をあさっていた。


「でも結構な人がこの新大陸『ブランデン島』に辿り着いたみたいだンゴね……。さっそくバグ探しのために地形へ体当たりしたり、イベント攻略RTAリアルタイムアタックをしたり、実況動画や考察動画、皆楽しんでいるみたいだンゴ……」


 アンジーのウィンドウをのぞくと、他のプレイヤーの行動が動画となって複数映し出されている。MMO(マッシブリー・マルチプレイヤー・オンライン)特有の大人数で楽しんでいる感覚が共有されている。


 これこそMMOVRゲームの醍醐味、世界の上に立っているのは1人ではなく多数の人間が存在する、現実とは異なるもう1つの世界がここにあるのだ。


「何だかワクワクしますね」


 エリンの言葉に、レッドは無言で肯定こうていする。これが楽しくてイベントに参加している節もあり、ランキングのためだけではないのだ。


 だが今回の最も大事な目標はランキング1位、そろそろ動き出さなくてはならない。


「他のプレイヤーが上陸しているなら、城に向かった連中もいるってことだ。急ぐぞ」


 レッドは他の2人をたきつけて、城主の元へ向かうべく行動を開始した。


「それじゃあ村人の人たち、無事を祈ってる」


「ああ、旅人さんも気を付けてな。何かあったらまた寄るといい」


 レッド達は村に別れを告げ、門の外へ出る。今はウェアウルフマンもどこかへ離れたらしく、動くものはいない。


 かと言って注意するに越したことはない。レッド達は無人の雪原を歩き、行く手をさえぎる円錐形の木々をジグザグに進み、ひたすら南に向かう。


 すると、途中から針のようにそびえたつ人工物が視界に入った。


「山を背にした城か。守りは硬そうだな」


 レッド達は先制攻撃される可能性も考えて身構えながら門に近づくも、それは杞憂きゆうだった。


 レッドが門番に村の事や王国に入城したいむねを伝えると、あっさりと入城を許可してくれた。


「意外だな。まるで待ち構えていたみたいだ。となると、俺達プレイヤーに用があるのか?」


 レッド達は特に武装解除を命じられることもなく王座の前に通され、城主との面会が許された。


 城主は部屋の奥にある玉座に腰かけ、フルアーマーの近衛兵に囲まれながら口を開いた。


「お主らが大陸外の旅人か。目的はなんだ?」


 相手は城主、ここはレッドも敬語を使うのがいいと判断した。


「王国の調査です。我々はこの新大陸についてほとんど何も知りません。そのため、こちらの王国が我々と友好的かどうか確認しに来たのです」


「もしくは弱そうなら王国を侵略するつもりだろう? 全く野蛮な奴らだ。できることならここで処刑してやりたいよ」


 レッドはまさかこのタイミングで襲撃されるのか、と装備を着用しようか考えるも、城主の兵士が動く様子はない。


 どうやら単なる脅し文句らしい。


「こうして入城させてやったこと、感謝しろ。本来なら追い返すやもしれなかったのだぞ」


「ですが、そうしなかった。我々に用事があるのですね」


「……むう」


 城主は先に自分たちの腹を探られたことに不快感を示すも、話が早いと考え直したようだ。


「率直に言う。お主ら旅人はストレンジオブジェクトに精通しているのか?」


「多少は」


「多少か、謙虚けんきょな奴だ。では本題といこう。お主らは王国入国許可が欲しい。そしてわしらはある困りごとがある」


「ウェアウルフマンとストレンジオブジェクトですね」


「そこまで察しているなら話は簡単だな。そのウェアウルフ共、増えるだけならまだしも、城へ密かに侵入して侍女じじょや召使の女をさらっていくのだよ」


「つまりストレンジオブジェクトの排除とさらわれた女性の奪還だっかんをせよ。ということですね」


「そうだ。いちいち話を先回りするでない。ともかく、さっさと行ってこい」


 城主は乱暴に言い捨てると、本人は自室に戻ってしまった。


 傍の近衛兵達も会見用の陣形を解き、城主の部屋の守りを残して解散し始めた。


 レッド達も立ち上がって道を譲り、近衛兵がその横を過ぎ去ろうとした時、極めて小さな声がレッドの耳に入った。


「手を引け。旅人」


 レッドはその声に目を凝らすも、声の主は見つからなかった。


「……」


 レッドは一抹いちまつの不安を覚えながらも、王国入国を目指して城を出ていった。


 次は狼退治の時間だ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ゲームの特性が面白いです。 それはMODを含まない素のゲームの面白さもあり、MODの面白さもあり。 イベントが始まりましたね。 今後の展開が楽しみです。
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