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16話「はかなさは空に舞い散る花火のように」

 レッド達が乗船している飛行船『アントワネット号』の右隣りを飛んでいた『アンリ号』。その船体である風船部分は火の粉をまき散らしながら燃え上がっていた。


 『アンリ号』はそのままの高度と速度を保てず、飛行船の船列から離れ、穏やかな海面に近づきつつあった。


「救助すべきか?」


「いや、こっちの飛行船にも火が点く。もうあれはダメだ」


 救助するか否か、多くのプレイヤーが迷う。そんな中、レッドだけがいち早くすべきことを指摘した。


「アンジー先生、船に<アボイドスナッチ>を付与しろ! 他の魔導使い達も頼む!」


「へ? 船を助けなくてもいいのかな……?」


「今はそれどころじゃない。次攻撃されるのはこちらの船かもしれないんだぞ! 総員、周囲を見張ってくれ!」


 レッドの号令を受け、魔導使いは『アントワネット号』に飛来物を避けるための<アボイドスナッチ>をかける。他の物は前後左右、上下に視線を凝らした。


「上空、船体下、異常なし!」


「前方、新大陸らしき影が見えます。それと――」


 誰かが報告を終えようとした時、今度は左隣の飛行船の木造船体部分が爆発し、木片とプレイヤー達が降雪のようにゆっくりと大海に吸い込まれていった。


 攻撃の第二弾、他の飛行船も自分たちの危機に気付いたらしく、船上が慌ただしくなる。


 これは明確な殺意、プレイヤーに対する意図的な攻撃だ。


「今の攻撃を見た奴はいるか! どこから来てる!!」


 レッドは船の中央に陣取り、情報の確認を急がせた。


「お、俺には見えなかったぞ」


「それどころか、敵影さえ見えなかった……一体どこから」


「――見つけました!!!」


 船の上に広がる戸惑いの声のに混ざって、自信を持った大音声がレッドの耳元に届いた。


「よしっ。どこから――。ってエリンか!?」


 エリンはいつの間にかレッドの傍から消えており、船首の元へと駆け上がっていた。


「敵の攻撃は前方約10キロ、新大陸から来てます!」


「ば、馬鹿な!?」


『アントワネット号』に乗っていた誰しもが、エリンの報告が誤報であるとを思った。何故ならば、10キロ先から攻撃できるスキルや兵器など、このオーダーニューロマンスのゲームに存在しないからだ。


「新実装の兵器かスキル、もしくは魔導なのか!?」


「それ時点に本当かよ。鳥か何かの見間違えじゃねえのか?」


 プレイヤー達が疑い半分に前方を伺っていると、その正体がこの『アントワネット号』へ近づいてくるのが見えた。今度の標的は間違いなく、自分達だ。


「<アボイドスナッチ>」


 間一髪、アンジー達が唱えた魔導により攻撃は左に逸れていく。その瞬間、『アントワネット号』のプレイヤー達は自分達を襲ったものの正体を目撃した。


「ミサイル!? いや、誰か乗ってるぞ!」


 誰かの言葉のように、それはミサイルに似た細長い船体をしたプロペラ飛行機だった。その飛行機には大きな翼などなく、あのままでは遠く後方へ飛んだ後に落ちてしまうだろう。


 そして、レッドは飛行機に乗っているものの存在も確認できた。


「全魔導使いは前方にスキルを付与しろ! オートマンによる片道切符の自爆兵器が飛んでくるぞ!」


 レッドが叫ぶ間にも、前方の新大陸から更なるオートマンの自爆兵器が列をなして飛来してきたのであった。


「全員! 船体にしがみつけ!!」


 <アボイドスナッチ>を二重、三重に唱えているとはいえ、自爆兵器の数が多すぎる。しかも通り過ぎればいいのに、外れたとみるや空中で爆散する自爆兵器もあり、爆破の際の破片が横から船を突き刺した。


「アンジー先生! 横にも<アボイドスナッチ>を!」


「無理言うなワレエエエエエッ! こっちは正面の攻撃を避けるので手いっぱいじゃああああああああっ!」


 アンジーの言う通り、正面からの自爆兵器の侵入をなんとかかわせているのは数人がかりの魔導使いが抑えているからだ。もし余裕があるなら横にもスキルを展開したいが、とても人手が足りない。


「このまま、いけるか?」


 レッドは爆風で大きく飛行船が揺れる中、木の船体と風船を繋ぐロープにしがみつき、状況を確認していた。


 そんな時、新たな報告が上がった。


「船体下方に、敵影!」


「何っ!?」


 レッドは跳びつくように船体の手すりを掴み、船の下を凝視ぎょうしする。その2つのまなこは確かに海から上がってくる機影を捉えた。


「船体下に<アボイドスナッチ>を――」


 だがその命令はもう遅い。


 海の下から上がってきた、潜水艇が『アントワネット号』の船底に食らいつき、船は大きく揺れた。


「爆発は――ないのか?」


 意外にも下から爆発が突きあがってくることはなかった。これは不幸中の幸いなのか。


 レッドが胸を撫で下ろしていると、何やら階下が騒がしいことに気付いた。


「誰か! 船底からオートマンが来ている! 助けてくれっ!」


 誰かの悲痛な叫びを聞き、船上のプレイヤー達は反応した。


 その中でもエリンの対応は速い。もう射られた矢のごときスピードで船の中へと急いでいるではないか。


「エリン、先行しすぎるな!」


 レッドが注意するもエリンは止まらなかった。


 エリンの後に続き、数人のプレイヤーを率いて船底を目指すレッド達は、途中で複数の人影に行く手を塞がれた。


「オートマン!? 敵だ。倒せっ!」


 レッド達はおそらく潜水艇から船に入り込んだオートマンたちを迎え撃つ。


 船に侵入したオートマンはエリンが所有しているマリーザとは違い、人間に似ていない。木から人型に型をくり抜いただけで、デッサン人形のような風体ふうていだった。


 見た目に反して、そのオートマンたちの動きはしっかりしている。だが数は同数。十分に対応できる。


「あいにくオートマンは俺の得意分だ!」


 オートマンはコア炉とよばれる、魔石を生成する魔導炉と同じ器官をもっている。オートマンはこのコア炉から生まれる魔素で動く機械、一種の永久機関だ。


「弱点のコア炉を破壊しろ。もしくは魔導技師は」


 レッドが左腕に装着した魔導腕を操ると、1体のオートマンは紙のように壁へ叩きつけられた。


「オートマンは魔素の塊だ。船外に叩きだしてやれ!」


 レッドは壁に叩きつけたオートマンに銃口を突き刺し、<ドアノッカー>のスキルを発動させる。


 すると、発砲と爆音と共にオートマンは木壁を突き破って船の外へと追いやられた。


 レッドは確実に仕留めたかどうかの詳細を得るため、壁の隙間から落ちていくオートマンを見送った。しかし次の瞬間、落下するオートマンが大音響と共に空中で爆散したではないか。


「気を付けろ! オートマンに自爆装置が組み込まれている。船内から爆破して船を壊す気だ!」


 レッドは敵の企みに気付くも、時すでに遅し。これ以上船内に入れないと判断したオートマンは次々と赤熱し、自爆を開始したのだ。


「退避っ!」


 レッドが命じるも、何人かのプレイヤーがオートマンの爆発に巻き込まれてキルされる。それでもレッドを除いた3人が無事にデッキへと戻ってきた。


「クソッ。船底をやられた。次の攻撃を喰らえば船はバラバラだ!」


 けれどもその次の攻撃を待つ暇もなさそうだ。


 急に船の上から爆音が降り注ぎ、何事かと思えば、飛行船の風船に火が回っているではないか。


「レッドお……。すまん、全部は回避できなかったンゴおおおおおおお!」


 アンジーは叫びながらも手すりにしがみついている。もう、この船はお終いだ。


 レッド達を乗せた『アントワネット号』は今、墜落の最中にあった。


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