第1章8話クロムで起きたこと
クロは胸に手を当てると手が自分の中へ入ってい
く。そして、禍々しい剣を取り出すと全身から血が
噴き出し、すぐに元通りになった。
【クルーエルブラッド】
何も持っていない時はクロの心臓から剣が出る、
体全体から血を噴き出し、生命力がギリギリまで減
りその減った分が身体能力に、倍で上乗せされる。
【ベルセルクリリース】
クロの体が元通りに修復され、生命力の上限を数
倍に増やし全快する。回復した分が身体能力に、倍
で上乗せされる。
【断罪の一閃】
クロが剣を上に向け、一瞬消える。ルージの家が
光り、キィーンと耳鳴りがしたような轟音とともに
消えたクロが剣をもっていない状態で現れる。それ
と同時に、ルージの家だけがピカっと光ると、跡形
もなく消えさっていた。
地下があることを知らないクロは、地上から上の
部分だけを斬ったのだ。それを見ていた獣娘は目を
光らせ、スゴイと驚いていた。
ニーナと獣娘を腰に抱え、能力を解除していない
クロは、一瞬で家の門まで移動した。能力を解除し
蹴りで門を開け、中にはいる。そのまま、医療所の
ベッドに運びこんだ。ベルが驚いた顔で見ていると
クロがベルに泣きながらお願いした。
「ニーナが死にそうだよ、助けて!」
ベルは察した。緑色の光をニーナに当てると、ニ
ーナの体は元通りになるが、脳は治せなかった。放
心状態のニーナは喋ることは無く、焦点もあって
いない。クロは、どうすれば良い? と泣きなが
らベルに問う。北の勇者なら何とかできるかもし
れないのじゃ。ベルはそう答えた。
(そういえば、明日集まるから、連れて行けば治
せるかも)
考えたクロは即行動に移す。濡れているニーナ
の服を脱がし、新しい服を着せる。ロリコンに行
ってくる! とクロが言い残し、お姫様抱っこでニ
ーナを連れて家を飛び出した。
私はどうなるのでしょうか? と忘れ去られてい
た獣娘が困惑しながら話す。お主誰じゃ? ベルが
指を指しながら言うと、まさか! また、あやつが
買ってきたのか……と疑う。
ニーナが連れ去られたのをみた! って言ったら
お礼するからって、連れてこられました。と起こっ
たことを獣娘が話し始めた。すると、ベルがお土産
と勘違いをした。
「そうか! わらわのお土産の玩具なのじゃ!」
えぇ? と獣娘が驚くと、ベルが獣娘の体を持ち
上げて、ベッドに座らせる。お主名前は何と言う?
家族はおるのか? とベルが質問すると、同時に獣
娘を押し倒し、上に覆いかぶさると、頭を挟むよう
に手をついた。そして、顔を近づける。
獣娘が近すぎと言い、名前はエル家族はいない貴
族の奴隷として買われたけどゴミ箱に捨てられた。
もう、ごみ箱から漁って生きるのは嫌……。ベルの
質問にエルが答えた。そして、エルは目から汗を流
す。
「なんでもするから……住める場所が欲しい……普
通に暮らしたい」
ベルは涙を流したエルを、慰めるように頭を撫で
耳元で、安心するのじゃ、今日からお前はここで暮
らすのじゃ。と囁いた。それを聞いたエルは、首輪
を外してほしいとお願いをした。すると、ベルは首
を振り、だめじゃ! と言った。
「なんで?」
エルが目を見開いて驚くと、なんでもすると言っ
たじゃろ? 首輪を取ったとして、自害しろと言っ
てもやらないじゃろ? とベルがベットから離れな
がら言う。そして、エルもベッドから出ると、反抗
的な目でベルを見て言う。
「当たり前じゃん!」
ベルが、肘掛と背もたれ付きの椅子を、指で差し
ながら、そこの椅子に座ってから力を抜け。とエル
に命令をする。立っていたエルの体は、ベルの言う
通りに動き、椅子に座り、肘掛に肘を乗せ、背もた
れに寄りかかる。
(あれ? 体が勝手に動く……椅子に座ったら全身
から力が抜けた気がする……なんで?)
エルが疑問に思っていると、ベルが部屋から立ち
去る。これからどうなるのかな……エルは、考える
ことしかできなかった。ベルが大量の服を持って、
戻ってきた。
ベルはどれが良いか訊きながら1着ずつ見せてゆ
くが、エルは何も答えない。そして、白と黒のメイ
ド服を見せる。この服はどうじゃ? 反応がないと
これにするのじゃ! とベルが言う。力を抜きすぎ
てエルの意識が段々と無くなっていく。
(何か言ってる……聞こえない……やばい感じがす
る……)
エルの顔から生気が消えた。ベルが立つのじゃ!
と命令する。エルが椅子から立つと、ベルがメイド
服に着替えさせた。
「忘れておった、首輪を外してあげるのじゃ」
ベルが首輪を外しポケットにそれをしまう。首輪
を取られ、既に意識のないエルが、フラフラと倒れ
るのを、ベルは見逃さなかった。ベルが支えるとベ
ットへ運び膝枕をした。
原因は【力を抜け】かのぉう? とベルは思い、
エルの頭を撫でる。目を覚ましたエルは、頭の上に
手を伸ばすと、体が動く! と言いながら、膝枕を
していたベルを突き飛ばした。すると、ベルが鏡を
見るのじゃ! どうじゃ? お主可愛くなったじゃ
ろ? と可愛いものを見る目で言い寄る。
エルは言われた通りに鏡を見ると、鏡の中には白
と黒のメイド服を着た自分ではない、誰かが映って
いた。エルが周りを見渡すと自分以外鏡に映ってい
ない。
「これが私? 可愛い!」
心の声が口に出るほどエルは心の底から喜んだ。
気に入ったのじゃな? まだまだあるから好きにす
るのじゃ! ベルが言いながら手招きをするとエル
は近づき、喜びながら他の服も見る。
少し時間が経ち、満足したのか、服を見なくなっ
た。すると、ベルがエルの手を握り、家の中を案内
した。
最後に案内する部屋の前でベルが止まり、ここが
エルの部屋じゃ! と言って、ベルは扉を指で指し
た。中は自分で掃除するのじゃ! と言い残しベル
は自分の持ち場に戻った。
エルは掃除道具を取りに行き、掃除を始めた。
(これから、この広い家で暮らせるのって幸せ)
エルは掃除をしながら思った。
ルージが露店街に戻ると、騒然としていた。その
理由は、P90を持ったブラインとその肩に乗って
いるリス、アリスがクロムに来ていた。
西の国の勇者様が来た。と街の人々は皆、喜び、
叫ぶ。ブライン達はルージの店まで、歩を進めた。
「ルージを出せー」
頭の上にたんこぶを搭載しているアリスが、泣き
べそをかきながら叫ぶ。すると、ブライン達の後ろ
から、ここにいます! と声がする。
人込みをかき分けルージが現れた。はい、わたし
がルージです! とルージが自己紹介する。アリス
の代わりにブラインが質問する。
「この前の依頼で、攫った狐娘はどこだぁ?」
ルージは不味いと思ったのか、冷や汗が大量に出
ている。依頼主はそこにいるアリスで、怪しい黒い
フードの人に、間違えて売ってしまったことに、ル
ージは気が付いた。
正直に、黒いフードの人に売ったことを、ルージ
が話すとブラインとリスは、この国で黒いフードを
着ている人は、クロしかいないと知っていたので、
ホッとする。
「攫った罰を、お前に与えるぅ!」
ブラインはP90を構えた。ルージは、すみませ
んでした! と土下座を披露。南の門まで道を開け
ろ! ブラインが周りの人々に叫ぶ。すると一斉に
退いたのを確認すると、ルージに向かって手招きを
する。すぐ、行きます! と声が聞こえるとブライ
ンのもとへ駆け寄ってくる。そこに立っていろ!
ブラインはさらに指示を出した。
ルージはブラインと南の門との間にいて、ブライ
ンはルージのいる方向と反対になるよう向きP90
の銃口を地面に合わせ構えた。その直後に、時間が
止まりP90がいつのまにかに、AK-47に変わ
っている。AK-47の照準が一瞬で、ルージの頭
に向く、そして火を噴いた。30発のゴム弾がルー
ジの頭に同時に直撃すると、AK-47がP90に
戻り、時間停止を解除すると、ルージの頭を軸に体
が回転し門の外まで吹き飛んだ。
(この痛みが快感)
ルージはゴム弾の痛みと、地面に擦れる痛みにも
耐え喜んだ。すると、ブラインは時間を戻し、AK
-47で撃ったことを無かったことにした。
見ていた人は門まで飛んだはずのルージが、いつ
の間にかに、ブラインの目の前に戻っていたことに
驚く。そして、ルージだけの時間を止め、動けなく
する。ブラインはP90からXM1014に銃を変
え撃ち始める。7発を撃ち終わるとリロードをせず
にまた7発撃ち始めた。3分ぐらいで合計7000
発のゴム弾を撃ち、全てルージの頭に当たって弾は
地面へ落ちる。
「これぐらいで、許してやるかぁ!」
ブラインが言いながらルージの時間を動かした。
すると、ルージの体は物凄い速さで吹き飛びこの世
界を一周して、ブラインの後ろから、転がりながら
戻ってくる。
ルージは何が起こったのかわからなかった。気づ
いたら、自分が飛ばされて、世界を一周したことだ
けだ。目を見開いたアリスが、殺す気? 死んじゃ
うでしょ! と言いながら、ブラインに近づいた。
「あいつは元騎士長だから、大丈夫だぁ!」
ブラインが腕を組みながら、クロムを出るために
歩き出す。待ってよー! そういいながら、アリス
は追いかけた。2人と1匹がクロムから去ると、ル
ージは起き上がった。
(いてて……今は商人だが、俺が元騎士長じゃなか
ったら死んでいたぜ)
ルージは考えながら店を閉め家に戻った。家の場
所に戻るとあるはずの家が無く、ボルと医者が立っ
ていた。
二人は怯えていた。そしてルージもその痕跡を見
て、震えた。この国の勇者の痕跡。それは、何も残
さずに消滅させる力だ。ルージとボルは同じことを
思った。
(黒いフードの正体は、勇者クロだったのか)
ルージは地下は消されていないことに気付き。地
下にある財宝を売り、家を建て直すための資金にす
ると、ルージとボルは協力して、家を1年で建て直
しすることになった。