第1章6話商店街
クロムの商店街。そこは木で出来た店が並ぶ風景
に人と獣人で賑わっていて大きな道を歩く二人が話
している。クロが首輪着けるか? と訊きニーナは
首を横にブンブンと振ると、着けたくないなら先に
行かないでよ! と注意していた。
クロの優しい声にうるうると目を震わせながら頷
くニーナ。するとキレイな花が飾ってある店にニー
ナの目が行き、花屋へ向かって歩き出す。それをみ
たクロは、ため息をはぁ……と吐くと片手で頭を抱
えた。ニーナが花を見ていると花屋から若い女が出
てくる。
「嬢ちゃんキレイで可愛いね! 私の店の花もキレ
イでしょ? 名前は?」
若い女がニーナの目線に合わせるようしゃがみこ
んだ。ニーナは自分の名前を言うと視線を横に向け
花をみる。
「キレイな花ですね……欲しい……でもお金ないで
す……えへへ」
ニーナは落ち込む顔をしたが、すぐに作り笑いを
する。それを見ていたクロが、店主とニーナの前に
現れお金ならあると言い、若い女はクロの顔を見る
と驚いた。勇者様が嬢ちゃんの代わりにお金を出す
と言ってきたのだ。若い女の思考は勇者様とこの子
の関係を知りたがっていた。
「勇者様! つかぬことをお訊きしますが嬢ちゃん
との関係は?」
お金で買った、クロが答えた。すると、若い女は
冷たい目を、ニーナに向けると可哀想に……と呟き
ニーナの耳がそれを聞き逃さなかった。そして、反
発するように怒り出す。
「可哀想とは何ですか! 優しくしてもらっていま
す。」
店主は、怒っているニーナを見てすぐにごめんな
さいと謝り理由を話し始めた。
「見た感じ優しそうだけどたまに奴隷に暴力振るう
飼い主を見たりするから……」
店主の最後の言葉を聞いたニーナは、足を震わせ
ながらクロのほうを向く。
「クロおねーちゃんは、そんなことしないよね?」
ニーナは怯えながら訊き、クロの手を掴もうとし
た。すると、クロがニーナ手を弾き、泣きそうな顔
をしていた。
「私が! ニーナに暴力を振るったことあった?
ねぇ! 聞いてる?」
クロが強い口調でニーナに問い、その気迫に負け
たニーナは、女の子座りで地面に崩れ落ちた。ニー
ナの目の輝きは失い、耳は閉じるように倒れ、目を
開いて口を開けたまま放心しているのを見るとクロ
はごめんねと謝り、頭を撫でながら微笑む。
ニーナにその言葉が届かなかった。
脳が手を弾かれたことを、馴れ馴れしくするな!
と解釈したため、ニーナの頭の中はごめんなさいで
埋め尽くされていた。
「嬢ちゃんは幸せ者だね、この花をプレゼントあげ
るよ」
若い女がニーナに赤、紫、白、ピンク、黄のラナ
ンキュラスそれぞれ1本ずつ入れられた花束をプレ
ゼントした。虚ろな目のまま、ありがとうございま
すと感謝を言ったニーナはフラフラしながら花屋を
でた。
クロは急いでお金を払おうと値段を訊く。すると
若い女の人が、私からのプレゼントだ! お金なん
ていらないよ! 勇者様からお金を取ると罰が当た
ると言い、はやく追いかけてあげて? とクロに頼
むように言った。
「ありがとう」
クロが感謝を言うと、フラフラしているニーナの後
を追う。
ケーキ屋に、ニーナの目が釘付けになっている。
美味しそうと思いながら、ニーナは涎を垂らし、自
分と同じ高さのショーケースに入っている、ケーキ
を見つめていた。
猫耳の女性が、ショーケースの上から顔を出し、
この世に絶望したかのような、死んだ目をしている
ニーナの顔を見た。
「お嬢ちゃん、私が作ったケーキがそんなに美味し
そうに見えるのかしら?」
美味しそう、食べたい……でもお金がないとニー
ナが呟きながら返した。猫耳の女性が、招き猫の
ように手招きをしながら、そこにいないで……入っ
ておいで? と優しく誘う。
ショーケースの横には入口があり、中には机と椅
子が沢山ある、そこに人や獣人が座っている。ショ
ーケースの方はお持ち帰り用で食べていく人は中で
メニューを見て注文していく。
ニーナはフラフラしながら案内されたところに進
もうとするが、足がもつれてバタンと前のめりに倒
れた。クロはケーキ屋に入るニーナの姿を見ると、
追いかけるように入り、観察するように入口の方で
静かに見ていた。
猫耳の女性がニーナを起こし支えながら、4人用
テーブル席の椅子に座らせる。ニーナは視線がチク
チクと刺さる感じが気になり周りを見ると、客のみ
んなが可愛いニーナを見ていたのだ。
女の人達が寄ってくると、ニーナを囲むように残
りの椅子に座る。隣の席に座った女が、君可愛いね
どこからきたの? とニーナのつやのある髪を触り
ながら言った。
ニーナは可愛いと言う言葉にぴくっと反応させ、
閉じていた耳が少し開く。すると、ニーナの席に
次々とケーキが運ばれてきた。前の席に座ってい
た女性が、甘いもの食べて……全て忘れて……
「私の物になって?」
ケーキを一口サイズに切り、ニーナが口を開けると
食べさせた。心の弱ったニーナは優しいと感じた全
ての物を受け入れるようになっていた。
「こんなに食べるのか!」
クロは入口の方で2個のホールケーキを見て驚い
た。そして、ニーナに近づく。
「私が食べさせてあげようか?」
ニーナが声のする後ろを向くと、クロが見えた。
クロの言葉にニーナは驚き、ご主人様がする必要は
ありません! と断った。花屋の時からニーナのク
ロに対する口調がだいぶ変わっている。囲んでいた
女たちは、ニーナの飼い主が勇者クロだと知ると、
みんな逃げていくようにケーキ屋をでる。ニーナは
一人でホールケーキ1個食べ終わると、ニーナのお
腹はポッコリとしていた。
「お腹いっぱい、ご主人様も食べてください」
ニーナのお腹を見たクロは、もう片方のケーキを
ムシャムシャ食べて猫耳の女性に美味しかったよ!
ご馳走様と笑顔で言う。すると、謙遜しながら女性
が勇者様に言ってもらえるとは光栄ですと跪きなが
ら言った。
クロが女性にお金はいくらかな? と問う。いつ
ものように、勇者様からお金はもらえませんよ。と
いう言葉が返ってきた。あの子を元気にしてくれて
ありがとう、とクロが感謝するように言った。
「ケーキを作る人は、相手の笑顔も作れるのです」
猫耳の女性は笑顔で答えた。すると、ニーナも笑
顔を作りながら、手を合わせて、ごちそうさまと言
い手を振りながら店を出た。
店を出た二人は、笑顔で手をつなぎ歩いた。クロ
が次に行く場所を訊くと、洋服が見たいとニーナは
言った。クロが先頭を歩き、ニーナは引っ張られな
がら案内されていく。レンガで出来た大きい店の前
でクロが急に止まる。
「ここに洋服が売っているよ!」
クロの声がすると、ニーナがクロの顔を見て、目
の前の扉を開ける。そこにはいろいろな服が沢山飾
ってあった。
いらっしゃい! と奥の方から聞こえ、声の主が
近づいてくる。目の前にクロより大きい、人型の女
みたいな容姿で一つ目のサイクロプスが現れた。
「クロ様が魔王様の出している店に来るとは珍しい
ですね?」
サイクロプスがニーナを観察しながら言いさらに
見る。
「ほう? ほう! これは良い素材してますね。売
りに来たのですか?」
さらに、ニーナに近づき匂いを嗅ぐ。
「内蔵もキレイで、毛もキレイ! 売るなら高く買
いますよ!」
クロの目が細くなり、サイクロプスを厳しい目つ
きでじっと見た。サイクロプスが察したように奴隷
の首輪を持ってきた。
「欲しいのはこの首輪ですね? つけてあげましょ
う」
ニーナは首輪をみると後ずさる。しかし、サイク
ロプスは大きいすぐに間合いを詰めニーナに首輪を
着ける。首輪を見て、怯えていたはずのニーナが、
無表情になり棒立ちになる。
(あれ? 体が動かないよ……助けて……)
そうじゃない! クロが叫び、ニーナの首輪を外
す。すると、自由を得たニーナはクロに抱き着く。
「クロおねーちゃん! ありがとう」
ニーナはクロの頬にキスをして言った。好感度爆
上がり! キター! と心の中でクロはガッツポー
ズをする。すみませんでしたこの首輪を差し上げま
すとサイクロプスが謝り土下座をする。謝られたニ
ーナは、服を買いに来たの……私に似合うの着せて
欲しいとクロに聞こえないようにサイクロプスの耳
に囁いた。
了解とサイクロプスは敬礼をして服を選びに行っ
た。クロが何を話していたの? とニーナに訊くが
答えなかった。
数分後サイクロプスが戻ってきた。ニーナがクロ
はここで待っててお願い。と言うと二人が個室の中
に入った。中でニーナはサイクロプスに着替えさせ
てもらっている。二人が入っている個室の扉が開く
とニーナが歩きにくそうな裾が足首まである全身黒
のワンピースを着てでてきた。
可愛い? ニーナがクルクルその場で回転しなが
らクロに訊ねる。ニーナの回転でワンピースの裾が
徐々に上にあがっていき、クロはキレイと呟きそれ
に見とれている。ニーナは嬉しそうにさらに回転す
る。クロはニーナの膝の上まで見えると回転をやめ
るように、止まれ! と言った。ニーナは驚いて止
まる。すると、目が回ったようにフラフラと倒れて
動かなくなる。
クロはニーナを抱えて、サイクロプスにお金を払
おうとする。が、良いもの見させてもらったから。
そう言って受け取らなかった。
ニーナを大きな木の影ができているところの、ベ
ンチに運んだ。ありがとうございます。ニーナが目
を覚まして言った。膝枕しながらクロがニーナに何
か欲しいのある? と訊く。すると、瞼が目を半分
覆って弱っているニーナが答えた。
「アイスが……食べたい……です……」
クロがニーナの頭を撫でながら、わかった! と
言うと撫でられたニーナはそのまま眠りにつく。
「アイス買ってくるよ! 待っててね!」
クロはそう言い残し、ニーナを置いて、アイスを
買いに行った。
その後に、木の影から怪しい人影が出てきた。