第1章2話誘拐
狐娘は悪夢を見ていた。真っ暗な世界で、自分と
同じ姿の黒い影が4人現れ、ひとりが羽交い絞めに
すると、残りがお腹を殴る。
「誰? 痛い痛い痛い痛い……痛い痛い痛い痛い……」
狐娘は涙を流した。
「おえぇぇぇ」
狐娘はお腹が破裂するような痛みを受け、嘔吐し
ても殴られ続ける。
狐娘の目の前に、緑色の光が現れ、真っ暗な世界
を照らされると、影は消えたくないのか唸り声をあ
げた。
【一人目は、体が縦で真っ二つになり消える】
【二人目は、1センチのサイコロ状のバラバラに崩
れ落ちると同時に無くなる】
【三人目は、炎で焼かれ、黒焦げになって消えた】
【最後の影は、体の下から出てきた大きい何かに首
から下を喰われると、頭だけが転がり、数秒後に消
えてしまった】
全て消えると、周りに大量のおいしそうな食べ物
が現れる。
「いただきます」
狐娘はさっきまでのことを忘れて、おいしそうに
食べ始めた。
(こんなにおいしそうなのが食べられるってことは
夢なのかな?)
そう思った瞬間に、空間の全てが崩れ始める。
狐娘が家で目を覚まし周りを見ると、家がキレイ
になっていた。
狐娘は昨日のことを思い出せず不思議に思うが、
リスのいる木へ行くために、家を出る。
リスのいる木に向かう途中、おいしそうな丸いも
のを見つけた。
「なにこれおいしそう」
狐娘がそれを食べると、バタリと倒れてしまう。
そのころリスは木の実を集め狐娘を待っている。
狐娘を待っていたのだ。
しかし、いつまで経っても現れなかった。
木の陰から小太りで、頭の上にバンダナを巻いて
いる、右目に傷がある強面の男が斧を持って現れ、
倒れている狐娘に近づく。
「こいつで、良いんだよな?」
男が大声で叫ぶと、背後から大柄でつねに笑顔の
男が、手をこまねきながら現れた。
「はい、流石はボルさんです。依頼ではこの狐娘の
はずです」
「ルージさんよ、報酬頼むぜ」
「まだ、終わってませんよ。この森から、クロムま
で行くのです」
「ああ、そうだったな」
ボルは狐娘を担ぎ馬車まで運び樽の中に隠すと、
ルージは馬車を操縦し、ボルがその前を馬で走る。
森を東に移動し、西の国クリニアを通り抜け、南
側に向かうため、山脈と並行になるよう移動し、並
行していた山が無くなると東に進み、橋を渡り北へ
向かえば、東の国クロムだ。
西の国クリニアは西側にある1本の川が分岐して
その真ん中に位置する国である。
ルージは依頼人から、依頼の内容と一緒にこのよ
うな手紙をもらっていた。
『そのまま檻で、クリニアへ行くと捕まってしまう
ため、隠せ』
ルージはクリニアを抜けるまで、狐娘を樽の中に
隠し、抜けた後に檻の中に入れ、山脈と並行に南へ
移動し、東へ進むと、後ろから鳴き声がした。
狐娘が目を覚ますと地面が揺れていて、何かが地
面を駆けているような音が聞こえ、入り組んだ棒に
囲まれている。
「ここはどこ?」
狐娘が慌てた様子で鳴いていた。
「おや、目が覚めましたか?」
顔がニヤけている大柄な男ルージは、馬車を操縦
しながら、後ろを向く。
「君を捕まえた場所から、遠くの地で商品として売
るのですよ」
狐娘はニヤけている大柄な男を見て笑顔になる。
すると、笑いながら商人は前を向いた。
狐娘は言葉がわからなかったが、商人がニヤけて
いたので安心したようだ。
狐娘が棒と棒の隙間から周りを観察し木の実や果
物が箱に入っているのを確認する。
ルージはボルに止まるよう指示をだした。
しばらくして揺れが収まるとルージが後ろを向い
て、小さくて丸い食べ物を、檻にいれた。
「これを食べなさい」
森の中で食べたものと少し似ている。
お腹がすいていた狐娘は一口で食べると、バタリ
と泡を吹いて倒れる。
「学習しない狐娘だな」
ルージはボルに進むよう指示を出し、それに続く
ように馬車を走らせ、橋を渡り、北へ向かうと目印
の大きな城が見えてきた。
(今回もぼろ儲けでぇ、笑いが止まりませんな)
商人は笑いながら、クロムに入ると、まっすぐに
進み、ルージの露店前にボルの馬が止まって、それ
に続き、馬車を止めボルが檻を運ぶ。
「これで終わりだな、報酬を支払え」
「毎度あり~」
ニコニコしながら、ルージはお金を払った。
「何かあったら、また呼べよ」
「はい、その時はよろしくお願いします」
ルージは丁寧な挨拶をすると、売る準備をする。
カラスを肩に乗せて、カッコつけている黒いフー
ド付きローブを着た人物が、ルージ達を観察してい
た。
ここは世界の6ヶ国あるうちの一つ、東に位置す
るクロムという国の首都クロムであり、円形の町で
西側は勇者の家だ。
東に住宅街、南は商店街北は貴族達が住んでいて
町の中央には噴水がありそれを囲むように、露店が
並び珍しいものを買いに来た客で賑わっていて、南
側にあるルージの露店が人を集めている。
「寄ってらっしゃい、見てらっしゃい」
大きな声で客引きをするルージ。
ルージが騒がしくなってきたので、狐娘は目を覚
ました。
狐娘は体が重いと思いつつ、棒と棒の隙間から、
こっちに指をさして観ている沢山の、人や獣人を見
る。
「今回仕入れた目玉商品はなんと」
ルージは両手を握り、両方の親指と人差し指を伸
ばし、狐娘が入っている檻に、指を向けた。
「狐娘です。金貨20枚からオークション形式で売
らせていただきます」
ルージはくるくる回り、腕を振りながら踊るが、
急に踊りだした変人を、見る人は誰もいなかった。
みんなの視線は既に狐娘が独占していたのだ。
「20枚だす」
「俺は25枚だす」
「私は30枚」
男と女達が狐娘を欲しがり、値段を上げていく。
(ふふふ、依頼人はこの倍ぐらいだしてくれるのか
な?)
ルージはにやける。
すると、狐娘の2倍ぐらいの身長で怪しい黒のフ
ード付きローブを着た女の人が、ルージの顔に、金
貨200枚をバラバラに投げつけた。
「買った、カギはこれだな?」
「痛いですよ、お客さん」
ルージは痛がりながらも、笑みを浮かべている。
黒いフードの女が投げ終わると、商人からカギを
奪い、檻を開け狐娘の腰を掴み去っていった。
「毎度あり~」
呆然としていた商人は慌ててお金を拾う。
【ルージはどんなことがあっても挨拶を忘れない】
そのころ、西の国では。
「ブライン! クロムに行こうよ! ねぇ、いいで
しょ? お願いー」
アリスはブラインの腕を掴み、駄々をこねる。
「だめだと言っている」
「早くしないと、他の人に買われちゃうよ」
「何を買われるんだぁ?」
ブラインに問われると、アリスは焦った。
「何でもないよ、やっぱり今度行こう」
アリスはその場から脱兎の如く離れる。
(あいつ時々、わからない行動をするよな)
ブラインはそう考えた後、クリニアの真ん中に位
置する自分の家に入った。
ブラインの家は少し広く2階建てで家の外観は青
と白のしまもよう、屋根は青い瓦で出来ている。
数日後ブラインが森に行くとリスが待っていた。
「狐娘がいないんだが探してくれないか?」
「ふぁ?」
リスの急なお願いにブラインは驚く。
「家にいないのかぁ?」
「いつも木のほうに、来ていたんだが、急に来なく
なって、家を見に行ったがいないんだ」
リスが悲しげに言うと、ブラインが慌てる。
「大変じゃねぇか! なんで早く言わねぇんだ、探
しに行ってくる」
一瞬でブラインの姿が、見えなくなった。
ブラインは森の中をくまなく探し川の上流の山を
攻略して、西の国を隅々まで探す。
(い、いない、いったいどこへいったんだ)
ブラインは焦り、ため息を吐いた。
(次は北の国クリームか、居なかったら、中央の国
ロリコンそこにもいなかったら南の国ユリン、最後
東の国クロムに行くか)
ブラインは考えながら他の国を回り、国を回って
いる間に一人の少女が西の国を駆けまわる。
さらに、数日後。
南の国まで行った、ブラインは狐娘が森に、戻っ
てきていないか、確認のために森に行く。
(みつからないな)
ブラインが考えながら森を歩いていると後ろから
一人の少女が走ってきた。
「ブラインー、探したよ!」
ブラインは驚き、振り返る。
「クロか! どうしてここに?」
「ペット、買ったから、名前考えて」
「どんなペットを買ったんだ?」
クロは右手の人差し指を伸ばし頬に当て考えた。
「黒い髪で小さくて可愛い狐娘」
自分の尋ね人と似ていると思い、ブラインは驚き
ながらも名前を考える。
「小さい女の子ならニーナとかはどうだ? 」
「嫁の名前と同じ? それいいね! ありがとう」
クロは笑顔を作った。
「クロ、俺の事探していたってことは、この国全体
を回ったんだろぉ? 狐娘見なかったかぁ?」
ブラインが慌てて、訊いてきたのでクロは、質問
返しする。
「どういう感じの狐娘?」
「黒色の狐娘で小さくて可愛い奴だ」
「うーんと、みてないよ」
ブラインがすぐ答えると、クロは両手の人差し指
で頭をぐりぐりして回答した。
「そうか」
ブラインは落ち込みながら、クロの目を見る。
「狐娘がいなくなったことで、勇者達全員ロリコン
に、集合することになった」
「それと、あとでお前の国も探させてもらう」
ブラインが続けて言うと、クロは拳を握り、親指
を上に向けた。
「わかった、じゃぁ! 帰るね」
クロはブラインに挨拶するが、ブラインの挨拶は
聞かずに、手を振りながら走って行く。
(相変わらず、せっかちだなぁ)
ブラインはそう思いながら狐娘の家へ向かった。