第1章16話催眠術師
見覚えのない部屋でニーナは目を覚ました。
「お目覚めかな? 催眠は解いておいたよ」
声の主をみると、130cmの男、短い黒髪のボ
サボサした頭で、虹色の服を着ている。
男の横にはスライムが1匹いた。ニーナが男の名
前とスライムの事を教えて! とおねだりするよう
に訊く。
「僕の名前はヒプノ、催眠術と肉体操作ができる凡
人さ! そして、このスライムは僕が、遠距離で活
動するための道具だ」
ヒプノが格好をつけながら、自己紹介とスライム
の事を話し、落ち着きがないようすで、部屋の中を
うろうろしていた。ニーナはクルクル回り、部屋の
中を見る。
「君にはもうしわけないけど、僕の子供を産んでも
らう」
ヒプノの言葉に、いやだ! とニーナは拒否をす
る。拒否権はない! とヒプノが催眠をかけようと
近づき身の上話を始めた。
「僕には好きな子がいて、同じぐらいの身長でさ、
その子が君みたいな種族の子供が、欲しいって言っ
てたんだよ。僕はその子に君との子をあげて、告白
したいんだ!」
そう言って催眠をかけようと手を伸ばす。すると
ピンポーンとチャイムがなる。男は舌打ちをして部
屋をでた。ニーナは、助けて! と戻ってくるまで
の間叫び続ける。
ヒプノが家の扉を開けパプリカの赤を確認して赤
の周りを見た。そして、肩を落とす。
「パプだけか? なんのようだ?」
赤は、狐娘を見なかったか? と尋ねて、見てな
いなら探すのを手伝ってほしいと頼んだ。ヒプノは
見られていたことに驚き、舌打ちをして、見せたい
のがあるから、勇者様を呼んできて欲しい! と頼
み家の中へ戻っていった。赤は怪しく思い、魔法で
クリムとプリ、リカに連絡すると、扉をすり抜け中
にはいる。
【助けを求める声が聞こえた】
階段を下りていくと段々と声が大きくなり、ドア
の閉まる音が聞こえると、声も聞こえなくなる。赤
はそのドアをすり抜けると、中には狐娘とスライム
それにヒプノがいた。
「おい! なにしてんだ? てめぇ!」
赤は狐娘を見ると、手を炎で纏い、手がスライム
をすり抜ける。すると、スライムがメラメラと燃え
消滅した。
「僕は弱いんだ! 降参するからやめたまえ!」
ヒプノが諦めたように、肩をすくめ座り込む。
数分後、クリム達が到着する。パプがプリに即死
魔法の準備をさせると、リカにも転移魔法の準備を
させた。
「僕はこの狐娘に、子供を産ませ、君にプレゼント
したかったんだ」
ヒプノがクリム言い寄ると、ビンタの音が部屋を
響かせた。
バカ! と声をあげると、ニーナの目の前に立ち
催眠状態を虹色の光で治した。どうしよう……とク
リムが悩んでいる。
「僕は君が好きでこの服を着たんだ! なのに……
なんで振り向いてくれない……」
ヒプノが叫ぶとすぐに落ち込んだ。クリムはパプ
リカに東から来る人達の時間を稼いで! と命令す
る。そして、その場で吹雪の威力をあげると、焦っ
ている理由をヒプノが訊いた。
「ニーナを取り返しにヤバいのが攻めてくる。それ
と、私は女の子が好きだから、男はダメ!」
クリムは真面目に答えるとヒプノは笑いながら、
ニーナに感度2000倍と、ヤバい奴を足止めする
催眠をかけた。
「これで解決しますよ……女の子になる魔法を勉強
してきます」
笑うのをやめ、泣きながらヒプノは部屋を出る。
その後、催眠にかかったニーナも出ていく。クリム
も後を追うが見失っていた。
ニーナの体は服が擦れ、プルプルと震え、息を吸
うたび、空気が内蔵を触り、ピクッと全身を硬直さ
せるとニーナは震えた体をフラフラと動かし街中を
歩く。
吹雪の足止めは失敗していた。クロ達が門に到着
すると、パプリカ達は来た人をクリムの家へ案内す
るが、クロだけはニーナを探しに道を外れた。そし
て、ニーナを発見すると、探したよ! と声をかけ
て近づく。すると、ニーナは剣をとり、ピクッと体
が固まると、クロに剣を振るが、受け止められる。
剣を受け止められた衝撃が全身に広がると、ニー
ナの体は立っていることができなくなり、そのまま
ペタンと女の子座りになる。それでも剣を振るのを
やめない。クロは怪しく思い、ニーナの背後に回り
込み意識を手刀で刈り取り倒した。
倒れたニーナの脳は、地面に当たった衝撃を感度
2000倍の所為で、全身の骨が折れたと勘違いを
して、その痛みがニーナの脳と体、神経を壊した。
ニーナの体が魚のように跳ねているのをみたクロ
は、急いでニーナを担ぎクリムの家へ行こうと方向
を確認する。その時、空から魔王が降ってくる。
「可愛い声で助けを呼んだのは誰だ? 飛んできて
参上!」
地面の雪が吹き飛び、その真ん中に魔王は立って
いた。魔王は周りを見渡すと、クロに抱えられたニ
ーナを発見し、頭を触り、脳の状態を確認する。
酷いな……と呟き、手に虹色の光を宿し、頭と体
に触れると、ニーナはすぐに目を覚ました。
大丈夫かい? と魔王は話しかけ、クロとニーナ
の頭を同時に撫でる。ありがとう……とクロは嬉し
涙で持っているニーナを濡らした。
ニーナはキョトンとした表情をすると、子供を産
んでと頼んできたあの人は? と二人に訊く。その
言葉を聞いたクロは目を怖くして誰が言ったのか問
いただす。殺気に怯えたニーナは男とスライムの事
を話した。
クロは魔王にクリムの家に仲間がいることを伝え
ニーナをそこへ連れて行って欲しいとお願いする。
モナーミは快く引き受けると、ニーナの手を握り、
二人は地面の中に入っていった。
残ったクロは、空中に魔法陣を描くと、大量のカ
ラスが次々と出てくる。
「ニーナの匂いが着いた男を探せ!」
命令をカラス達にすると、散らばって行く。ヒプ
ノは涙を流しながら、歩いている。いつの間にか、
黒い鳥に囲まれ、カァーと2度、鳴き声を発した直
後に、敵めがけて、一斉に襲いかかる。
「なんなんだよー」
そう叫びながら男はうずくまると、数秒後にカラ
スの攻撃が止んだ。
「た……助かった」
カラスに負けそうになった人は、黒い群れの中か
ら現れたクロに驚き、腰を抜かす。クロは腰に手を
当て、ニーナの仇に近寄り、頬膨らませ、優しくチ
ョップする。
「どうして、ニーナを襲ったの?」
ヒプノはクロの弱い攻撃に拍子抜けすると、心を
許し事情を話し始める。クロは笑いクリムの家まで
連れて行き、二人が家の中にはいると、パプリカと
クリムが出迎えた。
パプリカを警戒しているクロに、クリムは彼女達
がニーナを助けようとしていた事をクロに教える。
お辞儀と感謝の言葉を口にしたクロは、皆がいる部
屋の前に、連れていかれる。扉をクロが開けると、
天井に吊るした4本のロープに、地面すれすれの状
態で、仰向けの大の字で拘束されているニーナがい
た。
みんなに迷惑をかけたという理由で、アリスが、
拘束した! と自慢すると、クロにくすりを手渡し
た。
「それ利尿薬って聞いたわ、ユリノが美容にいいよ
といって渡してきたんだよね。使ったこと無いから
ニーナで試してみれば?」
美容に良いなら使おうかな? とクロは考え、ニ
ーナの口に入れた。ゴクンとニーナは飲み込む。だ
が、何も起こらなかった。
数分後、体の水分を排出する、効果がでてくる。
ニーナがトイレに行きたいとお願いすると、ロープ
から下ろされ、ゴールに向かって歩き出す。心配そ
うにクロとクリム、ベルが後をつける。
足元はふらつき、めまいが襲い、ニーナは脱水状
態で壁にもたれかかる。あ……と力が抜け、お花摘
みに失敗した。
頭が朦朧としながら、座り込み涙を流した。する
と、アリスが3人を物凄い速さで追い抜くと、パシ
ャと音を鳴らし白い光を発光させる。そして、地面
の水分を吸い込み、きれいにしてニーナの服と体も
舐めるように吸い、もう一度薬を飲ませ、さらに大
量の水を胃に流し込み、それらを一瞬でやり、通り
すぎた。
濡れている感触がなくなり、体調もよくなると、
さっきのは幻覚と思い込み、ニーナは再びトイレを
目指す。前に進むと、矢印の看板が出ていて、その
方向へ進むと、ゴールに着く。ニーナが中に入ると
お花摘み成功。そう書かれた紙が、ニーナの失敗し
た時の写真とともに、トイレの扉に貼られた。
3人が追い付くと、虚ろな目をして力尽きたニー
ナの写真に目がいった。
アリスはブラインに加速ありがとう! と言い目
を光らせ感謝し部屋を出る。うっとりとした表情で
嬉しそうに写真を眺め、ニーナコレクションという
写真集に収める。
(次は内臓とかバラバラになったのが、撮りたいな
ぁ)
ユリノ製カメラを人差し指で回し、アリスは考え
た。