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罪と罰

ロゼは領地にいる間キッチリベルグレドに基礎的な能力の使い方を教え込んだ。

ベルグレドはロゼとエルグレドの地獄の猛特訓を乗り越え二人が首都に帰る頃には立派な魔術剣士になっていた。


「いや。俺、ただの領主だからな」


満足して帰って行く二人にベルグレドは呟いた。そう、本来彼がそんなに強くなる必要はない。


「まぁまぁ、いいではないですか。私もただの執事ですよ?」


ブラドに言われ、まぁ強くて損する事はないと思いなおす。それにあれ以来ロゼの言う通り魔力障害は起こっていない。ベルグレドは笑った。


「ありがとう。ブラド」


ベルグレドはロゼからブラドの事も聞いている。彼はベルグレドを守るためロゼと一戦交えたらしい。今ならロゼがどれほど強いかベルグレドにも分かっている。そして恐らく彼女もベルグレドと似たような能力を持っているのだろう。対処方法に彼女は詳しすぎる。エルグレドがいた為、詳しい話は出来なかったが近い内に確認しなければならない。


「私は貴方のお父上様に拾って頂きました」


ブラドはここに来る前は冒険者だった。

類い稀な能力でギルドの依頼通り何人も殺して来た。

しかし、彼はそんな自分の人生に疲れ切っていた。


「どうせ捨てるのなら息子を守って死んでくれと頼まれ、私はそれだけの為に生きて行く筈だったのに。今では私も人の親です。人生とは分からないものですね」


ブラドはそう言うと嬉しそうに微笑んだ。


「さて。やっと兄さんの怖い監視の目から解放された事だし今日ぐらいゆっくり休む」


ベルグレドはついうっかり本音が漏れた。ブラドもそれには困った顔をしている。


「そうですね。私もエルグレド様があれほどお変わりになられるとは思わず・・・想定外でした」


この屋敷に来てエルグレドは明らかにロゼに対する態度が変化した。なんというか・・・ロゼに男が近づいている時の目が怖い。


「明らかに、明らかに嫉妬してるのに本人が全く無自覚なのが更にタチが悪い。俺初めて兄さんに敵意を剥き出しにされたぞ」


しかもそんなエルグレドにロゼは気づいていないのだ。

あんなあからさまな好意の目を向けられているのに。


「まぁ仲がよろしくて良いではないですか?このまま上手く行けば良いのですがね」


それにはベルグレドも同意した。むしろあの兄の相手はロゼしか務まらない気がしている。彼女は不思議な人物だと思う。


「ロゼ次第かもな。あいつ貴族ってガラじゃないからな」


だがこのままいけばこの婚約は上手く成立するはずだ。

エルグレドが跡継ぎじゃない事がこんな所で役立つとはおもわなかった。後はバルドが事実を伏せていれば表面上二人の婚姻は成立する。


(問題は俺達の方だな。未だに具体的な案が出ていない)


ベルグレドはそれを思い出し近い内にエレナに会いに行く事にした。一度、真面目に腹を割って話をした方がいいと思っていた。彼女の本心も気になっている。


[ベル、まだわたしたちにきがつかないね?いつみえるようになるかな?]


[いずれ見えるようになる。もう少し待ってあげよう]


彼はまだ見守っていた。ベルグレドはまだ彼に気がつかなかった。




****




エレナはその夢をただ外側から見ていた。

そして笑った。やっとあの人が救われる、その事が嬉しくもあり悲しくもあった。


エレナは夢の中を歩いて行く。

そして歩いて行った先に自分を見つけた。


(これが私の最後)


彼女はその姿に溜息をついた。しかし自分には相応しいかもしれないと思い直した。


[エレナ、ダメですよ。これは未来の可能性の一部。自分の未来を決めつけてはなりません]


「ゲルガルド様・・・」


彼とはこうして夢の中で会うことができる。

二人は時折こうして交流しながら情報を交換している。


[エレナ。自ら危険に飛び込んではいけませんよ。貴方の周りには未来を変える力がある者達がいます。軽率な行動は控えておきなさい]


エレナは彼の言葉を穏やかな気持ちで聞いた。


[どうやら彼女が既にガルドエルムに潜んでいるようです。私も今そちらへ向かっています。貴方はなるべく一人にならぬように。それと貴方のご友人が出会われたみたいですよ]


「そうですか。ではきっと彼は助かりますね」


エレナは嬉しそうに笑った。

彼もエレナにとって大切な人である。


[・・・貴方はまだ考えが変わらないのですか?]


ゲルガルドの問いにエレナは苦笑いで答えた。


「私はこの国の代表者として最後までその勤めを果たします。私の命が尽きるその瞬間まで。どうぞ、私の事はお気になさらないで下さい」


[本当に。頑固な子だ。誰に似たんでしょうね?]


エレナはゆっくり目を開いた。窓からうっすらと光が差し込んでいる。エレナは身体を起こすと侍女を呼んだ。


「おはようございます。お呼びでしょうか?」


「おはよう。起きます。手伝ってください」


エレナはベッドから降りると前を向いた。


(時間がないわ。アストラが私の所に来なくなってしばらく経つ。恐らく他に彼を手引きする人間が現れた)


エレナは今までずっとアストラを監視していた。彼にそれとなく助言する振りをして注意をこちらに向けていたのだ。彼はとても焦っている。

次の王を見つけられないからだ。彼は自分が王になる事など望んでいない。彼の望みは昔から一つだけだ。だがそれは絶対叶えられる事はない。一か八か次男のザクエラに能力の有無を確認する手もあるがアストラの性格上素直に従うとも思えない。無駄に自尊心が高いので自分以外の人間を認めない面倒くさい男なのだ。


(何故神は人間にこの世界を救う大事な使命を託したりしたのかしら。こんな愚かな生き物達に)


エレナは思わず悪態をつく。

ここは魔の巣窟だ。

皆自分の欲を満たす事ばかりしか頭にない。現状に満足出来ず、自分より秀でている者を妬み大した努力もせずに僻んでいる。自分達が何故平民よりも恵まれた生活が出来るのか考えようともしない。それは平民の労働によって賄われているのだ。本来なら自分達はそれを返す立場である。


(いえ。責められる立場ではなかったわね。私達が最も罪深いのだから)


全ては前王の罪を隠す為、バードル家とエレナの母が結託しバルドを上手く誘導して婚姻したあの時からこの国は終わりに向けて動き出した。

それはとても下らない理由だった。

バードル家が連れてきた次の王は、しがない農民の美しい青年だった。

彼には恋人がいてその女性も同じく農民だった。

王はその青年の魔力が弱い事を理由に候補から外すようバードル家に指示したがそれは聞き入れられなかった。

王は自分の娘を下城させたくなかったのだ。

そのタイミングで魔人のバルドが城に予言を持って現れた。しかも彼は強力な魔力と祝福を持っていたのだ。

王は一目で彼を気に入り娘の結婚相手にしようと決めた。

だが彼は人間ではなく、しかもイントレンスからは彼の事情も届いていたのだ。彼は一部の記憶を失っていた為それを説明するよう報せが届いていた。だが王はそれを無視し、あろう事か次の王をひっそりと殺めてしまった。

バードル家は唯一の王を失いバルドを王にするしか手立てが無くなってしまったのだ。

エレナの母は父親にもうバルドを王にするしか手立てが無いと迫られ了承してしまった。彼女もまたバルドに強く惹かれていたのだ。しかし彼女はそれをすぐに後悔した。

彼等は無知だった。そして愚かだった。そんな彼等をこの国を守り続けた神は許さなかったのだ。


王を引き継ぐ儀式の最後、その声はこの場にいる人間族にのみ告げられた。


[愚か者どもめ。お前達は自分達に課せられた役目を放棄し、あろう事かファレンの民をこの国の王にした。それは決して許される事ではない。これにて我が大地とお前達との繋がりは無に還る。お前達はこのまま最後の王とこの地と共に沈むがよい]


後悔しても手遅れだった。

そう。他種族を王にすること、これは禁忌だったのだ。

もし間違って人間族の王候補が死んでしまったとしても辛抱強く待てば、やがて新しい王が生まれるはずだった。

それを彼等は放棄し安易な考えでやってはならないことをした。そのせいで彼等はこの日全てを失った。


しかしそれを騙したバルドに告げることなど出来なかった。

前王はその後直ぐ謎の病にかかり亡くなった。天罰が下ったのだ。そして更に悪いことに、エレナの母は魔人の性質を全く理解していなかった。彼等は伴侶と決めた一人しか愛せない。たとえ記憶になくとも体は彼が愛した本当の妻だけしか真実愛す事が出来ないのだ。彼女は彼に求められることもなく重い十字架を背負ったまま、あの日バルトの手で殺された。


もし彼等が真実この国の人間の事を考えていたならばこんな事は起こらなかった。


(私は、この国をこの国の民に返さなければ)


エレナはただ前だけを見続けていた。


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