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エレナとリュカ

「「ダービィディラル?」」


二人は聞き覚えがない言葉に同時に聞き返した。


「ええ。ダービィディラルとは無条件で妖精や精霊に愛される者の事を指す。ダービィディラルはとても貴重で珍しい存在なのよ。それが貴方なの」


ベルグレドは俄かに信じられない。今まで一度だって妖精を見たことなどない。


「成る程・・・・だから・・」


隣にいたエルグレドは少し呆れた顔をしていた。ロゼは苦笑いしてエルグレドを見た。


「もしかしたらファイズ家にはダービィディラルが誕生しやすいのかも知れないわ。それに関する文献も残っていたから。街で暮らす人間は妖精とあまり接点がないから気が付かないのよね。ベルグレドも今は見えなくてもその内感じたり見えるようになるわ」


そんな二人にベルグレドは首を傾げる。ベルグレドを見る目が、なんというか・・・可哀想なものを見る目になっている。


「え?なんなんだよその目。その妖精がなんかしてるのか?」


[べるーーーーーー!!!ここ!ここだよぅ!!]


[みてみて!ほらほら、わたしとんでるよー!]


ベルグレドの周りではベルグレドと話したい妖精達が必死でアピールしている。しかし本人は全くの無反応である。


「・・・・・ロゼ」


エルグレドが何か言いたげにロゼを見たがこれにはロゼが首を振った。


「まだそのままにしとくわ。その前に仕込みたい事があるから。ベルグレド」


ロゼは彼の手に水の器を渡すとしばし考えてから彼の耳に手で触れた。ベルグレドはこれにギョッとし、エルグレドは背後で目を見開いている。ベルグレドはそのエルグレドの顔を見て若干焦った。


(ちょっ!こいつ婚約者の前でこんな風に他の男に触るなんて!)


しかし次に来た耳の痛みにベルグレドは眉を寄せた。そしてその瞬間何故が身体が軽くなった。


「え?なんだこれ?」


「魔力の制御装置よ。貴方魔力が暴走しそうな時、一人であの部屋にいたそうね?悪いけどあそこはもう必要ないわ」


ベルグレドは信じられない気持ちでロゼを見た。何故彼女がそれを知っているんだろう。


「貴方が今まで魔力を抑えていられたのは妖精や精霊が貴方を守っていたからなの。だから私は貴方にまずその対価を払う方法から教えるわ。とてもコントロールが難しいけどこれが出来るようになるまで他の事は教えない」


その表情は真剣そのもので逆らい難かった。ベルグレドは大人しくその言葉に従うことにした。


「まず貴方には氷の花束を作ってもらう」


「・・・・・は?」


花束?何だそれ。


「いい?まずどんな形の物でもいいから頭の中に何を作るか想像する。そして自分の中にある魔力の鼓動を感じるのよ。それが感じ取れたらそれをゆっくり身体中から掌に集めていく。最初は難しいから少し手伝うわ」


そう言ってロゼはベルグレドの胸元に手を当てた。

ベルグレドは顔を顰めたがロゼは構わず目を閉じた。


「行くわよ!」


ロゼが掛け声を上げたと同時にベルグレドの中から一気に何かが噴き出した。ベルグレドは驚いてそれを止めようとする。


「大丈夫よ。制御装置があるから。それをそのまま手に流すイメージで送りなさい」


そんな事言われてもすぐ出来るわけない。

ベルグレドは焦って意識を集中させるが中々魔力が移動しない。だんだん身体がキツくなってきた。


「外に出さないから身体が疲弊するのよ。感覚だけ教えてあげるわ」


ロゼは胸元にあった手をゆっくり撫でる様に腕の方へずらして行く。すると全く移動しなかったものがそちらに動く感覚がベルグレドにも分かった。そしてベルグレドが持っている器まで来るとロゼはチラリとベルグレドを見た。


「最初だから大きさは制御出来ないわね。器を下に置いて」


よく分からないが言う通りに置くとロゼはベルグレドの掌に触れた。すると一気に掌が重い感覚になる。


「そのままそれをあの器へ流してみて」


どうやって?と、思ったが頭の中でイメージした途端掌が軽くなった。そしてそれを合図にピシリと器に氷が張ったそしてそれはだんだんと膨らみ次々と増えていき瞬く間に大きな木の結晶が出来上がった。しかもとんでもなく大きい。


「・・・・・これは」


エルグレドが背後で驚きの声を上げた。

ベルグレドは呆然と自分が作った物を見上げた。

ロゼは呆れた声を出す。


「あのねぇ。私は花束をイメージしてって言ったでしょ?何で木がそびえ立つのよ」


確かに。しかしあの状況で花束をイメージする余裕はなかった。ベルグレドはヘトヘトになって息を吐いた。


「見て。貴方が作った氷の木にりんごがなってるわ。

そこだけ色が少し違うでしょう?」


二人はそちらに目を向ける。りんごは微かに濃い水色になっていた。そしてそれは次の瞬間目の前から消えた。


「あの部分に貴方の使われていない魔力が出せたのよ。それを今、妖精が受け取った。あの部分を沢山作れる様にするの、そうすれば夜、魔力の暴走も無くなると思うわ」


ロゼのセリフにベルグレドはここでやっと彼女は自分の為にこんな事を始めたのだとハッキリ理解した。ベルグレドは何も言わずロゼを見た。彼女は笑ってベルグレドが聞きたい事を代弁した。


「私は貴方の未来の義理姉でしょう?弟が困っていたら手を貸すのが家族じゃない?」


それはエルグレドに聞こえない小さな声だった。




****



エレナは宮廷の庭で優雅にお茶を飲む男の正面に立つと美しく淑女の礼をした。

彼は直ぐに立ち上がり頭を深く下げるとエレナの為に椅子を引いた。

エレナは微笑んでその椅子に腰掛け向かい側に座った美しい男性に話しかけた。


「会ったのですね。如何でしたか?」


余計なことは言わず感想だけ聞いてみる。男は優しく微笑んだまま頷いた。


「とても優秀な頭脳の持ち主だと感じました。彼女は私を見た瞬間、私の正体に気付いたようでしたよ?」


「それは良かったです。リュカ様にもあの方の重要性が少しでも理解頂けたようで安心致しましたわ」


エレナと向かい合っているこの男はリュカ・バードル。バードル家の三男である。

実はこの二人も子供頃から仲が良い。

そしてリュカはエレナの能力の事に薄々気付いている。


「リュカ様。彼女から出来るだけ外の情報を聞き出して下さい」


「・・・・・動き出しましたか」


二人はしばし黙ってお茶を飲んだ。エレナは微笑んでとんでもない事を口にした。


「もう。お諦め下さい。あの男は駄目です。貴方に向ける歪んだ愛情は冷める事がないでしょう」


リュカは顔色を変えぬまま、持っているティーカップに目を落とした。


「そうですか。困ったものです」


リュカには上に二人兄がおり一番上の長男が今のところ次の王位継承の最有力候補である。しかしまだ魔力の選定は行われていない。今、バードル家の人間には祝福の持ち主を探す力だけが封じられているからだ。


「次男のザクエラはとても気が弱い男です。アストラに反旗を翻したりはしないでしょう。そうなるとやはり外から見つけて来なければなりませんね」


リュカは聖魔術自体扱えない為候補にも入らない。だが彼は最近命を狙われている。実の兄に。


「しかし、アストラは私をここから出すくらいなら殺してしまった方がマシだと考えたようですね。本当に愚かな男です」


子供の頃から兄アストラのリュカに対する執着心は凄まじかった。最初は弟可愛さから来る戯れかと思っていた。しかしそれは年々悪化しリュカはある日気が付いた。あの男の向ける自分への愛情は歪んでいると。父親はそんなアストラに気付いていたが放置した。もしそれでリュカがどうなろうとも、それはリュカが弱いから悪いという考えらしかった。リュカは何回かその危機をエレナに助けられている。


「リュカ。貴方の下に運命の出会いがあるようです」


エレナのその言葉にリュカは初めて眉を寄せた。エレナは可笑しそうに笑う。


「全く。何がきっかけになるか分からないものですね?貴方が嫌がらせのつもりで行なった行動が貴方の運命を変えるのですから」


「またそれは。信じ難いお話ですね」


リュカはそのエレナの話を俄かに信じていないようだった。しかしエレナは構わず話し続けた。


「リュカ。貴方はこの世界に必要な人なのです。どんな時もそれだけは忘れないで下さい」


リュカは微笑んでその話を聞き流した。

エレナの事は信頼していたが、自分にそんな相手が出来るとは到底考えられなかった。

彼はまだ知らない。自分さえもこの世界の歯車の一部に組み込まれ、そしてそれが自分の未来さえも大きく変えて行くのだという事に。


(すぐに分かります。リュカ様)


エレナは悪戯っぽく微笑んで残りの紅茶に手をつけた。

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