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婚約パーティー

ベルグレドとエレナの婚約パーティー当日。

ベルグレドは不思議な気分で城に向かっていた。あれから結局婚約を破棄する最善の策は見つからずこの日を迎えている。エレナはこの婚約は成立しないと自信有り気だが本当に大丈夫なのだろうかとベルグレドは不安になった。


(だがエレナが口にした事がはずれた事は今までない)


そうなのだ。

ベルグレドはその不自然さに薄々気づいていたが今まで口にした事がない。

聞かない方がいい気がして中々口に出せないうちに時が経ち、今更聞けなくなってしまったのだ。


宮廷に着くとベルグレドに近づいて来るものがいた。

バードル家の長男アストラである。


「久しぶりだなベルグレド。この度の婚約、バードル家からも御祝いの言葉を申し上げる。おめでとう」


「ありがとうございます」


ベルグレドはなるべく言葉が冷たくならないよう気をつけた。心は冷め切っていたが。コイツは信用出来ない。


「エレナ様は既に会場に入られておいでだ、エルグレドの婚約者も既に会場に来ているぞ」


「そうですか。では挨拶に行って参ります、では」


さっさと離れようとするベルグレドにアストラはさっきまでの取り繕った顔を少し崩しベルグレドの行く手を阻んだ。ベルグレドはそっと目線をあげる。


「・・・・何か?」


「君はエレナから預言者の言葉を聞いた事があるか?」


きっとこの前の話だろう。

婚約者がいる女性の部屋をこっそり訪れるような男である。まともに話を聞く気にはなれない。


「予言?いえ、イントレンスの情報は我々には開示されません。エレナが私にその事を話す事はあり得ませんが」


アストラはそれに少し考えてから声を落としてベルグレドに囁いた。


「そうではないんだ。恐らく、いや、絶対にだが予言をしているのは彼女本人だ」


アストラの言葉にベルグレドは眉を顰めた。アストラは目をキョロキョロさせながらベルグレドに視線を戻した。


「バードル家の者はその眼に魔力の質を映す事が出来る。彼女の能力はイントレンスの巫女と同じものだった」


ベルグレドはあきれてアストラを睨んだ。そんな重大な秘密、何故こんな所でベルグレドに話してしまうのだ。その答えはすぐに分かった。


「彼女から聞き出して欲しいのだ。バードル家の予言を。我々がどうなって行くのかを」


恐らく本人に聞いても知らないの一点張りだったので手段を変えて来たのだろうがそれにしても軽率な行動である。


「・・・・アストラ様。私は彼女の婚約者ですがまだ正式に彼女と婚姻した訳ではありません。一国の姫にそんな重大な秘密を聞き出す事は難しいと思われますが。そういう事は本人にお聞き下さい。この話は聞かなかった事に」


ベルグレドはそう言って身を翻した。

追ってくるかと思っていたアストラはそれ以上追っては来なかった。しかし彼はブツブツと未だに何かを口にしていた。


「駄目だ・・・あいつは絶対に外に出さない。ずっと、私の下に・・・それが出来ないのなら・・・・」


その眼は暗く澱んでいた。




****





会場に入ると中はざわついていた。

既にエレナも兄のエルグレドも会場で話をしている。

いや、エレナとその婚約者が。


(へぇー)


ベルグレドはその女性ロゼを見て素直に綺麗だと思った。

背は高く無いが凛と立つその姿は美しくとても平民だとは思えない綺麗にまとめられた赤い髪に来ているドレスが良く似合っている。しかしベルグレドはそれよりも自分の兄の表情の方が気になった。


(・・・・・嘘だろ)


物凄く怖い目で周りを警戒している。

ロゼに集まる視線の先へ。


ベルグレドはエレナ達の会話を耳に入れながらもショックでしばらく動けなかった。

事前に話は聞いていたが、こんなにあからさまに態度に出されると何だか呆れてしまう。兄はどうなってしまったんだろうか。

それにさっきから問題の婚約者はそんな兄を放ったらかしに何故だかエレナを熱心に口説いている。なんなんだコイツは。


「貴方ほど美しく愛らしい方は見た事がありませんもの。私が男性ならば絶対放っておきませんわ!」


そう言われエレナは珍しく顔を赤らめモジモジしている。何だこの茶番。


「えらい分かりやすい媚売りだな。やりすぎは褒められたものではないぞ?」


ベルグレドが声をかけるとロゼはスッと貼り付けた笑顔に変わった。エレナへの態度と違いすぎる。ベルグレドは些かムッとした。


「ベルグレド様!」


エレナは嬉しそうに声を出した。きっとこれは演技である。ベルグレドはいつも通りそれに付き合う事にした。


「一曲どうだ。未来の義理姉殿」


エレナを無視して、わざと失礼にダンスに誘うと断ると思っていたロゼはエルグレドに伺いを立てた。


「いいかしら?エルグレド様」


「あ、ああ。構わないが」


いや。そこは全力で止めろよ。と、流石のベルグレドも突っ込みたくなった。エルグレド本人は全く気付いていないらしいがとても嫌そうである。こんな兄の顔見た事がない。ベルグレドはだんだん腹が立ってきた。

ロゼの横に立ち腕を組んで歩いて行く間この女のどこがいいのか見極めてやろうと決心した。

しかし位置について向き合うと彼女の美しい所作にベルグレドは感嘆してしまった。

彼女のグリーンアイの瞳が真っ直ぐにベルグレドを捉えている。そしてダンスが始まるとその出来の良さに益々何も言えなくなった。


(こいつ、本当に平民なのか?)


「最初話を聞いた時はどんな女が来るのかと思ったが・・・・兄さんは当たりを引いたみたいだな」


思わず出た本音にベルグレドは狼狽えた。何故こんな事自分は口にしたのだろう。


「あら?貴方も充分当たりを引いてると思うけれど?」


そんなベルグレドにロゼは笑って気安く応える。成る程、確かに一筋縄ではいかなそうである。


「俺はハズレだ」


「どこがよ。力もお金にも困らない最高の相手よ?しかもとても可愛い」


可愛いは重要らしい。語尾が強い。


「そんなもの今更興味無いね」


「あら?欲がなければ出世できないわよ?」


ロゼといいエレナといいベルグレドの前に現れる女性は口が達者である。ベルグレドは思わず嫌味を口にした。


「出世したいのは兄さんだよ。ロゼ」


その言葉に僅かに彼女の瞳が揺らいだのをベルグレドは見逃さなかった。ベルグレドは思わずそれを口にした。


「エレナと変わってあげたら?」


その言葉にロゼはベルグレドに満面の笑みを向けそして思い切りベルグレドの肩に添えていた手に力を入れて爪を食い込ませた。女性の力とは思えぬその痛みにベルグレドは声が出せなかった。


「・・・・っ!」


睨みながら彼女を見たベルグレドはその彼女の表情にゾッとした。顔は笑っているのにその瞳には激しい怒りが見てとれた。その怒りが何に対してなのか心当たりがありすぎてベルグレドは黙った。


「ベルグレド・・・一ついい事を教えてあげるわ」


その声は地を這うようなそんな響きだった。ベルグレドは無意識に彼女と自分との明らかな力の差を身体で感じとっていた。


「貴方はエルグレドと自分が対等だと思っているのかもしれないけど実際は違うわ。あの人は自分の力であの地位まで上り詰めた」


自分と同じ認識をこの女は持っている。ベルグレドは理解するのが遅かった為失敗した。


「貴方はあの人の弟だというだけで私と踊っているのよ。勘違いしないで」


しかも変な勘違いをされたようだ。確かにあの言い方ではそう捉えられても仕方がない。


「そんな貴方がどうして、エルグレドから私を奪えるというのかしら?」


ベルグレドはこれに言葉を失ってしまう。

急に自分の発言が恥ずかしくなってきた。これでは一国の姫と婚約する事に調子に乗った馬鹿な貴族のぼんぼんそのものである。


黙ってしまったベルグレドに少し首を傾げ微笑んでからロゼは思ってもいない事を口にした。


「とても楽しいダンスでした。ベルグレド」


ベルグレドは自分の失敗を後悔しながらも何故か酷く安堵していた。何故かは分からないが彼女は兄の敵ではない。寧ろ逆だと確信めいたものを感じたのだ。

きっと彼女がここにいるのは彼女の意思によるものだ。


ベルグレドは何故自分がロゼに対してそんな風に思ったのか分からなかったが、それは自分と彼女の中にある宝玉による魂の共鳴だった事にこの時は二人とも気付かないでいた。


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